2024年プリツカー賞を山本理顕が受賞 - TECTURE MAG(テクチャーマガジン) | 空間デザイン・建築メディア
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Riken Yamamoto won the Pritzker Prize 2024
Architecture that activates the “threshold” between public and private and connects it with society is highly praised
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2024年プリツカー賞を山本理顕が受賞

公と私の間の「閾(しきい)」を活性化し、社会と繋げる建築が評価される

米国大使館での記者会見レポート

CULTURE

2024年プリツカー賞 記者会見レポート

[Report]山本理顕氏 受賞の喜びを語る

「建築界のノーベル賞」といわれるプリツカー賞の2024年の受賞者が発表されました。

プリツカー賞の52人目となる受賞者は、日本の建築家・山本理顕氏(1945年-)。日本人としては、丹下健三、槇 文彦、安藤忠雄、妹島和世+西沢立衛、伊東豊雄、坂 茂、磯崎 新の諸氏に続き、9人目の受賞者となります。

About Fundamentals(ハイアット財団ウェブサイトよりシェア)

プリツカー賞とは

才能、ビジョン、献身といった資質を兼ね備え、人類と建築に対して一貫して重要な貢献を果たしてきた現役の建築家を毎年、ハイアット財団(The Hyatt Foundation)が顕彰している賞。国籍・人種・思想・信条を問わず、原則として1年に1人を表彰し、昨年はデイヴィッド・チッパーフィールド氏、2022年はディエベド・フランシス・ケレ氏、2019年には磯崎 新氏(1931-2022)が受賞しています。

同賞を主催するハイアット財団の公式ウェブサイトに、過去の受賞も含めた情報が掲載されています。

The Pritzker Prize Web Site
https://www.pritzkerprize.com/

 

2024年プリツカー賞の審査員:アレハンドロ・アラヴェナ(Alejandro Aravena、審査委員長)、バリー・バーグドール(Barry Bergdoll)、デボラ・ベルク(Deborah Berke)、スティーブン・ブレイヤー(Stephen Breyer)、アンドレ・アランハ・コレーア・ド・ラーゴ(André Aranha Corrêa do Lago)、妹島和世(Kazuyo Sejima)、ワン・シュウ(王澍)、マヌエラ・ルカ=ダジオ(Manuela Lucá-Dazio、エグゼクティブディレクター)

(以下、公式ウェブサイト掲載の英文を抄訳)

山本理顕 プロフィール

山本理顕(やまもと りけん)氏

©︎Tom Welsh for The Hyatt Foundation Pritzker Architecture Prize

山本理顕は1945年に中国の北京で生まれ、第二次世界大戦後まもなく横浜に移り住んだ。幼少の頃から公私のバランスを考え、伝統的な日本の町家に住み、道に面した側には母親が営む薬屋、奥には居住スペースがあった。「一方の閾(しきい)は家族のためのもので、もう一方の閾はコミュニティのためのものだった。私はその間に座っていました」と山本は言う。

山本は、自らが5歳のときに他界した父親のことをほとんど知らなかった。彼はエンジニアとしての父のキャリアに影響されたが、建築家として独自の道を切り拓いた。17歳のとき、730年に創建され1426年に再建された奈良の興福寺を訪れ、仏教の五大思想である地・水・火・風・空を象徴する五重塔に魅了されたという。「とても暗かったのですが、月の光に照らされた木造の塔を見ることができました。それが、私の建築の原体験でした」。

1968年に日本大学理工学部建築学科を卒業し、1971年に東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻修士課程修了。1973年に自身の事務所である山本理顕設計工場を設立する。

Photo courtesy of Riken Yamamoto

キャリアの初期、山本は師である原 広司とともに、地域社会や文化、文明を理解するために一度に数カ月を費やして国々や大陸を車で横断した。1972年、彼は地中海の海岸線に沿って車を走らせ、フランス、スペイン、モロッコ、アルジェリア、チュニジア、イタリア、ギリシャ、トルコを訪れた。その2年後には、ロサンゼルスからメキシコ、グアテマラ、コスタリカ、コロンビアを巡り、ペルーに到達した。さらにイラク、インド、ネパールへも同様の旅を敢行し、公的空間と私的空間の間の「閾(しきい)」という考え方は世界共通であるという結論に達した。「過去の建築のシステムは、私たちが自らの文化を見出すためのものだと認識しています。村の外観は異なっていても、それらの世界は非常に似ているのです」。

Photo courtesy of Riken Yamamoto

山本は、公的な領域と私的な領域の境界を社会の機会としてとらえ直し、すべての空間は、そこに住む人たちだけでなく、コミュニティ全体を豊かにし、その配慮に役立つ可能性があるという信念を貫いた。このような考えのもと、彼は自然環境と建築環境を一体化させ、来客や通行人をもてなす一戸建て住宅の設計を始めた。彼の最初のプロジェクトである〈山川山荘〉(長野県、1977年)は、四方が露出して森の中に佇み、全体がオープンエアのテラスのように感じられるように設計されている。この経験は熊本県営の集合住宅〈保田窪第一団地〉(熊本県熊本市、1991年)で、関係性のある生活を通して文化や世代の橋渡しをする公営住宅へと進展し、彼の将来の作品に大きな影響を与えた。

山本理顕〈山川山荘〉

〈山川山荘〉1977年 / Yamakawa Villa, photo courtesy of Tomio Ohashi

〈GAZEBO〉1986 / GAZEBO, photo courtesy of Tomio Ohashi

山本理顕〈保田窪第一団地〉

〈熊本県営保田窪第一団地〉1991 / Hotakubo Housing, photo courtesy of Tomio Ohashi

形、素材、思想における透明性は、彼の作品に不可欠な要素であり続けた。〈緑園都市〉(神奈川県横浜市、1994年)の開発において、彼は進化を重要な特性として示す都市計画アプローチを確立した。建物のアイデンティティや機能に関係なく、敷地を通り抜けられるようにするという規制を設け、隣接する区画をまとめ、近隣の地権者を一体化させた。〈埼玉県立大学〉(埼玉県越谷市、1999年)や〈天津図書館〉(中国 天津市、2012年)のようなプロジェクトでも彼の建築言語を適応させることで、大規模な建築物における社会の発展を促し続け、大きなスケールでも熟達していることを証明した。

個人住宅から公営住宅、小学校から大学校舎、施設から市民スペースまで、彼の仕事はますます盛んになっていったが、2011年3月11日に発生した自然災害で日本は大きな打撃を受けた。この東日本大震災を機に、彼は建築設計を通じたコミュニティ活動に特化した、一般社団法人 地域社会圏研究所を設立。未来に向けて勇気と理想を持って行動する若い建築家を称えるために、2018年「LOCAL REPUBLIC AWARD(ローカル・リパブリック・アワード)」を創設した。

山本は、神奈川大学の客員教授に新たに任命され就任した。以前は東京藝術大学客員教授(2022-2024)で客員教授を務め、日本大学大学院工学研究科(2011-2013)、横浜国立大学大学院建築学研究科(2007-2011)、工学院大学建築学科(2002-2007)で教え、名古屋造形芸術大学では学長を務めた(2018-2022)。

〈山本理顕設計工場〉事務所内観 Photo courtesy of Riken Yamamoto & Field Shop

山本は国際建築アカデミーによってアカデミー会員に任命され(2013年)、主な受賞に〈横須賀美術館〉でJIA日本建築大賞(2010年)、公共建築賞(2004年、2006年)、グッドデザイン金賞(2004年、2005年)、日本建築学会賞(1988年、2002年)、日本建築学会賞(1988年、2002年)、日本芸術院賞(2001年)、毎日芸術賞(1998年)などがあり、そのキャリアを通じて数多くの栄誉を獲得してきた。

山本は横浜を拠点にし、近隣の人々と交流を深めながら活動している。彼の建築作品は、日本、中国、韓国、スイスの各地で見ることができる。

コミュニティを重視した設計活動

建築家であり社会的提唱者でもある山本氏は、公的領域と私的領域の間の親和性を確立し、アイデンティティ、経済、政治、インフラ、住宅システムの多様性にもかかわらず、調和のとれた社会を鼓舞する。コミュニティ生活の維持に深く関わる彼は、コミュニティのメンバーはお互いを維持すべきであるにもかかわらず、プライバシーの価値が都市の感覚になっていると主張する。彼はコミュニティを「1つの空間を共有する感覚」と定義し、自由とプライバシーに関する伝統的な概念を解体すると同時に、住宅を隣人との関係がなく商品化してきた長年の状況を否定する。その代わりに、国際的な影響力とモダニズム建築を未来のニーズに適応させることで、文化、歴史、多世代の市民を繊細な感性で橋渡しをし、生活の繁栄を可能にしている。

「私にとって空間を認識することは、コミュニティ全体を認識することです」と山本氏は表現する。「現在の建築的アプローチはプライバシーを重視し、社会的関係の必要性を否定しています。しかし、建築空間の中で地域社会圏として共に暮らすことで、文化や生活の段階を超えた調和を育みながら、私たちは個人の自由を尊重することができるのです」。

山本理顕〈パンギョ・ハウジング〉

〈パンギョ・ハウジング〉2010 / Pangyo Housing, photo courtesy of Nam Goongsun

2024年の審査では、彼が選ばれた理由の1つに「社会的要求の責任とは何かについて地域社会に意識を喚起したこと、建築の規律に疑問を投げかけて個々の建築の対応を調整したこと、そして何よりも、建築においても民主主義同様に、空間は人々の決意によって創造されなければならないことを再認識させたこと」と記されている。

空間としての境界を再考することで、彼は公共と私生活の間の「閾(しきい)」を活性化し、プロジェクトごとに関わりと出会いの場が豊富にあるため、社会的価値を達成する。小規模な作品から大規模な作品まで同様に、空間そのものが持つ卓越した資質を発揮し、それぞれがフレームにおさめる生活に焦点を当てている。内部からはその向こうにある環境を体験でき、通り過ぎる人からは帰属意識を感じることができるように、透明性を活用している。彼は一貫した景観の連続性を提供し、各建物の経験を文脈化するために、既存の自然環境と建築環境に対して対話するようにデザインしている。

彼は、都市とのつながりと商業が各家族の活力にとって不可欠であった時代の日本の伝統的な町家やギリシャのオイコス住宅から影響を受け、発展させてきた。彼は、テラスや屋上から隣人との交流を呼び起こすような自邸〈GAZEBO〉(神奈川県横浜市、1986年)を設計。2人のアーティストのために建てられた〈石井邸 / STUDIO STEPS〉(神奈川県横浜市、1978年)はパビリオンのような部屋が屋外に広がり、パフォーマンスを行う舞台となる。

山本理顕〈東雲キャナルコート〉

〈東雲キャナルコート〉2003 / Shinonome Canal Court CODAN, photo courtesy of Tomio Ohashi

「山本は、単に家族が暮らす空間をつくるのではなく、家族が共に暮らすコミュニティをつくるという新しい建築言語を開発している」と、この賞を後援するハイアット財団のトム・プリツカー会長は語る。「彼の作品は常に社会と繋がり、寛容な精神を培い、人本来の気持ち(human moment)を尊んでいます」。

また、大規模な住宅プロジェクトでは、一人暮らしの居住者でも孤立しないよう、関係性の要素を体現している。〈パンギョ・ハウジング〉(2010年、韓国 城南市)は、9つの低層集合住宅からなる複合施設で、1階部分の透明なヴォリュームは、近隣住民の相互関係を促進する。2階に設けられた共同デッキは、集いの場、遊び場、庭園、そして住宅棟と住宅棟を繋ぐ橋などを備え、交流を促している。

山本理顕〈広島市西消防署〉

〈広島市西消防署〉2000 / Hiroshima Nishi Fire Station, photo courtesy of Tomio Ohashi

「これからの都市に最も必要なことの1つは、建築を通して人々が集い、交流する機会を増やす条件をつくり出すことです。山本氏は、パブリックとプライベートの境界を注意深く曖昧にすることで、コミュニティを可能にする概念を超えて積極的に貢献しています」と、審査委員長であり2016年のプリツカー賞受賞者であるアレハンドロ・アラヴェナ氏は説明する。「彼は日常生活に尊厳をもたらす心強い建築家です。日常が非日常となり、静けさが素晴らしさに繋がります」。

特定の機能を達成する建築物は、公共的な目的と保証を確認するものでもある。〈広島市西消防署〉(広島県広島市、2000年)は、ガラスルーバーのファサードと内部のガラス壁で、全体が透けて見える。訪問者や通行人は、中央のアトリウムから消防士たちの日々の活動や訓練を見ることができ、建物内の多くの指定された公共エリアで、消防士ら公務員と親しくなることを奨励されている。〈福生市庁舎〉(東京都福生市、2008年)は、周囲の低層ビルを引き立てるため、1つの高層タワーではなく2つの中層タワーとして設計されている。凹型をした建物の足元は来訪者が横になってリラックスでき、屋上や低層部の緑地はフレキシブルな公共プログラムのために指定されている。

看護と健康科学を専門とする〈埼玉県立大学〉(埼玉県越谷市、1999年)は、9つの校舎がテラスで繋がっている。テラスは、教室から教室へ、また教室から次の校舎への眺望を可能にする透明な通路へと繋がり、学際的な学習を促している。〈子安小学校〉(神奈川県横浜市、2018年)では、このような親睦が最年少の世代でも育まれている。この小学校では、広々とした仕切りのないテラスが学習スペースを拡張し、各教室を見渡せるようになっており、学年を超えた生徒間の関係が促されている。

山本理顕〈横須賀美術館〉

〈横須賀美術館〉2006 / Yokosuka Museum of Art, photo courtesy of Tomio Ohashi

横須賀美術館(神奈川県横須賀市、2007年)は、旅行者のための目的地であると同時に、地元の人々の日々の憩いの場でもある。蛇行したエントランスは周囲の東京湾や近隣の山々を想起させるが、多くの展示室は地下にあり、自然の地形を邪魔されることなく鮮明な視覚体験ができる。来場者は、すべての共有スペースにある円形の切り欠きから、風景や他のギャラリーを見渡すことができ、作品だけでなく、隣のスペースにいる他の人々の活動によって中にいる人が感銘を受けるように、異なる環境を一体化させている。

彼のキャリアは50年に及び、個人住宅から公営住宅、小学校から大学校舎、施設から公共空間、都市計画に至るまで、そのプロジェクトは日本、中国、韓国、スイスの各地に及んでいる。主な建築作品には、〈名古屋造形大学〉(愛知県名古屋市、2022年)、チューリヒ空港の複合商業施設〈THE CIRCLE〉(スイス チューリッヒ、2020年)、〈天津図書館〉(中国 天津市、2012年)、〈北京建外SOHO〉(中国 北京市、2004年)、〈エコムスハウス〉(佐賀県鳥栖市、2004年)、〈東雲キャナルコートCODAN〉(東京都江東区、2003年)、〈公立はこだて未来大学〉(北海道函館市、2000年)、〈岩出山中学校〉(宮城県大崎市、1996年)、〈熊本県営保田窪第一団地〉(熊本県熊本市、1991年)などがある。

5月16日(現地時間)には、イリノイ工科大学の〈クラウン・ホール〉で、シカゴ建築センターとの共催による「2024年プリツカー建築賞受賞記念講演会」が開催される。

審査員のコメント(部分)

山本理顕氏は建築史家ではありませんが、過去や異文化から学んでいます。建築家として、彼は過去をコピーするのではなく、むしろ適応し、再利用し、進化させることで、基本的なことが関連性を保ち続けることを示しています。山本氏は、建築環境と集団生活の両方の課題に対して、毎回全く異なる方法とスケールで、最も適切な対応ができるように、過去と未来の両方に向けて専門職の道具箱を拡張してきました。

社会的要求に対する責任とは何かについて建築の規範に疑問を投げかけ、個々の建築の対応を調整すること、そして何よりも、建築においても民主主義と同様に、空間は人々の決意によって創造されなければならないことを思い出させてくれたことから、山本氏は2024年のプリツカー賞受賞者に選ばれました。

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text & edit: en + jk

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