日本を代表する建築家 隈 研吾氏は、自然素材を巧みに活かしたデザインで建築界を牽引しています。特に、日本国内のプロジェクトでは、木材を効果的に組み合わせた独自のデザインが印象的で、そのイメージを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
一方で、隈氏は数多くのプロジェクトを海外でも手がけており、そこでは国内とは異なるデザイン哲学や意外性、地域性が色濃く反映されています。
本記事では、隈 研吾氏が率いる隈研吾建築都市設計事務所が設計した国内外の美術館・博物館のうち、20の建築作品をご紹介します。世界中で展開されている多様なデザインと、その魅力に触れてみてはいかがでしょうか。
【中国・江蘇】「陶都」の文化と歴史を反映する、陶器の山のような美術館
〈UCCA陶美術館〉
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©︎ Eiichi Kano
〈UCCA陶美術館〉は、陶器の生産地として名高い中国の宜興市に建設された、陶文化を展示する美術館です。敷地近くにそびえる蜀山や歴史ある龍窯から着想を得た山のようなデザインが特徴的な建築であり、仮想の球面によって削り取られた逆シェル構造の屋根は、四重の木造格子梁が支えています。
また、地元職人と共同で開発した、凹凸のある表面や釉薬による色の変化が施された陶板により、陶器らしい温もりを感じられるファサードを生み出しています。
竣工:2024年
【韓国・ソウル】ランダムなアルミパイプに包まれた、音を五感で楽しむミュージアム
〈オーディウム〉
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© Yongbaek Lee
「オーディオ+ミュージアム」を意味する〈オーディウム〉は、視覚的要素だけでなく、音、光、風、香りなど、すべての感覚を体験できるミュージアムです。
建物を包むランダムに立ち並ぶアルミパイプが、森の中の陽光のような美しい効果を演出し、内部へと進むごとに木の空間へと移行していきます。
竣工:2024年
【日本・熊本】樹齢400年の倒木が支えるルーバー屋根の新たな杜
〈青井の杜国宝記念館〉
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©︎ Masaki Hamada / Kkpo
〈青井の杜国宝記念館〉は、熊本県人吉市に建つ国宝神社建築〈青井阿蘇神社〉の横に建つ、社務所、ミュージアム、地域の交流の場である畳の大広間を複合した参集殿です。
繊細な組物と茅葺き屋根からなる迫力ある社殿に対峙するにあたり、木製ルーバーにより茅葺き屋根の特徴を表現しつつ、その大屋根を樹齢400年の杉の倒木が支えています。
竣工:2023年
【日本・宮城】震災の記憶を未来に紡ぐ文化施設
〈南三陸311メモリアル〉
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©︎ Keishin Horikoshi・Kosuke Nakao/SS Tokyo
〈南三陸311メモリアル〉は、東日本大震災で大きな被害を受けた南三陸の復興計画の一環として設計された、震災の記憶を伝える品々や、アーティストが震災に触発され作成した作品などを展示する、ミュージアム機能を備えた文化施設です。
他施設の軸線とストリートをつなぐため、人の流れを吸引する「孔」としてデザインされており、ルーバーが中心から放射状に配置したファサードによりその吸引力を強化し、より強く、人と人、人と大地を接続しています。
竣工:2022年
【中国・寧波】民家の屋根と周囲の山のスケールを併せもつ美術館
〈韓嶺美術館〉
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©︎ Songkai Liu
中国の東沿岸部に位置する村の湖畔に建つ〈韓嶺美術館〉は、美しい自然が広がる古い村の歴史や文化、芸術を発信する場所として計画された美術館です。
民家の小さな屋根の集合体としてデザインされた山のような建築であり、民家のヒューマンなスケールをもちながら、湖の周りに広がる山々の景観の中に溶け込みます。
竣工:2022年
【フランス・パリ】庭園の延長としてデザインされた展示空間の美術館
〈アルベール・カーン美術館〉
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© Michel Denance
〈アルベール・カーン美術館(Albert Kahn Museum)〉は、パリ西郊、ブローニュの森の南側に位置する美術館です。設立者であるアルベール・カーンが世界を旅する中で記録した写真とフィルムを中心に展示しており、庭園には日本を含む世界五大陸の庭園が再現されています。
この庭園の園路の延長として展示空間は設計されており、経路と屋外との間に挿入されたアルミと木でできたスクリーンが両者の関係をコントロールし、庭園と展示、環境と建築を融合させた美術館です。
竣工:2022年
【デンマーク・オーデンセ】アンデルセン作品の「二面性」の世界を物語る美術館
〈ハンス・クリスチャン・アンデルセン美術館〉
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©︎ Rasmus Hjortshøj / COAST
〈ハンス・クリスチャン・アンデルセン美術館(New Hans Christian Andersen Museum)〉は、童話作家アンデルセンが生まれ育ったデンマークのオーデンセに建つ、隈研吾建築都市設計事務所とデンマークの設計事務所 MASU Planningと共同で設計した美術館です。
アンデルセン作品に見られる、現実と空想、人間と動物など相反するものの境界線があいまいな世界観を反映しており、地上と地下、屋内と屋外を行き来しながら美術館を旅する、作品の「二面性」を体感する空間となっています。
竣工:2022年
【日本・所沢】所沢の台地に現れる石のミュージアム
〈角川武蔵野ミュージアム〉
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© エスエス 島尾 望
〈ところざわサクラタウン〉は、美術館・図書館・博物館を統合した〈角川武蔵野ミュージアム〉や、工場や物流施設、オフィス、アニメ文化と連動する神社〈武蔵野令和神社〉といった施設が分野横断的に融合・統合された複合施設です。
〈角川武蔵野ミュージアム〉は、4枚の地殻プレートの衝突によって生じた、世界的にも珍しい台地である敷地から出現したかのような、花崗岩に包まれた建築です。また、製造棟や神社といった他の施設には大きな石のベンチや目の粗いアルミエキスパンドメタルのフェンスを配置することで、全体の調和が測られています。
竣工:2020年
【トルコ・エスキシェヒル】木材市場の歴史を示す、積み上がる木材の美術館
〈オドゥンパザル現代美術館〉
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© NAARO
トルコの都市エスキシェヒルの旧市街に建つ〈オドゥンパザル現代美術館(Odunpazari Modern Art Museum)は、かつて木材市場であった地域に設計された、積み上がる木材で構成された美術館です。
木造住宅が立ち並ぶ古都のまち並みに調和するよう、小さな箱の集合体として設計されており、通りに面した箱は住宅のスケールに合わせ、美術館の中心に向かうほど高くなり、地域の新しい文化的なランドマークとして都市景観に溶け込んでいます。
竣工:2019年
【日本・宮城】登米の歴史と武家文化を展示する博物館
〈新登米懐古館〉
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©︎ Forward Stroke Inc.
〈新登米懐古館〉は、仙台藩の城下町として知られ、江戸時代の武家屋敷の続くまち並みが再生されつつある宮城県登米市登米町に建つ、武家屋敷通りの一角に計画された、登米の歴史と武家文化を展示する博物館です。
美術館を小さなヴォリュームへと分割することで、武家屋敷独特のヒューマンスケールの再生をめざした建築であり、ひのきの皮を用いた「HIWADABUKI」と呼ばれる屋根の上に、時の経過とともにコケが生え、緑になっていく様子にヒントを得て、地元の石で葺かれた屋根と、緑化ルーフとを組み合わせています。
竣工:2019年
「登米懐古館」隈研吾建築都市設計事務所 公式サイト
https://kkaa.co.jp/project/toyoma-kaikokan/
【日本・石川】九谷焼のプロセスを見せ、学び、体験するミュージアム
〈九谷セラミック・ラボラトリー〉
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©︎ SS
〈九谷セラミック・ラボラトリー〉は、日本を代表する焼き物、九谷焼をつくるプロセスを見せ、学び、体験することのできる体験型ミュージアムです。
敷地は近くの花坂の山から取れた岩を砕いて粘土をつくる日本でも数少ない製土施設があった場所であり、その製土の機能を引き継ぎ、ミュージアム機能と合体させることで、日本のものづくりの深さを見せることのできるミュージアムとなっている。複合機能を1つの屋根によって地形のようにつなぎ、ここでつくられる花坂陶土で内外の外壁をつくり、カーボンファイバーを用いて伝統的な茶室の工法の下地壁を現代に再生し、透明性がありつつ土壁とマッチする耐震壁がデザインされています。
竣工:2019年
「九谷セラミック・ラボラトリー」隈研吾建築都市設計事務所 公式サイト
https://kkaa.co.jp/project/cerabo-kutani/
【スコットランド・ダンディー】川と建築を1つに融合し、環境に調和するミュージアム
〈V&Aダンディー〉
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©︎ Ross Fraser McLean
〈V&Aダンディー(V&A Dundee)〉は、スコットランド北部の都市ダンディーのウォーターフロントに建つ、ロンドンの〈ヴィクトリア・アンド・アルバート・ミュージアム〉の分館です。川に面する敷地であり、建築の一部を川の中にはり出すように建てることで、川と建築が1つに融合した新しい環境調和型建築、地形的建築のあり方を提案しています。
スコットランド北部のオークニー諸島の美しい崖からヒントを得て、プレキャストコンクリートのバーを、角度を変化させながら水平に積み重ね、陰影と変化のあるファサードをつくり出しており、パラメトリックデザインを駆使することで、自然のもつランダム性を、建築に導入しています。
竣工:2018年
「V&A Dundee」隈研吾建築都市設計事務所 公式サイト
https://kkaa.co.jp/project/va-dundee/
【スイス・ローザンヌ】キャンパスの3つの施設を「1つ屋根の下」につなぐ複合施設
〈Under One Roof〉
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©︎ Adrien Barak
〈Under One Roof〉は、ローザンヌ連邦工科大学のキャンパスにおける、新しい文化的な核となるアートラボです。アート&サイエンスミュージアム、テクノロジー・インフォメーションギャラリー、モントルー・ジャズカフェの3つのプログラムからなり、この3つのハコを全長235mの大きな勾配屋根の下に収めています。
このプロジェクトは、多様なものと異質なものが集合し、連帯することを意味する「1つ屋根の下(under one roof)」という日本のことわざを建築へと翻訳したものとなっています。
竣工:2016年
「Under One Roof Project for the EPFL ArtLab」隈研吾建築都市設計事務所 公式サイト
https://kkaa.co.jp/project/under-one-roof-project-for-the-epfl-artlab/
【中国・杭州】浮かぶ瓦のスクリーンに包まれた、大地と一体化する博物館
〈中国美術学院民芸博物館〉
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©︎ 加納永一
竣工:2015年
「中国美術学院民芸博物館」隈研吾建築都市設計事務所 公式サイト
https://kkaa.co.jp/project/china-academy-of-arts-folk-art-museum/
【フランス・マルセイユ】ランダムなエナメルガラスに覆われた地中海のアート施設
〈マルセイユ現代美術センター〉
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©︎ Nicolas Waltefaugle
竣工:2013年
【日本・高知】小断面の木材を集積させた架構「刎橋」のギャラリー
〈梼原 木橋ミュージアム 雲の上のギャラリー〉
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Hick – stock.adobe.com
竣工:2010年
「梼原 木橋ミュージアム 雲の上のギャラリー」隈研吾建築都市設計事務所 公式サイト
https://kkaa.co.jp/project/yusuhara-wooden-bridge-museum/
【日本・群馬】史跡の石垣を継承したスクリーンが覆う複合施設
〈史跡金山城址ガイダンス施設・太田市金山地域交流センター〉
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sima-box – stock.adobe.com
竣工:2009年
「史跡金山城址ガイダンス施設・太田市金山地域交流センター」隈研吾建築都市設計事務所 公式サイト
https://kkaa.co.jp/project/museum-of-kanayama-castle-ruin-kanayama-community-center/
【日本・東京】東京の中心部に生み出す、環境と融合したミュージアム
〈根津美術館〉
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wankodog – stock.adobe.com
竣工:2009年
「根津美術館」隈研吾建築都市設計事務所 公式サイト
https://kkaa.co.jp/project/nezu-museum/
【日本・長崎】運河が分断する敷地をつなぎ、自然とアートを融合する美術館
〈長崎県美術館〉
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Photo by Jui-Chi Chan / iStock
竣工:2005年
「長崎県美術館」隈研吾建築都市設計事務所 公式サイト
https://kkaa.co.jp/project/nagasaki-prefectural-art-museum/
【日本・栃木】歌川広重がつくり上げた空間構成を建築化する、木製ルーバーに包まれた美術館
〈那珂川町馬頭広重美術館〉
竣工:2000年
「那珂川町馬頭広重美術館」隈研吾建築都市設計事務所 公式サイト
https://kkaa.co.jp/project/nakagawa-machi-bato-hiroshige-museum-of-art/
本記事では、隈研吾建築都市設計事務所が手がけた美術館や博物館を中心にご紹介しましたが、TECTURE MAGでは、これらの他にも隈研吾建築都市設計事務所が国内外で設計したさまざまな建築を取り上げています。隈研吾氏の多彩なデザインの魅力に触れたい方は、ぜひ他の記事もご覧ください。