BUSINESS

デジタル技術で家が人格をもつ?

noiz×大和ハウス工業×バンダイナムコ研究所が共創した〈XR HOUSE 北品川長屋1930〉にて実証実験がスタート

BUSINESS2022.06.03

大和ハウス工業、バンダイナムコ研究所、ノイズ(noiz / 代表取締役:酒井康介)の3社は、6月2日にオンライン記者発表を行い、「リアルとデジタルの融合」をテーマに掲げたプロジェクトの概要を発表。
プロジェクトを共同で検証するための実証実験[*1]の場として、東京・品川区にある築90年以上の古民家をリノベーションした施設(SHINAGAWA1930)5棟のうち、1棟の内部を本件のために改装し、XR[*2]技術を駆使した〈XR HOUSE 北品川長屋1930〉を開設。2022年6月3日から8月31日にかけて、既存建物とデジタル技術を組み合わせることで創出される、新しい価値についての検証を開始することを発表しました。

なお、実装実験の場であるため、一般には公開されず、入場が許可される場合も完全予約制となります。
*1.3社の役割分担:各フロアの企画構成や建物についての知見提供を大和ハウス工業、デジタル技術の企画に関しては、玄関からのアプローチと1階をnoizが、2階をバンダイナムコ研究所が担当
*2.XR:クロス・リアリティ、あるいかエクステンデッド・リアリティの略称。AR(拡張現実)、VR(仮想現実)、MR(複合現実)といった、現実世界と仮想世界を融合する表現技術を総称する

SHINAGAWA1930 外観

SHINAGAWA1930内〈XR HOUSE 北品川長屋1930〉外観

『TECTURE MAG』編集部では、オンライン記者発表に参加しました。以下は、大和ハウス工業、バンダイナムコ研究所が発信したプレスリリースと資料から要点を引いたプロジェクトの概要です。

プロジェクト立ち上げの背景

住宅建設をはじめとする幅広い事業を展開する大和ハウス工業では、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡大がもたらした、人々の価値観や生活習慣が大きく変化している、ニューノーマル時代への対応として、DX(Digital Transformation / デジタルトランスフォーメーション)の活用と、加えて、空き家問題の解決も施作として考えていたとのこと。
そのような中で、デジタル技術に知見の深い建築家で、noizのファウンダーの1人でもある豊田啓介氏より「未来の暮らし」にエンターテインメントの視点を取り入れる提案がなされました。その後、noizとの共同研究実績があり、XR技術の研究開発に取り組んでいるバンダイナムコ研究所との間でワークショップを実施するなど、「未来の暮らし」に関する検討を開始。2020年12月に「XR HOUSE 北品川長屋1930」建設プロジェクトが立ち上げられました。

「XR HOUSE 北品川長屋1930」プロジェクト

リアルとバーチャルのエージェントと環境
©2022 XR HOUSE Project All rights reserved

XR技術で暮らしをより楽しく

3社によるプロジェクトでは、人々が自宅や室内で長時間を過ごす、”巣ごもり”的な閉塞感を軽減しつつ、暮らしをより楽しくするための施策として、XR技術に着目。デジタル技術を活用し、一瞬で空間のイメージを変えるしつらえを施したのが、このほどセミクローズでオープンした〈XR HOUSE 北品川長屋1930〉になります。
「少し先の未来の暮らし」を具現化するために、XR技術をどのように発展させ、社会に実装させていくかを検討する実証実験を今夏に共同で行います。

建築を専門とする大和ハウス工業とnoizは、リアルな空間にどこまでデジタル技術やエンターテインメントを取り入れるか、エンターテインメントに強いバンダイナムコ研究所は、リアル空間にどのようにしてデジタル技術を取り入れていくか、3社それぞれが課題に取り組み、専門分野の各領域を乗り超えていくことに挑戦します。

実証実験施設の概要

実証実験の場はいずれも和室で、日本の古い家屋を象徴する「畳」「障子」「襖」の3要素それぞれに、XR技術・デジタルによるエンターテイメント性が付加されています。

創出された空間の要素としては大きく2つ。1つは、日常的な空間にデジタルを取り込み、リアルとバーチャル世界の共生を目指した空間。もう1つは、「人」の動きに「家」が音と光で反応し、あたかも家が人格を持ったような空間です。
部屋そのものがデバイスとして位置付けられており、来場者(予約制)の体験を通して「リアルとデジタルの融合」についての検証が行われます。

「XR HOUSE 北品川長屋1930」プロジェクト

障子の間

障子の間

障子+デジタル
和室の空間。部屋の奥にある障子を開けると、そこは壁で、映像が映し出されます。バーチャルな世界を「日常」から覗いているかのような、モノクロの屋外空間が広がります。
立体音響の効果により、室内に居るのに外の世界とつながっているような感覚を覚える、開放感のある空間が障子の奥に創出されています。

noizの豊田氏によれば、体験者が障子を「開ける」という初動が重要とのこと。与えられるのではなく、能動的な行為で体験が始まることで、現実世界との混同がしやすく、没入感も高まり、肌感覚でシームレスに、リアルとデジタルの融合を体験できる効果があるとのこと。

襖の間

襖+デジタル
日本の伝統的な家屋のしつらえである、第空間を仕切り、閉ざされた空間を創り出す「襖」を開けると、そこには「屋内空間」が広がります。前述の障子の空間と同様に、高音質の環境音と相まって、体験者は落ち着いた時間をそこで過ごすことができます。

「XR HOUSE 北品川長屋1930」プロジェクト

畳の間

畳+LED
noizがデザインを手掛けた「ヴォロノイ畳」[*3]が敷かれた和の空間。ヴォロノイの幾何のラインに、LED技術を組み込むことで、想定されたコンテンツに沿った自由度の高い演出が可能となっています。
*3.ヴォロノイ畳〈TESSE〉:アルゴリズムを用いた独自開発の技術によって 空間の形状に合わせた分割パターンを生成する畳。自然界に頻繁に現れる幾何「ヴォロノイ図」を基にデザインされている。プロダクト詳細:https://noizarchitects.com/archives/works/tesse

デジタル技術による”家の人格化”

「XR HOUSE 北品川長屋1930」プロジェクト

1F 内観

環境側の身体性
古⺠家の壁や床の一部が、デジタル記述された空間(家の 人格)のリアル空間への現れとして、タイルによってピクセル化されている。

環境側の自律性
デジタル記述された空間は、複数のシーンのリアルタイムなパターン生成として表現される。さらに、人が電球に触れたり、部屋内を歩き回ると、各種センサーによってそれらの行為はデジタルに変換され、パターンに対してのリアルタイムな影響を与えるというように、家が自律的に人とのインタラクションを行う。

これらの「2つの間」「3つのXR空間」の共通した特徴は、「人」の動きに対して、「部屋」ないし「家」が音と光で反応すること。あたかも、家が人格を持ったような空間が実験的にしつらえられています。

「XR HOUSE 北品川長屋1930」プロジェクト

バンダイナムコ研究所の課題

近年における携帯電話やVRゴーグルなどの普及、オンラインによるコミュニケーションツールの進化により、バーチャル空間を体験する人々が増えています。さらに今後も、エンターテインメントを中心に、さまざまなコンテンツが充実し、グラフィック・サウンドなどの体感技術が向上することが想定されています。
それらを背景に、バンダイナムコ研究所では、リアル世界の住宅環境においても、バーチャルに対応した環境が求められると考えています。
〈XR HOUSE 北品川長屋1930〉のプロジェクトでは、日常とバーチャルの垣根を低くするインターフェースの開発を、noizの豊田氏らとともに行い、和室の「襖」「障子」「畳」に、ゲームや遊びとは異なる、日常生活に浸透するようなデジタルな表現を加えているとのこと。

大和ハウス工業の課題

近年、建築業界におけるDXの1つとして、LiDAR(ライダー)[*4]や、ビーコン[*5]といった、センシング技術とBIMを連携させた施工監理や、建物運用システムの研究開発が進んでおり、日常生活においても、LiDARがスマートフォンなどに搭載され、センシング技術が身近なものとなってきています。
*4.離れた場所にある物体の形状や距離を、レーザーを使って測定するセンサー技術
*5.[*3]の端末固有のID情報などを一定の間隔で発信する端末

センシング技術とAI技術を組み合わせることで、リアル空間とバーチャル空間が相互に作用する世界が生まれ、「未来の暮らし」につながる領域としての研究や開発がさまざまに進んでいるとのこと。ロボットやAIといったデジタル・エージェントに限らず、建物や都市といった環境側にも、センシング技術やAI技術による自律性を持たせることで、リアルとバーチャルをまたぐ相互作用を生み出すことが重要視されており、これらのことが、今回の大和ハウス工業のプロジェクト参画の背景となっています。

DX・XR技術が中古物件の価値を上げる?

記者発表の質疑応答でも確認がなされましたが、大和ハウス工業としての今後の展開として、今の時代にふさわしい新たな価値を付加した住宅・建物の供給の可能性や、いわゆる空き家問題が近年慢性化している中古物件の価値を、XR技術を活用して向上させることができるか?という課題への試金石が、今回のプロジェクトには含まれています。

同社のプレスリリースによれば、建物の価値には法律上の価値(土地の価値)、金融上の価値(担保価値)、不動産取引上の価値(商品価値)、利用上の価値(住まい価値)などが挙げられ、ほとんどの建物において、竣工から年を重ねるごとに価値が下がっていくという問題が現実的に存在します。
今回の検証では、建設してから数十年が経過した建物に、デジタル技術とエンターテインメント技術を取り込むことで、利用者が「住まい価値(利用上の価値)」について、空間に滞在することでどのように感じるかについても検証が行われるとのこと。

今回の建設業界とエンターテイメント業界とのコラボレーションは今後、どのような展開をみせるのか?
3社では、実証実験の期間中に、有識者や業界関係者、学生らが参加するワークショップを開催し、意見を交換・収集。それらの結果を今後の住宅・建築業界の新しい価値の創出につなげていきたい意向です。

施設概要

施設名称:XR HOUSE(エックスアールハウス)北品川長屋1930(イチキュウサンゼロ)
所在地:東京都品川区北品川1丁目21-10 Shinagawa1930 D棟
構造:木造、地上2階建て
延床面積:97.70m²
企画:大和ハウス工業、バンダイナムコ研究所、noiz
1F デジタルコンテンツ
・監修:noiz
・ビジュアルプログラミング:白木 良
・プロジェクション設計:Pixel Engine(三谷 正、川崎麻耶)
・センサーインタラクション:新工芸社
・サウンド:村中真澄
2F ヴォロノイ畳:noiz × 国枝
施工・施設運営:MAKE HOUSE
実証期間:2022年6月3日(金)~8月31日(水)
利用方法:一般予約は不可、完全予約制

大和ハウス工業プレスリリース(2022年6月2日)
https://www.daiwahouse.com/about/release/house/20220602114751.html

バンダイナムコ研究所プレスリリース(2022年6月2日)
https://www.bandainamco-mirai.com/news_20220602/

noiz ニュースリリース(2022年6月2日)
https://noizarchitects.com/archives/feeds/5878

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