「無印良品の家」を展開するMUJI HOUSEは、2004年の事業開始以来、頑丈な構造と仕切りのない一室空間により、住み手が自由に間取りを編集できる住まいを提案しています。MUJI HOUSEが戸建て住宅の設計に挑んだのは、2004年の「木の家」がはじまりでした。続く「窓の家」(2007年)、「縦の家」(2014年)と、およそ5年ごとに新しい住宅をローンチしてきたMUJI HOUSEが、2019年に満を持して発表したのが、初の平屋商品「陽の家(ようのいえ)」です。
庭に面した大きな開口部、深い軒、杉板の外壁。一見するとごくシンプルな箱ですが、この形に落ち着くまで、2年の歳月がかけられました。中庭型など複数の形態案を図面・CG・スタディ模型で検討に検討を重ねながら、MUJI HOUSEが全商品に共通して掲げる「永く使える、変えられる」というコンセプトに照らし合わせ、ひとつひとつ絞り込んできた結果です。開発者自身が『MUJI HOUSEの家史上、最もシンプルな箱』と呼ぶこの建築には、どのような設計の思考が宿っているのでしょうか。『TECTURE MAG』が、MUJI HOUSE「陽の家」について建築的側面から迫ります。

「陽の家」のコンセプトは「庭と仲良くする家」です。ただ大きな窓をつくるだけでは、このコンセプトは成立しません。開発チームが意識したのは、住む人が自然に外へ出たくなる空間をつくることでした。そのために採用したのが、全開口サッシです。一般的な引き違い窓は全開にしてもガラスが半分残りますが、「陽の家」のサッシは外壁側にすべて引き込まれるため、開け放つと視界をさえぎるものが一切なくなり、ウッドデッキと室内の床は段差なくフラットにつながります。室内からデッキへ裸足のまま自然に外へ出ていけるのは、この設計があってこそです。

この段差のない連続面に、深い軒が組み合わさることで、内と外の移行はさらになめらかになります。室内から庭に向かって、軒のあるデッキ、軒のないデッキ、そして庭へと、空間の「外部度」がゆるやかに変化していく。この段階的な移行は、かつての縁側が担っていた役割の現代的な再解釈でもあります。「窓を開けたら別世界」という断絶がないからこそ、天気のいい朝にテーブルを外に出す、という何気ない行動が自然に生まれます。

こうした空間の機能は、構造によっても支えられています。「陽の家」が採用するSE構法は、強靭な金物接合と全棟個別の構造計算により、大開口と高い耐震性を両立させています。一室空間の広がりも、必要な耐力壁の位置を計算で厳密に決めるからこそ、それ以外を自由に開放できます。間取りを固定しないことで、引き戸や家具などの仕切りを追加すれば個室になり、外せばまた一室に戻る。「変えられる」という言葉は、この構造設計の精密さに裏付けられています。

「陽の家」の意匠で際立っているのは、引き算の徹底です。外観に装飾はなく、室内も余計なものを見せない。その「何もなさ」を成立させるため、細部の設計に手間がかけられています。例えば、全開口サッシは、既製品のアルミサッシをそのまま使うのではなく、杉板の外壁との質感の差を埋めるためにオリジナルデザインの「戸袋パネル」が開発されました。外から見たとき、アルミサッシの存在が外壁の表情に溶け込むように設計されています。既製品の精度の高さと耐久性という合理性を活かしながら、見え方をきちんと制御する。このさじ加減が、内と外がシームレスにつながる「陽の家」らしさを支えています。

室内の勾配天井も、同じ思想から生まれています。平屋には吹き抜けを設けることができません。天井全体を高くすれば解決するようにも思えますが、それでは開放感のコントラストが生まれない。吹き抜けの気持ちよさは、低い天井と高い天井の落差から生まれるものだからです。そこで採用されたのが、切妻屋根の形状をそのまま室内に反映させた勾配天井です。リビングの天井の最高点は4.1mまで立ち上がり、2.3mに抑えられた寝室や水回りとのコントラストによって、平屋でありながら伸びやかな空間体験がつくりだされています。

この勾配天井も、SE構法の「登り梁」なしには実現できません。通常の木造では天井裏に水平梁と束が必要になり、室内に構造材が露出してしまいますが、屋根の勾配と平行に傾けた「登り梁」を用いることで、水平梁も束も室内に出すことなく屋根を支えることができています。緻密に構造を設計することによって、梁も束も見えないクリーンな天井面が生みだされました。

また、断熱についても同様です。充填断熱と外張り断熱を組み合わせたダブル断熱、高断熱ハイブリットサッシを標準採用することで、大開口という「断熱上の弱点」になりやすい設計を、性能で丁寧に補っています。目に見えない部分への徹底ぶりにも、「感じ良いくらし」というコンセプトを言葉だけにしないMUJIHOUSEの設計姿勢があらわれています。

「木の家」から始まったMUJI HOUSEの住宅設計は、「窓の家」「縦の家」と重ねるごとに、それぞれの問いへの答えを形にしてきました。そして、今回の「陽の家」の答えは「ただの箱」。この箱の中には、庭とつながるための段階的な空間の移行や、平屋でありながら高さのコントラストを生む勾配天井、「変えられる」ことを構造で支える仕組みなど、削ぎ落とされた外観の奥に、さまざまな要素が詰め込まれています。
MUJI HOUSEにとって「最もシンプルな箱」とは、住む人が自由に手を加えられる余白であり、どんな土地に置いても成立する汎用性です。2025年には約2万人の声をもとにロフトや2列型キッチンなど新たな仕様が加わりました。「陽の家」が問い直した平屋の可能性は、住む人の声とともに、かたちを変えながら更新を続けています。


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