FEATURE
NEXT GENERATION ARCHITECT Vol. 1(2/2)
Interview with Kei Sasaki(2/2)
FEATURE2024.05.01

佐々木 慧:正しさの先にある「面白い建築」を求めて

[Interview]次代の建築をつくる 第1回(後編)

インタビュー前編 / NEXT GENERATION ARCHITECT Vol. 1

FEATURE2024.04.24

佐々木 慧:正しさの先にある「面白い建築」を求めて

[Interview]次代の建築をつくる 第1回(前編)

都市と自然との間で「面白い建築」を模索するaxonometric。その設計活動の背景には、拠点とする福岡の土地柄やリモート環境の普及なども見られた。これからも「面白い建築」をつくり続けていくうえで、axonometricが目指す組織のかたちとは何なのか。

佐々木 慧氏

INDEX

  • 万博における「正しさ」と「面白さ」のバランス
  • 森に配慮した建築のかたち
  • 1つの風景を共有すること
  • 拡がる建築家の職能
  • サステナブルな設計事務所であるために

万博における「正しさ」と「面白さ」のバランス

── 進行中のプロジェクトをいくつかご紹介いただきたいです。 (3月22日 取材時)

佐々木:2025年に開催される日本国際博覧会(大阪・関西万博)ポップアップステージの1つを計画しています。万博の開催期間は約半年と、建築としては短すぎる時間です。そのため、開催期間中だけでは完結させず、いかに社会環境のサイクルの中に組み込むかが必須といえました。これは「正しさ」の1つですね。たとえば、ここでコストや工期の正しさのみを求めるのであれば、プレハブ建築が最適解となってしまいます。それでは面白くありませんし、それが必ずしも良い建築とは思いません。

僕たちの提案では、木材の流通の過程に建築を位置づけています。樹を切り製材とする前に丸太を乾燥させるのですが、その寝かせるだけの乾燥期間を空間化することで、建築の背景にある大きなサイクルを可視化し、来訪者の意識に訴えかけようという試みです。

〈日本国際博覧会(大阪・関西万博)ポップアップステージ〉イメージパース。Image provided by axonometric

佐々木:丸太は、丸太同士を繋ぐワイヤーの引っ張り力により浮かせることで乾燥効率を高めています。テンセグリティという構造で、構造家の荒木美香さんと協働で進めています。丸太は乾燥する過程で収縮するため一般的に建築には活用できませんが、ワイヤーの締める強さを調整することで、期間中の収縮変化にも対応していきます。会期後の丸太は、金物の付いた端30cmを切って改めて製材されます。

1970年に開催された大阪万博では、新しさが求められ、未来にワクワクすることが当時の「正しさ」であり「面白さ」と直接結びついていました。ですが、現代社会において「正しさ」はコストや効率性に偏っており、「面白さ」とのバランスを取るのが難しくなってきています。僕たちは、このプロジェクトで現代の正しさに乗りながらも、いかに面白くできるかを考えています。

ワイヤーによって浮かぶ丸太が、ステージの全体像を浮かび上がらせている。Image provided by axonometric

森に配慮した建築のかたち

佐々木:〈スタンスレジデンス植物園外苑〉のクライアントである LANDIC さんは、都市での暮らしを開拓しながらも、自然との共生を追及しているディベロッパーです。都市と自然との間に建築を見出すことは、axonometric の命題でもあるので、LANDIC の掲げる理念は共感できるものでした。このプロジェクトで僕たちは、レジデンス占有の庭とドッグラン、付随するシェアキッチンなどを含むランドスケープの計画を担当しています。

計画地は福岡市の中心地にほど近い、手つかずの森が遺る風致地区に隣接した場所です。ここでも丸太を活用しているのですが、この森や周囲の幹線道路との距離感を調整するため、人の居場所を囲い取るように丸太で空間をつくっています。丸太は既存の樹木を避けながら配置し、基礎などは打たず、地面に直接差し込み森の一部となるような構造体としています。また、開発で伐採せざるを得なかった樹木も利用していく予定です。このように、既存の森を遺しながら、それと新しくできる人の居場所の間に境界が生まれないように配慮して計画を進めています。

〈スタンスレジデンス植物園外苑〉イメージパース。Image provided by axonometric

佐々木:建築物の平面や立面は、既存や周囲の自然環境から形づくられています。設計に先立ち計画地とその周囲を3Dスキャンし、土地の高低差だけでなく樹の高さや幅、その枝ぶりなどを厳密に計測してそれを避けるように形を決定しました。構想から約1年、この春にようやく着工となりますが、野生の森と相対した課題が今後も現場で出てくると思います。それが不安でもあり、同時に楽しみでもあるプロジェクトです。

シェアキッチンの庇は、樹の枝を切らずに済む高さに収められている。Image provided by axonometric

1つの風景を共有すること

佐々木:〈八重洲のオフィス〉は、約1,300平米のワンフロアの内装計画です。クライアントはある大きな企業で、社員同士でも互いにどのような事業やプロダクトが社内で開発されているのかうまく共有できていない状態でした。そこで、社員が自分の担当以外の幅広い事業や製品・技術にも精通することで、連携を強化して事業創出と拡大に繋げられる、一体感を生みだせるような共創の空間がテーマとなりました。

さまざまな人々やアイデアが集まるための多様な場所が与件として求められたのですが、それをそのまま計画してもバラバラな空間の寄せ集めにしかなりません。そこで、皆で共有できる1つの象徴的な風景をつくろうと考えました。1本の帯状の物体を、全体の意識を統合する媒体として位置づけています。1本の白い帯が、フロア内を有機的に巡り、部分的に間仕切りになり、キッチンカウンターになり、作業机になり、ベンチになり、イベントスペースのステージになります。

〈八重洲のオフィス〉完成イメージ。Image provided by axonometric

佐々木:これまで、都市と自然との間で建築を考えてきました。そのため、今回のようなインテリアの仕事では何が出来るのか、ある意味で axonometric のコンセプトに立ち返り考えるようなプロジェクトです。

コンセプトを整理する中で、僕たちはこの1本の帯を、大陸を流れる1つの河に例えました。生態系や文明の多くは、水の流れる河を起点に栄えてきたという歴史があります。同じ河であっても、遠く離れた上流と下流では互いに起きた出来事を直接共有することはありませんが、同じ風景は共有され、その中であるまとまった文化が育まれていきます。

インテリアに自然をそのまま取り込むことは難しいですが、自然と人との関係性を取り込むことはできないかと考えたのです。

室内を巡る白い帯が、その場の活動に応じて姿を変えていく。Image provided by axonometric

拡がる建築家の職能

── 最近、興味のある事柄があれば教えてください。

佐々木まだ構想段階ですが、近いうちに自ら出資して設計以外の事業を起こせないかと考えています。クライアントの気持ちを芯から理解する意図もありますが、一度クライアントワークから離れて建築を考えてみたいのです。たとえば、自邸を設計してカフェを併設する、といった目新しくはない事業でも良くて。何かしらの社会性を担うものが自分発信で実績として残せれば、事務所の次のステップにも繋がるのではないかと考えています。

建築家は、ディレクション側の提案に対してデザイン的にアプローチできる職能だと思います。僕の身の回りでは、建築家に対するそうした認識が広がってきている実感があって、「土地とお金はあるけど、何に活用すれば良いか分からない」というような相談を受ける機会が増えてきました。 axonometric では、設計の上流の仕事にも携われるぞ、という実績を積み上げていきたいです。

── 建築家の活動を柔軟に考える方は、佐々木さんの同世代くらいから目立ってきている印象があります。

佐々木:どの世代から、という具体的な転換期は分かりませんが、それまでの建築家像や設計事務所のあり方に疑問をもつ人は増えてきているかもしれませんね。僕は大学の建築学科を出た後、アトリエ系の設計事務所を経て独立しました。これは日本の建築家の王道なキャリアかと思います。その中で、上の世代が抱えている設計のシンドい部分と社会とのギャップを常々感じていました。発表される建築物のクオリティは高いけど、働いている人の苦労が隠れ、業界全体でそれが軽視されているという違和感です。

僕も時間を忘れ仕事に没頭する時はありますが、作品のクオリティを保ちながら適度に休めるなら、それが理想ですよね。スタッフも含め、インプットをしていく時間も必要です。社会性が常に求められる建築界にとって、その働き方が現代のサステナビリティと乖離しているのは大きな問題です。

将来的には axonometric を大きな事務所にしていきたいので、組織体制はサステナブルでありたい。スタッフには休日も残業代もなんとか出すようにしていますが、忙しい業界であることに変わりはありません。
ですが、面白い仕事であればスタッフは付いてきてくれます。逆に言えば、結果的に良い経験になるのだとしても、いま取り組んでいる仕事が面白くなければ離れていくでしょう。先ほど話した「この建築が面白いかどうか」は、組織体制の視点で見ても事務所にとっての核なのです。

サステナブルな設計事務所であるために

── 今後、axonometric をどういった設計事務所にしていきたいですか?

佐々木:将来的には組織の規模を大きくしていきたいのですが、そのためにもサステナブルな組織体制を目指しています。僕の指示だけで回るワントップの体制はサステナブルではないと考えています。トップに何かあったら組織が機能しなくなりますし、指示がないと進まないから仕事量やパフォーマンスにも限界がある。何よりやらされる方はモチベーションを保つのも難しいですよね。

サステナブルな組織であるために、思想を共有しているスタッフを出来るだけ育てて、片足だけでもいいので会社に残り続けてほしいと思っています。うちは副業も推奨してますし、実際すでに不定期に顔を出すようなメンバーも多くいます。スタッフが「axonometric」という共同体を利用して各々の活動の幅を拡げながら、全体としては1つの方向を向いているような組織にしたいのです。

axonometricの事務所。Photo: axonometric

── サステナブルな事務所であるために、実践していることは何ですか?

佐々木:図面やテキストを意識的に僕自身が具体的に描かないようにしていて、細やかな決定を下せるリーダー層を厚くしようとしています。もちろん共有の場は定期的に設けていますが、僕が口出ししすぎないように、“なるべく放置する”ように気を付けています。

いま事務所のスタッフは10人ですが、その倍くらいの人と外注契約していて、時々の事務所の仕事量に合わせて流動的に動いてもらっています。中には顧問的なシニアアーキテクトもいて、図面のディテールや仕様などはまずは僕よりもその人に確認してもらっています。

僕自身は、設計の具体的なところと適度に距離を置きたいのです。一定のアマチュアリズムには案をジャンプアップさせる側面があって、すべての決定権を僕自身がもってしまうと僕の頭の中に建築が収まってしまいます。それでは想像を超える建築は生まれないし、スタッフも成長できない。組織としての作品のクオリティも上がらないと思います。

学生のころからさまざまなアトリエ事務所に出入りさせてもらっていて、そのほとんどはワントップの組織でした。ワントップでなければ成し得ない建築のクオリティがあり、 実際にそれを目の当たりにしてきました。それは大変刺激的な日々でした。ですが一方で、建築のクオリティは当然そのトップの能力にすべて委ねられるわけで、僕だとこの方法でやっても勝てないなと実感しました。axonometric では、チームの力で、僕個人の想像を超えるような面白いものを、サステナブルにつくっていけるようにしたいのです。

実は、独立直後は事務所名に自分の名前を入れていたのですが、僕よりも組織自体が表に出てきてほしくて1年ほどで改名しています。いつか、多様なトップが何人もいる設計集団となって、僕もあくまでその中の1人でいられるような、みんながフラットな関係で入れるような環境にしたいなと考えています。

(2024.03.22 東京にて)

Interview & text: Suzuki Naomichi
Photo: TECTURE MAG

インタビュー前編 / NEXT GENERATION ARCHITECT Vol. 1

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佐々木 慧:正しさの先にある「面白い建築」を求めて

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