東京・谷中の地で設計事務所「HAGI STUDIO」を主宰しながら、同エリアでリノベーションした建物で事業を行っている宮崎晃吉(みやざき・みつよし)氏。
「最小文化複合施設」〈HAGISO〉、谷中の街をホテルに見立てた宿泊施設〈hanare〉、また西日暮里駅に隣接する商業施設〈西日暮里スクランブル〉など、その業態は多岐にわたる。
有名アトリエ系の事務所で設計に打ち込んでいた宮崎氏が、事業を立ち上げ、同じ街で活動を広げていった狙いはどこにあるのか。
建築を学んだ視点で街に働きかけられることは、どのようなものか。
具体的な事例をもとに、町医者のような立場で街と関わりながら、事業を持続的に発展させる秘訣を聞いた。
今回は#01「リスクを持ち寄って面白いことを仕掛ける」です。
(取材:2020.07.06 〈西日暮里スクランブル〉にて、jk)
Photographs: toha
■街を変える駅プロジェクトに参画
── まずはここ〈西日暮里スクランブル〉から、宮崎さんの活動や考えていることを聞かせていただけますか。
宮崎:HAGI STUDIOでは主に、設計と店舗の運営をしています。設計で多いのは商業系で、宿泊施設や展示場など、ジャンルはバラバラです。
JR西日暮里駅の南側にある〈西日暮里スクランブル〉については、建物の半分くらいは高架下にもぐっているので、土地はJR東日本のものです。建物はJR東日本都市開発という会社が所有し管理していたのですが、数年間、空き室になっていました。
あるときJR東日本都市開発の方がHAGI STUDIOにいらして、「こういう物件があるんだけど、借りてくれませんか?」と話があったのですね。てっきり設計の相談かと思っていたら、リーシングのお誘いだったという。
僕らは路地裏しかやってこなかったし(註:後述する〈HAGISO〉など)、「自分たちの出る幕ではなさそうですね」と最初は答えました。
でも担当者の話を聞いていると、駅の北側一帯は大手デベロッパーが開発を計画していて、ペデストリアンデッキができる予定といいます。そうすると、高架下のこの建物は新設するエスカレーターの関係で、いずれなくなる。
暫定利用なので普通に貸すのもどうかと、ウチへ相談に来られたのですね。聞いているうちに面白そうだなと思って、「一緒にやりましょう」となったのですね。
JRのほうでも「駅ナカ」の開発に力を入れてきて一段落がついた頃で、「街のことをどれほど考えてきたのか」という振り返る時勢でもあったのですね。駅ナカから「街ナカ」に舵を切るようなコンセプトを打ち出していました。
JRは山手線で「東京感動線」という、地域の価値を考えていくプロジェクトを始めています。山手線の北側のほうは、けっこうマイナーな駅が多くて。西日暮里は、手始めにちょうどいい駅だったのですね。
新宿や渋谷では相当のお金をかけなければインパクトは出ないはずですが、西日暮里なら少しの変化も街全体にとって大きなインパクトがある。そうした読みもあって、街との関係を絡めてやりましょう、となりました。
〈西日暮里スクランブル〉は、業務委託ではありません。僕らがまるごと賃貸し、工事もして運営していく。そういう意味では、お互いにリスクを持ち寄ってやるプロジェクトなんです。
■街に飛び火していく種を生む
── 建物の使い方は、どのように考えたのでしょうか?
宮崎:プロジェクトの大枠が決まってから、この建物自体をどうするかとなるわけです。利用期間は暫定的で、いつなくなるか分からない。契約はまず3年の定期借家契約なんですけど、開発の進み方次第で、その後も続けられるかもしれないし、続けられないかもしれない。僕らも短期で回収できるかたちにしないといけないので、あまりお金はかけられない。
その一方で、建物がなくなってしまうとはいえ、何もなかったことになるのは、つまらない。街に飛び火していく種を生むような施設になるといいなと思って。ここで新しい事業が生まれていったりとか、別のところでもやっていけるようなきっかけを生んでいきたいと思ったんですね。
駅前って、薬局と牛丼屋さんと携帯ショップみたいに、大手のチェーン店が並んで、どこも同じような風景になりがちですよね。
それで、普通であれば駅前に入居できなそうだけれど、街に対してコミュニケーションを取っていくことにポジティブな人たちに入っていただきたいと考えました。
フロアの真ん中に公共的な通路を1本通したうえで、両側に区画を細分化した店舗をつくっていきました。細分化すると面積は小さくなるけど賃料が抑えられるので、1フロアまるごと借りるのは無理でも、1ブースだったら借りられるんですよね。小さい事業者でも、手が届くくらいの金額になる。そういうかたちで、集めて一体とした複合施設にしようということになりました。
■提供者と消費者の障壁を下げたい
── かなり小さな単位ですね。本屋さんにいたっては、棚の単位で貸す形式です。
宮崎:1つの棚を、毎月4000円で借りられます。
現代って、サービスやモノを提供する側と消費する側が、あまりにも分かれてしまっていると思うんですよね。「お客様は神様」が行き過ぎると、サーブしてくれる人に高圧的になったりして。それはたぶん、自分がいつも我慢していることの憂さ晴らしで、社会的な病なのではないかと思ったりします。そんなにハッキリとスイッチを切り替えなくてもいいんじゃないかな、垣根をなるべくなくしていきたいなと。
もっとお互い様の関係というか、提供する側と消費する側のどちらにもなりうる状況をつくるために、「自分が参画できる余地を用意しておく」ということはすごく大事だと思っていて。月に4000円というのは、ハードルが低いですよね。
ここで地域のマップをつくっていくこともしているのですが、それもお客さんと店員の境目をなくしていくというか、同じ方向を見るというんですかね。働くときに店員を演じなければいけない感じとか、堅苦しいなと思っていて。
あまりどちらが提供者で消費者で、ということではない関係をつくっていきたいんです。それを、消費の中心と思われている駅前でやろう、というのが〈西日暮里スクランブル〉の主な視点です。
(#02 建築を学び設計する視点で街に関わる に続く)