羽田空港国際線ターミナルに直結した商業施設「羽田エアポートガーデン」[*1]が、1月31日にグランドオープンしました。
同施設は、羽田空港の24時間国際拠点空港化に伴い、住友不動産グループが中心となって整備されたもの。
当初の計画では2020年4月に開業するところ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響で、中核となるホテル[*2]を含めた館内施設のオープンが延期となっていました。
「羽田エアポートガーデン」は、羽田空港第3ターミナル2Fの到着ロビーと連絡通路で直結。昨年末に開業したホテルや、1/31より運行を開始するバスターミナルを利用する人々へ向け、日本文化を意識した店舗で構成されています。
空港に最も近いショッピングストリート「ジャパンプロムナード」は、「日本らしさ」をテーマに選出された物販店や飲食店が選出され、通路の片側に15店舗が並んでいます。
その1つ、〈HARIO Satellite(ハリオ サテライト)〉は、国産耐熱ガラスメーカー・HARIO(ハリオ)[*3]による初のコンセプトショップです。
店舗の設計デザインは、建築家の神谷修平氏が率いるカミヤアーキテクツ(KAMIYA ARCHITECTS)が手がけています。
『TECTURE MAG』では、「羽田エアポートガーデン」のプレオープン期間中に現地を取材、同店舗にて神谷氏に話を聞きました。
HARIO(ハリオ)の耐熱ガラスプロダクトは高い品質を誇り、サイフォンやドリッパーなどのコーヒー器具は、プロフェッショナルであるバリスタにも愛用されています(YouTube / HARIO Official Channelにてインタビュー動画を公開中)。
近年では、職人が工房で1つ1つ手づくりしているガラスのアクセサリーも人気です。
国内外に知られたハリオブランドを体現した店舗とするため、神谷氏はブランディング戦略から考えたと言います。総合的な表現によって魅力を拡張する「BRANDING ARCHITECTURE」に基づく空間提案が、カミヤアーキテクツの大きな特色です。
「日本文化を体現したショップが並ぶストリートに位置するため、あえて木材を使わず、ガラスの原料である“砂”で空間を作りました。モノトーンの店舗は、視覚的な差別化とブランドの体現、この2つを両立させています。また、今回の店舗デザインでは、いかに現代性と職人技を融合できるかを考えました。」(カミヤアーキテクツ プレスリリースより)
店舗デザインに際して、神谷氏はHARIOの工場を見学。100年以上にわたってHARIOがつくり続けてきた耐熱ガラスの原料であるホワイトサンド[*4]の美しさに目を留めます。文字通り、真っ白な砂であるホワイトサンドは、天然の鉱物・石英が風化して砂になったもの。そのきめ細かさと繊細な触感で、ビーチバレーコートにも採用されているほど。
このピュアな素材と、日本の職人技を活かして開発されたのが、異彩を放つ「ホワイトサンドウォール」です。
本稿の写真では、表面についた凹凸に照明があたって陰影が出ているように見えますが、実際の壁面は全くの平滑です。
「ホワイトサンドウォールは、完成した状態ではわかりませんが、2つの層(レイヤー)でできています。第1層は下地で、職人にわざと表面に凹凸を残してグレーのセメントを塗ってもらい、その上からホワイトサンドを塗って平らに仕上げています。」(神谷氏談)
この2つのレイヤーにより、下地の縞(しま)がうっすらと表面に現れ、ホワイトサンドの素材感がグレーの下地の間で見え隠れして、陰影がついたようにも見えます。
壁紙を貼った場合に出てしまう繋ぎ目もなく、どこまでも平滑。大理石のような高級感を醸し出した、この店ならではの左官壁となっているのです。
クライアントからも大好評という「ホワイトサンドウォール」ですが、かたちになるまでは試行の連続でした。職人が長年の感覚でセメント下地をきれいに塗ってしまうと、ホワイトサンドらしいテクスチャーが出ないのです。”ムラ”を強調してみると、その場限りのものとなり、再現性が確保できません(神谷氏は、複数の職人が作業した場合も同一性を保持できることにもこだわりました)。
最終的に、右上がりの角度で凹凸を残す下地塗りに成功。ホワイトサンドを重ね塗りしたモックアップのライティングテストを経て、今回の「ホワイトサンドウォール」が完成しています(左官:西澤工業)。
〈HARIO Satellite〉の什器は、「WHITE SAND WALL」を引き立てる黒。HARIOを代表するプロダクトの1つであるコーヒー器具「粕谷モデル」の黒色(上の画、左下)を棚に置いたときに邪魔にならず、HARIOのプロダクトが映える「黒」です。
シャープなエッジの什器は、汎用材のMDF(Medium Density Fiberboard)に吹付塗装を施したもの。近づいて棚板の表面を見ると、木質繊維の「柄」が見えています。これは敢えて残したもので、金属のようにも見える二次的効果をあげています。
店内のレイアウトは、キャスター付きスーツケースを手に商品を見て回れるスペースを確保。スタッフが常駐するカウンターは、自社のコーヒー器具を使ったデモストレーションもできるサイズで設置されています。
新店舗〈HARIO Satellite〉の空間を大きく占める「ホワイトサンドウォール」は、日本のクラフトマンシップの1つである左官の技術が肝となっています。そもそも、日本の左官壁が美しいのはなぜか? これまではごく当たり前に捉えられてきたことを今いちど分析的な目で捉え直し、再解釈・再開発することが、これからの時代のクリエイティブを新たに生み出し、イノベーションにもつながるとカミヤアーキテクツでは考えています。
神谷氏はこれを「アナリティカルクラフトマンシップ(分析的伝統工芸)」と呼び、再現性のあるデザインは今後のプロジェクトでも展開していく予定です。
業態:物販店舗(44.4m²)
所在地:東京都大田区羽田空港2-7-1 羽田エアポートガーデン2F
運営:HARIO
クリエイティブディレクション・設計・実施設計監修:カミヤアーキテクツ
照明設計:モデュレックス(ModuleX)
実施設計・施工:丹青社
竣工:2020年3月20日
オープン:2023年1月31日
HARIO ウェブサイト
https://www.hario.com/
※国際的なデザインアワードである「iF DESIGN AWARD 2022」を受賞[*5]
*1.「羽田エアポートガーデン」は主に以下の施設で構成される
・エアポートホテル
・日本各地を結ぶ全天候型バスターミナル
・MICE[*6]対応・1,000m²超のイベントホールと10の会議室を有する「ベルサール羽田」
・富士山や飛行機を望む「展望天然温泉」
・日本各地の銘産品や土産物、旅行グッズなどを扱う物販店舗
・ラーメン・寿司など和を中心とした飲食店
*2.ホテル
全6タイプ(33〜173m²)・160室の[ヴィラフォンテーヌ プレミア 羽田空港]と、全12タイプ・1,557室の[ヴィラフォンテーヌ グランド 羽田空港]の2つのブランドから成る。2022年同年12月21日開業(一般宿泊の予約受付は10月7日より開始)。
総客室数1,717室は、日本国内のエアポートホテルでは同一建物内にある客室数として日本最大(住友不動産プレスリリースより / 2022年9月JTB総合研究所調べ)。ホテル棟の12Fに天然温泉「泉天空の湯 羽田空港」がある。
https://www.hvf.jp/hanedaairport-grand/
*3.HARIO(ハリオ):1921年に東京・神田須田町にて創業。理化学用の耐熱硝子器具の製造・販売を行う。日本で唯一、耐熱ガラス工場を国内に保有するメーカー。HARIOとは、”ガラスの王”たる”玻璃王(はりおう)の意。
https://www.hario.com/
*4.ホワイトサンド:オーストラリア・ブリスベンで採れる天然砂から生成された100%天然素材。HARIOでは、子どもたちが安心して遊べる砂場用、観賞魚水槽床用としてホワイトサンドの販売も行っている(10kg単位)
*5.カミヤアーキテクツが手がけた〈葉山加地邸〉でも「iF DESIGN AWARD 2022」を受賞
*6.MICE(マイス): Meeting、Incentive、Conference/Convention、Exhibition/Eventの4つの頭文字を合わせた造語
※本稿は、内覧会当日の神谷氏談話およびメディア向けに配布された資料、住友不動産グループ発信のプレスリリースをもとに構成した