建築家の内藤 廣氏(1950-)の展覧会「建築家・内藤廣展 in 渋谷」が、7月25日から東京・渋谷の渋谷ストリーム ホールにて開催されます。
本展は、内藤氏の過去最大級の個展として、島根県益田市の島根県立石見美術館(島根県芸術文化センター「グラントワ」内)にて2023年に開催された「建築家・内藤廣/BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしなき戦い」の展示構成を再構築し、内藤氏が長年にわたり携わり、現在も進行中の大規模再開発の地・渋谷にて開催されるものです。
過去最大規模の内藤廣個展「建築家・内藤廣/BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしなき戦い」島根県立石見美術館にて開催
渋谷ストリーム ホールの3つのフロアで展開される本展では、内藤 廣氏が「原点」と語る卒業設計をはじめ、竣工した建築作品、そしてアンビルトとなったコンペ案やこれからのプロジェクトまで、計45のプロジェクトを通して、約半世紀にわたるその建築思考を多角的に紹介します。
島根県立石見美術館 / グラントワでの展示と同様に、内藤氏の頭の中に宿るという「赤鬼と青鬼」[*1]が渋谷にも登場、模型・図面・写真・内藤氏へのインタビュー映像などからなる展示を要所で解説し、ときには“亡霊(物故者)”も姿をみせ、独特の語り口でユーモアも交えた解説が添えられるとのこと。
会期中の7月28日には内藤氏が登壇する講演会が渋谷スクランブルスクエアのホールにて開催されるほか、本展の公式ブックとして、書籍『建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘』が刊行されます。
*1.「赤鬼と青鬼」:内藤氏は、設計時に自身の胸裡(きょうり)に沸き起こる2つの葛藤を「赤鬼(情熱、逸脱、放蕩)」と「青鬼(論理、堅実、緊縮)」と表現。本展は、この赤鬼と青鬼が内藤氏になり代わり、これまで氏が手がけてきたさまざまなプロジェクトを解説する展示構成となっている

内藤廣著『建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘』中面より
内藤氏の学生時代の卒業設計(1974年)を皮切りに、初期の代表作である海の博物館(1992年)や牧野富太郎記念館(1999年)など、1990年代の主要なプロジェクトを紹介。さらに、2001年に東京大学の旧土木工学科(現在の社会基盤学科)に着任して以降に手がけた日向市駅(2008年)ほか4つの駅舎、そして島根県芸術文化センター / グラントワ(2005年)など、2000年代前半のプロジェクトが展示されます。

牧野富太郎記念館 模型
2006年以降の8つのアンビルトプロジェクトに加え、高田松原津波復興祈念公園 国営 追悼・祈念施設(2019年)を含めた4つの東日本大震災復興関連のプロジェクト、さらには内藤氏が現在、学長を務める多摩美術大学の新棟・講堂(2026年オープン予定)など、2010年から最新の2020年代のプロジェクトを紹介。撮り下ろしとなる内藤氏へのインタビュー映像も上映されます。

多摩美術大学 新棟・講堂 模型
東京・渋谷と島根・益田という異なる2つの都市をテーマにした新作模型と映像作品の展示です。
渋谷の展示では、駅周辺を中心とした約300メートル四方を縮尺1/200の都市模型を用意。東京メトロ銀座線渋谷駅(2020年)や、ターミナル駅と渋谷ヒカリエのあいだを結んだ渋谷駅街区東口2階デッキ(2012年)、そして計画中の「西口3階上空施設(仮称)」の縮尺1/20の巨大模型などを通じて、都市構造の複雑性やダイナミズムを視覚化、”渋谷の未来”を俯瞰します。
益田の展示では、島根県芸術文化センター(グラントワ)の模型が登場。渋谷との比較として、都市における過密と過疎化を浮かび上がらせます。

渋谷駅周辺の模型

島根県芸術文化センター / グラントワ 模型

益田市に関する映像作品より
このほか、本展では、ドローン撮影やスローモーション、タイムラプスを織り交ぜた映像2本を上映。都市の「見えない風景」が映像作品として提示されます。
さらに、内藤氏の近年の著作から抜粋した「赤鬼的」「青鬼的」な言葉を壁面に展開する「言葉の壁」が渋谷にも登場。空間全体を通じて内藤氏の“思考の建築”を多角的に体験できる構成となっています。

2023年 島根県立石見美術館 企画展「建築家・内藤廣 / BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしなき戦い」会場風景
内藤 廣氏からのメッセージ
2023年に島根県益田市で展覧会をやったときに、東京からもたくさんの方が見にきてくださいました。その中に私が関わっている渋谷の再開発に関係する方たち、とりわけ商店会のメンバーもいました。彼らから、「これをぜひ渋谷でやってほしい」との声があり、その熱意に応えるつもりで、この渋谷の展覧会を催すことにしました。
内容は益田での展示を基にしつつ、美術館とは異なる場所での展示なので、展示の仕方も変え、なかでも大きく加えたのは渋谷に関する展示です。これから渋谷がこうなっていくというまち造り全体を俯瞰する模型を多くの方に見てもらいたかったので、新たに制作しました。「過疎」発祥の地と言われる益田と、「オーバーツーリズム」で人が集まりすぎる渋谷。この2つは、我が国の都市が抱える問題を典型的かつ対比的に象徴しているようにも見えます。建築家としてのこれまでの積み上げと延長の上に現在の私の立ち位置があるとすれば、それを見ていただき、この時代に対する思いの一端を共有していただけたら幸いです。
©︎ 今井智己
内藤 廣氏 プロフィール
1950年生まれ。1976年早稲田大学大学院修士課程修了後、フェルナンド・イゲーラス建築設計事務所(スペイン・マドリッド)、菊竹清訓建築設計事務所を経て、1981年に内藤廣建築設計事務所を設立。
2001〜2011年東京大学大学院工学系研究科社会基盤学(旧土木工学科)専攻にて教授、同大学にて副学長を歴任。2011年より同大学名誉教授。2023年4月に多摩美術大学学長に就任。
主な建築作品に、海の博物館、牧野富太郎記念館、倫理研究所富士高原研修所、島根県芸術文化センター、九州大学椎木講堂、静岡県草薙総合運動場体育館、富山県美術館、とらや赤坂店、高田松原津波復興祈念公園 国営 追悼・祈念施設、東京メトロ銀座線渋谷駅、京都鳩居堂、紀尾井清堂などがある。内藤廣建築設計事務所 ウェブサイト
http://www.naitoaa.co.jp/
会期:2025年7月25日(金)~8月27日(水)
開場時間:11:00-20:00
会場:渋谷ストリーム ホール
所在地:東京都渋谷区渋谷3-21-3(Google Map)
入場料:一般 1,500円、大学生以下 1,000円(受付にて学生証の提示要)、未就学児無料

主催:「建築家・内藤廣展 in 渋谷」実行委員会
実行委員長:小林幹育(渋谷・東地区まちづくり協議会代表幹事・渋谷宮益町会相談役)
副委員長:大西賢治(渋谷道玄坂周辺地区まちづくり協議会代表幹事・渋谷道玄坂商店街振興組合理事長)
企画制作:内藤廣建築設計事務所
事業推進:東急
後援:渋谷区、J‒WAVE
協賛(五十音順):伊藤園、オリックス不動産、鹿島建設、東急エージェンシー、東急建設、東急設計コンサルタント、東急電鉄、東急不動産、東京建物、東京地下鉄、日建設計、日本設計、パシフィックコンサルタンツ、東日本旅客鉄道、ヒューリック、三井不動産、三菱地所、三菱地所設計
展覧会特設サイト
http://naito-shibuya2025.shibuyabunka.com/
本書概要
2023年の島根と今回の2025年の渋谷、この2つの「内藤廣展」をつなぐストーリーが記述された、建築ウェブメディア『BUNGA NET』にて2024年4月から2025年3月にかけて連載された「赤鬼・青鬼の建築真相究明」を書籍化。内藤氏の活動初期の作品である住居No.1 共生住居(1984年)や海の博物館(1992年)」、近年の東京メトロ銀座線渋谷駅(2019年)、紀尾井清堂(2020年)」のほか、最新作のKミュージアム(2025年)まで、内藤氏の代表作を収録。また、現在東京・紀尾井町の紀尾井清堂での特別展「建築家・内藤廣 なんでも手帳と思考のスケッチ in 紀尾井清堂」にて開示されている貴重な内藤氏の手帳からもページを厳選して収録あり。

内藤廣著『建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘』中面より

内藤廣著『建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘』中面・目次
著者:内藤 廣
判型:四六版(並製)
頁数:288ページ
定価(税込):2,420円
ISBN:978-4-7661-4052-1
版元:グラフィック社
発売日:2025年7月

内藤廣著『建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘』表紙(帯付き)
書籍詳細
https://www.graphicsha.co.jp/detail.html?p=60804
講師:内藤 廣
日時:2025年7月28日(月)18:00-19:30(開場 17:30)
会場:渋谷スクランブルスクエア(東棟)15階 SHIBUYA QWS内 スクランブルホール
所在地:東京都渋谷区渋谷2-24-12
観覧料:無料
入場方法:当日先着順に受付、申込不要(会場定員に達し次第、受付終了)
※後日、アーカイブ配信を予定
主催:「建築家・内藤廣展 in 渋谷」実行委員会