建築が「変形」する意味
建築における「変形」は、外観や空間をダイナミックに変化させるだけでなく、「砂塵からの保護」や「季節の変化への適応」などの実際的な問題、ニーズへの対応といった意味合いも持っています。
実際に世界各地に建つ変形建築は、どのような課題やニーズに対しどう「変形」するのか、といった点に注目してそれぞれのプロジェクトを紹介します。
内部の用途に合わせ眺望を変える〈外灘金融センター〉
【外灘金融センター】
設計:フォスター アンド パートナーズ、ヘザウィックスタジオ
上海のウォーターフロント近くにおける8棟の建築からなる開発計画。その計画の中心となるのが”可動式のベール”を備えた芸術・文化センター。
展示やイベントホール、パフォーマンス会場としても活用できる空間であり、その用途にあわせてファサードの”可動式のベール”が回転し、バルコニーのステージや外の景色を見せる。
https://mag.tecture.jp/culture/20220519-the-bund-finance-center/
©︎ LAURIAN GHINITOIU
ドバイの砂塵からソーラーパネルを守る〈UAEパビリオン〉
【UAEパビリオン】
設計:サンティアゴ・カラトラバ
昨年の10月から今年の3月末まで開催されていたドバイ万博2020(Expo 2020 Dubai)におけるUAEのパビリオン。
国鳥でもあるハヤブサがモチーフのカーボンファイバー製の羽が開閉することで、時折風に乗って飛び交う砂をシャットアウトする。ドバイ特有の環境に対応するための変形機構。
居住者のニーズや季節の変化に対応する〈シャリハ・ハウス〉
【シャリハ・ハウス】
設計:Nextoffice
イランの首都テヘランに建つ、季節の変化や住み手のニーズに「ターニングボックス」が回転し対応する住宅。イランの伝統的な家屋が「夏の居間」と「冬の居間」という2つの居間により季節ごとに居住様式を変化させていたことから着想した変形住宅。
夏には広く大きなテラスを備えた、開放的で多孔質なボリュームを提供。雪が降るほど寒い冬には、建物のボリュームは閉じられ、広いテラスはなくなり、最小限の開口部のみとなる。
歴史的な環境に溶け込みつつ開く〈ビジターセンター・ダイフェンフォールデ〉
【ビジターセンター・ダイフェンフォールデ】
設計:70Fアーキテクチャ
オランダ・フォールスホーテン市に建つ国指定の記念碑、ダイフェンフォールデ城とその領地に属するビジターセンター。
13世紀から建つ城という歴史を持った環境に対し、「納屋のような外観でありながら透明性があり、人を迎え入れる雰囲気をもつ建物」という依頼から設計された。
朝に開き、夜には閉じる9つの可動式ファサードパーツを備え、ファサードを開くと明るいレストラン、閉じると周囲に溶け込む控えめな納屋となる。
https://mag.tecture.jp/culture/20220615-visitor-center-duivenvoorde/
ハレの日を祝う〈パンダタワー〉
【パンダタワー】
設計:UDGアトリエアルファ
ジャイアントパンダの保護・研究機関であり、パンダと身近に触れ合える中国・成都の庭園都市型テーマパーク「成都ジャイアントパンダ繁殖研究基地」のランドマークとなっている展望台。
カーテンウォールシステムの上部は、ジャイアントパンダの赤ちゃんの誕生や、海外施設からのジャイアントパンダの帰還、重要な祝日や祭りといった特別な日に、設定された角度や速度に従いファサードユニットが開くようプログラムされている。
https://mag.tecture.jp/culture/20220415-panda-tower/
その場所特有の気候やイベントといった外的な要因だけでなく、空間の用途や利用者のニーズといった内的要因に対しても、建物自身が「変形」することでダイナミックに対応する変形建築。
環境や社会が目まぐるしく変化する現代だからこそ、「変形」はこれからの建築のキーワードになるかもしれませんね。(tt)