[建築と経営のあいだ]ボーナストラックから読み解く、完成をゴールにしない建築実践 ツバメアーキテクツ・山道拓人 - TECTURE MAG(テクチャーマガジン) | 空間デザイン・建築メディア
[建築と経営のあいだ]ボーナストラックから読み解く、完成をゴールにしない建築実践 ツバメアーキテクツ・山道拓人

[建築と経営のあいだ]ボーナストラックから読み解く、完成をゴールにしない建築実践 ツバメアーキテクツ・山道拓人

BUSINESS

ツバメアーキテクツは、震災やコロナといった社会の変化を背景に、従来の「設計事務所」の枠を超え、調査・運営・企画を担う「ラボ部門」と「デザイン部門」を往復させながらプロジェクトを育ててきました。

代表作の、下北沢の線路跡地に生まれた〈ボーナストラック〉は、完成した瞬間をゴールとせず、時間の経過とともに姿を変えながら使われ続けている建築です。ツバメアーキテクツは、建築を「設計して終わるもの」ではなく、運営やルール、地域との関係性まで含めて捉え、形にしていきました。

使い手が自走する仕組みづくり、「わからない」を受け止める態度など、独自の実践知を通し、柔軟かつブレない現代的設計事務所の経営のヒントを紹介します。

* この記事は「建築と経営のあいだ研究所(通称:あいだけん)」の動画コンテンツを、TECTURE MAGで編集したものになります。


■注目したい4つの組織設計術

1. 「ラボ」と「デザイン」を往復する柔軟型組織
2. 不確かさを引き受けるという選択
3. 用途を固定しないという設計判断
4. 建築を地域にひらく

ツバメアーキテクツ

©︎ツバメアーキテクツ

山道 拓人(ツバメアーキテクツ)

建築設計事務所「ツバメアーキテクツ」の共同創業者。2013年、千葉学氏、西川周平氏と共に事務所を設立。「デザイン部門」と「ラボ部門」という二つの機能を持つ事務所運営を特徴とし、建築の設計だけでなく、その前段階の企画構想や運営、ルール作りまでを手がける。東日本大震災の直後に大学院を卒業するという経験から、不確かな状況を逆手に取った建築論を展開。代表作である小田急線地下化に伴う線路跡地開発「下北線路街」の一部である「ボーナストラック」をはじめ、地域コミュニティと密接に関わりながら、人々が自由に使いこなせる「コンビビアル」な空間づくりを実践する中で、従来の再開発とは異なる「脱開発的な開発」として高い評価を受けている。2023年『確かさを生きる道具』(TOTO出版)を出版し、その建築思想と実践をまとめている。


注目したい4つの組織設計術

1. 「ラボ」と「デザイン」を往復する柔軟型組織

高橋「ツバメアーキテクツでは「デザイン」と「ラボ」という2つの機能を掲げていますが、詳しく教えていただけますか?」

山道「ツバメアーキテクツは、千葉・西川と3人で2013年に設立し、今年で11年目になります。私たちの設計事務所には、デザイン部門とラボ部門という2部門があり、デザイン部門は設計の依頼を受けて何かをデザインする機能、ラボ部門はそもそも何を作るか、作った後にどう運営するか、あるいはその場所のルール作りなど、建築の手前と後の役割を担っています。」

高橋「一般的な設計事務所との最も大きな違いは何だと思いますか?」

山道「多くの場合、設計と運営、計画と使われ方は分断されがちです。でも実際には、建てる前に考えたことと、使われ始めてから起きることは一本の線でつながっている。その連続性を扱わない限り、建築の本当の姿は見えてこないと思っています。ラボという領域を明確に言葉にしたのは、その断絶を意識的につなぎ直したかったからです。」

高橋「実際のプロジェクトでは、どのようにその往復が行われているのでしょうか?」

山道「ラボで問いを立て、それを設計に落とし、完成後に起きていることをまたラボに持ち帰る。その「デザイン→ラボ→デザイン」の循環を、1つのプロジェクトの中で何度も回しています。重要なのは、その循環が特別なプロジェクトだけでなく、日常的な設計業務の中でも起きていることです。同じスタッフが両方を行き来することで、建築を断片ではなく、時間を含んだプロセスとして理解できるようになると感じています。」

フレームワークの図©︎ツバメアーキテクツ

2. 不確かさを引き受けるという選択

高橋「条件が固まりきらないまま始まるプロジェクトも多いそうですね。その不確かさとは、どのように向き合っているのでしょうか?」

山道「大学院を出るタイミングで東日本大震災があり、昨日まで正しいと思っていた建築論が、突然通用しなくなる感覚を持ちました。その後もコロナ禍を経験し、社会の前提は簡単に変わると実感しています。そうした出来事を通じて、建築を取り巻く条件は常に揺らいでいるという感覚が強くなりました。こうした経験から、最初から条件がすべてそろうことを前提にしなくなりました。現実のプロジェクトは常に未確定で、途中で状況が変わるのが当たり前です。むしろ、変わることを前提にしていないと、後から設計が硬直してしまう。その意味で、不確かさは避けるべきものではなく、最初から引き受けるべきものだと考えています。」

建築と経営のあいだ ツバメアーキテクツ

高橋「不確かさはリスクにもなり得ますが、その点はいかがでしょう。」

山道「もちろん不安はあります。ただ、条件を固めすぎることで、かえって身動きが取れなくなることも多い。わからないものを無理に整理してから設計するのではなく、その「わからなさ」を抱えたまま考え続ける。その姿勢こそが、結果的に現実にフィットする建築につながると感じています。また、建築は完成した瞬間に価値が決まるものではなく、使われながら意味が更新されていく道具だと思っています。設計者がすべてを決めきってしまうと、使う側はその枠の中でしか振る舞えなくなる。その状態は、建築が本来もっている可能性を狭めてしまうと思っています。」

高橋「その考え方は、設計や運営の進め方にも影響していますか?」

山道「はい。設計、運営、改変、地域活動といった要素を切り分けず、行き来しながら関われる状態を保ちたいと考えています。建築を専門家だけのものにせず、使う人が主体的に関われる余地を残すことが大切だと思っています。イヴァン・イリイチの『コンヴィヴィアリティ』の考え方には大きな影響を受けています。人が道具に使われるのではなく、人が道具を使いこなせる状態をどうつくるか。その視点を建築に引き寄せて考えています。」

コンヴィヴィアリティのための道具 スライド©︎ツバメアーキテクツ

3. 用途を固定しないという設計判断

高橋「ボーナストラックは、ツバメアーキテクツの考え方を象徴するプロジェクトだと思います。この場所をどのように捉えていましたか?」

山道「ここは小田急線の線路跡地で、駅前広場として計画されていない、いわば都市の“裏側”のような場所でした。周囲の建物も線路に背を向けていて、積極的に使われてきたとは言い難い。だからこそ、与えられた用途をきれいに当てはめるのではなく、この場所が本来もっている曖昧さや余白をどう生かせるかを考えました。駅前のように機能が整理された空間ではなく、人が自然に滞在し、関係が生まれていくための“場”として成立させたいと思いました。」

建築と経営のあいだ_ツバメアーキテクツ

高橋「空間の設計において、特に重視した判断は何だったのでしょうか?」

山道「完成した瞬間の美しさや完成度よりも、使われ始めてからどう変化していくかを重視しました。そのために、用途や境界を最初から決めすぎないことを意識しました。リーシングラインを引かなかったのも、テナントや使い手が状況に応じて空間を使いこなせる余地を残したかったからです。建築が振る舞いを規定するのではなく、振る舞いによって建築の意味が更新されていく状態を目指しました。」

建築と経営のあいだ_ツバメアーキテクツ

4. 建築を地域にひらく

高橋「ボーナストラックでは、シモキタ園芸部との協働が非常に特徴的です。地域との関係性は、どのように構想していたのでしょうか?」

山道「ボーナストラックという場所を、完成した瞬間から管理され尽くした空間にはしたくありませんでした。むしろ、完成後も人が関わり続けることで、少しずつ風景が変わっていくような状態をつくりたいと考えていました。その一つの答えが、シモキタ園芸部との協働です。植栽を“管理する対象”ではなく、“関わり続けるきっかけ”にできないかと思いました。」

高橋「具体的には、どのような仕組みを組み込んだのでしょうか?」

山道「手入れを管理会社に一任するのではなく、市民活動としてシモキタ園芸部の方々がメンテナンスしてくださっています。皆さんに、手入れをしてもらうことで、植栽は、単なる景観ではなく、人の活動と結びついた存在になります。建築だけで完結せず、人の関係が育っていくというプロセスそのものが、この場所の価値になっています。古い住宅の解体時に出る古樹(ふるぎ)のレスキューやコンポストの整備、ハーブティーづくりなど、活動が重なり合うことで人の関係が育ち、場所そのものが時間をかけて成長していると感じています。その変化を受け止められる余白を残すことも、設計の重要な役割だと思っています。

もし、下北沢駅の駅前開発について複数のプロジェクトから同時に設計依頼がきていたら、このような地域住民の方にひらかれた場にはならなかったと思います。一つ一つ順番に検討を進めることで、街の人のリアクションを取り込んだり、活動がパワーをつけてくるタイミングとシンクロしました。不確かな状況を逆手にとって、デザインとラボのリズムで回すと、最初には思ってもいなかったところまでいけるのではないかと思います。」

ボーナストラックについてのスライド ©︎ツバメアーキテクツ

ボーナストラックについて

下北沢〜世田谷代田間の小田急線地下化跡地「下北線路街」に2020年竣工したツバメアーキテクツ設計の複合施設。メイン棟(500㎡規模)と4棟の長屋型住住併用住宅を配置し、1-2階店舗住居、シェアキッチン・ワークスペースを備え、4mレベル差をバリアフリーひな壇に活かしました。最大の特徴は「改造ルールブック」で、無限の改造手法を有限選択肢に絞り、テナント提案を積極的に受容しています。公共通路との境界を曖昧化し、軒下植栽やベンチ外陳を促しました。植栽は地域コミュニティの「シモキタ園芸部」がワークショップ形式でメンテナンスをおこなっています。下北沢の闇市文化を継承した「脱開発的開発」のモデルです。


【建築と経営のあいだ研究所について】

建築と経営のあいだ研究所

©︎建築と経営のあいだ研究所

「建築と経営のあいだ研究所(通称:あいだけん)」は、建築士に特化した会員制の動画メディアで、設計力だけでは足りない時代に必要な「経営思考」や「マネジメント」といった知識の学び場です。経営学の論理(建築設計事務所経営論)と、実践的なインタビュー・ショートレクチャーを組み合わせ、インプットとアウトプットのサイクルで習慣化を目指しています。毎月更新のゲスト対談や動画視聴、マーケティング、ブランディング、プロジェクト管理、企業会計など、会員限定セッションを通じた学習コンテンツも充実。月額990円(税込)で、生きた経営スキルの体得が目指せます。

ウェブサイト   https://www.aidaken.com/
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