東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTにて、企画展「ゴミうんち展」が9月27日より開催されています。ゴミや排泄物などを通して私たちの社会の循環について問いかける展覧会です。会場構成を、DOMINO ARCHITECTSを率いる建築家の大野友資氏が担当しています(※内覧会開催時のインタビューを後日に追記予定)。
まず異才を放つのは、そのポスター。入り口に掲示されたバナーおよび1Fプロローグ(下の画)にも、展覧会のタイトルが入っていないのです。
“ゴミもうんちも(概念であって)世の中には存在しない”という本展の大テーマを反映したもので、その真意について、本展のディレクターを務める佐藤卓と竹村眞一の両氏からのメッセージで語られています。
ディレクターズ・メッセージ
ゴミはどこで生まれてどこへ行くのか。うんちはトイレで流した後、どこへ行くのか。ゴミ箱に入れ、トイレで流した後のことなど知ったこっちゃない。それどころかさっきまで身近にあり、さっきまで身体の中にあったものが身体から離れた途端、突然汚いものになってしまう。現代の「ゴミ」や「うんち」というこのような概念は、なぜ生まれたのか。そもそも「ゴミ」や「うんち」という概念で、社会のインフラがかたちづくられてしまったことが良かったのか。
日本において江戸時代までは物や排泄物の多くが循環していた。近代化によりあらゆる事が縦割りになり、そして資本主義で便利になった社会は、物事の本質から人間を遠ざけているようにも見える。このような状況が続いて、地球環境は急速に悪化していることは誰もがご存知であろう。ただ、46億年の地球の歴史を顧みると、とてつもなく大きな変化が繰り返され、そこで起きてきた奇跡的な現象が現代の科学技術により詳らかになってくると、そこにこれから人類が為すべきこと、歩むべき方向のヒントが潜んでいるように感じられる。以前、21_21 DESIGN SIGHTにて開催した企画展「water」や「コメ展」でご一緒した竹村眞一さんに廃棄物の話を持ちかけると、瞬く間にうんちの話へと繋がり、必然的であるかのようにこの展覧会の開催とタイトルが、ほぼ同時に決まった。
「循環」が難しいテーマであることは重々承知の上で、常に前向きに物事を思考する竹村さんと多くのクリエイターの方々にも参加いただき、何ができるのかを探った。どこまでのことができるのかは、正直やってみないとわからなかった。ただ環境問題は待った無しの状態であることは間違いないので、この企画はデザイン施設として避けて通れないと思い、準備を始めた。難しいテーマをいかに面白くできるか。そこにもデザインが試される。
展覧会ディレクター 佐藤 卓
ディレクター プロフィール
佐藤 卓(さとう たく)
グラフィックデザイナー、21_21 DESIGN SIGHT ディレクター・館長。
1979年東京藝術大学デザイン科卒業、81年同大学院修了。〈ロッテキシリトールガム〉〈明治おいしい牛乳〉のパッケージデザインをはじめ、ポスターなどのグラフィック、商品や施設のブランディング、企業のCIを中心に活動。NHKEテレ〈デザインあ〉〈デザインあ neo〉総合指導、著書に『塑する思考』(新潮社)、『マークの本』(紀伊國屋書店)、『Just Enough Design』(Chronicle Books)など。毎日デザイン賞、芸術選奨文部科学大臣賞、紫綬褒章ほか受賞多数。竹村眞一(たけむら しんいち)
京都芸術大学教授、NPO法人ELP(Earth Literacy Program)代表、〈触れる地球〉SPHERE開発者。人類学的な視点から地球環境に関する研究・啓発活動を行い、環境教育デジタル地球儀〈触れる地球/SPHERE〉を企画開発(経産省グッドデザイン賞・金賞、キッズデザイン賞最優秀・内閣総理大臣賞)。東日本大震災後、政府の〈復興構想会議〉専門委員。国連アドバイザーとして『国連防災白書』デジタル版監修
(2012〜2019)。東京都環境審議会委員。21_21 DESIGN SIGHTでは企画展〈water〉〈コメ展〉の企画に関わる。著書に『地球の目線』(PHP新書)、『宇宙樹』(慶應大学出版会 / 高校の国語教科書に収録)など。
地球の歴史は、ゴミうんちのアップサイクルの歴史だ。この星に新たな生命が進化するたびに、それまでの地球にはなかった新たな廃棄物が生み出され、それを創造的に循環利用するチャレンジを生命は続けてきた。
私たちが呼吸する酸素も、もともとは27億年前にシアノバクテリアが「光合成」という太陽エネルギー革命の副産物として吐きだす有毒な廃棄物だった(その毒性はいまも「抗酸化」という言葉に残響している)。 厄介な廃棄物が増えすぎた時、選択肢は1つしかない。それを有用な資源として再利用することだ。「光合成」を反転させたような「酸素呼吸」という新たなイノベーションによって、生命界のエネルギー効率は何十倍にもアップグレードされた。
やがて大気中に飽和した酸素(O2)は上空でオゾン(O3)に変わり、生命を紫外線の脅威から守るUVカットのオゾン層が形成された。それでようやく植物(藻類)が海から陸へと進出し、この星を「緑の惑星」へとテラフォーミングしていった。陸上植物も、当時の地球においては〈異物〉の出現であり、樹木は分解されずに貯まってやがて石炭となった(それゆえ3億年前は「石炭紀」と呼ばれる)。だが、やがてこの厄介な廃棄物を分解する菌類が進化し、現在のウェブ〈ごみもうんちも存在しない〉この星の見事な pooploopの「環(ウェブ)」が精緻に紡がれていった。こうした歴史に連なる“新参者”として、私たち人類はこの星の新たな「循環 OS」をアップデートしうるだろうか?
人類は、このように地球の OS(オペレーションシステム)を変えるほどの影響力をもった唯一、初の生物ではない。だが、地球の OS改変を行いつつあることを〈現在進行形〉で認識し、その行く末を変更する自由をもった初の地球生命だ。
この地球の〈循環 OS 更新〉の物語の続きを、今度は私たちが書く。
イノベーションはつねに〈危機の時代〉になされてきた。 酸素や樹木などの廃棄物が貯まりに貯まって、仕方なくそれを循環利用する技術革新が生まれた。うんちをpooploopして100万都市を運行した「江戸のエコ」も、資源枯渇と環境危機へのクリエイティブな適応だった。 それを今度は地球規模でやる——。
この過程で、私たちは人類史上初めてうんち(腸内環境)や排泄プロセスをクリエイティブにデザインする新た な時代を迎える。人類の廃棄物が地球生命系にも有用な資源となるような「地球基準」「生命基準」のモノづく りが試されてゆく。
本展は、それに向けたささやかな序走である。展覧会ディレクター 竹村眞一
ギャラリー1
「糞驚異の部屋」と称し、身近なものから宇宙までを見渡してさまざまな「ゴミうんち」にまつわるものを展示。実際にゴミになるもの、リサイクル資源、化石や貝殻、190種類を超える土、うんちからつくられるプロダクト、実際のうんち、発酵にまつわる身近なもの、循環を示唆するもの、ミミズの生態やトイレにまつわる資料展示など、参加作家らによる700種以上の膨大な数の展示作品や資料で構成されている。
ギャラリー2
「ゴミうんち」という新しい概念を元にリサーチした新しい循環や価値の提案、ゴミの定義を考え直すアプローチ、人間と自然の関係性を再考した作品、あまり見えてこなかった大きな循環を可視化した作品などが展示されている。
参加作家:井原宏蕗、veig、岡崎智弘、小倉ヒラク、Alternative Machine、狩野佑真、北千住デザイン、ザック・リーバーマン、佐藤 卓、清水彩香、STUDIO SWINE、高尾俊介、竹村眞一、TatsuyaM、角尾 舞、デイブ・ホワイト、中山晃子、蓮沼執太、マイク・ケリー、松井利夫、山野英之、𠮷田勝信、吉本天地 ほか
主催者メッセージ
世界は循環しています。さまざまな時間軸のなかで、ひとつのかたちに留まることなく、動き続け、多様に影響し合い、複雑に巡っています。その結果、いわゆる自然界においては、ゴミもうんちもただそのまま残り続けるものはほとんどありませんでした。しかし、いま人間社会では、その両者の存在は大きな問題となっていますし、文化的にもどこか見たくないものとして扱われています。ゴミ捨て場や水洗トイレは、まるでブラックボックスのように、私たちが忘れるための装置として機能してきたかもしれません。完全に消えてしまうものなんて、ないのにもかかわらず。
本展では、身の回りから宇宙までを見渡し、さまざまな「ゴミうんち」を扱います。そして、ゴミうんちを含む世界の循環を〈pooploop〉と捉えます。これまで目を背けてきた存在にもう一度向き合うと、社会問題だけではないさまざまな側面が見えてきました。すぐ燃やすのでも水に流すのでもなく、じっくり観察し、単純化せずに新しい態度で向き合うと、語りきれないほどの不思議や好奇心に出合えました。ゴミうんちという新しい概念をきっかけに、人工物のデザインも同じようにできないのかと考えた本展は、世界の循環に向き合う実験の場でもあります。決して止まることのないこの世界。欠けていたパーツがピタリとはまると、きっと新たなループが巡りはじめます。(本展プレスリリースより)
展覧会ディレクター:佐藤 卓、竹村眞一
アートディレクター:岡崎智弘
企画協力:狩野佑真、清水彩香、角尾 舞、蓮沼執太、吉本天地
会場グラフィック:田上亜希乃
会場構成:大野友資(DOMINO ARCHITECTS)
(※内覧会開催時のインタビューを後日に追記予定)
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2
所在地:東京都港区赤坂9丁目7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン(Google Map)
会期:2024年9月27日(金)〜2025年2月16日(日)
休館日:火曜(2月11日は開館)、年末年始(12月27日〜1月3日)
開館時間:10:00-19:00(入場は18:30まで)
入場料:一般1,400円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料
※各種割引、オンラインチケット購入方法については21_21 DESIGN SIGHTウェブサイトを参照
主催:21_21 DESIGN SIGHT、公益財団法人 三宅一生デザイン文化財団
後援:文化庁、経済産業省、港区教育委員会
特別協賛:三井不動産
特別協力:伊藤忠テクノソリューションズ、LIFULL
協賛:TSDO
協力:INAXライブミュージアム