グラングリーン大阪(GRAND GREEN OSAKA)内にある文化装置「VS.(ヴイエス)」にて、建築家・安藤忠雄(1941-)の展覧会が3月20日に開幕、7月21日まで開催されます(本稿1枚目:モノクロのメインビジュアルの安藤氏近影 Photo: Kazumi Kurigami)。
「安藤忠雄展|青春」展示風景(VS. 2025年) ©︎安藤忠雄展|青春 2025
安藤忠雄氏は1941年大阪生まれ。いわゆる建築系の大学を出ずに独学で建築を学び、1976年の住宅作品〈住吉の長屋〉で一躍注目を浴び、同作にて1979年に日本建築学会賞(作品)を受賞。その後も日本国内外で数多くの建築作品・プロジェクトを手がけ、今日に至る実績と世界的名声を獲得した人物として知られています。
国内外での受賞・受勲も多数。1995年プリツカー賞をはじめ、2005年国際建築家連合(UIA)ゴールドメダル、2010年文化勲章、2015年イタリアの星勲章グランデ・ウフィチャーレ章、21年フランスレジオン・ドヌール勲章コマンドゥールなど。多忙な合間をぬって講演会への登壇や後進の指導にもあたり、東京大学の教授に就任したのは1997年のこと。2003年に名誉教授、2005年には特別栄誉教授を付与。海外でもイエール、コロンビア、ハーバードといった名だたる大学の客員教授を歴任しています。
本展は、建築家としてはいわば”異端”である安藤氏が、1969年に設計活動を開始してより現在も拠点とする大阪から、世界へと広がる壮大な挑戦の軌跡を辿るものです。進行中のプロジェクトや、”世界のANDO”が思い描く未来のビジョンなどその全てを総覧する、圧巻の展覧会となります。
〈住吉の長屋〉 1976年 大阪府大阪市(撮影:安藤忠雄)
〈六甲の集合住宅〉 1983年 / 1993年 / 1999年 兵庫県神戸市(撮影:安藤忠雄)
〈水の教会〉 1988年 北海道勇払郡(撮影:白鳥美雄)
〈光の教会〉 1989年 大阪府茨木市(撮影:松岡満男)
〈ベネッセハウスミュージアム + オーバル〉 1992年 / 1995年 香川県直島町(撮影:松岡満男)
・VS.が誇る天井高15mの展示空間を生かし、代表的な安藤建築を映像で巡る迫力の没入型展示
・初期の代表作〈水の教会〉(1988年)を会場内に1/1サイズで再現
・ベネッセアートサイト直島における37年の活動の軌跡を建築模型と映像音楽のインスタレーションで展開
・貴重なドローイングも公開
会場は、「挑戦の軌跡」と「安藤忠雄の現在」の大きく2つのゾーン(エリア)に分かれ、それぞれに特徴的なインスタレーションが展開しています。
「挑戦の軌跡」では、〈住吉の長屋〉(1976年)に代表される住宅作品や”光の教会”など、安藤建築の原点ともいうべき初期の名作の数々から、アメリカ・セントルイスの〈ピューリッツァー美術館〉(2001年)、東京六本木の〈21_21 DESIGN SIGHT〉(2007年)、中国・上海の〈上海保利大劇場〉(2014年)といった世界各地のチャレンジングな都市プロジェクト、〈大阪府立近つ飛鳥博物館〉(1994年)や〈淡路夢舞台〉 (1999年)、〈フォートワース現代美術館〉(2002)といった環境一体型プロジェクトまで、1969年から約半世紀におよぶ安藤のキャリアが一望に展開されます。模型や図面、スケッチ、映像といった各プロジェクトの設計資料と共に、若かりし日の安藤の旅のスケッチや、鉛筆で丹念に描かれた1970〜80年代の貴重なドローイングも展示されます。
「安藤忠雄の現在」では、文字通り、安藤の現在の仕事を、今年5月に〈直島新美術館〉が開館する直島プロジェクトのような長期的スパンで設計・建設された作品から、イタリア・ヴェネチアの”海の税関”を美術館へと再生した〈プンタ・デラ・ドガーナ〉や、2021年にフランス・パリにオープンした現代美術館〈Bourse de Commerce / Pinault Collection〉のように、ヨーロッパの歴史的建造物の再生プロジェクトなどのほか、大阪や神戸に建設された図書閲覧施設〈こども本の森〉のような、安藤氏が長年にわたり取り組んでいる社会貢献プロジェクトまで、余すところなく紹介。今年1月に大阪・野崎町にオープンしたばかりの現代アートギャラリー〈ICHION CONTEMPORARY〉のようなユニークな新作も。
半世紀もの間、世界の第一線で走り続け、今なお「青春」を生きる、闘う建築家からの熱いメッセージが発信されます。なお、本展の会場であるVS.(ヴイエス)も、最新の安藤建築です。
〈兵庫県立美術館〉 2001年 兵庫県神戸市(撮影:小川重雄)
〈こども本の森 中之島〉 2019年 大阪府大阪市(撮影:小川重雄)
〈こども本の森 中之島〉 2019年 大阪府大阪市(撮影:安藤忠雄)
〈真駒内滝野霊園頭大仏〉 2015年 北海道札幌市(撮影:小川重雄)
〈上海保利大劇場〉 2014年 中華人民共和国 上海市(撮影:小川重雄)
〈フォートワース現代美術館〉 2002年、アメリカ合衆国 フォートワース(撮影:松岡満男)
〈Bourse de Commerce(ブルス・ドゥ・コメルス) / Pinault Collection(ピノー コレクション)〉2021年 フランス パリ(撮影:小野祐次)
なお、今回ほどの規模で「安藤忠雄展」が開催されるのは、日本国内では2017年の「安藤忠雄展ー挑戦ー」(東京・国立新美術館)以来であり、地元大阪での開催は16年ぶりとなります。
海外展示風景〈ブルス・ドゥ・コメルス〉 2021年 フランス パリ ©Tadao Ando
建築模型 断面〈住吉の長屋〉 1976年 大阪府大阪市 ©Tadao Ando
建築模型〈野崎町のギャラリー〉 2024年 大阪府大阪市 ©Tadao Ando
ドローイング〈六甲の教会〉 1986年 兵庫県神戸市 ©Tadao Ando
ドローイング〈水の教会〉 1988年 北海道勇払郡 ©Tadao Ando
ドローイング〈光の教会〉 1989年 大阪府茨木市 ©Tadao Ando
「安藤忠雄展|青春」展示風景 「挑戦の軌跡」エリア(VS. 2025年) ©︎安藤忠雄展|青春 2025
「挑戦の軌跡」エリア:1969年から半世紀に及ぶ安藤氏のキャリアを一望できる。建築写真家リチャード・ペア氏が自ら選んだ12枚の写真を掲示した壁が、来訪者をゾーンへと誘う。天井高3mの空間を取り囲む壁面には、ANDO建築の特徴的なドローイング、ANDO建築の原型ともいうべき住宅や教会など初期の代表作が並ぶ。中央の展示台には、プロジェクトの規模が拡大、多様化している過程でうみ出された都市建築の名作が、国内外地域ごとに緩やかなグルーピングで展示されている。
「安藤忠雄展|青春」展示風景 「挑戦の軌跡」エリア(VS. 2025年) ©︎安藤忠雄展|青春 2025
安藤氏の活動拠点である大淀のアトリエIIのコンクリート模型(吹き抜けの”底”に氏のデスクが置かれている)
「安藤忠雄展|青春」展示風景 「挑戦の軌跡」エリア(VS. 2025年) ©︎安藤忠雄展|青春 2025
安藤氏の初期の代表作〈住吉の長屋〉は、大阪の下町にある三軒長屋の中央の1軒を、コンクリートのコートハウスに建て替えたもの。狭小な敷地条件ながらその中央3分の1を屋根のない中庭とし、都市にあっても自然との共生こそを住まいの本質とする安藤氏の建築思想が表現されている
「安藤忠雄展|青春」展示風景 「挑戦の軌跡」エリア(VS. 2025年) ©︎安藤忠雄展|青春 2025
〈六甲の集合住宅〉は、阪神間の六甲の斜面地に3期にわたって建設された集合住宅。不規則な自然の地形にあえて等質なグリッドフレームの構成を重ねあわせることで生じるズレと隙間を活かし、1つの集合体としての統一感の表現と、各戸の多様な展開を両立させている
「安藤忠雄展|青春」展示風景 「挑戦の軌跡」エリア(VS. 2025年) ©︎安藤忠雄展|青春 2025
長い壁で仕切られた通路に並ぶ「70の住宅模型」の展示は、安藤氏の全住宅作品から選りすぐったもの(模型は修成建設専門学校生によって製作された)
「安藤忠雄展|青春」展示風景 「挑戦の軌跡」エリア(VS. 2025年) ©︎安藤忠雄展|青春 2025
インスタレーション「水の教会」は、安藤氏の教会3部作のひとつを”原寸大”のインスタレーションで再現。北海道の雄大な自然を背景に水上に十字架が浮かぶ情景を、パノラマ映像と、実際に水を張った水盤で再現した体験型展示
会場風景「安藤忠雄の現在」エリア
「安藤忠雄展|青春」展示風景 「安藤忠雄の現在」エリア / 直島町の展示群(VS. 2025年) ©︎安藤忠雄展|青春 2025
直島のアートプロジェクトは、1980年代末に実業家の福武總一郎氏(現 ベネッセホールディンクス名誉顧問)の構想でスタートしたもので、安藤氏はその最初期から建築家として参画し、〈ベネッセハウス・ミュージアム〉を皮切りに今年5月にオープンする〈直島新美術館〉まで、合わせて10の建築を設計している。本展では、あたかも生物が増殖するように成長を重ねる、このアートと建築のコンプレックスの37年間におよぶ物語(ストーリー)を、建築模型と音楽映像が一体となった空間インスタレーションで伝える(音楽はmouse on the keysが本展のために描き下ろしたオリジナル曲、模型は近畿大学建築学部生によって製作された)
2つめのゾーン「安藤忠雄の現在」エリアとインスタレーション展示では、安藤氏の近作・最新作とともに、現在進行形の仕事を6つのテーマ:「つくる / 育てる」「都市ゲリラ2025」「時間をつなぐ」「37年目の直島」「こども本の森」「大阪から」に分類して紹介している。
本展の特徴であるインスタレーション展示では、天井高15mのキューブ型スタジオの3面にオリジナルの没入型映像を展開。国内外の3つの安藤建築(光の教会、真駒内滝野霊園頭大仏、ブルス・ドゥ・コメルス)を疑似体験できる。
「安藤忠雄展|青春」展示風景 「安藤忠雄の現在」エリア(VS. 2025年) ©︎安藤忠雄展|青春 2025
近年の安藤氏の社会貢献活動を象徴する〈こども本の森〉は、”自由”をコンセプトに、安藤氏自らが立ち上げた資金のもと、安藤氏が設計して建設され、地方自治体に寄付されている。その第1弾となった大阪・中之島の〈こども本の森〉から、遠野、神戸、熊本、松山や海外にも展開中。その新機軸となる、瀬戸内海のこども図書館船〈ほんのもり号〉まで、さらなる拡がりを見せるプロジェクトの全貌を総覧できる
「安藤忠雄展|青春」展示風景 「安藤忠雄の現在」エリア(VS. 2025年) ©︎安藤忠雄展|青春 2025
〈真駒内滝野霊園頭大仏〉インスタレーション
「安藤忠雄展|青春」展示風景 「安藤忠雄の現在」エリア(VS. 2025年) ©︎安藤忠雄展|青春 2025
〈ブルス・ドゥ・コメルス〉インスタレーション
「安藤忠雄展|青春」展示風景(VS. 2025年) ©︎安藤忠雄展|青春 2025
会期:2025年3月20日(木)〜7月21日(月)
会場:VS.(ヴイエス)
所在地:大阪府大阪市北区大深町6-86 グラングリーン大阪 うめきた公園内 ノースパーク(Google Map)
休館日:月曜(祝日の場合は営業)
開館時間:10:00-18:00(金・土曜、祝日の前日は20:00まで / 入場は各日とも閉館の30分前まで)
入場料(税込):一般 1,800円、大学生 1,500円、高校生 1,000円 ※中学生以下無料
※学割、団体入場など各種割引あり(詳細はVS.公式ウェブサイトを参照)
チケット販売:VS.公式ウェブサイト、VS.チケット売場(会期中の開館日のみ販売) 、チケットぴあ、KANSAI MaaS
主催:VS.共同事業体(トータルメディア開発研究所・野村卓也事務所)
共催:安藤忠雄建築展実行委員会
後援:大阪府、大阪市、公益社団法人関西経済連合会、一般社団法人関西経済同友会、大阪商工会議所、公益財団法人大阪観光局、公益財団法人関西・大阪21世紀協会、独立行政法人都市再生機構西日本支社、公益社団法人大阪府建築士会、FM COCOLO
協賛:積水ハウス、サントリーホールディングス、三宅デザイン事務所、上氏拍賣、玉山銀行、アート引越センター、阿倍野センタービル、アルテカ、安森、EPOキャピタルインベストメント、岩井コスモ証券、岩谷産業、エックスラボ、カネカ、黒川友二、鴻池運輸、シーマ、GBキャピタルパートナーズ、医療法人社団新名診療所、宗教法人清光院清水寺、忠泰集團、パソナグループ、広田証券、リバー産業、龍巖股份有限公司、レジル、レンゴー、Ai-R (アイアール)、幸南食糧、フジオフードグループ本社、エキスプレス、キャドセンター、神戸新聞事業社、ヤマネ、鹿島建設、竹中工務店、長谷工コーポレーション、大成建設、まこと建設、大光電機、佐藤秀、恵比寿工匠、乃村工藝社、ユニオン、要建設、松下産業、旭ビルウォール、インターオフィス、カッシーナ・イクスシー、きんでん、髙島屋スペースクリエイツ、オカムラ、藤井電機、YKK AP
協力:MBSメディアホールディングス、読売新聞社、西日本旅客鉄道、一般社団法人ナレッジキャピタル
Photo: Kazumi Kurigami
展覧会詳細
https://vsvs.jp/exhibitions/tadao-ando-youth
VS.Website
https://vsvs.jp
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