東京・谷中の地で設計事務所「HAGI STUDIO」を主宰しながら、同エリアでリノベーションした建物で事業を行っている宮崎晃吉(みやざき・みつよし)氏。
「最小文化複合施設」〈HAGISO〉、谷中の街をホテルに見立てた宿泊施設〈hanare〉、また西日暮里駅に隣接する商業施設〈西日暮里スクランブル〉など、その業態は多岐にわたる。
有名アトリエ系の事務所で設計に打ち込んでいた宮崎氏が、事業を立ち上げ、同じ街で活動を広げていった狙いはどこにあるのか。
建築を学んだ視点で街に働きかけられることは、どのようなものか。
具体的な事例をもとに、町医者のような立場で街と関わりながら、事業を持続的に発展させる秘訣を聞いた。
今回は#05「モノの見方をリノベーションする」です。
(取材:2020.07.06 〈西日暮里スクランブル〉にて、jk)
Photographs: toha(特記をのぞく)
■町医者的な能力も重要
── 設計のスタッフは、飲食に興味があって来る人が多いですか。
宮崎:確かに多いですね。自分が設計した店舗でバーテンダーを週に1回やりたいという人もいますし。彼らは「一生設計だけでやっていく」という意識ではないのかもしれません。
プロフェッショナルに1つの分野を研ぎ澄ませていく方法も、もちろんあると思いますよ。ホテル建築だけを設計するとか。
そうして突き詰める力は素晴らしいですし、知識やノウハウは集約されますし、そういう人は必要だと思います。でも一方で、つなげていく役割も必要だなと思うんです。
プロフェッショナルであることが、世間ではもてはやされますよね。でももっとアマチュアリズムというか、専門特化をあえてしない能力も重要ではないかと思います。
これは、町医者的だと思っているんです。町医者は、まず「人を診る」というか、その人の生活とか人生とかを見ます。そのうえで、もし専門の先生にかかるのが必要だったら、脳外科医などに協力してもらえばいい。
町医者的な立ち位置が、僕はいいなと思っていて。
町医者になる場合は、なるべくいろんなことできたほうがいいですね。
■場所を一緒に楽しむという視点が広がっていく
── 地元で町医者的に始めた〈HAGISO〉などのプロジェクトは、海外からも注目されています。発信の仕方も、注目のされ方も変わってきていますね。
宮崎:宿の〈hanare〉なんかは、地球の反対側から毎年のように来てくれる常連さんがいます。
今はコロナ禍で自由に行き来がしづらい状況ですが、分断された社会の中で、世界がどう向かうのかという、なかなか面白い時期だとは思います。
ちょっとね、世間全般が「インバウンド、インバウンド」といって、外ばかり見ていた感じはあったんですよね。
なんというのでしょう…、外国からの観光客を金ヅルだと見る面が強ければ、最初に言っていたように、お客さんとこちら側の立場が、やはりはっきり分かれすぎていて。
「一緒にこの場所を楽しもうよ」というスタンスになれば、考え方は特に変わらないかと思います。
■人の頭の中をリ・デザインする
── これから考えられていること、やってみたいことはありますか?
宮崎:そうですね…、あまり計画を立てないほうなので、転がるように(笑)。
でも最近、自分がずっとやっているのは「デザインの力を使って、モノの見方を変える」ということだなと思っていて。
要は、人の頭の中をデザインするというか、リノベーションできればいいのかなと思っています。
それは、いろんなことに置き換えることができます。
街では、街の見方を変えるための体験です。入り口として、ホテルや飲食店が例えばあります。
メガネを通して見ると、全然違う光景が見えるという体験はあるじゃないですか。
ちょっとした社会課題だとしたら、課題だと思っていたことがポテンシャルに見えてきたりとか。
そうしたことも、自分の活動を通してやっていきたいと思っていて。活動で解決できるものがあればいいな、と思います。
問題が複雑に絡まりすぎて、スタックしてしまっているというのが、ミクロなスケールでもあるし、徒歩圏内や街の範囲でもあるし、グローバルな規模でもありますよね。
それらも、モノの見方次第ということもあるので、それを建築やプロダクトなどを通じて見方を提示したい、というのはありますね。
今はそうしたことを少しずつ、やっているなと思います。
(了)