オカムラ主催の企画展シリーズ「OPEN FIELD(オープン・フィールド)」の第3回「Blurring Structure — オフセットされた世界」が、東京・紀尾井町のオカムラ ガーデンコートショールームにて9月12日から9月27日にかけて開催されます。
「OPEN FIELD」は、「人が生きる環境づくり」を目指した空間デザインプロジェクトです。気鋭のクリエイター2組以上によるインスタレーションが過去2回とも発表され、それぞれ話題となっています。出展者の選出およびカップリングといった展覧会の企画は、建築史家の五十嵐太郎氏が2023年の第1回から担当しています。
「OPEN FIELD|オカムラ note」
https://note.com/open_field/n/n3aa8c7483992?sub_rt=share_pw
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「ショールーム・フィクション 線のような家具と家具のような立体」展 オカムラ ガーデンコートショールームにて、2週間限定のインスタレーション
『TECTURE MAG』では、前々回・前回に引き続き、内覧会を取材。本展をレポートします(特記なき会場写真は全て TEAM TECTURE MAGの撮影)。
3回目となる今回の「OPEN FIELD」の出展作家は、建築家のMARU。architecture(高野洋平氏・森田祥子氏)と、構造エンジニアの金田充弘氏の組み合わせ。「Blurring Structure ー オフセットされた世界」と題した本展では、通常はオカムラのショールームのエントランス兼展示・打ち合わせスペースとして機能している空間を、金属メッシュのレイヤーを配置し、ところどころで視覚的に重ねることで「日常の風景の解像度をあえて下げ、うすぼけた世界」へと”オフセット”させ、見る者の感覚に揺さぶりをかけます。
参加作家プロフィール
高野洋平
建築家
1979年愛知県生まれ。2003年千葉大学大学院修了。2003-13年佐藤総合計画勤務を経て、2013年より森田祥子とMARU。architectureを設立、共同で主宰
2016年千葉大学大学院工学研究科博士後期課程修了(工学博士)。2013年より伊東建築塾に関わる
現在、千葉大学大学院工学研究院准教授、高知工科大学客員教授、京都大学非常勤講師森田祥子
1982年、茨城県生まれ。2008年、早稲田大学大学院修了。2010〜13年、NASCA勤務を経て、2010年、MARU。architecture設立、2013年より高野洋平と共同主宰。2011〜14年、東京大学大学院特任研究員。現在、早稲田大学非常勤講師、日本大学大学院非常勤講師。MARU。architectureとしての主な作品に、花重リノベーション(2023年)、笹島高架下オフィス(2022年)、生態系と共に生きる家(2021年)、松原市民松原図書館(2019年)、土佐市複合文化施設(2019年)などがある。
主な受賞に、日本建築学会作品選奨2022、第62回BCS賞、第4回日本建築設計学会賞、AACA賞2024優秀賞著書に、『note。花重リノベーション』(2024年)がある。MARU。architecture ウェブサイト
https://maruarchi.com/内覧会冒頭で挨拶する高野洋平氏(スタンドマイク前の人物)、森田祥子氏(後方右端)、金田光弘氏(その左隣)
背後にあるパネル展示:オカムラが本展に先駆けて社内で実施したデザインコンペの資料 / 本展設営中の様子を撮影したタイムラプス動画(ループ上映)金田充弘
1970年、東京生まれ。1994年カリフォルニア大学バークレー校環境デザイン学部建築学科卒業。1996年同大学大学院土木環境工学科修士課程修了。1996年オーヴ・アラップ・アンド・パートナーズ入社。1997-99年, 2005-10年同社ロンドン事務所勤務。
2007年より東京藝術大学美術学部建築科准教授。2021年より同教授。2024年よりArup Fellow。2002年第12回松井源吾賞受賞。
構造設計を担当した主な作品に、メゾン・エルメス(建築設計:Renzo Piano Building Workshop)、砥用町総合林業センター(建築設計:西沢大良建築設計事務所)、みんなの森 ぎふメディアコスモス(建築設計:伊東豊雄建築設計事務所)などがある

展示コンセプト
現代社会には大量の情報が溢れており、私たちはただ居るだけで情報のシャワーを浴び続ける環境に身を置いています。処理しきれないほとんどの情報はただ「知覚」の外側を流れていきます。
大量の情報の中から無意識に選び取った「認知」は、私たちの体験を本当に豊かにしているでしょうか。
あるいは無数の刺激の中で、私たちは強い意志を持って空間を「認知」することの鮮やかな感覚を、日常の中に保てているでしょうか。
では逆に、よく見えなかったらどうだろう。
日常の風景の解像度をあえて下げ、うすぼけた世界に入った時、私たちはより強い意志を持って「見る」ことに食欲になり、空間体験を掴み取ろうとするかもしれない。
これはそんな実験のための空間です。
この場所は、オカムラのショールームのエントランスとして、社内外のコミュニケーションを誘発する場です。
商品や活動にまつわる展示が多分野に渡って常設されており、オンラインで遠方のオフィスとも繋がることができます。
今回の展示においてはこの空間をホワイトキューブに「リセット」するのではなく、日常の風景を残しながらそこに薄いメッシュをかけていくことで、空間の解像度を「オフセット」しました。
この場所に身を置いたとき、自分の知覚がどこへ向かうのか、自分自身に耳を澄ませてみてください。(会場掲示テキストからの抜粋)



「会場をホワイトキューブ的なもので覆って全く別の空間に仕立てるのではなく、元からある空間に、うっすらとメッシュをかぶせて、向こう側が透けて見えるんだけれども、部分的には見えにくい。そういう空間をつくりたいと考えました。情報過多な現代において、視覚情報の解像度をわざと下げた空間に身を置くことで、ものを見る、あるいは空間を感じるという行為を、来場者が能動的に、積極的にしたくなるのではないかと考えました。そうして、日常の感覚から1歩だけ離れることができるかもしれない。本展がそのきっかけになればと願っています。」(森田祥子氏)
「本展のタイトルは、金田さんと我々とのコラボレーション展となっていますが、オカムラのデザインチームにも参画してもらい、彼らとも議論を重ねながらこの展覧会を準備しました。空間デザインプロジェクト『OPEN FIELD』の”フィールド”とは、開かれた庭、あるいは広場、原っぱのような空間をイメージしてのネーミングとのこと。今回のような開かれた関係性を構築でき、展覧会がつくられていった過程もまた素晴らしいと考えています。会場の入り口付近には、社内コンペで選ばれた2つの作品も展示してありますので、そちらもぜひご覧ください。」(高野洋平氏)
「人が接触しても倒壊しないように、部分的には天井から糸を張って支えていますが、基本的に自立した構造物です。メッシュの天端の折り返しの75mmは試行錯誤の末に決まったもので、そして接地面の形状は天端のそれとは異なる。カチッとしすぎず、ふにふにしすぎない、この微妙な柔らかさと揺らぎぐらいをあわせもった構造物は、計算では決して出てきません。金属加工技術に長けたビーファクトリー(BeFactory)の協力を得て、彼らとともに手を動かし、いろんなモックアップをつくって検討しました。
昨今、容易に可能なデジタルシミュレーションが、今回の展示では極めて困難でした。メッシュを2重3重にすれば透けなくなるだろうという仮設をたて進めたのですが、意外と透け感があることが、モックアップの段階でわかりました。逆に、メッシュの目に照明があたると、光が反射して白くなり、向こう側が見えなくなる。このような光とメッシュの関係性は、体験してみないとわからないことですし、カメラで撮った画像は脳内とは違う像を結びます。ここでしかつくれない、体験できないものを皆でつくりあげ、披露できたことがとても嬉しいです。
僕は、建築作品などで『すごい構造設計だね』と褒められることは、構造エンジニアの仕事としては失敗であると捉えています。では、どんな仕事が理想か。最近、とあるプロデューサーの方に言われた『プロの共犯者』がしっくりくるかもしれません。つまり、プロデューサーあるいは建築家やデザイナーは、実現させたいビジョンがあっても、それを自分たちだけでつくることはできません。ビジョンに共感して、一緒にタッグを組んでくれる共犯者が必ず必要になります。構造家はそのひとり。僕も、彼らのビジョンに触れ、共感して、実現したくなると、そこでちょっと頑張ります(笑)。この展覧会では僕自身が共犯者であると同時に、いろんなプロを巻き込んで、共犯者を増やす仕事もしています。」(金田充弘氏)
※3氏の発言内容は、内覧会冒頭の出展者挨拶およびその後の取材でのコメントを編集部にて要約した







展覧会コンセプト
ブラーリング・ストラクチャー~オフセットされた世界
OPENFIELDの展覧会を振り返ると、第1回は建築家×テキスタイル・デザイナー×画家、第2回は建築家×彫刻家という異分野の組み合わせによって、ガーデンコートショールームの空間を変容させた。そこで第3回は建築家のMARU。architecture(高野洋平+森田祥子)と構造エンジニアの金田充宏さんのコラボレーションを企画した。これまでと同様、会場となるショールームの雰囲気を残しながら、建築的な場の介入を試みることで、新しい体験をもたらす。
MARU。architectureは、松原市民松原図書館や伊賀市旧上野庁舎改修(現在進行中)などを手がけ、今後のさらなる活躍が期待される建築家である。また金田さんは、レンゾ・ピアノ、伊東豊雄、SANAAらのプロジェクトの構造設計を担当し、デザインの可能性を引きだしてきた。
MARU。architectureが設計した谷中の花重リノベーションを再訪したことが、OPEN FIELDを依頼するきっかけとなった。これは小さいながらも、地域のコミュニテイ、NPO、各種のデザイナー、大工、特殊な制作会社など、さまざまなメンバーと連携したプロジェクトであり、金田さんも構造で関わっている。そこでオカムラとのコラボレーションの展開も考え、第3回のOPEN FIELDの参加をお願いした。
彼らから提出されたプランは、既存環境の「リセット」ではなく、「オフセット」することで、あえて解像度を落とした世界をつくること。つまり、こちら側と向こう側を完全には遮断しないさまざまな素材を用い、構造的に自立する薄い膜のような壁をつくり、抽象化、モアレ、反射、ぼかしなどの現象を起こし、無意識化された環境の覚醒をめざす。かつて透かして向こうを見ることは、ルネサンス期に発明された「パースペクティブ(透視図法)」の語源であり、世界を平面に写しとり、正確に計測し、把握する手段だった。しかし、ブラーリング・ストラクチャー、すなわち輪郭を曖昧にする構築物は、空間をはっきりさせないことで、逆に本質をつかむ。もちろん、アートの分野でも、印象派、点描主義、そして抽象絵画の歴史が、類似した効果を追求していた。が、それはあくまでも二次元の表現である。
ブラーリング・ストラクチャーは、三次元の空間体験を伴う、認識の変容装置なのだ。五十嵐太郎氏 近影
会期中、参加作家らによる関連イベントも開催されます。
タイトル:Blurring Structure — オフセットされた世界
企画:五十嵐太郎(建築史家、東北大学大学院工学研究科教授)
参加作家(敬称略):高野洋平・森田祥子(MARU。Architecture / 建築家)、金田充弘(東京藝術大学、Arup / 構造エンジニア)
会期:2025年9月12日(金)〜27日(土)
会場:オカムラ ガーデンコートショールーム
所在地:東京都千代田区紀尾井町4-1 ニューオータニガーデンコート3F(Google Map)
開場時間:10:00-17:00
休館日:日曜・祝日
入場料:無料(予約不要)
主催:オカムラ

トークイベント
日時:2025年9月13日(土)15:00-17:00 ※終了
ワークショップ
日時:2025年9月18日(木)15:00-17:00
講師:五十嵐 僚(オカムラ アドバンスドシーティング デザインセンター)
参加方法:要予約(参加無料)
https://note.com/open_field/n/n123b9fd22b88
オカムラ Webサイト「OPEN FILED」特設ページ
https://www.okamura.co.jp/corporate/special_site/event/openfield/