リモートワークが普及しどこでも働ける環境が整備される一方、リアルで会社に集まり仕事をする意味を捉え、オフィス勤務をあらためて導入する企業や、リモート勤務とオフィス勤務のどちらも併用する企業など、働き方の多様性がより一層高まっています。そして、そのような時代だからこそ、「垂直農業」や「フローティングアーキテクチャ」など、さまざまな要素を取り入れたオフィスビルが世界中で建築されています。
ここでは新たな要素を取り入れたり、建築そのものに企業の理念を反映した海外のオフィスビルプロジェクトを紹介していきます。
新たな付加価値を探求する海外のオフィスビル7選
◯川に浮かびエネルギーを自給自足するオフィス!
【フローティングオフィス・ロッテルダム】パワーハウス・カンパニー
◯農園に包まれた森のようなオフィス!?
【アーバン・ファーミング・オフィス】VTNアーキテクツ
◯コンピュータにより制御する「呼吸する」ファサード
【Uber本社】SHoPアーキテクツ
◯「仕事×遊び」でイノベーションを加速!
【レゴキャンパス】C.F.モーラー・アーキテクツ
◯会社とまちをつなぐ木製フレーム
【THE CANOPY】アンコール・ウルー・アーキテクツ、コンストゥイール、ベース
◯革新的な構造が体現する「国境なきイノベーション」
【DJI Sky City】フォスター アンド パートナーズ
◯企業のコアバリューを体現する砂丘のようなオフィス!?
【BEEAH本社】ザハ・ハディド・アーキテクツ
川に浮かびエネルギーを自給自足するオフィス!
【フローティングオフィス・ロッテルダム】
設計:パワーハウス・カンパニー
オランダ・ロッテルダムの川に浮かぶ〈フローティングオフィス・ロッテルダム(FOR:Floating Office Rotterdam)〉は、気候変動に対応するサステナブルなオフィスビルです。川の水を活用した熱交換システムや屋根に設置されたソーラーパネルによりエネルギーを自給自足し、カーボンニュートラルを実現します。
また、建物の木造構造は容易に解体可能な構成とすることにより、サーキュラーエコノミー(循環型経済)にも適用した建築となっています。
川に浮かびエネルギーを自給自足するオフィスビル、パワーハウス・カンパニーが設計したカーボンニュートラルを実現する〈フローティングオフィス・ロッテルダム〉オランダ
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農園に包まれた森のようなオフィス!?
【アーバン・ファーミング・オフィス】
設計:VTNアーキテクツ
〈アーバン・ファーミング・オフィス(Urban Farming Office)〉は、ベトナムのハノイとホーチミンを拠点に活動するVTNアーキテクツ(Vo Trong Nghia Architects)が設計した、高さを利用して垂直的に農作物を生産する「垂直農法」を取り入れた自社オフィスです。
都市化により緑が失われつつあるベトナムの都市に緑を取り戻し、安全な食料生産を促進することで、都市のサステナブルな未来に貢献することを目的としています。
コンクリートの構造とスチール製の支柱、モジュール化された交換可能なプランターボックスというシンプルな構成とすることで、生育状況に合わせてフレキシブルに対応できるよう設計されています。
農園に包まれた森のようなオフィス!?垂直農法を取り入れたVTNアーキテクツの自社オフィス〈アーバン・ファーミング・オフィス〉ベトナム
コンピュータにより制御する「呼吸する」ファサード
【Uber本社】
設計:SHoPアーキテクツ
アメリカ・サンフランシスコに建つ〈Uber本社(Uber Headquarters)は、アメリカのテクノロジー企業Uberにとって初となる自社オフィスビルです。
建物の高さいっぱいに設けられた半屋外空間「コモンズ」が建物とまちをつなぎ、内部で行われるクリエイティブな仕事に絶えずインスピレーションを与え、コンピュータ制御の可動窓システムによる「呼吸する」ファサードにより、機械換気の必要性を大幅に低減するサステナビリティを備えています。
コンピュータにより制御する「呼吸する」ファサード、SHoPアーキテクツが設計したUber初となる自社オフィスビル〈Uber本社〉アメリカ
「仕事×遊び」でイノベーションを加速!
【レゴキャンパス】
設計:C.F.モーラー・アーキテクツ
レゴのテーマパーク「レゴランド」のある、デンマークのビルンドに建つ〈レゴキャンパス〉は、レゴグループの価値観である「想像力、楽しさ、創造性、思いやり、学び、品質」を反映し、世界中の子供たちのための「最高の遊び体験」を開発するため「仕事と遊び」を統合した、8つのブロックからなるレゴグループのオフィス複合施設です。
スポーツホールやイベントスペースなどの共有施設で構成された、従業員同士が勤務中および勤務後に遊ぶための「ピープルハウス」と呼ばれる空間など、遊ぶことによるクリエイティビティの活性化を重視した設計となっています。
仕事と遊びでイノベーションを加速する社屋、最高の遊び体験を開発する、レゴの持続可能なオフィス複合施設〈レゴキャンパス〉デンマーク、C.F.モーラー・アーキテクツ
会社とまちをつなぐ木製フレーム
【THE CANOPY】
設計:アンコール・ウルー・アーキテクツ、コンストゥイール、ベース
〈THE CANOPY〉は、フランスの都市クレルモン=フェランのカルム・ドゥショー広場に位置するミシュラン・グループの本社の前面に増築された、木製フレームが特徴的なレセプションエリアです。
ミシュランの「過去を消すことなく、新しく生まれ変わる」という思いを具現化するため、既存の歴史的な建物をつなぐとともに、透明なファサードとパブリックなプログラムの導入により会社とまちもつなぐよう計画されています。
革新的な構造が体現する「国境なきイノベーション」
【DJI Sky City】
設計:フォスター アンド パートナーズ
ドローンの世界的リーディングカンパニーDJIの新本社〈DJI Sky City〉は、「空における創造的コミュニティ」というDJIの哲学と、高層建築においてこれまでに類を見ない画期的な建築構造がマッチした、最先端のイノベーションハブ施設です。
オフィス、研究、開発エリアは、タワーの中央から大型のメガトラスで片持ち式に配置されており、遠目からみると建物が宙に浮いているかのような印象を与えます。
中国語での会社名は大疆新創(意味は「国境なきイノベーション」)であるDJIの新本社として、この規模の高層ビルでは初めて採用された非対称の吊り下げ式鉄骨構造により、建築的に「国境なきイノベーション」を体現しています。
革新的な構造が「国境なきイノベーション」体現する建築、フォスター アンド パートナーズが設計したドローンの世界的リーディングカンパニーの新本社〈DJI Sky City〉中国
企業のコアバリューを体現する砂丘のようなオフィス!?
【BEEAH本社】
設計:ザハ・ハディド・アーキテクツ
BEEAHグループは、サステナビリティとデジタル化の2つの戦略を掲げ、廃棄物管理・リサイクル、クリーンエネルギー、環境コンサルティング、教育、グリーンモビリティなど、6つの主要産業で事業を展開している企業です。
そのBEEAHグループの新社屋だからこそ、サステナビリティを核として計画されており、現地調達の資材の比率が高く、将来に向けたテクノロジーを備え、ネットゼロ・エミッションを実現し、最小限のエネルギー消費とすることで、世界標準の環境評価ツールであるLEEDの最高水準「プラチナ基準」でのオペレーションを可能にしています。
さらにザハ・ハディド・アーキテクツによる流線形のデザインはBEEAHグループの掲げる2つの柱のうちのデジタル化も象徴しています。これらにより〈BEEAH本社〉は、シャルジャ首長国で環境問題に取り組むために創業したBEEAHグループが、持続可能な未来の実現に不可欠な産業でビジネスを行う国際グループへと成長したことを示す建築でもあります。
砂漠の中に現れる流線形の砂丘とオアシス、ザハ・ハディド・アーキテクツが設計した世界最高水準のサステナビリティを備えた〈BEEAH本社〉アラブ首長国連邦、UAE
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