帝国データバンク発表(2021年6月23日)。
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の拡大による、いわゆる”巣ごもり需要”の拡大を背景に、2020年度は家具やインテリアなどの販売が例年に比べて非常に好調な推移をみせているとのこと。
帝国データバンクの調査では、通期予想を含めた2020年度の家具・インテリア販売市場(事業者売上高ベース)は、前年度から6.1%増の1兆5000億円。ニトリやイケアなど、低価格主力の好調な大手各社が業界全体をけん引する一方で、高級家具店や「町の家具店」など中小では苦戦と2極化鮮明にしつつ、過去最高を更新する見通しです。
家具業界は、2020年5月の緊急事態宣言により、一時的な店舗営業時間の短縮や休業、来客数の減少に見舞われたケースも多く、宿泊業など一部法人向け需要も急減するなどマイナス要素が見受けられました。
一方で、人々は外出自粛を余儀なくされたことから、在宅時間が増え、家庭内の日用品など生活雑貨やインテリア用品、家の中を整理する収納家具などの売り上げが大きく伸びています。
また、都市部では、自宅のテレワーク環境を整えるためのオフィスワーク家具の販売量が大幅に伸びるなど、いわゆるコロナ禍を機に、新たに生まれた需要を取り込めたことも追い風となっているとのこと。
ポイント
1.2020年度の国内の家具・インテリア販売市場(事業者売上高ベース)は約1兆5000億円、過去最高を更新
2.ニトリ、イケアなど家具販売大手は増収確保 コロナ禍で低価格家具ニーズ増え、ネット販売も好調
3.低価格家具とニッチな高級家具の「2極化」が進み、大手の出店、低価格競争と小規模店に不利な要素も
総務省の各調査によれば、家具や寝具、ホームインテリアなどへの支出額(12カ月移動平均値)は、総じて前年を上回る水準で推移しています。特に、一般家具はリアル店舗・ネットでの購入を含め、2019年の消費税増税による”駆け込み需要”からの反動減となった9月を除くすべての月で、前年から支出額が増加しています。
コロナ禍での在宅勤務をはじめ、自宅で長時間を過ごす新しい生活様式が定着したことで、自宅の仕事環境の整備や、普段の生活の中における「快適性」を重視する傾向が強まりました。そのため、ワークチェアやベッドフレームなど比較的高単価な商品から、マットレスなど寝具、インテリア雑貨など、身のまわりの品の購入意欲が高まったことも要因と考えられます。2020年5月から国民全員に実施された1人当たり10万円の定額給付金が支給されたことも、消費者の購入意欲を後押ししたとみられます。
こうした外部環境を背景に、家具販売各社では特に低価格帯に強みを持つ大型量販店、EC販売分野に特化した家具店で、前年度から大幅な増収となる企業が相次ぎました。家具・インテリア製造小売(SPA)最大手のニトリは、2021年2月期の連結売上高が前期比11.6%増の7169億円に。在宅時間の増加を背景に、収納整理用品や台所用品、テレワーク用のオフィス家具まで幅広いアイテムで販売が伸び、年間を通じて前年同月から10%以上売り上げが増加しています。
北欧家具のイケア・ジャパンも、2020年8月期は前年から2.7%伸びの867億円。グローバル売上高は前年比4%減の396億ユーロ(約5兆円)と落ち込むなかで、国内事業は来店客の増加もあり、健闘。ホームセンターのナフコにおける家具販売事業も、6.7%増の475億円と伸びたとのこと。ソファーやデスクなどインテリア全体を提案する「トータルコーディネート」という考え方が浸透するなか、ひととおりのアイテムが手ごろな値段で買い揃えることが可能な大型店舗の売り上げが好調となっています。
コロナ禍でリアル店舗に足を運べないといった事情も後押しし、EC販売も大幅に伸びました。
D2C(direct to consumer)業態として「LOWYA」ブランドを展開するベガコーポレーションは、前年を大幅に上回る業績を確保。ネットでの売り上げは、例えば、最大手のニトリでも、前年比で50%以上も増加するなど店頭販売を凌ぐペースで成長を続けています。
従来のEC販売で売れ筋となった小型家具やインテリア雑貨だけでなく、デスクやベッドなど、単価と利益率が高い大型家具をネットで注文する土壌が、コロナ禍によって消費者に形成されたと言えます。
好調な大手とは対照的に、高級家具店や町の家具店は苦戦を強いられています。
規模別では、年商10億円以上の大・中型店舗の約半数が前年から増収となる一方で、大型店でも高級家具店や、セレクトショップをはじめアッパーミドルの価格帯を得意とする家具店は業績が伸び悩んでいます。
大規模ショールームや自前のネット販売チャネルを持たない小型店舗も、増収の割合が低位なほか、零細店舗では売り上げ伸び率の平均が1割超のマイナスに。コロナ禍で家具・インテリアの買い替え需要は増加したものの、客足の多くが低価格帯に流れ込んでおり、こうしたラインナップに勝る大手やEC専門店と小規模店で、業績の2極化がより鮮明となりました。
こうしたなか、2021年度の家具販売は引き続き、ニッチな高級家具市場と低価格家具の2極化が進行するとみられます。特に、低価格市場が占めるシェアは高まり。
インターネットの行動ログ分析を手掛けるヴァリューズ社が、20歳以上の男女約1万人を対象として、2020年12月に行った調査では、2021年の家具購入予定者のうち約2割が「予算を縮小させる」と回答しています。
コロナ禍で買い替え・新調が進んだことで、デスクなど大型家具の需要が一巡しているほか、一人あたり10万円が支給された2020年とは異なり、所得が伸び悩むといった要因も考えられ、2021年中の家具需要は小休止といったところ。
その一方で、低価格帯では引き続き、大手の出店攻勢が続くほか、異業態からの参入も相次ぐなど、国内家具・インテリア市場は拡大する低価格家具市場の「パイを取り合う」厳しい競争が続くとみられます。
最大手のニトリは、2021年中も100店舗超の新規出店を計画。異業態からは、雑貨大手の良品計画が、収納からリフォームまで一体的にカバーする大型店を東京・有明に立ち上げ、全国展開を図っています。「無印良品」はさらにこれにサブスクリプションも2021年に開始しているのも、ニューノーマル時代における新たなビジネス展開として見逃せません。
また、飛躍的な成長を見せる家具のD2C(Direct to Consumer)業態は、世界的にも浸透が進んでいます。
例えば、欧州市場では豊富な品揃えや配送料無料を武器に急成長を遂げる「ホーム24」(ドイツ) 、スタイリッシュで高品質な家具で人気を集めるメイド・ドット・コム (イギリス)など、新興のD2C家具企業が台頭。こうしたEC販売のシェア拡大は日本国内でも同様に進むとみられ、競争はより熾烈化していくと、帝国データバンクでは予想しています。国内は、低価格トレンドが止まらない大多数の家具と、一部の高級家具とでの棲み分けが、より鮮明になる一方で、小型・零細店舗では厳しい経営環境が続くとみられます。(en)