(#04 事業は住みながらでも興せる! からの続き)
Study Series
Interview with Tsuyoshi Shindo
進藤 強「建築家だからこそ、自ら仕掛ける。不動産事業のススメ」
#01 Netflixと映画界から建築界が学ぶこと
#02 何本も腕を出しながら“田植え”を続ける
#03 設計事務所もサブスクで稼げる時代!?
#04 事業は住みながらでも興せる!
#05 設計者の強みを活かして楽しくサバイブ
Photographs: toha
■銀行に行けば自分の価値が変わる
進藤:自分が「面白い」と思うことをやり続けたら、最終的に設計に戻ってくるような事業が増えてきました。僕の場合は新築の共同住宅で投資することがありましたが、建築家が今すぐにでもできることはたくさんあると思っています。
建築家に設計を依頼する方は、建売住宅を買う方よりもお金を持っておられることが多いですし、なかには年収が何千万円というような方もおられます。そんなお客さんを、自分の知っている銀行に複数行案内して、「ぜひこの方に融資をお願いしたい」と言ってみてください。それだけで自分の価値が変わる、ということを建築家の人には知ってほしいと思います。
どうしてかというと、銀行から見ればそんな属性のいい人は探してもなかなか見つかりません。銀行からすると「この建築家とつながっていると、こんないい人をどんどん紹介してくれるのか」となるわけです。
僕は7年ほど前、驚くほど年収が低かったんです。それでも融資が通った。それはずっと「家を建てたい」というある程度の年収がある人を紹介していたからです。
いろんな意味で勉強もしていたし、それまでの10年ほどは共同住宅を多く設計していたので、「進藤さんがつくるのだったら事業的にも大丈夫だろう。人をよく紹介してくれるし」という感じで、借りることができたのです。
「共同住宅を自分でやろうといっても、年収が低いし投資なんてできない」と思われているかもしれませんが、設計者は優位な位置にいる職業だと思います。
■設計者は問題を自分で解いて判断できる
進藤:不動産の販売情報で、まれにとても安い土地があります。「本当にこんな安いの?」と疑うようなもの、「これ1年売れてないけど、なにか問題あるんじゃない?」というものです。
実はここに、不動産投資家にはできなくて、建築家にしかできないことがあります。
自分の例ですが、ある日曜の夜、不動産情報サイトで、とても安い中古の戸建てが出ていたんですね。「なんだこれ?」と思って、住所が書いてあったので、その日のうちに見に行きました。そして月曜の朝イチに不動産屋さんの前で開くのを待ち、「買います!」と申し込んだんです。
日曜の夜中に、どんな法律があるか、建て替えるとしたら、リノベ―ションするとしたら、だいたいいくらくらいかかって、家賃はこれくらいに設定できて…、と計算したのです。
もし投資家だったら、設計事務所にその情報を見せて依頼しても「2週間くらいかかります」と言われてしまう。月曜の朝に買いに行くことは、絶対にできません。
それは建築家にしかできないことなんです。だからすごく優位な位置にいて、ほかの人ができないことがいっぱいあると思ってください。
同様に、1年以上売れていない物件にしても「どうしてだろう?」とひも解いていくと、登記簿を取り寄せて持ち主に借金があるか、返済できれば大丈夫なのか、どんな人が競合か、と想像を膨らませることができます。
なかには崖地であったり、ゴミがいっぱいあるし建物が汚いし、という場合もあります。それでも、ゴミ撤去でいくら、塗り替えにいくら、崖だったら中古のまま使うか、新築するなら杭がいるし…と考えていくと、解答を見つけて購買の判断ができます。
こうした能力を生かせば、設計料の報酬を得ることとは違う楽しみ、ロールプレイングゲームを解くような面白さが得られます。ゲーム感覚で不動産を安く買うことで、別のところにお金をかけられる。高収入は見込めなくても、持続できるだけの値段で買うこともできます。
そうやって理念を掲げながらコミュニティをつくっていけば、愛のないデベロッパーよりも早く、街は良くなるんじゃないかと思います(笑)。
もちろん愛のあるデベロッパーも、たくさんいますよ。でも僕は、基本的に社長としか仕事をしません。決定権のある人としか、世の中は変えられないと思うからです。
「社会がもっとこうだったらいいな」とか、「こうなったら便利だな」とか、「こうなると自分たちの子どもにもいいよね」という理念を掲げて、それに向かって走る。そんなことをずっとやっています。すごく小さなデベロッパーですね。
■5年や10年のスパンで考える
── 設計者も小さなデベロッパーになりうるということですね。
進藤:セミナーを開くと、「不動産を買うのは怖いし、借金になって不安だ」とよく言われます。
僕は日ごろから、「引き出しをいっぱい持っていれば、絶対に死なない」と言っているんです。
例えば今、宿泊業をやっていますが、お客さんが減るようなことがあれば、ベッドを撤去して賃貸に替えようと考えます。撤去なら30万円くらいあればいいし、その30万円が出せなくなる前に判断すればいいだけの話です。賃貸にして入居募集して決まれば、敷金礼金で撤去することもできます。
ホテルをいくつも設計していますが、どれも共同住宅に替えられるように、法律をダブルで解いているんです。共同住宅にも振れるし、ホテルにも振れる。そんなことを引き出しとして持っていれば、そうとう間違えたことをしない限り死なないと思っています。死なないくらいの失敗が、一番勉強になるんです。
今回のコロナのような引き出しは、さすがに持っていなかったですけどね(笑)。ここ何カ月かでだいぶ対応して、スタッフがフロントをやるなどして乗り切っています。不動産投資自体は怖いか怖くないか、というと怖いけれど、なんとかなると思っています。
コロナのような事態もありますし、事故物件になることもあり得ると考えておかないといけない。安全で儲かることは絶対ありません。逆にいえば、僕らにはどうしようもない試練を与えられたら、めちゃめちゃ進化しますよ。ヤバいときに生きていける人はうまくいったら、余裕ですから。「コロナを乗り切ってこうなりました」って10年後に話したいなと思いますね。
常に僕は、5年か10年くらいのサイクルで考えるようにしています。2013年に本を出して、やっと7年経って「本、読みました」っていう人が出てくるくらいですから(笑)。
今はInstagramやTikTok、Facebookなどがあるから、もっと加速していろんなことができると思っています。そのぶん、これまでにいなかったような20代建築家がたくさん出てくるはずです。「資金調達しました。だから街を買います」みたいな宣言をして。とても面白いし、そんな人と仲良くなりたいです。
やはり、Netflixと似ていると思いませんか。世の中が変わると建築家も変わるべきだし、かといって、伝統を無視するわけでもない。いろんな建築家がいていいと思います。全員が全員、どちらかの方向を向いて行こうよという話ではないですから。
▲SMI:RE STAY TOKYO のトップページ http://stay.smi-re.jp/tokyo/jp/
■お金のことを意識して勤めるべし
進藤:若い人からいろいろ相談をもらうとき、彼らを最短で成功させたいと思っています。でもよくよく考えると、僕がいろんなことを今できているのは、死ぬ思いで仕事をしてきた10年があるからかもしれません。
最初から全部に手を広げて、そのすべてが短かったらうまくいっていなかったかもしれない。僕は設計という1つの軸ができてから腕を伸ばしたのでうまくいっていますが、今の若い人たちは先に考えるところから入ってしまう。
もしかしたら腕だけはいっぱい出しているけど、「どれも専門性がないんじゃない?」となると危険だなと思うのです。なにか1つでもいいからプロになる。それ以外に出す腕はプロでなくて、アマチュアでいいんですよ。僕の飲食店も、きちんとした飲食店とは呼べないくらいですし。
就職についても「アトリエはどこがいいですか?」「不動産でいい会社ないですか?」などと聞かれるんです。
僕よりも簡単に独立して成功させてあげて、将来は一緒に仕事したいなと思いつつも、腕をいっぱい出せば成功するのかというと、そうでもないはず。
そこは有無をいわず「5年なら5年と決めて、勤めてみよう」と言います。そのとき、お金のことを常に考えて行くというのが正解ではないかと思って。
お金のことを意識してアトリエに行ったら、もっと面白いはずです。給料が10万円や15万円で安いとか高いとかいっても、そのボスはもっと苦労して作品を2年、3年かけてつくってきたということをきちんと考えながらやる。そうすれば、まったく違った人生を送ることができると僕は思っています。
もちろん、新卒でしか入れないような大手に行くという選択肢もあります。その際も「どうして大手が成立しているのだろう」と考えながら働く。与えられた仕事が面白い・面白くないではなく、その組織がどうして成立できているかを調べ、考えながら働くのであれば、いいかもしれません。
独立したら楽しそうと思われているかもしれませんが、よっぽど苦しいですよ。僕も10年くらいは生きていけるかどうかも分からなかったですから。
でも今は楽しくやっています。楽しくやっていたら人は集まるし、仕事も来る。ビーフンデザインって「BE-FUN」なんですよ。「楽しくあれ!!」ということを、ずっとやっているだけで。これからも、子どもみたいに生きていけたらいいなと思っています。
【 】
(2020.07.06 BE-FUN DESIGN にて)
Study Series
Interview with Tsuyoshi Shindo
進藤 強「建築家だからこそ、自ら仕掛ける。不動産事業のススメ」
#01 Netflixと映画界から建築界が学ぶこと
#02 何本も腕を出しながら“田植え”を続ける
#03 設計事務所もサブスクで稼げる時代!?
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#05 設計者の強みを活かして楽しくサバイブ