
4月13日より開催中の日本国際博覧会(2025年大阪・関西万博)に出展している民間パビリオンの1つ、西ゲートゾーンにある〈ブルーオーシャンドーム(BLUE OCEAN DOME)〉で行われている企画展示についてレポートします。
〈ブルーオーシャンパビリオン〉外観 ©︎ Taiki Fukao
万博会期終了後は、モルディブ共和国に建物が移設されることが発表されている(詳細はNPO ZERI JAPAN 2025年1月28日プレスリリースを参照)
〈ブルーオーシャンドーム〉は、特定非営利活動法人ゼリ・ジャパン(本稿ではZERI JAPANと略称)[*1]による出展。遡ること6年前の2019年に開催された、G20大阪サミット(第14回20か国・地域首脳会合)で発表された「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」[*2]の実現に向け、海洋資源の持続的活用と海洋生態系の保護をテーマとした展示を行っています。
*1.ZERI JAPAN 組織概要:資源とエネルギーを循環再利用し、廃棄物をゼロに近づける「ゼロ・エミッション構想」(ZERI: Zero Emissions Research and Initiative)を出発点として、日本における環境教育の啓発と実践、産業クラスター(連環)の構築、会員企業への情報提供や技術指導などを行い、循環型社会を実現するために2001年に設立されたNPO(特定非営利活動法人)
*1.大阪ブルー・オーシャン・ビジョン:海洋プラスチックごみによる追加的な汚染を2050年までにゼロにすることを目指したもの(詳細は環境省ウェブサイトのページを参照)
パビリオン イメージパースとコンセプト
坂茂建築が設計する万博パビリオン、紙・竹・炭素繊維を用いた“廃棄物ゼロ建築”で海洋問題を啓発:2025年大阪・関西万博 民間パビリオン〈ブルーオーシャンドーム〉概要
#NPOゼリ・ジャパン YouTube:ブル―オーシャン・ドーム コンセプト動画(2024/06/17)
3つのドームからなるパビリオンの設計は、建築家の坂 茂氏(坂茂建築設計主宰)が担当。それぞれのドーム内で展開されている、「循環」「海洋」「叡智」をテーマに掲げた展示の展示構想およびディレクションを、日本デザインセンターを率いるグラフィックデザイナーの原 研哉氏(プロフィールは後述)と、同氏が主宰する原デザイン研究所が手がけています。
『TECTURE MAG』では、万博開幕前に行われた特別見学会とメディアデーにて、同パビリオンを見学、取材しました。
2025年大阪・関西万博の数ある企画のなかでも必見の展示です。
〈ブルーオーシャンドーム〉は、竹のドーム(DOME A)、CFRP・カーボンファイバーのドーム(DOME B)、紙管のドーム(DOME C)の3つのドームで構成され、それぞれのドームで展示が異なります。
©︎ Taiki Fukao
「パビリオンの設計を担当する建築家の坂 茂さんから、ほかのプロジェクトでも何度か協働している日本デザインセンターの原に、どのような展示がこの空間にふさわしいだろうかという相談があり、原デザイン研究所が企画段階から参画しています。」(現地にて、日本デザインセンター 原デザイン研究所 スタッフ談)
展示概要(3-1)
パビリオンのテーマは「海の蘇生」。展示空間は3つのドームで構成されています。
はじまりの空間(DOME A)で来場者を迎えるのは、巨大、緻密、清浄な「水」のスペクタクル。山に降った雨がやがて海へと循環するように、真っ白な盤面の上を、水がころころ、にょろにょろと躍動します。(原デザイン研究所 ウェブサイト〈BLUE OCEAN DOME〉作品ページより)
「ZERI JAPANがかねてより取り組んでいる環境問題について伝えるため、パビリオン全体で『海の蘇生』をテーマに掲げています。訪れた人々に、地球という星がたたえる大きな水、海の問題に向き合ってもらい、さらには会場を出たあとも持ち帰って考えてもらいたいと考え、さまざまな検討と試行錯誤を重ねて、今回の展示に至っています。」(同上、スタッフ談)
〈ブルーオーシャンドーム〉DOME A 展示風景 Photo: TEAM TECTURE MAG
竹の集成材で組まれたドームの中央には、天からの恵みである雨の粒が、山や川を流れ、やがて海に達し、やがては雲となり雨になる「水の循環」を表現したインスタレーションを見ることができる
〈ブルーオーシャンドーム〉DOME A 展示風景 Photo: TEAM TECTURE MAG
「水の循環」のスタート地点。水琴窟のような軽やかな音をたてるガラス製の”鹿おどし”が”雨粒”を落とす
地上に降り注ぐ雨をイメージした展示パート Photo: TEAM TECTURE MAG
〈ブルーオーシャンドーム〉DOME A 展示風景 Photo: TEAM TECTURE MAG
水の粒の集合体は溢れそうで、溢れない、絶妙なあんばいとなっている3D曲面の設計は、武井祥平氏率いるクリエイター集団・nomenaが担当。その3Dモデリングを、新幹線先頭車両のフロント部分などを手がけている職人が板金加工技術で完成させている
〈ブルーオーシャンドーム〉DOME A 展示風景 Photo: TEAM TECTURE MAG
白い水盤を支える構造体は、JR新長田駅前に阪神・淡路大震災からの復興を祈念して設置された鉄人28号のモニュメント〉を手がけている鉄工所が制作したもの
〈ブルーオーシャンドーム〉DOME A 展示風景 Photo: TEAM TECTURE MAG
水はまた粒に戻ったり塊になったりしながらやがて”海”へと辿り着き、また”天”から”雨”となって循環する
「循環している水には顔料などは一切加えておらず、ただの水です。ただし、白い水盤や水路上には撥水処理を施しています。水がなんとなくグレーがかって見えたり、ところどころでキラキラと輝いて見えるのは、ライティングの力によるもので、照明家の岡安 泉さん率いる岡安泉照明設計事務所が照明計画を担当しています。」(現地にて、日本デザインセンター 原デザイン研究所 スタッフ談)
以下、原デザイン研究所提供による会場風景画像で、本展示作品の水の流れをこんどは遡(さかのぼ)っていきます。
DOME A 展示風景 ©︎ Taiki Fukao
DOME A 展示風景 ©︎ Taiki Fukao
DOME A 展示風景 ©︎ Taiki Fukao
DOME A 展示風景 ©︎ Taiki Fukao
DOME A 展示風景 ©︎ Taiki Fukao
DOME A 展示風景 ©︎ Taiki Fukao
DOME A 展示風景 ©︎ Taiki Fukao
DOME A 展示風景 ©︎ Taiki Fukao
DOME A 展示風景 ©︎ Taiki Fukao
DOME A 展示風景 ©︎ Taiki Fukao
DOME A 展示風景 ©︎ Taiki Fukao
DOME A 展示風景 ©︎ Taiki Fukao
「我々デザイナーだけでなく、職人やエンジニア、照明技術などさまざまな力が結集して、この循環する水の流れが完成し、体験から感動へとつながる展示作品として完成しています」(現地にて、原デザイン研究所 スタッフ談)
DOME B は、カーボンファイバーのCFRPを用いたドーム下で、海洋廃棄物(海洋ゴミ)の問題を集約して超リアルな映像で視覚化した作品を超巨大半円球スクリーンで鑑賞するシアター Photo: TEAM TECTURE MAG
展示概要(3-2)
トンネルのような通路を抜けると、直径10mの超高精細・半球体スクリーンが出現。海の汚染と生命の輝きがせめぎあう地球の姿を、驚異のリアリティでご覧いただきます。(原デザイン研究所 ウェブサイト〈BLUE OCEAN DOME〉作品ページより)。映像は、映像クリエイター集団・WOWの制作です。
DOME B 映像作品より Photo: TEAM TECTURE MAG
DOME B 映像作品より、プラスチック海洋汚染がもたらす深刻な問題を映像化した作品 Photo: TEAM TECTURE MAG
DOME B 展示風景 ©︎ Taiki Fukao
3つのドームを結ぶ通路にも海洋問題をデータで伝える展示あり ©︎ Taiki Fukao
〈ブルーオーシャンドーム〉DOME C 展示風景(提供:原デザイン研究所)
〈ブルーオーシャンドーム〉DOME C 展示風景(提供:原デザイン研究所)
展示概要(3-3)
締めくくりとなる空間(DOME C)では、国内外の有識者によるイベントやドキュメンタリー映像を通して、海を取り戻すための道すじを提示。料理研究家の土井善晴氏による味覚体験『海と山の超純水』や、パビリオンの内容を凝縮した書籍の販売も行います。建築家の坂 茂氏による、竹、CFRP、紙管を構造材としたドーム空間も見どころです。(原デザイン研究所 ウェブサイト〈BLUE OCEAN DOME〉作品ページより)
〈ブルーオーシャンドーム〉DOME C 展示風景 Photo: TEAM TECTURE MAG
DOME C 見上げ Photo: TEAM TECTURE MAG
紙管と木でシンプルに構築された椅子 Photo: TEAM TECTURE MAG
料理研究家・土井善晴氏監修による「海と山の超純水」 Photo: TEAM TECTURE MAG
〈ブルーオーシャンドーム〉DOME C 展示風景 Photo: TEAM TECTURE MAG
書籍『BLUE OCEAN DOME—海と話そう。』
書籍『BLUE OCEAN DOME—海と話そう。』について
本になった海の話は、ひと味ちがう体験です。
はじまりの空間で遭遇した“水の循環”や、巨大半球スクリーンに映し出されためくるめく海洋の実態を、新しい編集でお届けします。後半に収録されたドキュメンタリーは、海の危機と希望を、写真とテキストで掘り下げるものです。
書籍『BLUE OCEAN DOME—海と話そう。』は、ブルーオーシャン・ドームの建築、展示とその制作背景を余すことなく紹介するとともに、さまざまな領域で研究・活動する人々の声を書籍ならではの緻密さで再現し、海を取り戻すための道すじを鮮明に浮かび上がらせます。
万博のメッセージを本で持ち帰り、日常に戻った後も、コーヒーを片手に海と話す時間をお過ごしください。企画・制作:原 研哉+日本デザインセンター原デザイン研究所
判型:変形B5(177×241mm)
総頁数:272ページ
装丁:上製(背開き)
発行元:特定非営利活動法人ゼリ・ジャパン
価格:2,980円(税込)
著者プロフィール
©︎ Taiki Fukao
原 研哉(はら けんや)
1958年生まれ。グラフィックデザイナー。日本デザインセンター代表取締役社長。武蔵野美術大学教授。
世界各地を巡回し、広く影響を与えた「RE-DESIGN:日常の21世紀」展をはじめ、「HAPTIC」「SENSEWARE」「Ex-formation」など既存の価値観を更新するキーワードを擁する展覧会や教育活動を展開。また、長野オリンピック(1998)の開・閉会式プログラムや、愛知万博(2005)のプロモーションでは、深く日本文化に根ざしたデザインを実践した。2002年より無印良品のアートディレクター。松屋銀座、森ビル、蔦屋書店、GINZA SIX、MIKIMOTO、ヤマト運輸のVIデザインなど、活動領域は極めて広い。「JAPAN HOUSE」では総合プロデューサーを務め、日本への興味を喚起する仕事に注力している。2019年7月にウェブサイト「低空飛行」を立ち上げ、個人の視点から、高解像度な日本紹介を始め、観光分野に新たなアプローチを試みている。
主な著書として、『デザインのデザイン』(岩波書店、2003年)、『DESIGNING DESIGN』(Lars Müller Publishers, 2007)、『白』(中央公論新社、2008年)、『日本のデザイン』(岩波新書、2011年)、『白百』(中央公論新社、2018年)、『低空飛行』(岩波新書、2022年) など多数。
書籍『BLUE OCEAN DOME—海と話そう。』より(提供:原デザイン研究室)
書籍『BLUE OCEAN DOME—海と話そう。』より(提供:原デザイン研究室)
書籍『BLUE OCEAN DOME—海と話そう。』より(提供:原デザイン研究室)
書籍『BLUE OCEAN DOME—海と話そう。』より(提供:原デザイン研究室)
書籍『BLUE OCEAN DOME—海と話そう。』より(提供:原デザイン研究室)
書籍『BLUE OCEAN DOME—海と話そう。』書影(提供:原デザイン研究室)
NPO ZERI JAPAN ウェブサイト
https://zeri.jp/expo2025/
原デザイン研究所 ウェブサイト(作品の動画あり)
https://hara.ndc.co.jp/news/expo2025-blue-ocean-dome/
Texed by Naoko Endo (TEAM TECTURE MAG)
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