「メゾン・エ・オブジェ」が初めてパリを離れて国外へ!
フランス・パリで開催される、インテリア・デザイン見本市「メゾン・エ・オブジェ(Maison&Objet)」を、展覧会として再構築した展示をはじめとするポップアップイベントが、東京・日本橋の日本橋髙島屋S.C.にて3月21日まで開催されている。
「メゾン・エ・オブジェ」は、1995年にパリで誕生した世界最高峰のデザインとライフスタイルのトレードショー。国際的な「BtoB」の場であるだけでなく、会期中に「デザイナー・オブ・ザ・イヤー」や、1国にスポットをあて、同国で活躍する若いデザイナーらを紹介する「ライジング・タレント・アワード」も併催するなど、世界のインテリア・デザインのトレンドを牽引する一大イベントとして、その動向は国内外から注目を集めている。
本展は、「メゾン・エ・オブジェ」としては初めて、フランス国外で開催される。本場「メゾン・エ・オブジェ」のエッセンスを伝えるため、総合ディレクション・コーディネートを、日仏クリエイティブ界の権威である、ジャンリュック・コロナ・ディストリア(Jean-Luc Colonna d’Istria)氏が務める。
「デザイン・ダイアローグ メゾン・エ・オブジェ・パリ展」と題して、東京のほか、京都、名古屋への巡回を予定。
日本橋髙島屋S.C.にて開幕した初日(3月3日)の開店前に、特設会場にてプレス内覧会が行われた。『TECTURE MAG』では、これを取材。展示の見どころをレポートする。
Text & Photo by Naoko Endo
プロローグの展示は必見!
本展の会場に入ると正面に見える、大きなタペストリー(絨毯壁掛け)は、ル・コルビュジエ(Le Corbusier|1887-1965)の創作によるものだ。1955年(昭和30)に日本橋の髙島屋で開催され、画家のフェルナン・レジェ(1881-1955)も参加した「巴里 1955年 芸術の統合への提案 ル・コルビュジェ、レジェ、ペリアン三人展」に出展されたもの。貴重な現物が展示されている(髙島屋史料館所蔵)。
そのほか、タペストリーの前には、ル・コルビュジエ(以下、コルビュジエと略)のパリの事務所に務めていたシャルロット・ペリアン(1903-1999)がデザインした、名作椅子の復刻版が並ぶ(展示協力:カッシーナ・イクスシー)。
モノクロの大判写真とともに、1955年の展覧会の一端でも雰囲気を伝えてくれる展示だ。
知られざるペリアン来日エピソード
本稿では、「デザイン・ダイアローグ メゾン・エ・オブジェ・パリ展」が髙島屋で開催される背景についても触れておきたい。
東京、京都、名古屋の3都市を巡る本展は、全て髙島屋にて開催される。同百貨店とフランスとの結びつきととして、1941年(昭和16)に日本橋の髙島屋で開催された「シャルロット・ペリアン展」(通称「選擇・傳統・創造」展、正式タイトル「ペリアン女史 日本創作品展覧会 2601年住宅内部装備への一示唆」)が最初に挙げられる。
ペリアンの初来日は、欧州に世界大戦の緊張が漲っている、1940年(昭和15)にさかのぼる。
当時の商工省(現在の経済産業省)から打診された、輸出工芸指導の装飾美術顧問の招きに応じたものだが、これには、建築家の坂倉準三(1901-1969)の存在無くしてはあり得なかったようだ。
コルビュジエのパリ事務所に勤務していた坂倉は、ペリアンとは元同僚であった。坂倉はペリアンに来日を乞う「手紙」を送っている。それは、長さ約8mという和紙の巻物で、しかも、棟方志功(1903-1975)の筆で美しい彩色まで施されていた。
異国からの美しい手紙に、それまで渡日を渋っていたペリアンの心は大きく動かされる。
本展会場のプロローグには、美しさを失っていない手紙の写真が添えられて、ペリアン来日時のエピソードが知れる展示パネルが筆頭にある。この「坂倉からの手紙」の写真は必見だ。
フランス人の3氏が会場を構成
プロローグより先の会場は、3部構成となっている。
全体の会場デザインを、キュレーター:エリザベス・ルリッシュ氏が担当。髙島屋のYouTube公式チャンネル(TakashimayaTV)で公開中の解説動画にも出演している同氏は、第2部で展開する新作コレクション「ホワッツ・ニュー」のキュレーションも担当している。
第1部と第3部のキュレーションは、フランソワ・ルブラン・ディ・シシリア氏によるもの。
第1部では、過去の「デザイナー・オブ・ザ・イヤー」の歴代受賞者のうち、21組のデザイナーがデザインした家具や照明、あわせて40点が展示される。いずれも、国際的に名の知れたデザイナーがデザインしたプロダクトが一堂に会するのが、今回の「デザイン・ダイアローグ メゾン・エ・オブジェ・パリ展」の大きな見どころとなっている。
展示は、「デザイナー・オブ・ザ・イヤー」を受賞した年の順に並ぶ。
第1部出展者一覧
1999年受賞者:Paola Navone / パオラ・ナヴォーネ(イタリア)
1999年受賞者:Christophe Delcourt / クリストフ・デルクール(フランス)
2000年受賞者:Philippe Starck / フィリップ・スタルク(フランス)
2001年受賞者:Jasper Morrisson / ジャスパー・モリソン(イギリス)
2003年受賞者:Patrick Jouin / パトリック・ジュアン(フランス)
2004年受賞者:India Madhavi / インディア・マダヴィ(フランス)
2007年受賞者:Noé Duchaufour-Lawrance / ノエ・デュショフール=ローランス(フランス)
2007年受賞者:Konstantin Grcic / コンスタンチン・グルチッチ(ドイツ)
2008年受賞者:Patricia Urquiola / パトリシア・ウルキオラ(スペイン)
2010年受賞者:Jaime Hayon / ハイメ・アジョン(スペイン)
2011年受賞者:Ronan & Erwan Bouroullec / ロナン&エルワン・ブルレック(フランス)
2012年受賞者:Humberto & Fernando Campana / ウンベルト&フェルナンド・カンパーナ(ブラジル)
2012年受賞者:Tokujin Yoshioka / 吉岡徳仁(日本)
2013年受賞者:Edward Barber & Jay Osgerby / エドワード・バーバー&ジェイ・オズガビー(イギリス)
2014年受賞者:Tom Dixon / トム・ディクソン(イギリス)
2014年受賞者:Philippe Nigro / フィリップ・ニグロ(フランス)
2015年受賞者:nendo / 佐藤オオキ(日本)
2017年受賞者:Pierre Charpin / ピエール・シャルパン(フランス)
2019年受賞者:Sebastian Herkner / セバスチャン・ヘルクナー(ドイツ)
2020年受賞者:Michael Anastassiades / マイケル・アナスタシアデス(イギリス)
2022年受賞者:Franklin Azzi / フランクリン・アジ(フランス)
展示の切り口が「椅子」と「照明」である理由
第1部では、ブラジルのウンベルト&フェルナンド・カンパーナの展示などの例外はあるものの、第1部で見られるプロダクトは、主に椅子と照明である。
その理由は、椅子と照明は生活に欠かせない、身近なプロダクトであること。
椅子は「座る」という、受け止める行為じたいはシンプルだが、機能として人間工学の要素が不可欠となる。仮に見た目がシンプルでも複雑な構造を有していたり、かつ、職人たちの熟練の技が駆使されている椅子も多い。
照明も同様に、機能とテクノロジーの両立が課題となる。さらには近年、LEDの登場により、自由度が高まり、それまでは不可能だったデザインも実現している。
本展では、デザイナーとして基本的な部分と、自由な発想が試され、どちらもコンセプトが如実に立ちあらわれるプロダクトとして、椅子と照明が第1部の展示テーマとして選ばれた。
分類としては同じ「ラウンジチェア」でも、デザイナーによってその解釈と生み出されたデザインは異なる。そのあたりの比較も、第1部の見どころの1つである、というのは、内覧会のプレスツアーでガイドを務めた、メゾン・エ・オブジェの日本総代理店であるデアイ(DE AI)の代表を務める榎本アコ氏の談である。
第2部はパリに先駆けた新作披露
第2部は、新作コレクション「ホワッツ・ニュー(What’s New?)」の展示。例年、パリの「メゾン・エ・オブジェ」でもハイライトとなる展示の1つであり、今年1月の開催予定が今月24日からの延期されているため、日本橋会場の展示は、パリに先駆けた新作披露となった。
会場全体の演出と空間デザインを担当するエリザベス・ルリッシュ氏が、社会の兆候やトレンドを分析し、新しいライフスタイルを提案する。
テーマは「Elements of Nature(自然の要素)」
2022年の「メゾン・エ・オブジェ」は「Elements of Nature(自然の要素)」をテーマに掲げている。
テーマは以下の3つ。
・Essential Nature(エッセンシャル ネイチャー / 本質的な自然)
・Contemplative Nature(コンテンポラティブ ネイチャー / 瞑想的な自然)
・Sculptural Nature(スカルプチュラル ネイチャー / 彫刻的な自然)
日本橋会場でも、パリと同じ3つのテーマとそれぞれのコンセプトに沿って、注目の新作家具や照明、インテリアアクセサリーなど約200点が配置されている。
パリで今月24日より開催される「メゾン・エ・オブジェ」で特集される国は日本。第3部では、日本人クリエイター6人と、近年フランスで注目されている6組のデザイナーが、キュレーションを担当したフランソワ・ルブラン・ディ・シシリア氏によって選出され、通路を挟んで左右に分かれて作品を展示する。
この配置は、デザインを媒介として、2つの国のデザイナーの対話(ダイアローグ)を促すという、本展のテーマが表現されている。
第3部出展作家(展示室入口からの配置順):
日本:黒川 徹(Toru Kurokawa)、岩元航大(Kodai Iwamoto)、氷室友里(Yuri Himuro)、坂下 麦(Baku Sakashita)、狩野佑真(Yuma Kano)、簑島さとみ(Satomi Minoshima)、三澤 遥(Haruka Misawa)
フランス:マチュー・ペイレール・ギリニ(Mathieu Peyroullet Ghilini)、ジュリ・リジョス(Julie Richoz)、ナターシャ・サシャ(natacha sacha.)、エイドリアン・ガルシア(Garcia Adrien)、オドレイ・ギマール(Audrey Guimard)、ウェエンディ・アンドレウ(Andreu Wendy)、ロールリーヌ・ガリオ(Laureline Galliot)、サミュエル・トマティス(Samuel Tomatis)
なお、日本側の展示では、2022年に新設された、アトリエ・ダール・ドゥ・フランスによる選出「ライジングタレント・アワード・クラフト」に選ばれた、黒川 徹氏の作品も展示されている。
狩野佑真氏による「ForestBank」は、小枝や枝葉、樹皮、根、実、そのほか森の土などの自然にある素材をそのままを原材料に使用したもので、これらの素材を細かく砕き、リサイクルボードへとアップサイクルして、テーブルとチェアを製作している。
元は、林野庁の補助事業で、林 千晶氏らが率いるロフトワークが主催したプロジェクト「WOOD CHANGE CAMP」(2020年11月公募、2022年3月成果発表)に応募したアイデア。採用され、具現化されたプロダクトである。
「Forest Bank」は実際に納品もされており、淺沼組が進める「GOOD CYCLE PROJECT(グッドサイクルプロジェクト)」のフラッグシップとなる、〈淺沼組名古屋支店〉の応接室に、テーブルが採用されている(『TECTURE MAG』にて特集を2021年9月30日掲載 / 詳しくはこちら)。
なお、第3部の日本人出展者6組は、3月24日からパリ市内で始まる「メゾン・エ・オブジェ」にも招かれ、作品を展示する。
「デザイン・ダイアローグ メゾン・エ・オブジェ・パリ展」開催概要
会期:2022年3月3日(木)~3月21日(月・祝)※会期中無休
会場:日本橋髙島屋 S.C. 本館8階ホール
所在地:東京都中央区日本橋2-4-1(Google Map)
開場時間:10:30-19:00(19:30閉場)※最終日3月21日(月・祝)は15:30まで(16:00閉場)
入場料:一般、大学・高校生500円、中学生以下無料
※障がい者手帳あるいはデジタル障がい者手帳の提示で本人および同伴者1名まで入場無料
問合せ先:03-3211-4111(日本橋髙島屋S.C. 代表)
主催:髙島屋、朝日新聞社
企画監修:SAFI(メゾン・エ・オブジェ主催者)
企画協力:デアイ(DE AI / メゾン・エ・オブジェ日本総代理店)
後援:在日フランス大使館 / アンスティチュ・フランセ日本
巡回予定
髙島屋京都店:2022年4月28日(木)~5月9日(月)
ジェイアール名古屋タカシマヤ:2022年8月17日(水)~8月30日(火)
※COVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡大状況など諸事情により、当初発表の内容や会期などが変更あるいは中止となる場合あり。
最新の情報は、日本橋髙島屋 S.C.公式ウェブサイトや特設ページにて発表。
「デザイン・ダイアローグ メゾン・エ・オブジェ」特設ページ
https://www.takashimaya.co.jp/store/special/maison-objet/