東京・六本木の森美術館にて11月9日まで開催される、建築家の藤本壮介の大規模展「藤本壮介の建築:原初・未来・森」の会場レポートです。
森美術館としては、2007年の「ル・コルビュジエ展」以来となる建築家の単独展。そしてこれまでの藤本建築を概覧する国内での展覧会としては、2015年にTOTOギャラリー・間で開催された「藤本壮介展 未来の未来」以来、10年ぶり。キャリア初の大規模個展でもある本展は、開催概要が今年1月に発表されてより注目を集め、7月に開幕してからは連日大盛況。会期半ばの9月6日には来館者10万人、10月31日には20万人を突破しています。
『TECTURE MAG』では、メディア内覧会と、10万人突破を記念したメディア向けイベントを取材(下の画像)。内覧会では、藤本氏と担当キュレーターとともに展示を見学するギャラリーツアーに参加したあと、藤本氏とともに改めて会場を巡りました(本稿の特記なき画像は全て、TEAM TECTURE MAG撮影)。

「藤本壮介の建築:原初・未来・森」展 来館者数10万人突破記念イベントに駆けつけた、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)公式マスコットキャラクターのミャクミャクとの記念写真をセルフ撮影する藤本壮介氏(2025年9月10日)
・これまでにない”建築展”をつくる
・テーマ「森」について
・展示構成(セクション1〜8)
・本展を象徴するセクション1: 思考の森
・模型は「原点」
・セクション2〜3会場風景
・プロジェクションマッピングで人物を投影した「ゆらめきの森」
・内部にも入れる! 万博・大屋根リングの巨大模型
・セクション6では藤本氏個人のスケッチブックを開示
・藤本建築を象徴する「たくさんの ひとつの 森」
・建築の未来を提示した「共鳴都市」の提案
・本展について、藤本氏コメント
・開催概要
藤本氏の活動初期から現在進行中の最新プロジェクトまで網羅的に紹介し、デビューから約4半世紀にわたるこれまでの歩みや、その建築的特徴および思想を概観する本展。主催する森美術館は、企画当初から、模型や図面、竣工写真などを中心とする従来の建築展の在り方を刷新した、現代美術館ならではの建築展を企図しており、タッグを組む建築家として藤本氏に白羽の矢を立てました。その理由について、森美術館館長の片岡真実氏は次のように説明しています。
「開かれている空間なのに閉じられている、あるいはたくさんあるけれども1つになっている。その相対する概念が共存した藤本氏の建築作品を、これまで興味深く拝見していました。藤本建築は、多様性を重視しつつ、普遍性も共存させている。そのような設計思想は、現代の混迷した世界の中ではとても重要な姿勢と言えるのではないかと思います。多様な人々が共存していけるような未来について、会場を訪れた人々が、藤本氏の建築のあり方を通して感じとり、考えるきっかけになればと願っています。」(森美術館館長 片岡真実氏コメント / 2025年7月1日プレスカンファレンス記者発表会席上での発言を抜粋して要約)
主催者側の企図を受けた藤本氏は、会場を貫くテーマを「森」に設定。本展のタイトルにも含まれる「森」は、自然豊かな北海道で生まれ育った藤本氏自身の幼少体験からインスピレーションを得たものです。
「活動の初期から今日まで、僕は多様な人々の多様性というものをリスペクトしていて、それらが共存する場をつくりたいと、設計活動を続けてきました。全く違う個性どうしは、反発もするけれども、時に響き合い、繋がる瞬間があります。それは建築の世界に限った話ではなく、多様な個が多様なまま共存し、かつバラバラに存在することなく、時に繋がりをしっかりと持たせる。これは、これからの社会像そのものになりうるのではないでしょうか。先ほど片岡館長からも説明があったように、多様性を受けとめる場になりうるものとして、展覧会タイトルに「森」という言葉を入れています。
では、これを展覧会としてどのように表現するかを考えたとき、小学校2年から高校まで育った北海道・東神楽町での体験と繋がりました。自宅の裏手にあった雑木林で、子供の頃の僕はそれこそ這いずり回るようにして遊んでいました。森は、身を隠すことができたり、実に多様な場所があちらこちらに存在する。木々のあいだからは向こうの景色が見え、完全に閉ざされてはいないけれども、どこか包まれているという安心感がありました。のちに建築を学び始めたとき、このときの体験を建築的言語で説明できることに気づきました。例えば、2006年に竣工した初期の作品〈児童心理治療施設〉の空間にも反映されています。
今回の「森」というテーマは、木がたくさん生えたリアルな森という意味に限らず、建築的な森、あるいは都市環境としての森というものも含めて、広義に森的なる場所と捉えています。それを象徴した展示が、最初の章(セクション1)の”思考の森”です。」(藤本壮介氏コメント / 2025年7月1日プレスカンファレンス記者発表会席上での発言を編集部にて要約)

セクション1: 思考の森 展示風景
セクション1: 思考の森
セクション2: 軌跡の森—年表
セクション3: あわいの図書室
セクション4: ゆらめきの森
セクション5: 開かれた円環
セクション6: ぬいぐるみたちの森のざわめき
セクション7: たくさんの ひとつの 森
セクション8: 未来の森 原初の森—共鳴都市 2025

セクション1: 思考の森 展示風景
最初の展示室「思考の森」に足を踏み入れたとき、ほとんどの人がその迫力に感嘆の声をあげることでしょう。ビルト(竣工)・アンビルトを問わず、藤本氏がこれまで手がけた117ものプロジェクトに関するさまざまな模型を見ることができます。展示台だけでなく、天井からも吊り下げられ、その数はなんと約1,200個! 入り口から奥にかけておよそ時系列的に配置され、かつ、「ひらかれ かこわれ」「未分化」「many many many(たくさんのたくさん)」という3つの系譜に分類されています。藤本氏に確認したところ、この「3つの系譜」は、膨大な模型の森の中を巡る際の道標(みちしるべ)となるよう、用意されたワードとのこと。
藤本壮介氏(以下、藤本氏):森美術館には、国内外から多様な人々が訪れ、建築を学んだことのない人も大勢います。迷路のような建築模型の森のなかで、読みときのヒントになればと用意したのが「3つの系譜」です。
「未分化」は、僕たちがこれまでにも使ってきたワードで、例えば「キッチン」や「リビング」といった部屋の名称や求める機能によって空間を分けるのではなくて、どこか混ざり合うことによって新たな使い方や魅力が生まれることがあるのではないか。そのような現象がみられたプロジェクトを「未分化」としてまとめてみました。2011年に都内で竣工した住宅〈House NA〉では、建築的にはおそらく床ないし階段に分別される部分が、ときにはテーブルになり、あるときは腰掛けたりする。さらには家具としても使える、そういう空間があちらこちらに用意されています。また、「ひらかれ かこわれ」の系譜では、大分の住宅〈House N〉(2008)や〈武蔵野美術大学 美術館・図書館〉(2010)などでは、内部と外部の境界線があるようでない、ときに反転しているプロジェクトを入れてみました。「many many many」の系譜は、文字通り”たくさんのたくさん”という意味です。
並びはおおよその時系列で、厳密ではありません。さまざまなスタディやインスピレーションは、数年後にかたちを変えて、別のプロジェクトに生かされることがあります。そういったアイデアの変遷や展開などを読み取ってもらえたら。

左の模型:House NA(2011)

左奥:武蔵野美術大学 美術館・図書館(2010)、右手前:House N(2008)

安中環境アートフォーラム国際設計提案競技案(2004、アンビルト)

青木淳氏に次ぐ2等となったことで知られる青森県立美術館設計競技案(2000、アンビルト)
藤本氏:建築模型は、僕らの活動の原点ともいえるものです。今回とは規模が違うけれども、10年前のTOTOギャラリー・間での企画展「藤本壮介展 未来の未来」の会場で、模型をランダムに配置したインスタレーション「architecture is everywhere」を展開した際に、そこに空間性のようなものがたちあらわれて、おもしろさを感じました。本展では、模型を膨大に増やし、より立体的に模型の森をつくって、僕が考える森の空間性を表現しました。

のちにシリーズ化された建築模型インスタレーション「architecture is everywhere」からは、ポテトチップスだけで構成された建築模型などがニューヨーク近代美術館(MoMA)に収蔵されている。本展ではそのうちの幾つかが複製品にて”里帰り”を果たした

「architecture is everywhere」シリーズの1つ、金属製の茶漉しを用途とは逆に置いて、小さなフィギュアを置いたもの

展示された模型について説明する藤本氏

ベトン・ハラ・ウォーターフロント・センター(2011、セルビア、アンビルト)

2013年、英国・ロンドンのケンジントン・ガーデンズに夏季限定で出現した仮設建築・サーペンタイン・ギャラリー・パビリオンのためのスタディ模型は、館長でディレクターのジュリア・ペイトン・ジョーンズ氏が来日した際につくったもの。「図面だとただの線にしか見えないので、立体で見せようと、真鍮を用いてイメージをかたちにしました」(藤本氏談)

サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン 2013(2013)

スーク・ミラージュ / 光の粒子(中東、2013、アンビルト)

エナジー・フォレスト(ローマ、2013)

ハンガリー 音楽の家(ブダペスト、2021)

NOT A HOTEL ISHIGAKI EARTH(沖縄・石垣島、2025)

ラルブル・ブラン(白い樹)と「architecture is everywhere」シリーズのまつぼっくり
背面 壁のドローイングはセクション1会場の系譜を示したドローイング

クラウド・パビリオン(2021)

進行中のプロジェクト、深圳博物館新館(深圳改革開放展覧館)

渋谷区の「未来の学校づくり」構想に基づいて進行中の渋谷区立広尾中学校建て替え計画および渋谷区立松濤中学校建て替え計画(2028年竣工予定)

進行中のプロジェクト(仮称)飛騨古川駅東開発 ほか

前橋プロジェクト(進行中)

仙台市(仮称)国際センター駅北地区複合施設
基本設計業務委託の受注候補者を決める公募型プロポーザルによって藤本壮介建築設計事務所が昨年選出された最新プロジェクトの1つで、1/15スケールの大型模型が第7章(セクション7: だくさんの ひとつの 森)に展示されている

(仮称)海島は瀬戸内に浮かぶ宿泊型船舶の提案、進行中のプロジェクト(『TECTURE MAG』既出特集・2025年大阪・関西万博レポートでも紹介した民間パビリオン「BLUE OCEAN DOME」の公式ウェブサイトに瀬戸内デザイン会議と「海島」の構想に関するレポートあり)

セクション2: 軌跡の森—年表 展示風景
藤本氏が積み重ねてきたキャリアと世相および当時の建築的エポックもオーバーラップする年表は、建築史家の倉方俊輔氏が監修した

セクション3: あわいの図書室 展示風景
ブック・ディレクターの幅 允孝氏が藤本建築をイメージして選書し構成されたライブラリー
セクション4(第4章)の「ゆらめきの森」では、活動初期から進行中を含めた5つのプロジェクトを紹介。縮尺1/20から1/45で本展のためにスチレンボードなどであらためて制作された真っ白な模型に、プロジェクションマッピングで建物を使う人の動きを投影しているのが見どころです(映像演出・制作:カラーズクリエーション)。
佐藤可士和氏がトータルプロデューサーを務め、藤本氏が建築の基本構想とデザイン監修を担当し、2020年にオープンしたUNIQLO PARK 横浜ベイサイド店の模型では、海に面した階段と斜面(滑り台)で子どもたちが遊んでいるオープン後の風景が展開されています。

手前:UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店(S=1:30)

UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店(部分)
藤本氏:僕たちが建築をつくるとき、模型を使って、光の入り方とかいろんなことを検討するのですが、建物を実際に使う人々の動きも想像しながら検討を重ねています。その建築家の視点をリアルに共有できないかと考えて用意した展示です。出たり入ったり、人が動き回ることでいろんな活動が生まれ、建築の魅力も増していく。その象徴的なプロジェクトとして、この5つを選びました。

藤本氏の活動初期、2005年竣工の住宅・T house(S=1:20)

児童心理治療施設(S=1:25)
施設側との話の中で「常に見渡せるといった管理側の視点ではなく、時には利用者が心理的に隠れられる、自分1人で過ごせる隅っこのような居場所があり、それでいて、自分以外の人たちともなんとなく繋がることができる空間」を設計。2007年度日本建築大賞(日本建築家協会 / JIA主催)を受賞

竣工が待たれる(仮称)飛騨古川駅東開発(S=1:45)
今年11月4日に現地・飛騨古川市にて地鎮祭が執り行われている(詳細は学校法人CoIU 同日発表プレスリリースを参照)

左手前:エコール・ポリテクニーク・ラーニングセンター(S=1:35)

セクション4: ゆらめきの森 展示風景
プロジェクションマッピングによる展示の向かいには、先月閉幕した2025年大阪・関西万博(2025年日本国際博覧会)のシンボル的な建築・大屋根リングの縮尺1/5部分模型が設置されています。
リングをデザインする過程で藤本氏が描いたドローイング、事務所スタッフへの指示書や、施工を担当したゼネコン各社が制作した構造部のモックアップなど、貴重な資料群がリングを通り抜けた先に展示されており、必見です。

2025年大阪・関西万博 大屋根リング 部分模型(S=1:5)

大屋根リング モックアップ(左から、藤寿産業所蔵、竹中工務店所蔵、清水建設所蔵) 撮影日:2025年9月6日

2025年大阪・関西万博でのプロジェクトに関する展示について説明する藤本氏
藤本氏:一部を展示したスケッチからもわかるように、構想当初の大屋根リングは楕円形でした。リングの大きさなどを先に確定させてからその中にパビリオンを嵌め込んでいったと思われているのですが、そうではなくて、並行作業でした。パビリオンの敷地面積は決まっていたので、スケッチと並行してCADでも図面を引き、納まるかどうか、機能性なども何度も確認しながら、最終形へと収斂していきました。ここでは展示していませんが、トイレ表示などのサイン計画は、あとから僕たちが提案したものです。

藤本氏による2025年大阪・関西万博のスケッチ(2020)複製(2025)

藤本氏による大屋根リングのスケッチは、大小あわせて128枚。赤で描くのは、ふだんのメモ書きなどでも同様(このあとのセクション6のケースで展示された、長年にわたる藤本氏個人のスケッチブックの開示で見ることができる)

2025年大阪・関西万博 大屋根リング 部分模型

大屋根リングの展示各所に添えられた人形は、会場での使われ方、人の動きを想像してつくられている

大屋根リング 全景模型(S=1:200) 注.模型を取り囲んでいる記録写真と図面は撮影不可

「Open Circle 開かれた円環」展示風景

領域として閉じているけれども同時に開いてもいる、万博の大屋根リングに象徴される「Open Circle 開かれた円環」という藤本氏の設計思想は、活動初期の青森県立美術館での提案や、House Nをはじめ、最近のハンガリー・ブダペストや飛騨古川でのプロジェクト、NOT A HOTEL ISHIGAKI EARTHなどにも共通してみられる

セクション6: ぬいぐるみたちの森のざわめき 展示風景
ラルブル・ブラン(白い樹)、マルホンまきあーとテラス(石巻市複合文化施設)、太宰府天満宮 仮殿、大屋根リングといった代表的な藤本建築のぬいぐるみによるインスタレーション(それぞれが喋る!)

1991年から2020年にかけて自身で記したスケッチブックについて説明する藤本氏。「学生時代のスケッチブックは北海道の実家で保管されていたものなので、親に感謝です(笑)」

セクション6では、藤本氏の学生時代から今日に至るまでの貴重なスケッチブックの一部が展示され、中身も見開きで見ることができる。インクは途中まで黒。「黒だと、僕の目・脳・手とのフィードバックがいまひとつ活性化されていないと感じはじめ、試しに赤ペンに替えたところ、感覚ともフィットして、インパクトも出て、それからずっと赤です」(藤本氏談)
展示はこのセクション7を含めて残すところあと2つ。「たくさんの ひとつの 森」の章では、公募型プロポーザルで基本設計業務受注候補者に選出された、仙台市(仮称)国際センター駅北地区複合施設の大型模型(S=1:15)が空間を占めています。

セクション7: たくさんの ひとつの 森 展示風景 仙台市(仮称)国際センター駅北地区複合施設(S=1:15模型)
画面向かって右の壁側にも通路が設けられ、建築の中に入っていくような感覚を味わうことができる

仙台市(仮称)国際センター駅北地区複合施設(部分)

仙台市(仮称)国際センター駅北地区複合施設(部分) 屋根と床を兼ねた複数のプレートが1つの建築物を構成している
藤本氏:今回の展覧会を準備するにあたり、藤本建築とはなにか、大切にしているものとはなにかについて、僕と事務所スタッフのあいだで議論を重ね、突き詰めていきました。そのようななか、この仙台でのコンペに勝利したのですが、まさに、藤本建築のコアとなるものを表現した提案となっていて、ぜひ展示に加えたいと思いました。「多様でありながら、ひとつ」という大阪・関西万博での会場デザインのコンセプトや、人々の多様な活動を誘発しつつそれらが緩やかに繋がることができる建築ないし空間をつくりたいとする、僕たちの一貫した姿勢が、この展示と本展を通じて伝えることができればと希望しています」

仙台市(仮称)国際センター駅北地区複合施設(部分)

仙台市(仮称)国際センター駅北地区複合施設
最後の展示(セクション8)は、「未来の森 原初の森—共鳴都市 2025」と題して、建築の未来を提示しています。コラボレーターとして、前述の飛騨古川でのプロジェクトでも協働している、データサイエンティストで慶応義塾大学教授の宮田裕章氏と、構造エンジニア集団のArupを迎え、建築の力で可能になるであろう未来の都市の姿を、模型と、臨場感溢れるイメージ映像で描いています。

セクション8: 未来の森 原初の森—共鳴都市 2025 展示風景

セクション8: 未来の森 原初の森—共鳴都市 2025 展示風景
多様な機能をもたせた大小の球体ユニットで構成される未来都市の提案。高さ約500mほどに拡張された環境のなかで約10万人が生活するイメージ

「共鳴都市 2025」提案(素案)

未来社会ではモバイルデバイスを使った空中移動が可能であるという設定
展示を見た来場者の意見を広く求めており、書き込み用のノートが用意されている

エピローグ(2025)
藤本氏:これまで僕たちは、ギャラ間での展示のほか、ワンフロアでのインスタレーションの実績はありましたが、このような大きな美術館での単独個展は初めてです。森美術館は、展示室が大きく、そのあいだに小さな展示室を挟み、通り抜けていくだけでも空間のダイナミズムを感じることができます。そのような動線上に、僕たちの展覧会としてのストーリーをどのように構築していけばいいのか、とても大きなチャレンジとなりました。”模型や図面が並ぶだけの建築展にはしたくない”という企画段階からの命題を踏まえつつ、1つ1つの展示室ごとにしっかりとコンセプトを設定し、それぞれに見せ場と魅力をつくっていく。振り返ると、ふだんの設計活動を再構築するような作業でした。概念やコンセプトを伝える展示と、全身で体感できる展示、その両極を行き来できる展示になったと思います。
森美術館 フロアマップ
藤本氏:万博関連の展示で掲示している、「それでも多様な世界は繋がることができる」というメッセージについて。僕は、多様なものたちが多様なまま共存しているのがよいと以前から感じていましたが、それらが”繋がる”ことについてはこれまであまり意識してこなかったように思います。僕自身の経年や時代の変化、万博のプロジェクトを経験したことも影響しているのでしょうが、最近は”繋がり”を強く意識するようになりました。多様性についても、単に共存するだけの場ではなく、それらが繋がり合い、宮田さんの言葉を借りるなら「共鳴し合う」。そういう意識が建築設計の視野に入ってきたことが、ここ最近の僕自身に見られる変化かもしれません。

大屋根リングの展示の中で『TECTURE MAG』の取材に応じる藤本氏
会期:2025年7月2日(水)〜11月9日(日)
会場:森美術館
所在地:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階(Google Map)
開場時間:10:00-22:00
※入館は閉館の30分前まで
※会期中無休
当日入館料:
・平日:一般 2,300円、学生 1,400円、65歳以上 2,000円
・土・日曜・祝日:一般 2,500円、学生 1,500円、65歳以上 2,200円
※中学生以下は全日無料

本展のタイトルにある「原初」は、2008年に刊行された藤本氏初の単著(『原初的な未来の建築』INAX出版・当時版元)にもみられ、活動初期から使われてきた、重要なワードである
主催:森美術館
企画:近藤健一(森美術館シニア・キュレーター)、椿 玲子(森美術館キュレーター)
森美術館ウェブサイト
https://www.mori.art.museum/jp/
Texed by Naoko Endo / TEAM TECTURE MAG
Photo by Naoko Endo & Jun Kato / TEAM TECTURE MAG