CULTURE

中銀カプセルタワービル「カプセル新陳代謝プロジェクト」国内外で進行中

黒川紀章が設計した和歌山県立近代美術館にて展示、海外ではサンフランシスコ近代美術館が1カプセルを取得

CULTURE2023.08.30

2023年8月30日初掲、9月9日設営中の動画を追加シェア

惜しまれつつ2022年に解体された、黒川紀章(1934-2007)の代表作〈中銀カプセルタワービル〉(1972年竣工)。ビルの解体工事中に取り外され、修復されたカプセルの1つ(カプセルA908)が、黒川紀章が設計した和歌山県立近代美術館に展示されます。すでに敷地内への搬入と設置を終え、現地の写真が公開されました(Nakagin Capsule Tower Preservation and Restoration Project / 中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトおよび和歌山県立近代美術館発表)

中銀カプセルタワービル「カプセル新陳代謝プロジェクト」

和歌山県立近代美術館 屋外展示 カプセルA908(提供:和歌山県立近代美術館)

カプセルを展示する和歌山県立近代美術館は、コレクションは明治期以降の和歌山ゆかりの作家による作品を中心としつつ、海外の作家も含めて総数1万点を超えるコレクションを有します。

〈和歌山県立近代美術館・博物館〉

〈和歌山県立近代美術館・博物館〉外観(提供:和歌山県立近代美術館)

同館は、1963年に和歌山城内で開館した和歌山県立美術館を前身とし、1994年に和歌山城に面した南側の敷地に移転[*1]、新築された建物を黒川紀章が設計しました。
緑豊かな和歌山城と天守閣を望むロケーションにあり、歴史や自然との「共生」を体現したような黒川紀章建築に、「カプセル新陳代謝プロジェクト」のカプセルが日本の美術館として初めて展示されます[*2]。和歌山県立近代美術館によれば、黒川紀章が設計した美術館として唯一の再生カプセルの展示になるとのこと[*2]

*1.施設の沿革は和歌山県立近代美術館ウェブサイト「沿革の詳細」を参照
*2.黒川紀章が設計し、1982年に開館した〈埼玉県立近代美術館〉に展示されている「カプセル」は、中銀カプセルタワービルのオープン当時にモデルルームとしてつくられたプロトタイプ

〈和歌山県立近代美術館・博物館〉夜間外観

和歌山県立近代美術館 夜間外観(提供:和歌山県立近代美術館)

以下のテキストは、美術館の発表(2023年8月29日プレスリリース)より。

中銀カプセルタワービルのカプセル展示について

中銀カプセルタワービルは、1972年に竣工した、建築家・黒川紀章の代表作のひとつです。新陳代謝する建築=メタボリズム運動の最若手の建築家として活躍した黒川の、建築史に残る代表作です。
建物は約10m²のスペースに人間が生活する最小限の機能を詰め込んだ「カプセル」140個から構成され、カプセルを取り外して移動させたり交換したりすることで新陳代謝する建築物というユニークな思想が体現されました。

中銀カプセルタワービル「カプセル新陳代謝プロジェクト」

設計当時のイメージ画(提供:中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト)

中銀カプセルタワービル

解体前の中銀カプセルタワービル 外観(提供:中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト)

しかしカプセルは一度も交換されることがないまま50年を経て、2022年、老朽化に新型コロナウイルスのパンデミックが追い打ちとなり、惜しまれつつも解体されました。オーナーと住人を中心メンバーとする「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」により23個が救出され、黒川紀章建築都市設計事務所監修のもと、保存再生が行われました。できるだけオリジナルに近いかたちに再生される展示用が14個、その他の活用が可能なスケルトンタイプが9個で、和歌山県立近代美術館には、2023年8月24日に展示用A908が到着しました。

中銀カプセルタワービル「カプセル新陳代謝プロジェクト」

美術館に到着したカプセル(提供:和歌山県立近代美術館)

中銀カプセルタワービル「カプセル新陳代謝プロジェクト」

カプセル設置の様子(提供:和歌山県立近代美術館)

中銀カプセルタワービル「カプセル新陳代謝プロジェクト」

美術館アプローチプラザに展示されたカプセル(提供:和歌山県立近代美術館)

中銀カプセルタワービル「カプセル新陳代謝プロジェクト」

カプセル内観(提供:和歌山県立近代美術館)

和歌山県立近代美術館のアプローチプラザに設置されたカプセルは、現在は外観のみ無料で見ることができます。内部公開については検討中とのこと。


中銀カプセルタワービル保存再生プロジェクトYouTube「中銀カプセルタワービルの修復したカプセルA908 at 和歌山県立近代美術館」(2023/09/08)

和歌山県立近代美術館
所在地:和歌山県和歌山市吹上1丁目4-14(Google Map
開館時間:9:30-17:00(入場は16:30まで)
休館日:月曜(祝日の場合は開館し、翌平日休館)

ウェブサイト
https://www.momaw.jp/


〈中銀カプセルタワービル〉にあった140のカプセル(部屋)のうち、解体工事中に取り外された23のカプセルを再生する「カプセル新陳代謝プロジェクト」(英文名:Capsule Metabolism Project)が国内外で進行中です。

上記の和歌山県立近代美術館での展示活用のほかにも新たな展示スペースや移動可能な「トレーラーカプセル」として再生される計画・実例がこれまでにも発表されています。

第1弾 淀川製鋼所「動く中銀カプセルトレーラー」
第2弾 松竹の新スペース「SHUTL(シャトル)」
第3弾 サンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)が1カプセル取得
第4弾 和歌山県立近代美術館にてカプセル展示

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中銀カプセルタワービル「カプセル新陳代謝プロジェクト」

©︎Nakagin Capsule Tower Preservation and Restoration Project(中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト)

中銀カプセルタワービル「カプセル新陳代謝プロジェクト」

修復中のカプセル
©︎Nakagin Capsule Tower Preservation and Restoration Project(中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト)

カプセル平面図および展開図(出典:『中銀カプセルタワービル 最後の記録』2022年 中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト編)

カプセル平面図および展開図(出典:『中銀カプセルタワービル 最後の記録』2022年 中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト編)

中銀カプセルタワービル「カプセル新陳代謝プロジェクト」

A1305 カプセル内観 撮影:山田新治郎

美術館として最初の取得発表は、サンフランシスコ近代美術館

今年の6月には、米国のサンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)がカプセルA1302を取得したことが発表されています(中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト 2023年6月12日プレスリリースより)。

SFMOMA

スノヘッタが増築を手がけ、複合施設となったSFMOMA, photo:Jon McNeal, © Snøhetta

SFMOMA is First Museum to Acquire a Capsule from the Visionary Nakagin Capsule Tower

On May 18, 2023, SFMOMA became the first museum to acquire a Capsule from the Nakagin Capsule Tower, built in Tokyo, Japan, in 1972.

One of architect Kisho Kurokawa’s earliest projects, the Nakagin Capsule Tower was an example of Metabolist architecture, a significant architecture movement in post-war Japan. They proposed an architecture that integrated ideas of responsiveness, adaptability and impermanence. Metabolist architecture is based on the Japanese concept “shinchintaisha,” a biological term for cell adaptation to sustain life, which can be translated in English as metabolism. In Japanese, the term is also imbued with a Buddhist spiritual idea of renewal and regeneration.

The 13-floor Nakagin Capsule Tower featured two central towers containing infrastructure for 140 small, prefabricated living units attached to the exterior of the towers. The idea was that individual units could be replaced or even moved to different locations. Originally billed in the real estate documents as “Business Capsules” for businessmen to have a private space during the week, the prefabricated capsules featured a single circular window, a full bathroom, a built-in bed and a fold-down desk. The owner would also select optional interior features and accessories from a menu of options, which included the latest Japanese electronics of the day, such as a television and a reel-to-reel tape player.

The capsules were initially popular; however, as the surrounding neighborhood developed, the Nakagin real estate company invested little in the Capsule Tower’s maintenance. Nakagin Capsule Tower remained as it was built until October 5, 2022, when the central towers and most of the capsules were demolished. Nakagin Capsule Tower Preservation and Restoration Project, led by Tatsuyuki Maeda, managed to save 23 capsules.

中銀カプセルタワービル「カプセル新陳代謝プロジェクト」

A1302 photo: Nakagin Capsule Tower Preservation and Restoration Project

Capsule A1302, acquired by SFMOMA, was the capsule owned by Kisho Kurokawa. It had a prime location on the tower’s highest floor and was featured in several movies. Capsule A1302 has been carefully restored in close conversation with Kurokawa’s office, curators and historians; it contains original features and electronics available to buyers who customized their units in 1972. Given the small dimensions of 8.2 ft. width x 13.1 ft. length x 8.2 ft. height, the Capsule offers an extraordinary opportunity to acquire built architecture and to realize the architect’s wish that the Capsules not remain fixed, but rather move to other locations. The capsule joins the museum’s deep holdings in Japanese architecture, design and photography. In addition to SFMOMA’s acquisition of Capsule A1302, the museum has collected nine photographs by Noritaka Minami from his series 1972, documenting the unique interiors of living at the Nakagin Capsule Tower between 2010-2022.

中銀カプセルタワービル「カプセル新陳代謝プロジェクト」

A1302 photo: Nakagin Capsule Tower Preservation and Restoration Project


サンフランシスコ近代美術館が”幻の中銀カプセルタワー”のカプセルを美術館として初めて取得

2023年5月18日、サンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)は、1972年に東京に建設された中銀カプセルタワーのカプセルを取得した最初の美術館となった。

建築家・黒川紀章の初期のプロジェクトのひとつである〈中銀カプセルタワー〉は、戦後日本の重要な建築運動であったメタボリズム建築の一例である。彼らは、応答性、適応性、無常性といった考えを統合した建築を提案した。
メタボリズム建築は、生命を維持するための細胞の適応を意味する生物学用語である「新知性体」という日本語の概念に基づいている。日本語では、この言葉には更新と再生という仏教的な精神思想も込められている。

13階建ての〈中銀カプセルタワー〉は、中央の2つのタワーに140戸の小さなプレハブ・リビングのインフラがあり、タワーの外壁に取り付けられている。個々の住戸は入れ替えが可能で、別の場所に移動することもできるように黒川が設計していた。
当初は、ビジネスマンが平日にプライベートな空間を確保するための”ビジネス・カプセル”という名目で、プレハブ・カプセルには円形の窓が1つ、フルバスルーム、備え付けのベッド、折り畳み式の机が備え付けられていた。また、カプセルのオーナーはオプションの内装やアクセサリーをメニューから選ぶことができ、それにはテレビやオープンリール式テープ・プレーヤーなど、当時の日本の最新家電製品も含まれていた。

しかし、周辺の開発が進むにつれ、建物を管理する不動産会社は、カプセルタワーのメンテナンスにほとんど投資しなくなった。中銀カプセルタワーは、2022年10月5日に中央のタワーとカプセルのほとんどが取り壊されるまで、建設当時のままだった。住民のひとりであった前田達之氏が中心となって立ち上げた「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」は、140戸のうち23のカプセルを建物の解体中にレスキューし、保管することに成功した。

SFMOMAが譲り受けたカプセルA1302は、タワー最上階の一等地にあり、黒川本人が所有していたもの。映画の撮影にも何度か使用された。カプセルA1302は、黒川紀章建築都市設計事務所、SFMOMA学芸員、歴史家と綿密な打ち合わせを行い、慎重に修復されたもので、1972年にカスタマイズされたオリジナルの機能と家電機器類が含まれている。
幅8.2フィート×長さ13.1フィート×高さ8.2フィートという小さなサイズであることから、今回のカプセル取得は黒川紀章作品を入手する特別な機会であり、「カプセルは固定されたままではなく、他の場所に移動してほしい」という黒川の願いを実現するものである。このカプセルは、SFMOMAが所蔵する日本の建築、デザイン、写真のコレクションに加わる。

中銀カプセルタワービル「カプセル新陳代謝プロジェクト」

A1302 photo: Nakagin Capsule Tower Preservation and Restoration Project

なお、SFMOMAでは、カプセルA1302の購入に加え、2010年から2022年にかけて中銀カプセルタワーで生活するユニークなインテリアを記録したミナミ・ノリタカの写真シリーズ『1972: Nakagin Capsule Tower』から9点を収蔵している。(DeepL翻訳を編集部にて追補)

中銀カプセルタワービル外観 / ミナミ・ノリタカ『1972: Nakagin Capsule Tower』より

Noritaka Minami, Facade, 2011, archival pigment print

中銀カプセルタワービル内観 / ミナミ・ノリタカ『1972: Nakagin Capsule Tower』より

Noritaka Minami, Facade, 2011, archival pigment print

中銀カプセルタワービル内観 / ミナミ・ノリタカ『1972: Nakagin Capsule Tower』より

Noritaka Minami, Facade, 2011, archival pigment print

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