
東京・紀尾井町の〈紀尾井清堂〉にて、「建築家・内藤廣 なんでも手帳と思考のスケッチ in 紀尾井清堂」が7月1日より開催中です。
本展は、内藤 廣氏曰く「私に関するほぼすべての情報が詰まっている」という手帳が公開されるという貴重なもので、記述に関連した建築プロジェクトの図面や写真などもあわせて展示されています。
「建築家・内藤廣 なんでも手帳と思考のスケッチ in 紀尾井清堂」7/1より開催、旅先でのスケッチや設計の概念図などをまとめた”建築家の手帳”を公開!
展示構成
1階「東日本大震災への鎮魂」
2階「言葉の曼荼羅」
3-5階 内藤 廣の約40年分の手帳を年代順に展示
『TECTURE MAG』では、会期初日に会場を見学。会場の様子を上階から順にレポートします。
紀尾井清堂 2階フロアからの天井見上げ Photo: TEAM TECTURE MAG
「建築家・内藤廣 なんでも手帳と思考のスケッチ in 紀尾井清堂」会場風景 Photo: TEAM TECTURE MAG
展示されている手帳は撮影禁止のため、本稿ではビジュアルとしてお伝えすることができません。記述すると、内藤氏の過去およそ40年におよぶオリジナルの手帳が、吹き抜け空間の内側に沿って、1年ごとにガラスケースの中に展示されています。
ガラスケースの脇にはレプリカの手帳も用意され、こちらはページを捲って閲覧が可能。これら年ごとの展示では、その年に社会で起こった大きな出来事、内藤氏が当時手がけていたプロジェクトやエポックメイキングについて内藤氏が回想したコメントが添えられており、フロアをぐるりと1周しながら、5階にある2024年の手帳の展示に辿り着くと、文字通り、内藤氏の活動の軌跡・思想の軌跡を、当時の社会情勢・世相とともに内藤建築の中で概覧できるという、貴重な体験型展示となっています。
また、前回の「奇跡の一本松の根」展のときは閉鎖されていた外階段を利用できるのも本展の注目ポイントの1つです。
紀尾井清堂 外階段 Photo: TEAM TECTURE MAG
2階フロアでは、内藤氏の著作などから抽出された言葉の数々を読み取ることができます。
2階フロアの展示「言葉の曼荼羅」見下ろし Photo: TEAM TECTURE MAG
Photo: TEAM TECTURE MAG
Photo: TEAM TECTURE MAG
紀尾井清堂の照明計画は、ル・コルビュジエが手がけたことで知られる〈ラ・トゥーレット修道院〉をイメージしたものであることが、本展で開示された手帳から読み取ることができる
Photo: TEAM TECTURE MAG
展覧会初日のこの日、建築を学ぶ学生の一団が訪れ、閉館時間まで盛況となっていた
本稿では順序を逆としましたが、本展の受付は1階に置かれています。
1階は「東日本大震災への鎮魂」と題した展示で、2022年3月から2023年3月にかけて開催された「奇跡の一本松の根」展に連なるものとなっています。
「奇跡の一本松の根」展 会場レポート
Photo: TEAM TECTURE MAG
1階の展示は、「東日本大震災への鎖魂」をテーマにしました。やはりこの空間にはそれが一番似合うようです。今回は、2012年に同じテーマで別のところで展示制作した被災された方の数である約2万ピースのガラスタイルを、形を変えて展示しました。3.11から14年が経ち、一般の方達の記憶も薄れつつあります。もう一度それを見つめ直すきっかけになれば、という思いです。(本展展示解説より)
床の展示「18800 pieces 2012.6.13」について:京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)での展示。2012年当時の被災者の方の数を18,800個のガラスピースとして製作し、5.4×5.4mの唐紙の上に、職人と学生たちがひとつずつ丁寧に敷き詰めたインスタレーションです。(展示解説より)
Photo: TEAM TECTURE MAG
Photo: TEAM TECTURE MAG
1階「東日本大震災への鎮魂」会場風景 Photo: TEAM TECTURE MAG
壁の展示「25673 dot 2011.5.1」について:東日本大震災の発災から約2ヶ月後に、亡くなられた方と行方不明者の方が25,673人という新聞記事を見つけました。当時、その人数の多さを私自身が体感する術として、日頃使っている赤いペンで25673のドット(点)を、A4用紙に3日間かけて打ち続けたものです。この行為を通して、身体的な記憶として「3.11」が私の心に刻まれています。(展示解説より)
「25673 dot 2011.5.1 NAITO」 Photo: TEAM TECTURE MAG
このほか1階には、内藤氏が設計を手掛けたことで知られる、〈高田松原津波復興祈念公園 国営 追悼・祈念施設〉に関する解説文と写真、そして会場となった〈紀尾井清堂〉の図面と模型も展示されています。
Photo: TEAM TECTURE MAG
ごあいさつ
この建物が出来て五年が経ちます。機能を決めないで建てる、という大胆な挑戦をしましたが、現場の協力もあって建物は素晴らしい精度で出来上がりました。以来、いくつかの企画が催されましたが、建主の意向もあって恒常的な利用方法はいまだに未定です。
そんな中、二年前には、東日本大震災の復興で縁があった陸前高田市に残されていた「奇跡の一本松の根」を一階のスペースで展示し、大きな反響をいただきました。
したがって、この展覧会はこの場所では二度目の展示ということになります。今回は、全館を使っての展示に挑戦しました。同じ時期に渋谷のストリームでの展示も催されるので、こちらは全く異なる企画の展示にしました。
普段は開放していないこの建物の空間を使うことを許可していただいた倫理研究所の丸山理事長に感謝申し上げます。建築家 内藤廣
千代田区紀尾井町の中心に位置する場所に、どんな建物をたてようか。用途も含めて五階建てのプランを練りながら、発想は思わぬ方向に走しました。それは内藤廣先生の「二階から上を吹き抜けにしたら」という提案から始まります。「・・・・・ならば近代的な功利主義に染まった用途など度外視して、内藤先生が世に出現させたい建築物を帝都のど真ん中にたてていただこう」と意を決しました。
太古の縄文のイメージが濃い一階、未来へ伸び上がっていく二階以上という不思議な空間に身を置いていると、ルーティーン化した日常を忘れ、「非日常の裂け日」が感じられます。この展覧会を通して、内藤廣という卓越した思想を持つ建築家の思考の跡をたどりながら、未来をひらく「裂け目」の奥を共に覗いていただけたら、とても有意義だと思います。一般社团法人 倫理研究所
理事長 丸山敏秋
会期は9月30日まで。開館日および入場受付時間に注意して、会場を訪れてください。
会期:2025年7月1日(火)~9月30日(火)
会場:倫理研究所 紀尾井清堂
所在地:東京都千代田区紀尾井町3-1(Google Map)
開館日:火・木・土曜(注.8月12日、14日、16日日、9月23日を除く)
開館時間:10:00-16:00(最終入館15:30)
入場料:無料 ※事前申し込み不要
共催:一般社団法人倫理研究所、内藤廣建築設計事務所
協力:日本能率協会マネジメントセンター
詳細
https://www.rinri-jpn.or.jp/news/exhibition2025/
※建築家・内藤 廣氏の展覧会は、渋谷ストリーム ホールでも今月の25日から8月27日にかけて開催される
「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」展