CULTURE

"こどものための建築"が清春芸術村にオープン

建築家の内田奈緒氏が設計、AI時代を生きる子どもたちへのメッセージが込められた〈遊びの塔ーtower of play〉

CULTURE2024.07.09

山梨県北杜市(ほくとし)にある清春芸術村(きよはるげいじゅつむら)に、“こどものための建築”として設計された〈遊びの塔ーtower of play〉が完成、施設利用者に公開されています。

〈遊びの塔ーtower of play〉は、昨今のいわゆる「AI時代」を生きる子供たちが「遊び」「建築」「アート」で感性を磨くための村内設備として、子供たちに小さい頃から「本物の“建築”に触れて欲しい」「“建築”という世界があることを知って欲しい」という思いのもと、計画されました。

清春芸術村とは

清春小学校の跡地に、1980年にオープンした芸術文化施設。建築家・谷口吉生の設計による〈清春白樺美術館〉(1983年開館)をはじめ、〈ルオー礼拝堂〉(1986年開堂)、安藤忠雄が設計した〈光の美術館〉、藤森照信の茶室〈徹〉、新素材研究所/杉本博司+榊田倫之によるゲストハウス〈和心〉 (2018年竣工)などが、約18,000m²の敷地内に点在する。
https://www.kiyoharu-art.com/

 

清春芸術村 遊びの塔

撮影:筒井義昭

清春芸術村 遊びの塔

撮影:筒井義昭

清春芸術村 遊びの塔

撮影:筒井義昭

ディレクターズ・コメント

これから本格的に到来するAI時代を生きていく子供たちにとって、感性を育むことはとても大切で重要になってきています。では感性はどのようにして磨かれていくものなのでしょうか。その答えのひとつは“遊び”の中にあると言えます。

今回のプロジェクトは、南アルプスのほど近く、自然豊かな山梨県北杜市にある芸術文化施設からの依頼で始まりました。最初の話し合いのなかで、小さな子供たちにも「本物の“建築”に触れて欲しい」「“建築”という世界があることを知って欲しい」という考えに至り、世界的に著名な建築家、谷口吉生氏や安藤忠雄氏の設計した美術館が建つ敷地内に、新たに子供のための遊びの場を建築家が提供するという「こどものための建築」プロジェクトがスタートしました。

その第1弾の設計をお願いしたのが注目の建築家のひとり、内田奈緒氏です。内田氏は福井・敦賀の遊具メーカー<ジャクエツ>とコラボレーションし、今までありそうでなかった、子供のための遊ぶことのできる建築をつくりました。ぜひ美術館へ実際に脚を運んでもらい、子供たちに体感して欲しいと願っています。

白井良邦 (「こどものための建築」プロジェクトディレクター / 慶應義塾大学SFC特別招聘教授)

清春芸術村 遊びの塔

撮影:筒井義昭

清春芸術村 遊びの塔

撮影:筒井義昭

清春芸術村 遊びの塔

撮影:筒井義昭

設計者コメント

遊びの塔 ― tower of play

昨年清春芸術村を訪れた際、広い芝生にポツンと建つ、小さな塔のような「エッフェル塔の階段」に登らせてもらいました。少し揺れる心許ない階段を空へ向かって登りながら、少しの高さの違いで移り変わっていく情景に心が弾みました。そして、例えば登るといった身体的な行為によって自分の周りに広がる空間を知覚し直すこと、これが幼いときの「遊び」の原点となる感覚なのでは、と考えました。

この清春芸術村に、もう1つ小さな塔を建てるとしたら、その塔がどんなだったら、子どもたちにもその感覚を体験してもらえるでしょうか。少しねじれたネットの床を空に向かって積層させるイメージから、「子供のための建築」のプロジェクトは始まりました。

ほとんどの建築は、水平と垂直の要素で構成されます。これは私たちが重力の中で安定して身体の平衡を保てるように自然に形式化した在り方ですが、この塔ではむしろ、じっとしているだけでも身体と建築との間のエネルギーのやりとりが意識されるような、そんな体験をして欲しいという想いがありました。

マルク=アントワーヌ・ロージエが唱えた「原始の小屋」のように、まずは基本的な建築言語である、四本の柱と梁と屋根でプリミティブな塔のフレームをつくり、その中に傾斜した柔らかい床を重ね、階や部屋といった要素を意識しながらも、上に向かって緩やかに連続するような塔の建築をつくりました。この建築の中で、身を委ねる床と、外の景色との関係性を絶えず変化させながら、これからの時代を生きる子どもたちが身体いっぱい遊び、感性を育んでいってくれることを願います。

内田奈緒(nao architects office主宰)

内田奈緒氏ポートレイト

内田奈緒氏 近影(撮影:足立ゆり)

内田奈緒(うちだ なお)氏 プロフィール

東京生まれ。2010年より日本デザインセンター・原デザイン研究所にて空間、建築関係のプロジェクトに携わる。2016年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。在学中の2014-2015年にスイス連邦工科大学(ETH)留学。 修了後、デザインオフィス・nendoに在籍し、国内外でインスタレーションや展覧会の会場構成、建築・家具のデザインを担当。現在は、自身の事務所・nao architects officeを主宰し、建築や内装、家具などの設計に従事。また、バーゼルと東京を拠点とする建築設計事務所・an-a-c共同主宰。日瑞建築文化協会(JSAA)理事

https://naoarch.jp/
https://www.instagram.com/naoarchitectsoffice/

 

清春芸術村 遊びの塔

ジャクエツ工場内 製作風景(撮影:足立ゆり)

清春芸術村 遊びの塔

ジャクエツ工場内 製作風景(撮影:足立ゆり)

ジャクエツ 会社概要 1916年に創業。「未来は、あそびの中に。」をスローガンに掲げ、幼児施設向けの教材や遊具の製造販売から始まり、園舎の設計施工を行っている。近年では、美術館といった公共施設や商業施設において、高品質なあそびの環境をデザインすることで、子どもたちの成長を支える「未来の価値」を創造し続けている。
https://www.jakuets.co.jp/

清春芸術村 遊びの塔

ジャクエツ工場内での内田氏(撮影:足立ゆり)

プロジェクト名:「こどものための建築」プロジェクト概要

建設地:清春芸術村
所在地:山梨県北杜市長坂町中丸2072(Google Map
コンセプト:子供がまず最初に触れる“建築”をつくる
対象年齢:4~12歳
高さ(最頂部):5m
プロデューサー:吉井仁実(公益財団法人 清春白樺美術館財団 理事長)
ディレクター:白井良邦(慶應義塾大学SFC 特別招聘教授)
設計:内田奈緒(nao architects office主宰)
構造監修:本田幾久世(アトリエ194)
施工・設計協力:ジャクエツ
設計期間:2023年9月~12月
制作期間:2023年12月~2024年3月

清春芸術村 遊びの塔

撮影:筒井義昭

清春芸術村 プレスリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000145207.html

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