建築家の丹下健三(1913-2005)が設計し、その外観から”船の体育館”の呼称で知られる〈香川県立体育館〉を事業として再生しようという提案が発表されています。

旧香川県立体育館(画像提供:旧香川県立体育館再生委員会) 註.建築概要は後述
旧香川県立体育館は、丹下建築の代表作の1つで、1964年の竣工。家具などのインテリアデザインを剣持 勇(1912-1971)が手がけ、石庭をイサム・ノグチとの協働で知られる和泉正敏(1938-2021)らが手がけるなど、文化的価値の高い公共建築です。
老朽化と耐震面の問題から、2014年9月に惜しまれつつ閉館(代替の施設として、建築家の妹島和世氏と西沢立衛氏が率いるSANAAが設計した〈あなぶきアリーナ香川〉がサンポート高松地区に竣工、今年2月24日に開館)。その後、建物の有効活用などが検討されましたが不首尾に終わり、香川県は2023年2月に解体の方針を決定。今年2月には調査費を含めて解体費12億円(うち工事費は約11億円)が県の予算として計上されています。
この丹下建築を残すべく、新たな事業を興して使い続けていく再生案が、旧香川県立体育館再生委員会(以下、再生委員会と一部で略)より提示されました。同再生委員会は、7月23日に旧香川県立体育館を見下ろすホテルの1室にて記者会見を開き、旧香川県立体育館を取り巻く現状と、現時点での再生2案(ブックラウンジ併設ホテルと1棟ホテル案)を発表。民間事業として建物の取得を目指していることを明らかにしました(註.会見内容はYouTubeにて即日公開されている。本稿後半にてシェア)。
※本稿の画像提供:旧香川県立体育館再生委員会

旧香川県立体育館(画像提供:旧香川県立体育館再生委員会)
再生委員会の提案は、建物をホテルを内包する文化施設に改修設計(コンバージョン)することによって、国の重要文化財に指定されている丹下建築・旧香川県庁舎(旧本館+東館)をはじめ、世界的に知名度が高いアートの島・直島に渡る港を有する高松市において、国内外からのさらなる集客を見込み、継続して利益を生み出せる地域貢献度の高い事業が成り立つとしています。提案している2案(詳細は後述)のうち、規模の小さいブックラウンジホテル案でも約1億円の年間営業利益をあげられると見積もっています。

旧香川県立体育館 内観(画像提供:旧香川県立体育館再生委員会)

旧香川県立体育館 内観(画像提供:旧香川県立体育館再生委員会)

旧香川県立体育館 内観(画像提供:旧香川県立体育館再生委員会)

旧香川県立体育館 内観(画像提供:旧香川県立体育館再生委員会)

旧香川県立体育館(画像提供:旧香川県立体育館再生委員会)
ブックラウンジ併設ホテル案 概要
提案:ブックラウンジ併設ホテルは、観光客と県民を対象とした、宿泊・知・文化・建築を融合した複合施設。1階と2階の低層部に、ライフスタイルホテルを設け、3階以上の大空間にはブックラウンジ・カフェ、アートスペースを整備する
再生案の1つ「ブックラウンジ併設ホテル案」イメージ
ブックラウンジ併設ホテル案のフロア断面(資料提供:旧香川県立体育館再生委員会)
ホテルエントランスイメージ
ホテル案 客室イメージ
1棟ホテル案 概要
提案:主にインバウンドを対象とした1棟宿泊施設への転用案。建物中央部を大きく開口して光庭を整備し、新たな余白空間をつくる。さらに新たに床を張り、屋上を開けて豊かな内部空間とし、“ここならでは”の風景をこの余白部分に創出する。フロア構成は。1階にバックヤード、レストラン、ロビー、2階以上が宿泊部屋となる
1棟ホテル案 内外観イメージ(資料提供:旧香川県立体育館再生委員会)
1棟ホテル案のフロア断面(資料提供:旧香川県立体育館再生委員会)
今回の発表に先立ち、再生委員会では、再開発や不動産ファンドなどの領域で実績のある複数のプレイヤーに呼びかけ、民間による旧香川県立体育館の再生プランを具体的につくり上げています。
建物の耐震性能などに関しては、再生委員会の理事として記者会見にも出席した建築家の青木 茂氏が長年にわたり取り組んできたリファイニング建築の経験値から判断して、適切な改修設計によって耐久面での不安要素は取り除けるとしています。
また、会見では、ニューヨーク近代美術館(MOMA)およびイリノイ大学から寄せられた、建物の保存・再生への嘆願書の和訳も読み上げられました。建物の文化的価値を残しつつ、宿泊施設を中心とした収益を生み出せる施設に再生しようという今回の提案に対し、創業者が高松出身の乃村工藝社がサポート企業に名を連ね、さらに複数の企業が参画を検討中とのこと。

旧香川県立体育館(画像提供:旧香川県立体育館再生委員会)
再生委員会では、これまでの経緯および県の決定に理解を示しつつ、閉館から11年を経て、高松市と建物をとりまく社会的な状況が変化しており、建物を解体せずに再生する提案に至ったとしています。今回の提案への理解と支援を求め、オンラインアンケートの実施や、再生へ向けた署名活動、資金調達のためのクラウドファンディングの実施を計画しています。
香川県では、来月8月に解体業者を決める入札を実施予定。再生委員会では、いまいちどの再考を求め、すでに建物を管轄する県と教育委員会には今回の提案を具申済みとのこと。丹下建築の行末が注目されます。
#The Axis Kagawa YouTubeチャンネル:旧香川県立体育館の買取等による保存及び利活用への正式表明に関する記者会見(2025/07/25)
会見実施日:2025年7月23日
登壇者(会見画面の左から順に:長田慶太(長田慶太建築要素代表、旧香川県立体育館再生委員会委員長)、青木 茂(建築家、旧香川県立体育館再生委員会理事)、上杉昌史(経営戦略コンサルタント、旧香川県立体育館再生委員会副委員長)
会見内容:
・旧香川県立体育館の取得を目指した正式表明に関する報告
・今後の事業コンセプトおよび活用計画のご説明
・ほか各種団体や機関の動きや今後の連動の可能性について
・質疑応答(NHKなど複数のメディアが質問)編集部註.公開された動画ページでは、会見で使用されたプレゼンテーション資料を全頁ダウンロードできるほか、現時点で開示可能なサポート企業(乃村工藝社、青木茂建築工房ほか)および団体名も公表されている
旧香川県立体育館再生委員会 note
https://note.com/kpg_rebirth

旧香川県立体育館(画像提供:旧香川県立体育館再生委員会)
敷地面積:6,640.00m²
建築面積:1,519.00m²
延床面積:4,459.00m²
階数:地上3階
高さ:19.89m
※数字データはTANGE建築都市設計ウェブサイト>Worksより
竣工年月日:1964年
意匠設計:丹下健三+8都市建築設計研究所 / 集団制作建築事務所
構造設計:岡本建築設計事務所
設備設計:建築設備研究所
現場監理:香川県土木部建築課
施工(建築):清水建設
※データは「船の体育館 再生の会(旧香川県立体育館 保存の会)」ウェブサイトより