NOT A HOTELとして実現・販売するデザインを国内外へ向けて公募した「NOT A HOTEL DESIGN COMPETITION 2024」の最優秀賞が先ごろ決定し、NOT A HOTELの公式サイトおよびSNSなどで発表されています(2024年12月21日プレスリリース)。
最優秀賞は、イタリアからの応募者でMohamed Hassan ElgendyとNahed Zmeterの2氏が提案した「NATURE WITHIN(ネイチャー ウィズ イン)」が獲得しました(本稿1枚目の画像:内外観3点)。
「NOT A HOTEL DESIGN COMPETITION 2024」は、40歳未満(U-40)の建築家・クリエイターを対象にしたもので、建築士の資格の有無を応募資格に問わずに実施されました。
2024年4月11日にコンペの実施要項が発表されてより話題となり、9月29日までに23カ国から630作品が集まったとのこと。コンペを主催するNOT A HOTEL(代表取締役CEO 濵渦伸次氏)は、11月15日にコンペ特設ページおよび同社の公式Xにて、1次審査(書類選考)を通過したファイナリスト10組のビジュアルとコンセプトを発表。最優秀の1作品を選ぶ2次審査は、都内・国立新美術館の講堂にて公開方式で行われました。
ファイナリスト10組によるプレゼンテーションと審査員との質疑応答のあと、参加者全員が登壇して行われたディスカッションを経て、最優秀賞をはじめとする上位5組が決し、会場で発表されています。
『TECTURE MAG』では、12月21日に行われた公開審査会を取材。最優秀受賞者を含めた関係者にインタビューを行いました(特記なき画像は全てNOT A HOTEL 提供)。
公開審査会の冒頭で挨拶する藤本壮介氏ら当日参加した審査委員(左から、濱渦伸次、吉田 愛、谷尻 誠、藤本の4氏) Photo: TEAM TECTURE MAG
藤本氏のあとに挨拶した谷尻氏は「1次審査通過から今日まで、日数があった。その間、僕だったら、提案にさらなるブラッシュアップをかけて勝ちに行く。今日はそういったことが見られるかも含めて楽しみにしている」と語った
「NOT A HOTEL DESIGN COMPETITION 2024」審査委員(左から、片山正通、藤本壮介、谷尻 誠、吉田 愛の4氏)注.片山氏は公開審査会当日やむをえない事情により欠席となり、審査会の冒頭に司会進行役が片山氏からのメッセージを代読した
エントリー受付期間:2024年4月11日~8月31日
作品提出締切:2024年9月29日
応募総数:1,490組・2,463名(23カ国)
提出作品数:630作品
審査員(敬称略):片山正通(ワンダーウォール代表 武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授)、藤本壮介(藤本壮介建築設計事務所主宰)、谷尻 誠(SUPPOSE DESIGN OFFICE 共同主宰)、吉田 愛(SUPPOSE DESIGN OFFICE 共同主宰)
最優秀賞(1作品)賞金:1,000万円(税込)+設計料別途
優秀賞(4作品 ※当初予定の3作品より変更)賞金:各50万円(税込)
佳作(5作品)賞金:各15万円(税込)
「NOT A HOTEL DESIGN COMPETITION 2024」サイトマップ(2024年4月コンペ要項発表時点)
NOT A HOTELが所有する約2万坪の敷地内、同社が販売する〈NOT A HOTEL IRORI〉〈NOT A HOTEL BASE〉〈NOT A HOTEL MASU〉も展開中
「MORI-HAKO」のプレゼンテーション風景より、計画地の敷地条件がわかる画(同作は佳作に入賞) Photo: TEAM TECTURE MAG
今回のデザインコンペでは、最大で約6mの高低差がある計画地の読み解き、既存する巨石をどのように扱うか、そしてNOT A HOTELらしさをどのように解釈して建築空間に反映しているかが問われました。文字通り”十人十色”の提案となり、審査終了後に「できることならこの10作品全てを建てたい」と濱渦氏に言わしめるものでした。
「Ambience」をプレゼンテーション中のファイナリスト(同作は優秀賞に入賞) Photo: TEAM TECTURE MAG
「DISCOVERY」をプレゼン中のファイナリスト(同作は佳作に入賞) Photo: TEAM TECTURE MAG
今回の審査会では、人の居住とライフスタイルの可能性を拡充する、NOT A HOTELが創業より掲げる「常識を超えて、ワクワクするものがつくれるか」というミッションのもと、訪れた人に提供を約束する非日常性の確保、実際に建物が完成する前に価格が億単位となる家(NOT A HOTEL)をオンラインストアにて販売するという戦略に適うものであるかどうか。そして、見る人を一瞬でその世界に引き込むビジュアルを備えているかといった点が審査に大きな影響を与えました。
プレゼンテーションを終えたファイナリストを前にしたディスカッションでは、1次審査の書類や直前のプレゼンテーションにおいて不明瞭だった点(インテリアへの考え方など)の確認が審査側からあったほか、NOT A HOTELとして売れそうな家、1個人として住んでみたい家はどれか? あるいは建築家として一緒に仕事をしてみたいのはどの提案者か? という問いを、濱渦氏が建築家であるほかの審査委員3氏に投げかけ、それぞれが苦慮しつつも作品を挙げ、思うところを述べるといった自由闊達な進行がみられるなど、約4時間半に及んだ今回の公開審査会は、NOT A HOTELらしさが随所にあらわれたものでした。
ディスカッション風景
「NATURE WITHIN」鳥瞰イメージ(提案者:Mohamed Hassan Elgendy, Nahed Zmeter / イタリア)
作品コンセプト:このプロジェクトでは、豊かな自然の岩の地形を生かし、石を障害物ではなく、重要な構造および空間の要素として取り入れています。家は、地形の自然な傾斜と輪郭に沿って地中に埋め込まれ、周囲の環境と調和した関係を築いています。岩を元の位置に保持することで、それらは負荷を支える要素であり、内部空間を定義する特徴としての二重の役割を果たし、大規模な人工的基礎の必要性を軽減しています。
家の形状は不完全な楕円であり、地形に溶け込むように設計されています。この有機的な形状により、家は地面から控えめに浮かび上がり、岩によって機能的な支持と美的なアンカーとして支えられます。下部のファサードは主にガラスで構成され、風景の広大な眺望を枠に収め、自然光が内部に入り込むようにしています。このように、設計は自然と人工の要素をシームレスに統合し、環境に敬意を払い、その風景を映し出す家を実現しています。(Desiged by Mohamed Hassan Elgendy & Nahed Zmeter / 和訳テキスト提供:NOT A HOTEL)
「NATURE WITHIN」内観イメージ(提案者:Mohamed Hassan Elgendy, Nahed Zmeter / イタリア)
「NATURE WITHIN」内観イメージ(提案者:Mohamed Hassan Elgendy, Nahed Zmeter / イタリア)
プレゼンテーション中のMohamed Hassan Elgendy氏
今回の選出について、藤本氏は「とても難しい審査だったが、満足のいく作品を審査員の総意として選ぶことができた」と語り、「北軽井沢の豊かな自然、広大な敷地の中に、岩に挟まれたやわらかな屋根がふっと浮いているイメージをとても美しいと感じた。その1つ屋根の下の空間も、ゆったりと開放的なリビング、ベッドルーム、そしてバスルームまで、それぞれが場所ごとに異り、驚くほど豊かなバリエーションを創り出している」と高く評価しました。
〈NOT A HOTEL NASU〉や〈NOT A HOTEL MINAKAMI〉などを手がけているSUPPOSE DESIGN OFFICEを率いる谷尻氏と吉田氏も、同事務所がNOT A HOTELを設計する際に重視しているという「ほかにはない圧倒的な風景の創出」を有した提案であるとし、「風景をつくるということに関して、10作品中で最も美しい建築」(谷尻氏)、「ゴツゴツした周囲環境に対して、やわらかな曲線および内部の切り取りとのコントラストが良い。この建築の中に入った時、きっと鳥肌が立つような感動があると期待している」(吉田氏)と最優秀作品を評価。コンペを主催した濱渦氏も「この鳥瞰の美しさに一目惚れした。さらに今日のプレゼンを聞いて、NOT A HOTELの良さやブランドというものを最も理解してくれていた作品ではないかと感じた」とコメントしました。
最優秀賞に選出された作品「NATURE WITHIN」は、NOT A HOTELの次のプロジェクトとして北軽井沢エリアに建設、販売される予定です(時期など詳細は未定)。
藤本氏からトロフィーを授与されるMohamed Hassan Elgendy氏
「1次審査でのファーストインプレッション以外のことを、今日の公開審査でより深く知り、理解することができた。プレゼンには、その人物の人となりといったものも滲み出る。まさに十人十色、建築家にはいろんな人がいて、それぞれに個性があると改めて感じた。」(審査会終了後、藤本氏談話を『TECTURE MAG』にて要約)
WINNER インタビュー
「このコンペの開催はインターネットで知りました。イタリアを拠点とする私たちがこれまで経験したことのない特殊な敷地条件だと思い、チャレンジしました。イタリア国外では上海や深圳など中国でのプロジェクトがありますが、日本では初となります。プロジェクトに挑む前、私たちは、そこがどのような場所なのかを徹底的に調査します。そのうえで今回は、自然とのコントラストを重視し、強く打ち出すことを意識しました。とはいえ、あまり建物を強調しすぎると、バランスがとれなくなってしまうため、統合性も大事にしています。私たちの提案は、ほかのファイナリストの提案にも見られる、自然との一体感を打ち出しているものの、とりわけシンプル(simplicity)な提案であり、そこが評価されたのではないかと考えています。ディスカッションの場で私たちの提案が好意的に受け止められていることを知りましたが、ほかの9組のプレゼンテーションのクオリティが極めて高く、結果発表の最後に名前を呼ばれるまでは自信がありませんでした。なお、複数の審査委員が評価してくれた鳥瞰の俯瞰ビジュアルは、私の妻と一緒につくったものです。」(Mohamed Hassan Elgendy氏談話を『TECTURE MAG』編集部にて要約 / 通訳協力:NOT A HOTEL)
「NOT A HOTEL DESIGN COMPETITION 2024」トロフィー ©︎ Newcolor inc.
「このトロフィーは、NOT A HOTELのロゴを分解し、再構築することで生まれたもの。”NOT A HOTELでありながらも、これまでにないNOT A HOTELを提案してほしい”という願いを込めたデザインです。材料は各拠点の仕上げ材を用いてNOT A HOTELらしさを感じられるように。」(NOT A HOTEL ARCHITECTS / 松井一哲氏 X投稿より許可を得て引用)
トロフィーのデザインコンセプト・ダイアグラム
CONCEPT:NATURE WITHIN
MEMBERS:Mohamed Hassan Elgendy, Nahed Zmeter
COUNTRY:Italy(イタリア)
審査終了後、ファイナリストと審査員との記念撮影
CONCEPT:”NOT” is MORE
MEMBERS:高栄智史、村上毅晃
COUNTRY:Japan(日本)
CONCEPT:MOGURI
MEMBERS:髙橋雅人、花輪優香
COUNTRY:Japan(日本)
CONCEPT:Ambience
MEMBERS:Georgina Baronian、Sam Clovis
COUNTRY:U.S.A.(米国)
CONCEPT:IWA
MEMBERS:Joanna Maria Lesna
COUNTRY:U.K.(英国)
CONCEPT:DISCOVERY
MEMBERS:向山裕二、上野有里紗、笹田侑志、内田恭平、濱口杏菜、益山直貴
COUNTRY:Japan(日本)
CONCEPT:Traveling Architecture
MEMBERS:梅川元一、布施 遼
COUNTRY:Japan(日本)
CONCEPT:MORI-HAKO
MEMBERS:Vincent Yee Foo Lai, Douglas Min Yi Lee, Xuechen Kang, River
COUNTRY:U.S.A.(米国)
CONCEPT:AMONG THE GIANTS
MEMBERS:Naomi Ng、Liang Hu
COUNTRY:U.S.A.(米国)
CONCEPT:ROCK HOUSE
MEMBERS:Richard John Seymour、Catarina de Almeida Brito
COUNTRY:Portugal(ポルトガル)
「NOT A HOTEL DESIGN COMPETITION 2024」特設ページ
https://notahotel.com/design-competition/2024/winners
Text by Naoko Endo