千葉県の旧千葉競輪場跡地に、重量約1千トンの大屋根を有する〈千葉JPFドーム〉が今年3月に竣工、10月2日より供用を開始しました。
建物の名称は、千葉JPFドームの所有者であるJPF社が、ミクシィとネーミングライツ契約を締結した2021年9月22日以降、「TIPSTAR DOME CHIBA(ティップスター ドーム チバ)」と改称されています(ミクシィ プレスリリース)。
立地は千葉市内の中心部、JR千葉駅にも近い千葉公園の北側です。千葉市が2019年に策定した、千葉駅北エリアのまちづくりの核となる千葉公園の再整備事業の1つで、その先駆けとなる大規模施設、自転車競技施設(ベロドローム / Velodrome)として建設されました。設計・施工は清水建設が担当しています。
施設のドームは、清水建設が新たに開発した構造形式「リングシェル®(単層張弦ドーム構造)」で設計され、無柱の大空間としては千葉県内最大の規模となります。
観客席は約2,500席、国際基準の周長250メートルの木製トラックを備え、世界選手権の開催も可能なベロドロームです[*]。
*世界選手権に対応した日本国内初の自転車競技施設は、同じく清水建設が静岡県内で設計・施工して2011年に開業した〈伊豆ベロドローム〉
清水建設Webサイト施工実績〈伊豆ベロドローム〉
https://www.shimz.co.jp/works/jp_lei_201109_velodrome.html
ドームの設計上の特徴は、個性的なデザインのドーム大屋根をシンプルな鉄骨構造で表現したこと。直径198メートルの球の表面を楕円に切り取った形状をした大屋根は、薄く軽やかな造形で、観客席と木製トラックを包み込み、一体感のある内部空間を演出します。
ドーム状の大屋根は、膨らみ(高さ)を抑えることで、公園に融け込み、周辺施設とも調和しています。
この大屋根を実現するために、清水建設では新たな構造形式「リングシェル®︎」を考案しています。単層の鉄骨トラスで楕円形かつドーム状の大屋根の骨組を構成、そのキーとなるのが、鉄骨トラスの剛性と耐力を高めるために大屋根外周部に配置したケーブル(弦)です。72本のケーブルが鉄骨トラスの外周部と大屋根中央下部に設けた直径84メートルの鋼製リングを放射状に連結しており、緊張されたケーブルにより、鉄骨トラスが外側に広がる力を低減し、大屋根の骨組トラスを構造的に完結・独立させています。
施工上の最大の課題は、鉄骨精度の確保でしたが、徹底した計測管理により、119メートルのスパンに対して最大56ミリのたわみで収めています。
さらに、同施設の特筆点は、競輪のシステムを活用した、これまでにない新しいスポーツエンターテインメントを提供できる設備を備えていることです。
場内では、国内最大級の巨大ミラーボールが天井に設置され、最新の音響照明設備を最大限に生かした次世代の映像・レーザー照明などにより、非日常空間を演出します。
スポーツだけでなく、施設全体で、アート、フード、ファッションなどが融合した全く新しいスポーツエンターテインメントの提供が可能となりました。
これまで競輪など自転車競技に触れる機会の少なかった若い世代や家族連れ、女性にも楽しめるよう、場内にはアリーナソファー席を設置可能で、また館内には授乳室も備えています。
千葉JPFドーム改め、〈TIPSTAR DOME CHIBA〉のこけら落としとなるのは、トラック競技の国際大会で行われる「ケイリン」種目に準拠し、千葉市の公営競技として開催される、新しい自転車トラックトーナメント「PIST6 Championship(ピストシックス チャンピオンシップ)」の開幕試合です。
レース中継や車券の販売に関して、ミクシィが提供する共遊型スポーツベッティングサービス「TIPSTAR(ティップスター)」が使用されます。スマートフォン利用を想定し、モバイルバッテリーのレンタルも可能です。
「PIST6 Championship」開催に先立ち、千葉市より包括委託を受けたJPF社とミクシィの合弁企業・PIST6が、一部再委託を受け、施設の体験設計やイベントの運営、マーケティングなどを担当。
同大会において、競技としての魅力の最大化、ドーム内の内装や付帯施設、館内で提供するフード類、パブリックアートの設置、会場演出などを手がけました。出場選手は、本大会のためにデザインされた色とりどりのオリジナルユニフォームに身を包んでレースに挑み、これまでの競輪の雰囲気とはビジュアル面でも一線を画しています。
メインエントランスには、現代美術家の松山智一氏による彫刻作品と壁画が常設されたのも大きな見どころ。同氏は「PIST6 Championship」の優勝トロフィーのデザインも手掛けています。
ドームのメインエントランスを抜けたホワイエスペースに入ると、松山氏の手掛けた作品が来場者を迎えます。
ホワイエ奥には、幅約30メートル、高さ2.5メートルにおよぶ壮大な壁画が、左右に対に設置された彫刻は、吹き抜け空間を生かした約4.5メートルの高さがあり、ホワイエを華やかに演出します。
松山智一氏 / Tomokazu Matsuyama プロフィール
1976年岐阜県出身。上智大学卒業後2002年渡米、NY Pratt Instituteを首席で卒業。
現在はニューヨークを拠点とし、ブルックリンにスタジオを構えて活動中。ペインティングを中心に、彫刻やインスタレーション、大規模なパブリックアートなどの作品で知られる。建築家の大野力氏が率いるsinatoが建築デザインを担当してリニューアルした〈新宿東口駅前広場〉に設置されたパブリックアートも松山氏の作品。ニューヨーク、ワシントンD.C.、サンフランシスコ、ロサンゼルス、シカゴなどの全米主要都市、ドバイ、香港、台北、ルクセンブルグなど、世界各地のギャラリー、美術館、大学施設等にて個展・展覧会を多数開催。
松山智一氏コメント:
「移ろいゆく世の中にありながら、それでも一つの場所に根を張り、挑み続ける人間の強さと素直さを表現しています。タイトルは“終わりのない手仕事”を意味する 「A Daunting Task」。背景には鮮やかな色が施されていますが、それとは対照的に主役である花には彩色が施されていません。無彩色の花は、持続やプロセスの中で自己発見や自己成長を遂げる我々自身の存在に問いかける意図を込めています。」
〈TIPSTAR DOME CHIBA〉では今後、自転車競技ならではのスピード感、スポーツベッティング(Sports Betting)の娯楽性という競輪の持つ魅力を踏襲しつつ、国内外トップクラスのアスリートたちが1年を通してトーナメント形式で戦う全く新しい自転車エンターテインメントが開催される予定です。(en)
施設名称:TIPSTAR DOME CHIBA(ティップスター ドーム チバ)
竣工時名称:千葉JPFドーム
所在地:千葉県千葉市中央区弁天4-1-1(Google Map)
発注者:JPF
PM / プロパティマネジメント:サトウファシリティーズコンサルタンツ
規模:地下1階+地上4階、高さ27.2m
建築面積:約9,600m²
延面積:約14,300m²
構造:鉄骨造(一部鉄筋コンクリート造)
工期:2019年11月~2021年3月
設計・施工:清水建設
「PIST6」公式Webサイト
https://www.pist6.com/
千葉市「千葉公園再整備マスタープラン」
https://www.city.chiba.jp/toshi/koenryokuchi/ryokusei/tibakouenmasuta-puran.html
清水建設プレスリリース(2021年9月8日)
https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2021/2021039.html