COMPETITION & EVENT

中山英之建築設計事務所が会場デザインを担当

6年ぶりの大規模個展「川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり」東京オペラシティ アートギャラリーにて

2022年10月18日初掲、2023年1月18日インタビュー動画シェア

写真家の川内倫子の大規模展が、東京オペラシティ アートギャラリーにて開催されている。国内では約6年ぶりとなる大規模個展。これまでの代表作のほか、展覧会タイトルにもなっている新作の〈M/E〉シリーズも披露されるなど、この10年の川内の活動に焦点があてられる。
会場デザインは中山英之建築設計事務所が担当。会期は12月18日まで。

国内では、熊本市現代美術館での「川内倫子展 川が私を受け入れてくれた」の開催以来、約6年ぶりとなる、写真家の川内倫子(1972‒)の大規模個展が、東京オペラシティ アートギャラリーにて開催中です。

川内の写真は、柔らかい光をはらんだ淡い色調を特徴とし、初期から一貫して人間や動物、あらゆる生命がもつ神秘 や輝き、儚さ、力強さを撮り続けてきました。身のまわりの家族や植物、動物などの儚くささやかな存在から、長い時を経て形成される火山や氷河などの大地の営みまで、それらに等しく注がれる川内のまなざしは、それぞれが独自の感覚でつながり、同じ生命の輝きを放つ様子を写しとっています。

川内倫子作品

川内倫子《無題》(シリーズ〈光と影〉より)2011

川内倫子作品

川内倫子《無題》(シリーズ〈4%〉より)2011

川内倫子作品

川内倫子《無題》(シリーズ〈あめつち〉より)2013

本展の注目は、新作シリーズ〈M/E〉の発表です。2019年にアイスランドで川内が撮影した写真に加えて、2020年以降のCOVID0-19(新型コロナウイルス感染症)拡大、いわゆるコロナ禍の際に、身近な風景を撮影したものなどを加えた新たなシリーズで、その全貌が本展にて初めて公開されます。

川内倫子作品

川内倫子《無題》(シリーズ〈M/E〉より)2019

川内倫子作品

川内倫子《無題》(シリーズ〈M/E〉より)2020

そのほか本展では、未発表のもの、国内ではこれまであまり紹介されてこなかった作品を織り交ぜて構成され、この10年の川内の活動に焦点があてられています。

作家の創作活動は、写真にとどまらず、映像作品や文章の執筆など多岐にわたっており、本展でこれらの作品群が披露されます。2018年に出版した写真絵本『はじまりのひ』を朗読したサウンドを展示に取り入れるなど、展覧会全体が1つの体験となるように構成されているのも注目です。川内の創作の本質や問題意識の核に迫る展覧会です。

作家ステートメント

身体を移動し、撮影したものと向き合うという行為でしか得られないものがある。
それはなぜいまここに生かされているのか、という答えのない問いに少しでも近づくための、自分にとって有効な手段だ。
そんな生活を続けて30年以上が経ち、改めて現在の自分の立ち位置を確かめたくなった。
地域や国というくくりではなく、ひとつの星の上に在るということを。
20年前に一度だけ訪れたアイスランドに2019年の夏に再訪したことで、それは叶えられた。
地球の息吹を感じる間欠泉や、人間の持つ時間を遥かに超える氷河を目の当たりにすることで、自分の存在が照らされたようだった。
とりわけ休火山の内部に入ったときの体験が強く印象に残っている。
上を見上げると火口の入り口から光が差し込んでいて、その形は女性器を想像させた。じっと見ていると自分が地球に包まれている胎児のような気がしてきて、いままでに感じたことのない、この星との繋がりを感じた。
もっとその繋がりを確かめたくて、冬の再訪を計画したが、コロナ禍で叶わなくなったこともあり、昨冬は北海道へ何度か通った。そこには厳しい寒さのなかでしか見えないものがあり、自分の身体が小さくて弱いものなのだと思い出した。

母なる大地、[Mother Earth]の頭文字をとると[M/E].
そのふた文字を書き出すと、肉眼で全体を見ることのできない極めて大きなものから、極小の個に繋がり、それは火口の内部で体験した、地球と自分自身が反転して一体化したような不思議な感覚を想起させた。

川内倫子 Rinko Kawauchi 近影

川内倫子プロフィール

写真家
1972年滋賀県生まれ。2002年『うたたね』『花火』(リトルモア刊)の2冊で第27回木村伊兵衛写真賞を受賞。そのほかの著作に『AILA』(2005年)、『the eyes, the ears,』(2005年)、『Cui Cui』(2005年)、『Illuminance』(2011年、改訂版21年)、『あめつち』(2013年)などがある。
2009年にICP(International Center of Photography)主催の第25回インフィニティ賞芸術部門受賞、2013年に芸術選奨文部科学大臣新人賞(2012年度)を受賞。
主な国内での個展は、「Cui Cui」(2008年・ヴァンジ彫刻庭園美術館)、「照度 あめつち 影を見る」(2012年・東京都写真美術館)、「川が私を受け入れてくれた」(2016年・熊本市現代美術館)ほか多数。
写真集として、『Illuminance: The Tenth Anniversary Edition』(2011年)、『Des oiseaux』(ギレム・ルザッフルとの共著、2021年)、『やまなみ』(2022年)『橙が実るまで』(田尻久子との共著、2022年)などがある。

本展に出品されるシリーズ紹介

〈光と影〉
2011年4月、友人の写真家の案内兼通訳として訪れた石巻、女川、気仙沼、陸前高田で 白と黒のつがいの鳩と出会ったことで生まれた作品。生と死、相反するものが同時に存在する世界を象徴するかのような2羽の鳩の姿を写している。本展ではスライドショーでの展示となる。

川内倫子作品

川内倫子《無題》(シリーズ〈光と影〉より)2011

川内倫子作品

川内倫子《無題》(シリーズ〈光と影〉より)2011

〈4%〉
ロサンゼルスのアーティストインレジデンス THE LAPIS PRESS でのコミッショ ンとして、2011年にサンフランシスコ、2012年にロサンゼルスにそれぞれ滞在して制作された作品群。球体や水平線など、宇宙をイメージさせる被写体が多く登場する、日本では初公開となるシリーズ。

川内倫子作品

川内倫子《無題》(シリーズ〈4%〉より)2012

川内倫子作品

川内倫子《無題》(シリーズ〈4%〉より)2013

〈An interlinking〉
川内の写真を象徴する「6×6」の正方形フォーマットで撮られたシリーズ。日常にあるイメージや小さな命の姿を、ローライフレックスの6×6フィルムで捉えている。過去20年以上にわたって撮影されたアーカイブから、本展のために構成した未発表を含む作品群が披露される。

川内倫子作品

川内倫子《無題》(シリーズ〈An interlinking〉より)2014

川内倫子作品

川内倫子《無題》 (シリーズ〈An interlinking〉より)2015

〈あめつち〉
熊本県阿蘇で古くから行われてきた野焼きを、4×5のフィルムカメラを用いて撮影したシリーズ。 野焼きに加え、イスラエルの嘆きの壁など、自然への畏怖と人間の祈りや「捧げる」という行為に焦点をあてた作品など。

川内倫子作品

川内倫子《無題》(シリーズ〈あめつち〉より)2013

川内倫子作品

川内倫子《無題》(シリーズ〈あめつち〉より)2013

〈M/E〉
2019年より川内が取り組んできた新作シリーズ。アイスランドの氷河や冬の北海道の雪景色と、コロナ禍に自宅周辺で撮影した家族や生き物の姿などの身近な風景など、ミクロとマクロの視点から自然の姿を写しとっている。本展の中心に据えられたシリーズであり、空間全体を使った構成で展示される。

川内倫子作品

川内倫子《無題》(シリーズ〈M/E〉より)2021

川内倫子作品

川内倫子《無題》(シリーズ〈M/E〉より)2021

〈Illuminance〉
2011年に発行された写真集『Illuminance』の映像作品として発表され、展示される度に新しく映像を追加していくことをコンセプトとした作品。当初は10分程度だった再生時間は増え続け、川内の活動の軌跡であると同時に、永遠に未完であり続ける作品でもある。

これらの多彩な川内作品が一堂に会する会場の空間デザインを担当したのは、建築家の中山英之氏。本展開催にあたり、川内とのディスカッションを重ね、「自分が作品を制作する際に感じた感覚や経験を、展示空間において観賞者と共有したい」という作家の想いに応えるため、写真展とインスタレーションのあいだのような独特な会場構成が組み立てられました。大小の展示室が連なるそれぞれの空間で、鑑賞者が作品に向き合う体験を身体感覚として経験できることを目指した設計となっています。

会場デザイン コンセプト

ひとりの写真家による10年に渡る、新作含め6作品を巡る展覧会。それら1つひとつに固有な手触りを、大きな2つの展示室にどう空間化するのか。それが今回の会場構成で考えたことです。
展示室に予めある天井高や光の偏在を観察しながら、大きく6つの全く異なる場所とそれらを巡る経路を準備しました。結果、生じる高低や明暗の劇的な変化が、作品に先立って前景化してしまわぬように、それぞれの場所はどこか写真集を手に取った時にも似た対称形を基本としつつ、互いが背表紙を並べるように静かに隣りあう関係を結ぶよう、開口のかたちや大きさを調整しています。
作家がカメラと共に辿った時空と、極大と極小を振り子のように行き来するレンズの奥の眼差しに、会場を巡る時間が意識の底で重ね合わされるような経験を目指しました。(中山英之)

中山英之建築設計事務所「川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり」会場構成

会場構成イメージ(展示室の1例) ©︎中山英之建築設計事務所

中山英之プロフィール

建築家。1972年福岡県生まれ。1998年東京藝術大学建築学科卒業。2000年同大学院修士課程修了。伊東豊雄建築設計事務所勤務を経て、2007年に中山英之建築設計事務所を設立。2014年より東京藝術大学准教授。
主な作品に、〈2004〉〈O邸〉〈Yビル〉〈Y邸〉〈家と道〉〈石の島の石〉〈弦と弧〉〈mitosaya薬草園蒸留所〉〈Printmaking Studio/ Frans Masereel Centrum〉(LISTと協働)などがある。
主な受賞に、SD Review 2004 鹿島賞(2004年)、第23回吉岡賞(2007年)、Red Dot Design Award(2014年)、JIA新人賞(2019年)などがある。

中山英之 近影

Photo: Takashi Kato

中山英之建築設計事務所 Webサイト
http://www.hideyukinakayama.com/

「川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり」フライヤー

「川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり」開催概要

会期:2022年10月8日(土)〜12月18日(日)
会場:東京オペラシティ アートギャラリー
所在地:東京都新宿区西新宿3丁目20-2(Google Map
開館時間:11:00–19:00(入場は18:30まで)
休館日:月曜(祝日の場合は開館し、翌火曜休館)
※11月3日(木)〜6日(日)に限り、「アートウィーク東京」の実施にあわせて10:00–19:00開館時間
入場料:一般1200円、大・高生800円、中学生以下無料
※「収蔵品展074 連作版画の魅力」、「project N 88䑓原蓉子」の入場料を含む

関連イベント
baobab ミニライブ「ひびく つなぐ みちる」
日時:2022年11月3日(木・祝)19:30開始 / 11月4日(金)9:00-
会場:東京オペラシティ アートギャラリー 展示室内
定員:30 名(要事前申込)
参加費:無料(但し、本展の入場料が必要)
予約方法:アートギャラリー公式ウェブサイト参照

主催:公益財団法人東京オペラシティ文化財団、朝日新聞社
協賛:日本生命保険相互会社
協力:相互物産株式会社

アートギャラリー公式ウェブサイト
https://www.operacity.jp/ag/


※上記以外の関連イベントは、詳細が決定次第、会場およびアートギャラリー公式ウェブサイトなどで発表
※本展は、令和4年度日本博イノベーション型プロジェクト 補助対象事業(独立行政法人日本芸術文化振興会/文化庁)として開催される


#朝日新聞社 YouTube「川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり」展示インタビュー映像(2022/12/06)

巡回情報:滋賀県立美術館(会期:2023年1月21日[土]〜3月26日[日]予定)

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「川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり」滋賀会場巡回

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