建築家の丹下健三(1913-2005)の設計で知られる横浜美術館(神奈川県横浜市)が、かねてより計画していた大規模改修工事のため、2021年3月1日から2年を超える休館に入りました[*]。
同館は、1988年(昭和63)3月竣工、1989年(平成元年)11月の開館。開発が始まったばかりのみなとみらい21地区に完成した最初の建物の1つであり、開館当初は周囲にはまだ現在のようなショッピングセンターも高層マンションもなく、広大な土地があるだけでした。
開館以来、展覧会を中心とした「みる」、アトリエの創作活動を中心とした「つくる」、約11万冊の蔵書を擁する美術情報センターを中心とした「まなぶ」の3つを柱に活動を続け、2011年以降は「横浜トリエンナーレ」のメイン会場となっています。
今回の改修では、美術館としての空調設備の更新、丹下が設計し、美術館の顔とも言える吹き抜け大空間(グランドギャラリー)のバリアフリー化、さらに、現在では周囲にさまざまな商業施設や住宅が立ち並び、芦沢啓治建築設計事務所が設計した〈ブルーボトルコーヒー みなとみらいカフェ公園〉なども整備された街への接続・つながりの再構築が行われます。
以下は、休館にあたって発表されたプレスリリースより、横浜美術館 蔵屋美香館長のメッセージから中盤以降を引用します。
今回の改修のポイントを、私は次の2つにおきたいと考えています。
1つは空調設備の更新です。貴重な文化財である作品を保管し、次世代に引き継ぐことを使命とする美術館にとって、空調設備はもっとも重要なものの1つです。
温度は22度±2度、湿度は55%±5%。展覧会によって細かく調整はしますが、これが大体展示室の温湿度の基準値です。この値がもし設備の不調により大きく上下すると、作品に使用されているカンヴァス地や紙が波打ったり突っ張ったりし、その上にのる絵具やインク、現像液などのひび割れや剥落を引き起こす可能性があります。温湿度の変化に敏感な木彫作品にも影響が及ぶでしょう。こうした事態を招くことのないよう、今回の工事で設備を整え、未来の万全な活動に備えるのです。
もう1つは、街との関係をより開かれたものとすることです。
美術館の前には、みなとみらい駅から横浜駅東口方面を結ぶ軸線上に位置する「グランモール公園」があります。子どもたちの歓声が絶えない、気持ちのよい広場です。丹下健三は設計時、この広場と美術館をいかにつなぐか、という点を特に重視していました。この理念を引き継ぎ、広場から美術情報センターに直接入れる入口を設けたり、広場に面した部分に新しい展示ギャラリーを開設したりする予定です。
広場から中に入ると、そこには横浜美術館名物の大空間、グランドギャラリーが広がっています。丹下建築の要となるこの部分はその意匠を大切に守りながら、バリアフリーの工夫を加え、より多様なお客さまに快適な鑑賞体験をお届けします。
#横浜美術館 Yokohama museum of Art YouTube公式チャンネル「休館にあたってのごあいさつ / 横浜美術館館長 蔵屋美香」(2021/02/28)
横浜美術館では、休館中の活動として、国内有数の約13,000点の所蔵作品を詳細に研究し、データを整理、公開を予定。また、仮事務所での教育普及プログラムの実施に加え、市内各所に出向いてのアウトリーチ活動も行なわれます。
事務所移転費も含めた事業費は120億円(横浜市発表 / PDF資料)。日刊建設工業新聞の報道(2019年12月18日記事)によれば、改修工事にともなう実施設計は引き続き丹下都市建築設計(2003年に丹下健三・都市・建築設計研究所より改組)が担当するとのこと(註.その後、空間構築とサイン計画を乾久美子建築設計事務所が担当することを発表)。
2年以上の長期休館は、開館以来初。再開館は2023年度中を予定しています。(en)
*.2017年(平成29)5月31日に横浜市文化観光局が発表したスケジュールでは、工事に伴う休館時期は「東京 2020 オリンピック・パラリンピックおよび平成32年(2020年)の横浜トリエンナーレ閉幕後から、平成35年(2023年)の横浜トリエンナーレ開会前までの間で、約2年半を想定」していたが、計画が前倒しとなっている
横浜美術館公式ウェブサイト「館長からのご挨拶 / 休館にあたって」
https://yokohama.art.museum/about/greeting/director.html