19世紀末から20世紀半ばにかけて、ジュエリー作家・ガラス工芸家という肩書を超えて、生涯を通して芸術家としての独自の道を切り拓いたルネ・ラリック(1860-1945)の展覧会が、東京都庭園美術館で9月5日まで開催されます。
1933年(昭和8年)に建てられた旧朝香宮邸を美術館として活用している同館は、本館の正面玄関のガラスレリーフ扉の装飾や、大客室と大食堂のシャンデリアを、ラリックが手がけています。別名「アール・デコの館」と呼ばれ、ラリックが生きた時代に大流行した芸術・デザイン潮流の華やかさを色濃く残す旧宮邸でのラリック展となります。
ラリックの多彩なインスピレーションは、彼が生まれ育った、フランス、シャンパーニュ地方の小さな村の「自然」が育んだと思われます。自然を注意深く観察することによって培われた眼差しは、のちに渡るイギリスでの経験や、ヨーロッパにもたらされた日本美術からの影響、大戦間期における古代ギリシア・ローマへの回帰、エキゾティックな嗜好、新しい女性たちのイメージなど、20世紀初頭のフランスに起きた、さまざまに異なる芸術潮流と結びつきながら磨かれていきました。例えば、浮世絵にインスピレーションを得て、パリ郊外の自邸付近で撮影した雪景色を表現したペンダントや、1909年に他界した妻アリスの面影をシダのなかに刻印した香水瓶などに。
同時代の世界と日常身辺の心躍る事象や個人的な記憶に、鋭い観察眼と想像力によって新しいかたちを与え、ジュエリーやガラス工芸を「装飾品」として人々の身近なものにしていったラリック。本展では、ルネ・ラリックが、自然を起点としてどのように世界を観照し、装飾という芸術を希求したのかを明らかにします。
展覧会場は本館と新館に分かれ、そのうち新館ギャラリー1の展示デザインを、建築家の中山英之(中山英之建築設計事務所代表)が担当しているのも見どころの1つです。
会期中、関連企画とプログラムも各種開催されます(詳細は、会場ホームページにて随時発表)。
ルネ・ラリック / René Lalique プロフィール:
生年:1860-1945年 / シャンパーニュ地方マルヌ県アイ生まれ。素材の価値よりも作品の造形性を重視し、これまであまり使われてこなかった獣角、オパール、七宝、ガラスなどを積極的に用いて、植物や昆虫、女性、あるいはそれらのモティーフが融合した象徴的なジュエリーをつくり出した。「モダン・ジュエリー」のスタイルを確立し、一世を風靡。
1910年前後からガラス作品の制作に注力し始める。芸術性が高く、なおかつ量産にも応えることのできるプレス成形や型吹き成形で、香水瓶などの小品からモニュメンタルな建築用の大作までを手がけた。
1925年のアール・デコ博覧会場のメイン会場にガラスの噴水塔〈フランスの水源〉を制作。その傍らには自社のパヴィリオンを出展するなど、アール・デコの時代を代表するガラス工芸家としての絶対的な評価を築いた。
朝香宮邸の新築では、正面玄関のガラスレリーフ扉をデザイン。大客室と大食堂のシャンデリアとして、それぞれ〈ブカレスト〉〈パイナップルとざくろ〉も手がけている。
展覧会名:「ルネ・ラリック リミックス—時代のインスピレーションをもとめて」
会期:2021年6月26日(土)~9月5日(日)
開館時間:10:00-18:00(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜(但し、8月2日・9日・30日は開館)、8月10日(火)
※日時指定予約制
注.COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の今後の拡大状況により、当初のスケジュールや開館時間などが変更される場合あり。最新の開館状況は、会場Webサイトを確認してください
会場:東京都庭園美術館 本館+新館
所在地:東京都港区白金台5丁目21-9(Google Map)
入館料:一般 1,400円、大学生(専修・各種専門学校含む)1,120円、中・高校生 700円、65歳以上 700円
東京都庭園美術館 公式Webサイト
https://www.teien-art-museum.ne.jp/