CULTURE

最新技術×継手・仕口でつくる3Dプリント建築

日本の継手・仕口をヒントに3Dプリンタで制作した曲面パネル構造

CULTURE2023.08.08

Kei Atsumi by the TSUGINOTE TEA HOUSE in Kanazawa, April 2023 Photo: Eiichi Yoshioka

〈TSUGINOTE TEA HOUSE〉は、最新の3Dプリント技術で作成された“3Dプリント茶室”です。

3Dプリント技術と伝統的な木工継手仕口の技術を組み合わせることで、建築生産の新しい可能性を追求するプロトタイプとして開発されました。

クリエイティブディレクター・建築家の厚見 慶と、ストックホルムとパリを拠点に活動する建築家のニコラ・プレオの両氏が協働で設計しました。

未来の建築の姿を指し示す本プロジェクトの詳細は、厚見氏にインタビューしたFEATURE記事で掲載します!

(以下、厚見氏から提供されたプレスキットのテキストより)

2023年4月、厚見 慶とニコラ・プレオは金沢市の金澤神社で開かれたお茶会で〈TSUGINOTE TEA HOUSE〉を発表した。この3Dプリント茶室は、Flashforge®の最新の3Dプリント技術で作成された約1,000個のカスタマイズ部品を4人で3時間のセルフビルドで実現した。

〈TSUGINOTE TEA HOUSE〉は、3Dプリント技術と伝統的な木工継手仕口の技術を組み合わせることで、無制限のデザイン形状、建築生産のデジタル化、大幅な建築施工コスト削減、いつでも誰でも組み立て解体可能な建築システム、再生可能な建材など、建築生産の新しい可能性を追求するプロトタイプとして開発された。

The TSUGINOTE TEA HOUSE under construction in Kanazawa, April 2023 Photo: Eiichi Yoshioka

近年の3Dプリント産業に対する日本型の戦略

近年、技術革新による3Dプリンタが注目されており、建築分野において労力、部品点数、施工コスト、環境負荷を削減する可能性が研究されている。欧米型の3Dプリント建築では、大規模なコンクリート3Dプリンタを用いて建物全体をプリント出力する手法が開発されているが、施工精度や可変性に課題が残る。現代の建築システムでは、規格部材の接合により建築空間が実現されているが、建築部材接合部の複雑化が問題となっている。

TSUGINOTEのミッションは、建築躯体を分割し、各構造部材を継手・仕口で接合することで、デザイン形状や施工後の可変性を実現し、金物を使わずに部品点数の削減と部材接合部の簡素化を行うこと、木質素材での3Dプリント建築生産により林業の生産性向上と持続可能性に着目することである。部材接合手法の簡易化は、今後の建築生産システムにおいて重要課題の1つである。

Photo: Eiichi Yoshioka

デスクトップ3Dプリンタを用いて小型部品を高精度にプリントし、伝統的な継手仕口で組み立てることで大規模構造物を制作することが可能となる。特許取得済みの接合ジョイントデザインやパラメトリックなモデリング工程が取り入れられており、職人の技術も活用される。日本でもこの技術が導入されることで、新たな建築技術の発展が期待される。

3Dプリント建築は、従来の建築技術とは異なる新しいアプローチが可能であり、建築物の形状に制限が少なく、自由な設計が実現できる。労力や時間、コストを大幅に削減し、効率的で創造的な建築が実現されることが期待される。日本の建築業界においても、新しいアプローチが取り入れられることで、従来の建築技術にはない可能性が広がり、建築生産システムの革新が促進されるであろう。また、木質素材を用いた3Dプリント建築は、環境に配慮した持続可能な建築物の実現に寄与し、林業の発展にもつながると考えられる。

3Dプリント建築は、今後ますます注目される技術となり、世界の建築業界に大きな影響を与えることが予想される。特に、日本型戦略の導入により、日本の建築業界は新たな競争力を獲得し、国際的な市場での地位を強化することができるとされている。

Photo: Eiichi Yoshioka

Photo: Eiichi Yoshioka

TSUGINOTE のデザイン的価値

建築生産システムにおける重要課題の1つである部材接合手法の簡易化が、3Dプリンタ技術によって解決が期待されている。従来の継手・仕口は2次元方向に固定可能だが、3次元方向の固定は難しい。我々が提案する「TSUGINOTE」は、3Dプリンタを活用し、3次元方向にも固定可能な部材接合部デザインを実現することで、接合システムを簡素化し、専門知識がない人でも簡単にセルフビルドが可能になる。

Photo: Eiichi Yoshioka

特許取得済みのTSUGINOTEジョイントシステムは、3Dプリント技術を用いて、2次元方向の固定に限定されていた継手・仕口を再編集し、3次元方向の固定も可能にする接合部デザインを実現している。伝統的な継手・仕口と3Dプリント技術を融合させることで、部材接合システムの簡素化が可能となり、独創的な日本型3Dプリント建築の発展が期待される。

Regenerativeな未来へ向けて

このTSUGINOTEプロジェクトには、デジタルでありながら原始的、縄文的な文化が込められている。我々は農耕を始めて以降、決まった場所に定住するある種何者かに管理された暮らし方を行ってきた。しかし、社会的デジタルインフラの発展によりこの先人々の暮らし方が定住型から非定住型へ大きな変革が起こると信じている。TSUGINOTEの3Dプリント建築システムは、誰でも組み立て・解体が可能で、非定住の暮らしが実現できる画期的な技術である。

このシステムにより、建築コストが大幅に削減されることで、人々の建築に対する購買意識が変化するだろう。住宅ローンに縛られた1カ所居住型ではなく、土地に縛られない住まい方が容易になり、ライフスタイルの新たな選択肢が生まれる可能性がある。今まで大量の規格部材を接合することにより建築空間を実現してきたが、同時に建築部材接合部の複雑化も進み「重い建築」をつくってきた。一方で、TSUGINOTEは、デジタルファブリケーションを活用して建築生産システムを変革することで、非定住型の暮らしに適した「軽やかな3Dプリント建築」を実現する。

今後、さらに研究開発を重ね、TSUGINOTE技術を一般建設技術や製品と組み合わせることで、機能充実した住宅ユニット「TSUGINOTE MICRO HOME」の実用化を計画中。この自立型で簡単に建設および解体可能なユニットは、断熱や太陽光発電、ガラス、水・暖房システムが組み込まれており、Regenerative(再生可能)な未来のライフスタイルに寄与していく。

※ 本研究はJSPS科研費JP21K12561の助成を受けている

Nicholas Préaud
https://nicholaspreaud.com/

Kei Atsumi
https://www.instagram.com/kei_atsumi/

Photographs: Eiichi Yoshioka
https://www.instagram.com/tsukinoto/

 

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