帝国ホテル(代表取締役社長 定保英弥)は、2026年の開業に向けて京都市内で準備を進めている新規ホテルに関して、12月2日に続報を発表。
東山区祇園町南側にある祇園甲部歌舞練場敷地内の弥栄会館の一部を保存活用する[*1]、新規ホテルの内装全般の設計者として、新素材研究所(代表取締役所長 榊田倫之氏[*2])が担当することが明らかになりました。
東京・日比谷の帝国ホテル内にて12月2日に行われた記者発表会を『TECTURE MAG』では取材。
定保社長と榊田氏がそれぞれ登壇し、それぞれで語ったこと、両氏のトークセッションの内容から、新ホテルの現時点での概要をレポートします。
帝国ホテルとして念願であった京都への進出は、新築ではなく、京都・祇園のまちなかにある、1936年(昭和11)に竣工して以来、今日に受け継がれている弥栄会館の大規模改修となります。弥栄会館は、国の登録有形文化財ならびに京都市の歴史的風致形成建造物に指定されている歴史的建造物です。
工事はすでに着工しており、テラコッタなどが特徴的なファサード部分を残して、新たなホテルを誕生させる計画です。
総事業費の概算は約110億円。客室総数は約60室、宿泊料金は現時点で未定(記者発表の質疑応答で質問したメディアへの回答より)。
内装設計者の選考にあたり、帝国ホテルでは国内外で活躍するインテリアデザイナーや建築家を候補にコンペティションを実施。明治期以来、日本の迎賓館としての役割を担い、誕生した帝国ホテルが、京都・祇園という国際的にも知名度の高い、日本を象徴するようなサイトで、地域に長らく親しまれた歌舞練場・弥栄会館の歴史と文化を継承することがミッションとなりました。帝国ホテルが初めて進出する京都のこの地において、新たな価値の創出に挑戦している事業計画の意義を理解し、その独自性を体現できるデザインコンセプトおよびデザインの提案が求められました。
帝国ホテルの定保社長の説明によれば、内装設計者を選出するコンペでは、予め参加者に4つのキーワードを提示していたとのこと。その4つとは、継承(レガシー)、粋(すい、Chicの意)、コンフォート(寛ぎ)、そして共創(シナジー)。これらを満たしているとして、最終的に6組となったファイナリストの中から、「古いが、新しい」を事務所創設以来の設計・デザインコンセプトに掲げている、建築家の榊田倫之氏が代表を務める新素材研究所が選出されました。
榊田倫之(さかきだ ともゆき)プロフィール
建築家。新素材研究所 代表取締役所長。
1976年滋賀県生まれ。2001年京都工芸繊維大学大学院建築学専攻博士前期課程修了後、日本設計入社。2003年榊田倫之建築設計事務所設立。2008年に現代美術作家の杉本博司と新素材研究所を設立。
現在、京都芸術大学非常勤講師を務める。2020年に宇都宮市公認大谷石大使就任。2017年の〈MOA美術館〉改修で2019年に第28回BELCA賞を受賞(ベストリフォーム部門、竹中工務店ほか共同受賞)新素材研究所 主な作品:
2017年 MOA美術館 改修(静岡県)
2017年 小田原文化財団 江之浦測候所(神奈川県)
2018年 Hirshhorn Museum ロビー改修(ワシントン D.C.)
2019年 清春芸術村ゲストハウス「和心」(山梨県)
2021年 日本料理かんだ(東京都)
2021年 小田垣商店(兵庫県)
2022年 ヴィラ・クゥクゥ改修(東京都)
待機作として、ワシントンD.C.でのプロジェクト・Hirshhorn Museum:彫刻の庭改修計画がある(2025年完成予定)
作品集に杉本博司との共著『Old Is New 新素材研究所の仕事』(平凡社、2021年)がある。新素材研究所 公式ウェブサイト
https://shinsoken.jp/
榊田氏が代表を務める新素材研究所は、熱海の〈MOA美術館〉改修や、小田原の江之浦測候所など、日本古来の自然素材や工法を使用した空間設計とインテリアデザインで知られ、今回のコンペでもこの点が評価されました。
事務所名称にも込められている「”Old Is New / 古いものが、新しい」というコンセプトをもと、素材自体に存在する時の経過を見出し、現代の空間に用いて生かし、新旧の調和を図ることで唯一無二の魅力を生み出すという、新素材研究所の提案に対し、帝国ホテルでは、歴史的建造物建物を保存活用し、未来へと継承することで地域社会の持続的な発展に貢献することを目指している本事業計画との親和性が非常に高いと判断したとのこと。
海外資本を含め、グローバルブランドを含めて多数のホテルの開業ラッシュが続く京都において、帝国ホテルの歴史と文化を体現し、50年、100年と続く普遍的な価値および帝国ホテルとしての独自性を創出できるという期待感から、内装設計者として新素材研究所が最優秀提案者に選出されました。
なお、新素材研究所はこれまでホテルの設計実績はなく、提案内容を重視した起用であることがうかがえます。
「石のなかに46億年という地球の歴史を見、木材にはそれまで風雨に耐えてきた年月を見るなど、私たちは素材の中に時間を見出し、時間の尺度をどう捉えて空間に生かすかを考えて設計活動を行ってきた。設立当初は、素材そのものの開発や保存、活用を探求していたが、2017年の〈MOA美術館〉改修が1つの契機となり、これらの素材をどのように未来へとつないでいくかに関心が向くようになった。〈MOA美術館〉以降はパブリックな空間の設計依頼も増え、私たちの考え方を共有してくれるクライアントとのプロジェクトが国内外で進行している。
ホテルという空間は、建築家にとって、居住空間の理想形をつくりあげることだと考えている。京都は学生時代に住み、多くを学び、育ててもらったという思いがある。その京都に恩返しができる今回の指名はとても光栄なこと。もちろん重責は感じているが、強い信念をもって、かつ楽しみながら取り組んでいきたい。
今回のコンペでは、杉本博司は所内のアドバイザー的な立場。今回のコンペの勝利を知らせたところ、『息子が東京大学に合格したような気分だね』と喜んでくれた。」(12月2日 記者発表の発言内容より要約)
帝国ホテルブランドのホテルとしては、東京、上高地、大阪に次いで4軒目となり、1996年の〈帝国ホテル 大阪〉の開業以来、30年ぶりの新規ホテルの誕生となります。開業は2026年春を予定しています。
*1.新規ホテル計画の検討および協議を開始することに関する基本合意書は、2019年10月に学校法人八坂女紅場学園との間で締結され、2021年3月には、京都市都市計画で定められた景観地区および高度地区における手続きの中で専門家による公開の審議を経て、地域の景観への配慮、また、祇園甲部歌舞練場敷地全体の一体的な整備に貢献し価値ある建築物や風景を継承していく本計画の意義が認められ、これらの手続きが完了している。2021年5月には、計画地の所有者である学校法人八坂女紅場学園と事業協定書等を締結、本計画を実施することが決定している。
詳細:京都における新規ホテル計画の実施を決定(2021年5月12日 帝国ホテル発表 / PDF 参照)
*2.榊田氏の榊は「木ヘンに神」
帝国ホテル プレスリリース(2022年12月2日)
https://www.imperialhotel.co.jp/j/company/release/2022/news_release_221202.html
帝国ホテル 公式ウェブサイト
https://www.imperialhotel.co.jp/