FEATURE
Dialogue: Kashiwa Sato × Makoto Tanijiri(3/3)
佐藤可士和(クリエイティブディレクター)× 谷尻 誠(建築家 / 起業家)(3/3)
FEATURE2022.05.24

【対談】佐藤可士和×谷尻 誠「ブランディングと建築、これからの建築とデザイン」

#03 これからの建築を違う視点で考えてみる

FEATURE2022.05.10

【対談】佐藤可士和×谷尻 誠「ブランディングと建築、これからの建築とデザイン」

#01 ブランディングの領域はどこにある!?
FEATURE2022.05.17

【対談】佐藤可士和×谷尻 誠「ブランディングと建築、これからの建築とデザイン」

#02 モノをつくらないでできることも考える
FEATURE2022.05.24

【対談】佐藤可士和×谷尻 誠「ブランディングと建築、これからの建築とデザイン」

#03 これからの建築を違う視点で考えてみる

クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏と、建築家 / 起業家の谷尻 誠氏が繰り広げる、ブランディングと空間づくりの深い関係。

佐藤可士和氏と谷尻 誠氏が互いの実践を通して、ブランディングの本質と空間の関わりを語る特別対談。
#03では、これからの時代にふさわしい空間について、両者のアイデアが膨らみます。

Photographs: toha(特記をのぞく)

#03 Contents

■バーチャル空間、仮設、空中。これからの空間づくり
■変化の時代にふさわしい空間を探る
■大文字焼きのようなものをつくるには

バーチャル空間、仮設、空中。これからの空間づくり

谷尻 誠:可士和さんは、ブランディングという言葉がない頃からずっとやられていたわけですよね。

佐藤可士和:そうですね、かなり前からブランディング的なことはずっと考えてきた気がします。ブランディングもインターネットの本格的な導入以降、IT環境が整ってからコミュニケーションとともに変化しましたね。谷尻くんは、デジタル領域のことはどう考えているの?

谷尻:可士和さんは「VRゴーグルで見るのが正解な時代」と言っていましたよね。僕はバーチャルの建築を設計することも職能になる時代なんじゃないかと思っています。

たまたま今、とある会社のプロジェクトで、デジタル空間の設計をしているものがあるんです。やってみると、バーチャルの建築ばかり設計する事務所があってもおかしくないなと思いましたよ。

佐藤:全然アリだよね。物理的な意味では建物が必要だと思うんだけど、内部空間で考えると、部屋全部がモニタになるとか。そうなると今度は、モニタに映っているコンテンツのほうが重要になったりする。そうしたことは、もはやエンターテイメント空間では実現されているし、建築家がその役割を担っても面白いと思うけどね。

バーチャルでは重力などの制約がなくなるから、デザイン的には自由度が飛躍的に上がる。ある意味、何でもありになるわけなので。そうすると、専門的に建築の勉強をしていない人が建築家になったりもするよね。映画監督が世界感を構想して空間デザインをやるとか、どんどん融合していく気がします。

谷尻:インテリアデザインで活躍しているローマン&ウィリアムスも、もとは映画の舞台美術をやっていました。ある種の空気感で情緒をつくり出すほうが、よりリアリティをもって空間をつくれたりします。

一方で、建築家やインテリアデザイナーって、情緒とか雰囲気よりも空間をつくることを目的にしてしまう節もあるなと。リアリティをもっている人のほうが本物っぽくつくれたりすることは、バーチャル空間ではより起きやすいと思います。

佐藤:あとは、物理的にも仮設というか、仮のものでいろいろすることに興味があるんだよね。キャンプのテントサイトと一緒で、仮設でいったん出現させて、みんなが楽しんで、写真を撮ってコミュニケーションができて、体験が終了したら撤収するという。それでゴミも出なかったりしたらいいな、とか。使われなくなった建物ほど、寂しいものはないじゃない。

谷尻:一時期には「ハコモノ」と言われるくらい、ソフトのことを考えずにつくられたものが世の中にたくさんあって。ああした建物に1つひとつ、丁寧に行為を与えていきたいですね。

佐藤:あと、空中にもすごく興味がある。これから普通に宇宙に行く時代も来るからね。

谷尻:空中、いいですね(笑)。

佐藤:空中が、ビジネス的にもコミュニケーション領域的にもすごく注目されるようになると思う。ドローンが普及して身近になったことで視点が変わったから。

実験的な空間プロジェクトとして〈NISSIN KANSAI FACTORY〉や〈FLAT HACHINOHE〉では、上空から見えるシーンを大切なビジュアルポイントととらえてデザインにしています。そういう空中視点のデザインをさらに進めていきたいなと。

〈NISSIN KANSAI FACTORY〉Photographs: Takumi Ota

そうすると今度は空中に浮いているものも、デザイン要素になると思う。それを建築と呼ぶのかどうかは分からないけど、デザインが必要とされる領域になるでしょう。

谷尻:いいですね。可士和さんに建築をブランディングしてほしいですよね。

変化の時代にふさわしい空間を探る

佐藤:谷尻くんとなにかプロジェクトをするとしたら、プロジェクトのあり方自体が面白いようにできたらいいな。

谷尻:そういう意味では、可士和さんが「ないものをあるものにしていく」というのをやりたいですね。つくるべきだとならないと、意味が薄い気がします。

佐藤:物理的には何にもつくっていないんだけど「すごい場ができた」みたいなことをやりたい(笑)。言葉がつくっていくことなのかもしれないけどね。概念を与えると、今まで見えていたものと同じものなのに、まったく違って見えるとか。

もしくは、同じものなんだけど違う使い方が見つかっていけば面白い空間になると思う。クリエイティブを加えることによって、場の意味や目的・価値がまったく生まれ変わることは、すごく面白いと思う。リノベーションというか、リブランディングかな。谷尻くんは、そういうものについてはどう思っているの?

谷尻:そうですね、基本的にいつも言うのは、僕ももちろん建築をつくることはすごく好きなんですけど、それをやってどうなるのかにすごく興味があります。

この間たまたま友達に頼まれて、自宅の車1台分のガレージに「奥さんがお店をやりたいからお店にしてほしい」って言われたんですよ。もちろん車庫を全部ふさいでお店にする方法もあったんだけど、車が停まっているみたいに、店が停まっているほうがいいんじゃないかと提案して。可動式にできるような店というコンセプトで、「SIaCO(シァコ)」という名前のお店をつくったんです。

〈SIaCO〉Photographs: toha

車庫を単にリノベするんじゃなくて、「車が停まっているみたいに、店が停まってるほうがいいんじゃない?」と言って。もちろん全部ふさいだほうが空間は広いんですけど、わざと小さくして、店がどこかに出ていけるような雰囲気にして。「可動できるようなお店」というコンセプトで「車庫」という店をつくったんです。

〈SIaCO〉Photographs: toha

プロジェクトとしてはすごく小さいし、コストも最小限。でも価値は最大化する。そういうリノベーションをすることによって、「家にガレージをもっている人が店を始めたら人生が変わった」といった価値変換というか、世の中の人がそういうふうになっていけるようなものがやりたいなと。

佐藤:実際に移動することも、テクノロジーでできるかもしれないね。そうした構想が大事だと思う。モビリティの概念は、すごく面白いよね。建築って、移動しないと考えられているから。

谷尻:そうですね、「可動産」には興味があります。あと、不動産と同じように、建物の機能も固定化されているので、機能がどんどん変容していくことにも興味があるんですよね。

今、自分たちで取り組みたいなと思っているプロジェクトがあって。賃貸のワンルームマンションなんですけど、入るとカウンター付きのオープンキッチンになっているという。ベッドルームは奥にあって、扉を閉めたら入り口のほうは飲食店にできるような住戸です。

会社勤めの人も、夜や週末だけお店をオープンするとか。副業がしやすくなるので、相場の家賃より少し高くても貸せる。それは賃貸マンションともいえるし、商業施設ともいえる。住宅地にお店をつくってはいけないという法律はあるけど、50㎡までだったらできるし、10㎡のお店が5つあれば、そのマンションに住んでいる人にとっては豊かさになりますよね。もしかすると、すごい繁盛店になって脱サラしてお店をやる人も出てくるんじゃないかとか。

賃貸マンションに機能の変容を与えることで、新しい集合住宅ができるのではないか。そういうモデルを銀行に話しても評価基準がなくて渋られるので、自分たちでお金を集めてつくってしまおうと思っています。

佐藤:時代はどんどん変わっていって、働き方の変化もコロナ禍で加速したし、職業は1つではなくなるよね。あらゆる領域で、1つだけやっている人が珍しくなるかもしれない。スマートフォンだって、プロダクトはすごくシンプルだけど中は無限だし。

谷尻:電話だけのスマートフォンという人はいないか。最高ですけどね(笑)。

佐藤:それはそれで憧れるけどね(笑)。単機能でないものが、建築的にもっと大胆にできていくといいな。

谷尻:これまでは、機能に合わせて建物をつくるという流れがほとんどなんだけど、機能を提示されていなくても、どうつくるかということが必要になってくると思います。

佐藤:それがいい言葉で表現できるといいよね。「多目的」と言われちゃうと、つまらない。多目的ホールとか言われると、何をするにも中途半端な感じがするじゃない(笑)。昔の日本間みたいな考え方って、スマホ的だなと思うんだけど。

大文字焼きのようなものをつくるには

谷尻:可士和さんがつくってみたいものってあるんですか?

佐藤:うーん…、ナスカの地上絵みたいなもの(笑)。大地とか地球みたいなフィールドをキャンパスにするスケール感でデザインできるといいなと思っています。俯瞰的な視点で見た時に認知されるようなことができたら面白いかな。何か、シンボルがつくりたいのかもしれない。それが公園になっていてもいいんだけど。

ナスカの地上絵は実際に見に行ったことがあるんだけど、セスナに乗って上空から見るツアーのほかに、地上で車で行くと広大な場所にポツンと火の見櫓(やぐら)みたいのがあって、登ると地上絵が見える場所がある。そのあり方が格好いいんだよね。

あと最近、改めて「すごい、あれはいいなぁ」と思ったのが、大文字焼き(だいもんじやき)。火を灯して「大」という文字を大きく表すだけの、昔から変わらないシンプルなやり方で、今でも機能しているわけじゃない。大勢の人々が大文字焼きの日に見に行くわけで、すごいパワーがある。

「あるとき」に現れて消える、そういうのはいいなと思っていて。それは建築ではないかもしれないけど、空間ではあるのかなと。空間とアイコンの融合のようなことをやりたいと、いろいろ考えています。

谷尻:いいですね。着眼点がすごく面白い。必ず記憶に残って、そこに意味を社会が見つけ出しますもんね。しかも空間的スケールだし。

佐藤:空間的スケールがあって、僕の中では空間デザインなんです。空間デザインなんだけど、テンポラリーのような気もするし、恒久のような気もする。大文字焼きをそのままやりたいわけじゃないけど、存在というか見方かな。そうしたことが「つくらない建築」につながらないのかな、とか、そうしたことを悶々と考えているんです。谷尻くんは、他につくりたいものはあるの?

谷尻:広島の市内から1時間くらいのところにある滝つぼの横に、6000㎡の土地を買ったんですよ。何をするかは決めていないんですけど、「まずは自分たちで草刈りしながら、ここで何をするかを考えよう」という、事務所のプロジェクトにしたんです。草を刈って、平地ができたらとりあえずキャンプして、そこで考えようみたいな。「その草を捨てるべきなのか、燃やすべきなのか、この草を使って何かできるんじゃないか」とか、そういうことを考えるキッカケになればいいなと思って。必ずしも建築をつくらないといけないプロジェクトではないんです。

佐藤:そのイメージがすごく大事かなと思っていて。「なんだか分からないんだけど、なんとなくこういうことがやりたい」みたいなことをずっと考え続けていると、いつかは形になっていくからね。

(2021.08.23 SAMURAIオフィスにて)

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