BUSINESS

"旅する"中銀カプセル

淀川製鋼所(ヨドコウ)が移動可能な「トレーラーカプセル」として再生

BUSINESS2023.05.07

黒川紀章氏の設計で1972年に竣工し、惜しまれつつ2022年に解体された〈中銀カプセルタワービル〉。解体工事中に取り外された23のカプセルを、国内外の美術館や商業施設に展示、あるいは宿泊施設などに活用する「カプセル新陳代謝プロジェクト」(英文名:Capsule Metabolism Project)がスタートしています。

中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト(東京都中央区、代表 前田達之)[*1]が発表したもので、黒川紀章建築都市設計事務所(代表取締役 下條哲成)監修のもと、修復が行われ、全てのカプセルの”再生”を完了。2023年3月より、譲渡先への搬送も行われているとのこと。建築家が設計当初に構想したメタボリズム(Metabolism)[*2]の思想とは異なるかたちではあるものの、カプセルの”新陳代謝”が行われます。

中銀カプセルタワービル「カプセル新陳代謝プロジェクト」

中銀カプセルタワービル(現存せず、提供:中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト)

中銀カプセル新陳代謝プロジェクト / 淀川製鋼所(ヨドコウ)の「トレーラーカプセル」

解体時に取り外され、クレーンで下ろされるカプセル

中銀中銀カプセルタワービル「カプセル新陳代謝プロジェクト」タワービル「カプセル新陳代謝プロジェクト」

解体工事中に”レスキュー”されるカプセル(提供:中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト)

中銀カプセル新陳代謝プロジェクト

修復後のカプセル内観(撮影:山田新治郎 / 提供:中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト)

中銀カプセルタワービル「カプセル新陳代謝プロジェクト」

修復を終え、倉庫で保管中のカプセル(提供:中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト)

中銀カプセルタワービル「カプセル新陳代謝プロジェクト」

保管倉庫から搬出されるカプセル(提供:中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト)

2基のカプセルを取得した松竹は、本社を構える東劇ビル(東京都中央区築地4丁目)の隣接地に今秋開業を予定している新たなスペース「SHUTL(シャトル)」の主要施設とする計画であることを先ごろ発表、『TECTURE MAG』にて4月27日に速報したとおりです。

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淀川製鋼所(大阪府大阪市中央区)では、中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトの活動趣旨に賛同し、1基のカプセルを取得。黒川紀章建築都市設計事務所に勤務していた建築家でデザイナーの鈴木敏彦氏(工学院大学建築学部教授、ATELIER OPA[*1])の協力を得て、移動可能な「トレーラーカプセル」としてカプセルを再生。4月13日に幕張メッセ(千葉県千葉市)で行われた「第16回 エクステリア×ガーデンエキシビション(EXG) 2023」の同社展示にて披露されました。

中銀カプセルタワービル「カプセル新陳代謝プロジェクト」

淀川製鋼所(ヨドコウ)の「トレーラーカプセル」 (撮影:山田新治郎)

 


淀川製鋼所(ヨドコウ)の発表(2023年4月6日プレスリリース)によれば、「ニューノーマルの暮らしをデザインする」をコンセプトに、同社が2022年から展開するデザインブランド「YODOKO+(ヨドコウプラス)」のシンボルとして、この「トレーラーカプセル」を活用していく計画とのこと。

「トレーラーカプセル」の概要

中銀カプセルタワービルのカプセルをトレーラーへとコンバージョンするプロジェクトでは、積載重量の基準をクリアするため、軽量化が必要になったとのこと。このため、中銀カプセルタワービルが竣工した50年前の内装へと再生する過程で、当時の家具をすべて復元する一方で、構造体の一部を”間引き”し、壁や天井の仕上げを略することで軽量化が図られました。

不動産だった中銀カプセルにはない、「動く」という特性と、スケルトンの仕様が加わり、竣工当時の姿を彷彿させつつも、新たな趣きを帯びた「トレーラーカプセル」として再生されています。

中銀カプセル新陳代謝プロジェクト / 淀川製鋼所(ヨドコウ)の「トレーラーカプセル」

カプセル修復作業の様子

中銀カプセル新陳代謝プロジェクト / 淀川製鋼所(ヨドコウ)の「トレーラーカプセル」

修復されたヨドコウの「トレーラーカプセル」内観

黒川紀章氏は、その著書『ホモ・モーベンス―都市と人間の未来』(中公新書、1969年)の中で、来るべき未来を見据え、情報化社会で自由に移動しながら暮らして働く人物像「ホモ・モーベンス」のための住まいとして、中銀カプセルタワービルを設計したと述べているとのこと(ヨドコウプレスリリースより)。淀川製鋼所では、この黒川の思想に着目。中銀カプセルタワービルが、未来の社会を予見して設計されただけでなく、実際に住宅として機能してきた建築であることにも敬意を表し、50年余を経たカプセルに「動く」という新しい可能性を付与して、「YODOKO+」が常に未来を見据えたデザインブランドとして在り続けるためのシンボルとして、「トレーラーカプセル」を活用していく計画です(同社が出展するプロユーザー向けの建築商材展示会 [ 2023年5月18日・19日 第14回エクステリア&ガーデンフェア名古屋 2023、同年6月8日・9日 第16回関西エクステリアフェア2023]にて、この「トレーラーカプセル」も展示される予定 注.展示のみ、内部への立ち入りは不可)

中銀カプセル新陳代謝プロジェクト / 淀川製鋼所(ヨドコウ)の「トレーラーカプセル」

再生された「トレーラーカプセル」内観(内部への立ち入りは不可)


*1.中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト
2014年に保存を望むオーナーと住人を中心に結成(代表:前田達之)。『中銀カプセルタワービル 銀座の白い箱舟』(青月社、2015年)、『中銀カプセルスタイル:20人の物語で見る誰も知らないカプセルタワー』(草思社、2020年)、『中銀カプセルタワービル 最後の記録』(草思社、2022年)を出版している。管理組合と協力体制を構築することで、見学会の開催や、取材や撮影の補助、コミュニティーの形成にも力を注いで活動してきた。

プロジェクト公式ウェブサイト
https://www.nakagincapsuletower.com/

SNS
https://twitter.com/nakagincapsule
https://www.facebook.com/NakaginCapsuleTower
https://www.instagram.com/nakagin_capsule_tower/

中銀カプセルタワービル

中銀カプセルタワービル(現存せず)


*2.メタボリズム(Metabolism)
生物学における細胞の「新陳代謝(=metabolism)」をモデルに、社会の発展や人口の増加に応じて有機的に成長していく都市および建築のあり方を指す。1950年代にモダニズム建築を主導してきたCIAM(Congrès International d’Architecture Moderne・シアム・近代建築国際会議)に参加していた黒川紀章(1934-2007)や菊竹清訓(1928-2011)ら当時の日本の若手建築家・都市計画家が提唱し、グループを形成した。菊竹は「塔状都市」「海上都市」などのプロジェクト案を発表している。


*3.ATELIER OPA(アトリエ オーピーエー)
https://www.atelier-opa.com/

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