FEATURE

Study Series : Tsuyoshi Shindo(3/5)

進藤 強「建築家だからこそ、自ら仕掛ける。不動産事業のススメ」(3/5)

FEATURE2021.03.01

Interview with Tsuyoshi Shindo 進藤 強「建築家だからこそ、自ら仕掛ける。不動産事業のススメ」

#03 設計事務所もサブスクで稼げる時代!?

■ピュアに仕事をするため財布を別に持つ

進藤:僕がテーマにしていることは、「ピュアに仕事をするために、もう1つの財布をもつ」ということです。
以前、僕が普通に家を買って、それをたまたま貸すようになったのですが、1つのテナントさんに貸しただけで、実はローンが払えてしまうことにとても驚きました。
どうしてそんなことができたかといえば、賃貸併用住宅で自分が住みながら、収入を得るという仕組みです。これについては、他にも建築家の事例があったので2013年にまとめて出版しました(『月々のローン返済を軽くする 賃貸併用住宅』スタジオタッククリエイティブ刊)。

以前の建築家であれば、大学の建築学科の教授や准教授という教育の方面で収入を得ながら、アトリエで作家活動をするという、すごくピュアな生き方がありました。

僕らはベビーブームで人口が多い世代に生まれましたが、今は少子化で生徒がどんどん減って大学もなくなっていく時代に40代、50代を迎えています。
どう考えても、大学で教鞭を執って収入を得るのは限られた人になる。僕も確かに先生にもなりたいし、世の中を変えるには教育からだと思います。それでもなかなか難しい時代が来ていますよね。さらに今30代の設計者は、先生になるという選択肢すら考えていないと思います。

こうした谷間に生きている中で考えたのが、最初にお話したロイヤリティです。今、僕は設計業務以外にオーナーさんと共同で出資したホテル運営をしています。僕らが運営に携わりながらエラーをいろいろ解決する、いわゆる共同経営です。収入を両者で割ることで、僕にとって設計とは別の、もう1つの財布になっています。

── 収入源を設計業務以外に持つのは、大変ではないのですか?

進藤:僕は7年ほど前から土地を買って賃貸住宅を建て、経営して家賃を得ることをやり始めました。
例えば3,000万円の土地に、6部屋ある建物を4,000万円でつくります。そうすると7,000万円を借りて返済していくわけで、月20万円から25万円くらいのローンになります。それに対して家賃は50万円から55万円くらい入ってきて、差額が15万円から20万円。その収入が精神的にすごく助かったんです。

事務所でスタッフをけっこう抱えていると、やっぱり給料の話が頭からずっと離れないんです。常に何かしらの請求が来る。お金が手元になくて借りようとしても、なかなか借りられないんですよね。
そこで、僕は考え方を変えて、財布をもう1つ持つことにしたんです。

賃貸住宅は自分で設計ができるし、その入居も自分たちで募集することはできる。実をいうと、今では賃貸管理の事業も始めて、部屋を探しているお客さんを案内する「SMI:RE(スマイル)」という不動産サイトを立ち上げて、自分たちが設計した賃貸住宅を自分たちで案内しています。
完成後は、入居した人たちとバーベキューパーティーなどをして交流を続けているんですよ。彼らとやりとりするなかで、得ることがたくさんあります。
「建築家がなんでそんなことをやっているの?」と言われれば、まずは収入を得るためです。
また、設計担当のスタッフがちゃんと自分がつくった物件をエンドの人に説明して良さに共感してもらって、「ぜひ住みたいです」とその場で契約してもらえるという醍醐味があります。

最終エンドの人と関わり、良さを実感してもらえるものをつくることができるスタッフを育てないといけないと思うんです。そういう意味もあって、自分で賃貸住宅の設計と管理を始めました。

SMI:RE▲SMI:RE(スマイル)のトップページ http://smi-re.jp

■設計業務と何かの両輪を回すことで相乗効果を生む

── 設計業務と不動産業務はどのように分けているのですか?

進藤:今の事務所では事業が2つあって、設計事務所と、共同住宅を担当する不動産部門とに分けています。収入を2つで分けていますが、どうしてもどちらかが足りなくなる場合は、一時的に融通して後で戻すということもしています。そのことで圧倒的に、資金に関する精神的なストレスはなくなりました。

安定した収入を得ることと、日々の儲かるか儲からないか分からない瀬戸際の設計とを両輪で回すということが、すごく重要なことだと思います。そうでないと、「給料を払うための仕事」を取らざるをえませんから。

設計業務とは別に固定収入が入ってくれば、理想の街、理想の未来、理想の仕組み、そうしたピュアな設計に取り組めます。飲食店を経営したりもできますしね(笑)。

実際に、飲食店に携わると面白いんですよ。僕は共同経営する日替わりのオーナーたちと関わる中で「どうやって集客するか」「どんなことをしたら収益が上がるのか」といったことを共有し、それが設計にもつながっていきます。

── 飲食店や賃貸住宅管理のほかに、どんな「輪」があるでしょうか?

進藤:例えばチェーン店の設計をするとき、公表しないまでも実はフランチャイズの店も経営して、もう1つの収入源をもつというやり方もありますよね。

また、笑われてしまうかもしれないけど、設計事務所のYouTube配信は絶対に「アリ」だと思います。
建築業界って、エンドユーザーが不思議に思っていることだらけですから。設計者はお客さんのために10年後、20年後に楽しく暮らせる、今も楽しく暮らせる家という理念のもとにつくっていますが、そういう重要なことをちゃんと発信するユーチューバーはいませんよね。

きっとここ数年で、いわゆる有名アトリエから出た若い建築家が、YouTubeで理念を語り、そこからお金をクラウドファンディングで集め、理想の街をつくっていくようなことが起こるでしょう。それはまさに、「スポンサーに依存しない設計者像」ではないかと思います。

取材時に準備していた〈SMI:RE DINER 101(スマイル ダイナー イチマルイチ)〉にて

■スポンサーなしで自分でつくれば世の中を変えやすい

進藤:自分ですべてルールを決めて、「こういう社会が来るから」「こういう共同住宅は絶対に成功するから」と言って共感してもらい、お金を集めて建てる。
僕の場合はそうして銀行からお金を借り、共同住宅やホテルをつくっています。スポンサーなしで自分でつくるので、世の中を変えやすいのですね。

例えば共同住宅でスポンサーがいると、「寝ているところからハシゴで下りてトイレに行くのは大変だなぁ」と、50代や60代のオーナーに言われてしまいます。でも、実際にはその人が住むわけではないので、気にしなくていいはずなんですよね。

僕は「20代の子が住むんですよ。夜にトイレは行きませんよ」と言っていました。僕も最近、夜にトイレに行くようになったので、スポンサーの言うこともよく分かるのですが(笑)。果たして20代の人がトイレにすぐ行ける部屋がいいのか、ちょっとプランが面白くて彼女を呼びたくなる部屋がいいのか、ということです。

スポンサーがいないからこそ、なんでもできる。逆に言うと、自分のお金だからちゃんと儲けられないと破産してしまうので、無茶苦茶なことはできません。それでも一歩ずつ、社会は変えられると考えています。

── 土地や建物のローンを組むことも、自らされていると聞いています。

進藤:「どうして設計事務所でローン融資をやっているの?」と、よく聞かれます。
これはビジネスの話になるのですが、僕たちは今、自分たちで事業を起こしていくことと、自分たちと同じ想いでつくろうとする人たちの設計をお手伝いするという2本立てでやっていこうと思っています。

僕らが設計を始めたころは、不動産情報を持ってくる人がいて「進藤さん、この土地に何部屋入るか、銀行用の図面をつくってみて」と言われるんですね。一生懸命考えてプランを出すと、1カ月くらいして「進藤さん、ローン落ちました」という魔の電話がかかってきて、それで終わりなんです。

「これって、なんなんだろう?」となりますよね。世の中を変えようと一生懸命つくっているのに、ひとことで終わるものなのか? というふうに思いました。

そこで僕は「じゃあ、ローンが通ったら買いますか?」と言い始めるようになりました。
どうしてかというと、「買います!」と手を挙げて一番手になれば契約までできる、不動産の慣習があるからです。そしてローンの審査に落ちたら白紙撤回していい、という「ローン特約」という変なルールがあり、そこに建築家が巻き込まれてしまう。
「ローンが落ちたらゼロなのはおかしくない?」と思うようになって。それで僕は、自分でローンをやり始めました。

BE-FUN DESIGNの設計した〈深沢の住宅〉(2020年竣工) Photo provided by BE-FUN DESIGN

■サブスクで設計者のノウハウ売ります。ただし人を選びます

進藤:ローンは、設計の仕事にたどり着くための1つのツールです。僕の中では建築基準法などと一緒で、そのルールを飛び越えないと仕事が来ないし、建物として実現しないと思うので、自分でやっています。

新築の不動産開発を何年かやっている中で、お客さんは不動産チラシを持ってきて、「ハイお願いね」と言うだけなんです。こちらでつくった図面を銀行に出してお金を借りて、建てて、家賃が入ってきて、2年も経たないうちに売ってしまうこともあります。「進藤さん、3,000万儲かりましたよ」みたいに言われて。
僕らの設計料にはノウハウがすごく入っているし、そのプランだからその家賃設定ができて、高く売れるんです。僕自身、その価値に気付いていなかったのですね。知識がないので「不動産を売ったら、僕たちにもいくらか払ってください」というような契約書でもなかったので。

今後、僕はオーナーの資産をつくっていくうえでいろいろアドバイスする顧問みたいなかたちで、「再建築不可の物件を買いましょう」とか、「こういう特殊な土地を買いましょう」などと一緒になって構築していくつもりです。そのアドバイスに対して、顧問料というかアドバイス料をもらえるような仕組みがいいと思うのです。

現在、僕は風上のローンのところから、入退去、入居者エラー、退去のクレーム対応など、すべてやっています。それだけの実績とノウハウがあるので、一緒になって事業をやることに対して、今流行りのサブスクのように、月5万円ずつ払います、というオーナーがいるかもしれません。
彼らは何億という事業をやっているので、月5万円程度払うことは痛くもなんともない話なのですが、設計事務所にとっては月5万円がちゃんと入ってくるビジネスモデルってすごいですよね。それが10人いたら、月50万円の収入になるという話です。
今後は弁護士や税理士の顧問契約のように、相談に乗るかたちで資産をつくっていく、もしくは世の中をよくしていくパートナーとして、サブスクみたいな設計料というのがあるんじゃないかと思います。

ただし、これは儲かればいいというものではなく、10年後のスタンダードをつくろうという人だったり、世の中を良くしようというオーナーとしかやらないと決めています。そうした人と一緒に組むことでサブスク設計事務所になれたら面白いかなと、最近は思っています。

僕自身が設計して扱っている共同住宅はもっと単純に、僕たちが設定した家賃で借りていただいています。借りてくれた人が今度、仕事や事業がうまくいったりして、広いところに引っ越しますとなったら、その人生の一部を共有できたことも嬉しいですし、そうやって成功する若者をどんどん出すために不動産投資があるんじゃないか、と最近は考えています。

何でも興味をもってやっていたら、なんかいろいろ広がってしまいました。最近はまた、ぎゅっと絞りながら、どんなところに向けて何をやっていこうかということをすごく意識して設計しています。

#04 事業は住みながらでも興せる! に続く)

Study Series
Interview with Tsuyoshi Shindo
進藤 強「建築家だからこそ、自ら仕掛ける。不動産事業のススメ」
#01 Netflixと映画界から建築界が学ぶこと
#02 何本も腕を出しながら“田植え”を続ける
#03 設計事務所もサブスクで稼げる時代!?
#04 事業は住みながらでも興せる!
#05 設計者の強みを活かして楽しくサバイブ