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[大阪・関西万博 Report]OMA / 重松象平氏インタビュー ルイ・ヴィトン

2つの世界をつくり出す“トランク・スケープ” / フランスパビリオン - ルイ・ヴィトン エリア

[大阪・関西万博 Report]OMA / 重松象平インタビュー

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劇場をイメージしてつくられたという、フランスパビリオン。フランスと日本の両国に共通する職人の技や文化に焦点を当てた展示には世界的なメゾンが参画し、エレガントで壮観な空間が繰り広げられている。

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その中でも注目は、ルイ・ヴィトンをテーマにしたエリア。OMA / 重松象平氏がデザインを手掛けたインスタレーションが、2つの部屋で展開する。TECTURE MAGでは、プレスデーに重松氏にインタビューして詳しく話を聞いた。2つの部屋ごとの特徴と、共通する要素とは?

重松象平|Shohei Shigematsu

Photography by Marco Cappelletti, Courtesy of Louis Vuitton

1973年福岡県生まれ。九州大学工学部建築学科卒後オランダに渡り、1998年より建築設計集団OMAに所属。2006年にOMAニューヨーク事務所(OMA New York)代表に就任、2008年よりOMAのパートナーとなる。
ファッション分野では物販店から舞台美術まで多岐にわたるプロジェクトにかかわり、近年ではニューヨークの〈ルイ・ヴィトン57丁目店〉でのインスタレーション、〈ティファニーNY本店〉の改修などに関わる。現在、美術館の設計ではニューヨークでの〈ニュー・ミュージアム新館〉プロジェクトなどが進行中。
九州大学大学院人間環境学研究院教授、BeCAT(Built Environment Center with Art & Technology)センター長。

OMA New York Website
https://www.oma.com/news/oma-new-york-office

 

最初の部屋の全景。Photography by Marco Cappelletti, Courtesy of Louis Vuitton

順路に沿って至るルイ・ヴィトンの最初の部屋は、暖かみのある光、そしてルイ・ヴィトンの象徴ともいえるトランクに包まれた空間。重松氏はまず「サヴォアフェール(savoir-faire)」という言葉を口にした。これは「知る」と「つくる」を組み合わせた言葉で、伝統的な「匠の技」を意味する。「ルイ・ヴィトンのサヴォアフェールは、時代を超えた伝統と、絶え間ない革新という2つの側面を持ち合わせています。この2面性を体現するために、対照的な2つの空間をつくることにしたのです」と説明する。

天井は鏡面で、床から天井までのトランク壁を増幅させる。Photography by Marco Cappelletti, Courtesy of Louis Vuitton

1つは、伝統的な手づくりの技を感じさせる空間。フランスの彫刻家オーギュスト・ロダンによる手の彫刻『カテドラル』を中央に据え、作品を取り囲むように、壁面には床から天井までいっぱいに84個のワードローブ・トランクが配されている。トランクはすべて開いた状態で、トランクの中をルイ・ヴィトンが使い手に合わせてカスタマイズしてきたことを抽象化。トランク内では職人たちが制作する様子を映像で伝え、内側に仕込んだ照明からは、ランタンのように柔らかい光を拡散する。

カスタマイズされたイメージのトランクには、手仕事の様子を見せるモニターと照明が仕込まれている。Photography by Marco Cappelletti, Courtesy of Louis Vuitton

ルイ・ヴィトンのトランクの変遷。Courtesy OMA

「トランク内部の機構を見せるとともに、さまざまなパッケージングをライブラリーのように見せることを意図しました。僕にとっては、トランクが3次元的に広がっていくのは都市のように感じられて、いつかこうした空間ができると面白いなと考えていたのです」と重松氏。トランクは入口側では大きく開き、奥に向かうにつれて徐々に閉じ、グラデーションに。トランクから発する光の量も、だんだんと絞られていく。

トランクは奥に向かうにつれて徐々に閉じていく。Photography by Marco Cappelletti, Courtesy of Louis Vuitton

立面のダイアグラム。Courtesy OMA

2つの部屋を繋ぐ空間では、馬車の荷台にトランクがうず高く積み重ねられた写真がスクリーンに大きく映し出されている。ここは、ルイ・ヴィトンの創業地であるパリ郊外のアニエールを想起させるとともに、ルイ・ヴィトンのイノベーションの歴史を感じさせるスペースだ。ルイ・ヴィトンは従来は丸蓋であったトランクについて、鉄道や船での移動が増えることを見越してフラットな蓋を考案。また素材を見直して軽量化に成功するほか、模造品を防ぐためにモノグラムを考え出し、ブランドのアイコンとなった。

2つの部屋の間を繋ぐスペースではルイ・ヴィトンの歴史と革新性を伝える

そして2つ目の空間に至ると、1つ目とは一転して暗い闇に包まれる。奥の2層分の吹き抜けに浮かび上がるのは、大きな球体(スフィア)。近づいて見ると、この球体もまたトランクでできている。重松氏は「これも、トランクのモジュールで空間をつくることができないかという試みです。トランク自体が構造になり、軽くて丈夫なことが瞬時に伝わります。球体は世界的なイメージがあるため、これまで万博で多くつくられてきたモチーフです。今回は真鍋大度さんとのコラボレーションで照明とプロジェクションマッピングを行い、未来を強く予感させるものとなっています」と語る。

Photography by Marco Cappelletti, Courtesy of Louis Vuitton

Photography by Marco Cappelletti, Courtesy of Louis Vuitton

Photography by Marco Cappelletti, Courtesy of Louis Vuitton

これまでの万博で用いられてきた球体(スフィア)。Courtesy OMA

トランクをモジュールとした構成を表すダイアグラム。Courtesy OMA

球体に組み上げられた白いモノグラム・トランクの数は90個。直径6.6m、重さ13トンにもなる地球儀はモーターで駆動し、プロジェクトマッピングのアート作品とシンクロしながら回転と上下運動を行う。「ここで流れる音楽は、アニエールに今もある工場で聞こえる作業音をサンプリングし、IRCAM(フランス音響音楽研究所)でつくってもらったもの」と重松氏。旅を幻想的に解釈した映像とともに、音にも包まれる体感に圧倒される。

本物のトランクで構成された球体はダイナミックに動き、映像が投影される

90個のトランクを組み上げて構造解析が行われた。Courtesy OMA

2つの対照的な部屋を、トランクという共通のモチーフを用いて建築としてつくり上げた重松氏。万博会期中の7月15日からは〈大阪中之島美術館〉で、ルイ・ヴィトンの大規模な展覧会「ビジョナリー・ジャーニー」が開催された。会場デザインを担当したのは、同じく重松氏だ。

大阪中之島美術館にて、ルイ・ヴィトン「ビジョナリー・ジャーニー」展 7/15より開催、セノグラフィーを建築家の重松象平氏が担当

一連のインスタレーションで実現したヴィジョンが、これからの展覧会にどのように引き継がれていくのか、期待が高まる。

2つの空間の模型。Courtesy OMA

2つの空間の要素を表すアクソノメトリック図。Courtesy OMA

フランスパビリオン内えのルイ・ヴィトンのエリア全体プラン。Courtesy OMA

Project Credits
Installation Design: OMA New York
Partner-in-Charge: Shohei Shigematsu
Project Leader: Jesse Catalano
Team: Xavier Fox

Collaborating Artist: Daito Manabe
Production: NPU Corporation, S97
Production (trunks): Artcomposit, Luxsense
Sound Design: ICRAM

Project Data
Client: Louis Vuitton
Location: Osaka, Japan
Site: World Expo 2025 Osaka-Kansai; Yumeshima Island in Osaka Bay
Project: Two-room installation in the French Pavilion
Status: Completed
Program: Exhibition 200 sm 2,150 sf

 

Interview & text, photo(特記以外):Jun Kato

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