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鹿島建設と京都大学が人工重力施設の共同研究を開始

月や火星での居住を前提にコアテクノロジーによる縮小生態系の確立などを目指す

BUSINESS2022.07.17

鹿島建設と京都大学(大学院総合生存学館 SIC有人宇宙学研究センター)は、「1Gは人類のアイデンティティ」という共通認識のもと、掲げた3つの構想の実現に向け、研究に着手することで合意したことを発表しました(以下、イメージビジュアルと構想の各概要のテキストは、両者のプレスリリースより)。

3つの構想
1.月および火星での生活基盤となる人工重力居住施設「ルナグラス®・マーズグラス®」
2.宇宙に縮小生態系を移転するためのコンセプト「コアバイオーム」
3.惑星間を移動する人工重力交通システム「ヘキサトラック」による人工重力ネットワーク

研究者コメント
山敷庸亮氏(京都大学大学院 総合生存学館 SIC有人宇宙学研究センター センター長)
火星移住に関して、アメリカやアラブ首長国連邦などが積極的な案を出していますが、日本から全く独自のアイデアを発信してゆければと思います。ここ数年間の議論を通じて、我々が今回提案するこの3本柱(3つの構想)は、他の国の開発計画になく、かつ今後の人類の宇宙移住の実現を確実にするうえで、なくてはならない核心技術(コアテクノロジー)であることを確信しています。

鹿島建設×京都大学 宇宙建築共同研究イメージ

ルナグラス®(イメージパース作成・提供:大野琢也 鹿島建設 関西支店 建築設計部 副部長)

構想の各概要

1.人工重力居住施設「ルナグラス®・マーズグラス®」
人類が宇宙空間や、月、火星で生活する日は目前に迫っています。NASA(アメリカ航空宇宙局)は低重力を人類が宇宙で生活するための重要課題と位置付けていますが、低重力の研究は成人の身体の維持にとどまっており、子供の誕生や成長への影響はまだ研究されていません。
重力がないと、哺乳類はうまく誕生できない可能性があります。また、誕生できても低重力では正常な発育が望めないでしょう。人が低重力下で成長した場合、地球では自力で立てない体になります。そこで我々は、宇宙空間や月面、火星面において、回転による遠心力を利用し、地球環境同等の重力を発生できる「人工重力居住施設」が人類の宇宙での生活におけるコアテクノロジー(核心技術)と捉えて提案します。

鹿島建設×京都大学 宇宙建築共同研究イメージ

回転するルナグラス®の人工重力概念図(天体の重力と回転による遠心力の合力によって1Gを得る 仕組み)

普段は同施設で暮らし、仕事や研究、レジャーの時にだけ、月や火星ならではの低重力、宇宙空間での無重力を楽しむようにすればよいと考えます。同施設で生活することによって、人類は安心して子供を産み、いつでも地球に帰還できる身体の維持が可能となります。


#京都大学総合生存学館 宇宙・地球環境災害研究会-宇宙生物学ゼミENVHAZARDS YouTube「マーズ・グラス® Mars Glass」(2022/07/06)
作成:大野琢也(鹿島建設)/ Credit Takuya Ono, Kajima Co. Ltd.

2.「コアバイオーム」
これまでの宇宙移住計画は、人類が移住するための生存基盤である「空気」「水」「食料」「エネルギー」の確保のみに重点が置かれ、地球においてこれら生存基盤の拠り所である「自然資本」の移転にまで考えが至っていません。実際に、地球外での生活を考えたとき、その天体環境にどのようなかたちで自然資本を存在させ、衣食住を可能にし、宇宙社会を実現するかについて、現実的な数字を踏まえた計画を検討立案する必要があります。

鹿島建設×京都大学 宇宙建築共同研究イメージ

コアバイオーム コンセプト模式図(イメージ図作成・提供:山敷庸亮 京都大学 総合生存学館教授)

我々は、21世紀後半に人類が月・火星への移住を現実のものとするという未来を想定し、要素を抽出した地球生態系システムを「コアバイオーム複合体」と定義し、まずは移住に必要な最低限のバイオーム「選定コアバイオーム」を特定します。
同時に、これに必要な核心技術「コアテクノロジー」と社会基盤「コアソサエティ」 の統合から、他の天体(移転環境と称する)への宇宙移住の基幹学問体系として確立すること、またこの学問体系を地球環境保全や人間社会の組織形成などへフィードバックすることも目指します。
今回のプロジェクトにおいては、人工重力居住施設 ルナグラス®・マーズグラス®内において、ミニコアバイオームを確立させることを1つの目標として計画を実施します。

鹿島建設×京都大学 宇宙建築共同研究イメージ

ヘキサトラックシステム(イメージ図作成・提供:山敷庸亮 京都大学 総合生存学館教授)

3.人工重力交通システム「ヘキサトラック」
ヘキサトラックシステム(Hexagon Space Track System)とは、長距離移動においても、地球重力である「1G」を保つ、地球・月・火星惑星間軌道交通システムです。
月・火星での生活が現実となり、それぞれのコロニー(居住集団)が経済活動を行い、多くの人々がビジネスや観光で惑星間を移動するようになる未来宇宙社会(コアソサエティ)において、長期間の移動時に低重力による健康影響を最小限とするための、鉄道システムを基本モジュールとした回転により、1Gを保つ人工重力交通機関です。


#京都大学総合生存学館 宇宙・地球環境災害研究会-宇宙生物学ゼミENVHAZARDS YouTube「HEXATRACK SYSTEM – Space Express – CONCEPT connecting MOON-MARS and BEYOND」(2022/07/05)
HEXATRACK SYSTEM concept by Yosuke Alexandre Yamashiki
Design & Animation by Juniya Okamura
Daidaros concept by Takuya Ohno
Lunar & Mars glass by Takuya Ohno
Music Neptune by Yosuke Alexandre Yamashiki

ヘキサカプセルは、六角形の形状をもつカプセルで、中心部分に対しては移動装置が準備されています。地球―月の移動に利用する小型のミニカプセル(半径 15m)と、地球―火星 もしくは 月―火星の移動に利用 するラージカプセル(半径 30m)があります。ラージカプセルは外枠が繋がっていない構造をしており、各車 両からの人の移動は放射状の中心軸を利用します。月と火星間の移動では1G (半径30mで5.5rpm)を保ちます。

鹿島建設×京都大学 宇宙建築共同研究イメージ

ヘキサカプセル(左:ミニカプセル / 右:ラージカプセル)重力創出イメージ

月・火星・地球のゲートウエイは、それぞれの惑星を周回する無重力あるいは微小重力の衛星もしくは人工天体上に設置します。
月面駅はルナステーションと称し、ゲートウエイ衛星を利用。火星駅はマーズス テーションと称し、火星の衛星フォボス上に設置。地球駅は、テラステーションと称し、ISSの後継宇宙ステーションとします。

スペースエクスプレスは、新幹線の車両サイズ(長さ25m、幅3.4m、高さ4.5m)に収まり、かつ標準軌(1,435mmのレール幅)での動力システムを持つ、6両編成の鉄道車両です。
宇宙空間への射出時には、それぞれの車両がバーで連結され、直進性を保ちます。真空中で1気圧を保つため、機密性は確保されます。拠点駅に着くと、それぞれ1両ずつ切り離されます。
先頭車両と最後尾の車両にはそれぞれロケット噴出装置を設置、宇宙空間で「加速」し、それぞれの惑星の重力圏を脱出します。
また、大気のある惑星では翼を広げ、揚力を利用します。月面上、火星上では、それぞれの拠点都市を結ぶ高速鉄道として運用されます。

鹿島建設×京都大学 宇宙建築共同研究イメージ

スペースエクスプレス レールランチャー イメージ

月・火星から、拠点駅への列車の射出には、レールガン技術(リニアモーターカタパルト等での加速技術)を用います。最大射出速度が十分であれば、その後の加速は不要 ですが、急加速による衝撃を避けるため、射出後、ロケットエンジンによる継続加速により各惑星の重力圏を脱出します。各惑星上では鉄道システムして稼働します。
拠点駅でヘキサカプセルに収容され、乗客は列車内に搭乗のまま長距離移動が可能となります。


#京都大学総合生存学館 宇宙・地球環境災害研究会-宇宙生物学ゼミENVHAZARDS YouTube「ルナグラス®と交通機関 Lunar Glass & Lunar Vehicle」(2022/07/06)
作成:大野琢也(鹿島建設)/ Credit Takuya Ono, Kajima Co. Ltd.

今後の予定

鹿島建設および京大では、この研究によって、低重力の問題点を含む宇宙生活の課題とその解決方法を広く世間に知らしめるとともに、地球環境の重要さの再認識を呼び起こすことで、地球外宇宙をも包含した持続可能な社会の構築に寄与できると考えています。

鹿島建設×京都大学 宇宙建築共同研究イメージ

人工重力居住施設を中心に据え、各研究領域を統合した学問体系の構築を目指す概念図

今後は、必要に応じてその他有識者の協力も得ながら、具体的な人工重力施設が装置としてどのようにあるべきか、生態系をどこまで再現するべきか、人文的、法的、制度的にどのようなものが必要であるかを検討していく予定とのこと。

鹿島建設プレスリリース(2022年7月5日)PDF
https://www.kajima.co.jp/news/press/202207/pdf/6a1-j.pdf

京都大学SIC発表(2022年7月6日)
https://space.innovationkyoto.org/2022/07/06/coretechnology_kyoto_kajima/

京都大学ニュース(2022年7月11日)
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news/2022-07-11

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