広島県尾道市瀬戸田町に、伊東豊雄建築設計事務所が設計した複合型コミュニティ施設〈ボナプール楽生苑〉が3月1日に開業します(せとうちDMO[*1]2023年2月20日プレスリリース)。
同施設の立地は、瀬戸内海に浮かぶ島々の1つ、人口約8,000人の生口島(いくちじま)の北部。生口島と高根(こうね)島との間を結ぶ高根大橋(こうねおおはし)にほど近い瀬戸田水道に面しています。2島の南側を走る、広島県と愛媛・今治市とを結ぶ「しまなみ海道」からのアクセスも良好です。
この地域は温暖な気候を活かした柑橘類の栽培が盛んで、なかでもレモンは国内トップクラスの生産量を誇る特産品。また、生口島は1980年代後半に始まった「島ごと美術館」プロジェクト[*2]により、パブリックアートが点在する”アートのしま”でもあります。
瀬戸田は近年、アマン(Aman)の創業者として知られるエイドリアン・ゼッカ氏らが立ち上げた、新しい旅館ブランドの1号店〈Azumi Setoda〉の開業地となり、話題となりました。
瀬戸田町の新たなランドマークとなる〈ボナプール楽生苑〉は、館内に20室の宿泊施設、レンタルキッチンなどの諸設備を備えた複合施設です。そのうちの1つである柑橘搾汁作業所は、島の名産品でありながら、これまで島内にはなかったために島外に発注せざるをえなかったレモンなどを加工できる待望の設備であり、地域が抱えていた課題[*3]の1つの解決を目指した新設です。
就労継続支援B型事業所として開業する〈ボナプール楽生苑〉では、障がい者が健常者とともに就労し、前者は柑橘類の搾汁作業や、ホテル客室の清掃やタオル・シーツ類の洗濯業務を担う計画です。
伊東氏による建築設計では、ランドスケープにつながり、水平に展開する1階部分は地域に開放し、2階部分に宿泊者のための客室とラウンジを配しています。多様な人々が気軽に訪れ、交流できる場となることが意識され、目前に広がる瀬戸田水道と、そこを行き交う船を眺めながらゆったりと過ごせる空間デザインとなっています。
就労・宿泊・交流の3つを柱とする機能を、1つの大きな屋根の下に構成することで、さまざまな要素の融合を図り、まちやコミュニティの形成に寄与する「みんなの家」となることを目指したとのこと。
〈ボナプール楽生苑〉は今後、複合的な事業活動を通じて、繁忙期の宿不足といった諸課題[*3]の解決を図るとともに、障がい者の就労活動そのものが福祉支援に留まることなく、地域の課題解決につながっていくことを目指しています。
なお、〈ボナプール楽生苑〉は、事業主である社会福祉法人新生福祉会と、建築家の伊東豊雄氏が率いる伊東豊雄建築設計事務所が、日本財団が実施した助成プログラム「みらい福祉施設建築プロジェクト2021」[*4]に共同で応募し、472件の中から採択された事業6件の1つです。
所在地:広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田1-1(Google Map)
事業主・運営:社会福祉法人 新生福祉会
設計:伊東豊雄建築設計事務所
施工:関西住建
構造:鉄骨造
建築規模:地上2階
延床面積:約1,000m²
付帯施設:ホテル(20室)、交流スペース(21席)、レンタルキッチン「みんなのキッチン」、搾汁加工所・bonalabo(ボナラボ)、事務所、駐車場(13台、障がい者用2台を含む)
〈ボナプール楽生苑〉公式ウェブサイト
https://bonapool.com
※本稿の画像は全てイメージ(提供:せとうちDMO)
[*1] せとうちDMO:DMOとは、Destination Marketing / Management Organizationの略。官民が参画する一般社団法人せとうち観光推進機構と、金融機関・域内外の民間企業が参画する株式会社瀬戸内ブランドコーポレーション(広島県広島市、代表取締役:田部井智行)で構成される。観光需要の創出と商品やサービスの供給体制の強化を行いながら、多様な関係者とともに持続 可能な観光地域づくりを推進している。〈ボナプール楽生苑〉建設事業には、瀬戸内ブランドコーポレーション(SBC)が企画からコンサルティングとして参画している
[*2]「島ごと美術館」プロジェクト:美術評論家の中原佑介氏(1931-2011)と米倉 守氏(1938-2008)、酒井忠康氏(1941-|美術評論家、現・世田谷美術館館長)らによって立ち上げられた構想に基づき、新宮 晋、川上喜三郎ら現代彫刻作家の作品が生口島および高根島の野外に設置されている(詳細は尾道市ウェブサイト瀬戸田支所しまおこし課「島ごと美術館」ページを参照)
[*3] 地域の諸課題:宿泊施設の不足、生口島の特産品の1つであるレモンなどの柑橘類搾汁所がないため製品加工を島外で行っていること、地域の人々が集い交流する場所が少ないこと、障がい者の就労支援施設が少ないことなどがある(せとうちDMO 2024年2月20日プレスリリースより)
[*4] みらい福祉施設建築プロジェクト:地域社会に貢献し、地域社会から愛され、地域福祉の拠点となる社会福祉施設を目指して、事業実施団体と設計者の協働による建築デザイン提案を含む建築関連助成事業を募集した、日本財団による助成プログラム。2021年度は全国472法人からの応募があり、その中から6件のプロジェクトが採択されている(詳細は日本財団による発表を参照)