CULTURE

2024年プリツカー賞 記者会見レポート

[Report]山本理顕氏 受賞の喜びを語る

CULTURE2024.03.09

建築家の山本理顕氏が受賞した2024年「プリツカー賞」について、会見が3月7日に駐日米国大使公邸(東京都港区)で開催されました。

登壇したのは山本理顕氏、ラーム・エマニュエル米国大使、プリツカー財団を代表してトム・プリツカー氏、審査委員長を務めたアレハンドロ・アラヴェナ氏。

この様子と登壇者のコメントを、詳細にお伝えします。
(英語の和訳は通訳者の発言にもとづくもの。特記なき写真:TECTURE MAG_jk)

■コミュニティとともに建築をつくる能力

まずは、エマニュエル米国大使より開催の挨拶と祝辞の言葉が述べられました。

ラーム・エマニュエル米国大使(中央)

「私はシカゴの市長時代にプリツカー賞の授賞式に何度も出席したことがあり、プリツカー家の多大なる貢献について熟知しています。今回、山本理顕氏は日本人として9人目の受賞者となりました。日本人が、受賞者の中で最多です」。

「山本氏が受賞されたことについての発表を見ると、公共の空間が非常に重要であることがわかりました。現在、世界ではジェンダーや宗教などでのさまざまな分断が見られる中で、山本氏はみんなが戻ることができるような公共の空間をつくっておられます。それは素晴らしいことだと思います」。

次に、プリツカー氏がコメントしました。

トム・プリツカー氏

「1979年に設立されたプリツカー賞の目的は、建築家の貢献を祝うものです。毎年の建築家の選出にあたっては、メンバーが毎回変わる独立した選出委員がいて、私たちプリツカー家は関与していません。私たちの役割は、建築が人々に与える影響について認知を上げることにあります」。

「山本氏は日本人の受賞者としては9人目となります。全受賞者のうちの2割が日本人で、他のどの国よりも多いのです。なぜ日本人建築家がそれほど多いのでしょうか? 日本で多くの時間を過ごしてみると、おそらく日本の文化と自然のつながりが、日本の建築家の貢献を支えているのではないかと思います」。

「そして山本氏が問いかけているのは、建築は日本だけではなく世界にどのように影響を与えるのかということにあります」。

続いて、今回2024年の審査委員長を務めたアラヴェナ氏によるコメントです。アラヴェナ氏は、チリ出身の建築家で2016年のプリツカー賞を受賞しています。

アレハンドロ・アラヴェナ氏(右)

「世界のメディアで繰り返し強調され評価されているのは、山本氏の“コミュニティとともに建築をつくる能力”についてです」。

「今朝、山本氏とともに、山本氏が設計された〈子安小学校〉を訪れました。昨日の受賞の発表を受けて、学校に到着すると、先生や保護者、児童の皆さんから大変な歓迎を受けました。お辞儀をする人もいましたし、大きな歓声を受けたことが印象的でした。皆さんにとって誇りであることが感じられましたし、本当に山本氏はスターのような扱いでした」。

山本理顕〈横浜市立子安小学校〉

〈横浜市立子安小学校〉2018 / Koyasu Elementary School, photo courtesy of Mitsumasa Fujitsuka

「これはもちろん山本氏がコミュニティのために建築をつくり、コミュニティを迎え入れるために建築をつくっていることの表れで、そのことに我々は感銘を受けます。私たちは給食の時間に見学したのですが、生徒がトレーを持って並び、先生が食事を給仕する姿に、学校にある文化を感じました」。

「建築とコミュニティは、双方向に交流を図るような存在です。山本氏は非常に巧みに、そして美しく実行する能力があると思いました。受賞おめでとうございます」。

■自分は少しはいい建築家なんだな

そして、山本氏が受賞について話しました。

「今日は皆さんを連れて一緒に小学校に行きました。小学校に着いたら『山本さん…』(涙ぐむ)、小学生たちや先生たちが喜んでくれて……」。

「『おめでとう』と言ってくれて、とても嬉しかった。生徒たちは『山本理顕について調べましょう』と課題が出されていたようで、A3用紙にいろんな建物を描いてくれていました」。

「今、小学校で教育する人たちは大変です。1つの学校で1,000人いる。小学校はコミュニティの中心なんです。1,000人のコミュニティがどれほど大きいかを想像してください。大きすぎてうまくいきません。先生たちがいかに大変か、わかってもらえると思います」。

「(設計にあたっては)先生たちとたくさん話しました。子どもたちにとって自由な空間を、なるべくたくさんつくりたいと、広いテラスなどをつくりました。最初は、生徒たちは使いこなせないのではないかと考えられていました。でも出来てみると、さまざまなスペースをうまく使っていると聞いて、印象的でした」。

山本理顕〈横浜市立子安小学校〉

〈横浜市立子安小学校〉2018 / Koyasu Elementary School, photo courtesy of Riken Yamamoto & Field Shop

「今日みんなと(〈子安小学校〉に)行ったときに感謝されて、それが本当に嬉しかった。プリツカー賞はもちろん嬉しかったけど、同じくらい嬉しかったです(笑)。そして今日こうして取材されていると、自分が少しはいい建築家なんだなあ、と思いました」。


■周りに喜ばれる建築をつくりたい

最後に、参加した記者と山本氏による質疑応答が行われました。

記者からの質問の通訳に耳を傾ける登壇者

── 今回の受賞につながったと思うプロジェクトは?

山本
韓国の集合住宅(〈パンギョ・ハウジング〉)で、先ほどの小学校と同じようなことがありました。その住戸は、3階建てで真ん中の2階にガラス張りの(外部に対して開いた)エントランスがあるというプランです。最初は誰も買わずに、両サイドの他の建築家が関わった住戸は売れるのに、我々のところだけ売れない。ところが、少しずつ売れはじめると、一気に売れたのです。

山本理顕〈パンギョ・ハウジング〉

〈パンギョ・ハウジング〉2010 / Pangyo Housing, photo courtesy of Nam Goongsun

ギャラリーやカフェ、アトリエなどに、とてもよく使われるようになりました。ある日、手紙をもらい『山本さん、どうもありがとう。私の家に来てください』と書いてあったので、訪れると焼き肉パーティーをしてくれました。そこには『ありがとう』と描いたポスターが掲げてありました。そんなことは、初めてでした。

すべての建築が、僕を変えてくれた。どれ、と言うことはできないけど、〈パンギョ・ハウジング〉はとても強いインパクトをもつもので、幸せでした。

── なぜ日本人のプリツカー賞の受賞者が多いのでしょうか?

山本
過去の受賞者は、板(茂)さんや伊東(豊雄)さんを見ても、非常に社会的なメッセージが強い。日本の建築家のつくる建築には、他の国の建築家よりも強いメッセージが入っています。

建築家たちが働く環境が厳しいことが、1つの理由です。日本の社会そのものが今、非常に困難な状況がたくさんあって、自分のメッセージを出すというのは難しいので、タフな建築家でなければなりません。

── 受賞に対する受け止めと、今後の抱負は?

山本
建築は、周りの人たちに影響を与えるものです。1つ建築をつくると、ときには迷惑になります。ときには喜んでもらえます。私は、建築は使う人に喜んでもらえると同時に、周りに住んでいる人たちにも喜んでもらえるようなものをつくりたい。感謝してもらえるような建築をつくる活動を、続けていきたいです。

── 社会の変化は、自身の作品に影響を及ぼしているか?

山本
日本では標準化が進んでいます。教育にしても、さまざまなシステムで、標準化する力が働いている。一方で、コミュニティには1つひとつキャラクターがあって、この街にはこういうコミュニティがあり、隣では違うコミュニティがある。コミュニティに注目して建築をつくると、キャラクターのある建築をつくることができます。ですから、国家的な大きなシステムではなく、コミュニティに注目することが大切です。

── 大きな建築であるほど影響が出るが、大阪万博についての考えは?

山本
今は自分が話すと周りの反応が大きいので注意深く話をしたいと思いますが、あの敷地の選び方と、IR施設を一緒につくるという極端な話は問題があると思っています。

とはいえ、世界中の人たちが万博のためにいらしていただいて、パビリオンをつくり、大阪の人たちと一緒に新しい世界について語り合うような場所をつくろうと、非常な努力をしてくれています。これを中止するということや延期するという話になれば、ずっと準備をしてくれた人たちに対して非常に迷惑がかかります。

ですから建築家として、ではどうしたらいいか、もう一度原点に戻って、まだ2025年(の開催)まで期間はあるので、建築家として提案をしていくべきではないかと思います。


今回の会見の会場となった駐日米国大使公邸

公共的な空間やコミュニティに着目し続け、多岐にわたる設計活動を続けてきた山本氏の姿勢を改めて称えたエマニュエル氏、プリツカー氏、アラヴェナ氏。

そして、多くの人に喜んでもらえる建築をこれからもつくりたい、と力強く語る山本氏の様子が印象的でした。

「2024年プリツカー建築賞受賞記念講演会」は5月16日(現地時間)に、米国シカゴにあるイリノイ工科大学の〈クラウン・ホール〉で開催される予定です。

(jk)

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