長野県唯一の県立の美術館として、エリア一帯の再整備を含めて建て替えが進められていた〈長野県立美術館〉が4月10日にオープンします。
旧称は長野県信濃美術館(今回のオープンにあわせて改称)。日建設計のチーフアーキテクトで副社長も務めた林 昌二氏(1928-2011)の設計により、1966(昭和41)に開館しました。その後、日本画家の東山魁夷(1908-1999)から寄贈された作品の収蔵を目的に、谷口吉生(1937-)が設計した東山魁夷館が1990年(平成2)に開館。HPシェル(双曲放物面シェル)構造が特徴的な林昌二作品の本館棟と共に、2館で運営されてきました。
その後、両館ともに老朽化のため、長野県が整備事業を計画。東山魁夷館は改修(2017年5月より休館、2019年10月リニューアル・オープン)、林昌二の本館棟は全面改築となり、2017年に長野県が実施したプロポーザルにおいて、建築家の宮崎 浩氏が率いるプランツアソシエイツ(Plants Associates Inc.)の案が最優秀案に選出されています(次点はSANAA)。
新美術館と既存の東山魁夷館、さらにエリア最大のシンボルである善光寺との位置関係は、2020年11月に発表されたイメージビジュアルから読み取れます。
美術館を内包する城山公園、隣接する善光寺東側公園や神社の杜などのランドスケープと、新築および既存の建築とが融合した空間・環境を目指します。
新美術館は、これまでになかった常設展示室を設け、延べ1万平米にスペースを拡充。国宝・重要文化財の展示や全国規模の巡回展が開催される見込みです。
レイアウトとしては、展示室や収蔵庫などの美術館本来の機能を有する諸室と、多目的ホールや県民ギャラリーなど多目的に自由に使える諸室と、大きく2つの施設に機能を分離したうえで、美術館施設として一体化するよう、宮崎氏により計画されています。
館内には、善光寺を正面に周囲の山々を見渡せる屋上広場「風テラス」やレストラン、ライブラリーや、チケットなしで自由に入れる無料ゾーンも用意(フロアマップ緑色部分)。誰もが気軽に立ち寄れる開かれた公共施設を目指します。
隣接する善光寺とのアクセスも、地盤の高低差をなだらかにつなげて行き来をしやくししており、旧館において不足していたバリアフリー化も進め、全体でユニバーサルなデザインを採用しました。さらに、地域の気候や風土に適した施設計画で、開館後は環境負荷の低減を図ります。
建築コンセプト「ランドスケープ・ミュージアム」の概要は、工事中の現地での撮影や模型なども使って、設計を担当するプランツアソシエイツ / 宮崎 浩氏自身が説明している動画が、美術館の公式YouTubeチャンネルにて公開されています。
美術館公式YouTubeチャンネル「ランドスケープ・ミュージアム 〜開かれた美術館として〜」(2020/07/20)
今後の展示計画としては、大自然に恵まれた長野県唯一の県立美術館として、「人と自然」を基本テーマに収集・展示を行う予定です。
絵画・彫刻のみならず、写真・ビデオ・アニメーションなどの現代美術も積極的に取り上げ、高度技術文明、情報社会下における人と自然の実り豊かな共存・共栄など、今日的テーマに関する開かれた学びと話し合いの場を提供していきます。
施設の設計コンセプトである「ランドスケープ・ミュージアム」を象徴する作品として、国内外で作品を発表しているアーティストの中谷芙二子氏(1933-)による〈霧の彫刻 #47610 -Dynamic Earth Series Ⅰ-〉が常設で展示されます。信州の山々を遠景に、新美術館と東山魁夷館の間の水盤周辺を舞台に、時間や天候によってさまざまな表情をみせる幻想的な現代アートです。
4月24日(土)には、この中谷氏の「霧の彫刻」を舞台として、舞踏家の田中 泯氏(1945-)による「場踊り」が開催されます(4月1日より美術館公式ウェブサイトにて予約受付を開始、定員に達したため、申し込み締め切り)。
開館にあわせて開催されるそのほかのイベント、完成記念展、プロジェクトなどについては、美術館の公式ウェブサイトを参照してください。(en)
VI(ビジュアルアイデンティティ)に展開されているロゴマークは、デザイン事務所・KMD(Kei Miyazaki Design)を率いるデザイナー宮崎 桂氏によるもの。長野の森をイメージした深い緑と、英語表記の美術館名の頭文字「NAM」の文字が、水に映り込んだ上下相称のデザイン。〈緑響く〉などの東山魁夷作品にも多い「水鏡」をイメージしています。
長野県公式ウェブサイト
「長野県立美術館(旧称:信濃美術館)整備事業に関する情報」一覧
https://www.pref.nagano.lg.jp/shisetsu/infra/kensetsu/proposal/shinanobijutsukan.html
美術館公式YouTubeチャンネル「2021年4月10日新築オープン 長野県立美術館」(2021/02/23)
(旧称:長野県信濃美術館)
所在地:長野県長野市箱清水1-4-4(善光寺東隣 Google Map)
本館棟(新築)
延床面積:約11,000m²
構造:鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造
規模:地下1階+地上3階
工事概要:全面改築
設計:プランツアソシエイツ
開館予定日:2021年4月10日
東山魁夷館(既存)
延床面積:約2,000m²
構造:鉄筋コンクリート造
規模:地上2階
設計(1990年):谷口建築設計研究所
工事概要:老朽化した設備改修、機能改善、本館棟との共用化を考慮した改修
リニューアルオープン:2019年10月5日
公式ウェブサイト
開館記念展詳細:https://www.npsam.com/exhibition