CULTURE

歴史的な遺産を内包した 体験的にも新旧交わる空間

ネリ&フーが設計した 清朝時代の木造建築を中心に据えた〈福州茶館〉

CULTURE2022.11.16
〈福州茶館〉

©︎ Hao CHEN

〈福州茶館〉

©︎ Hao CHEN

中国・福州(ふくしゅう)に建つ〈福州茶館(Fuzhou Teahouse)〉は、中国の文化的遺産である歴史的な木造建築を包み込む建築です。この木造建築を中心的な存在として据えられた空間の中でお茶を楽しむことができます。

急速な開発によって伝統的な文化やアイデンティティが失われつつある現在だからこそ、「都市の遺物」というコンセプトのもと、歴史的な遺産を内包しています。

上海に拠点を置く建築設計事務所ネリ&フー(Neri&Hu) が設計しました。

(以下、Neri&Huから提供されたプレスキットのテキストの抄訳)

〈福州茶館〉

©︎ Hao CHEN

〈福州茶館〉

©︎ Hao CHEN

〈福州茶館〉のデザインは、イギリスの有名な写真家ジョン・トムソンのレンズを通して見た福州の金山寺にインスパイアされている。 ジョン・トムソンは、史上初めて中国に渡り、東洋の風景や文化を映像で西洋に伝えた写真家の1人である。

ジョン・トムソンが1871年に岷江(編集部注:びんこう、中国を流れる川の1つ)を遡った旅を記録した著書「福州と岷江」にて、川の真ん中に建てられた珍しい古寺「金山寺」をカメラに収めている。 川の中の岩の上に静かにたたずむ古寺の姿は、福州を象徴する不朽のイメージとなった。

〈福州茶館〉

©︎ Hao CHEN

〈福州茶館〉

©︎ Hao CHEN

歴史的な建築を包み込む空間

急速な開発によって伝統的な文化やアイデンティティが失われつつある現在、〈福州茶館〉は福州市の歴史的ルーツである「都市の遺物」というコンセプトのもと、遺産の一部を内包している。

このプロジェクトは、清朝時代の高官の住居に使われていた木造建築で、装飾的な彫刻や複雑な接合部といった、「中国の文化的遺産」を覆うシェルターをつくるというユニークな挑戦であった。安徽省(あんきしょう)から福州市に移築されたこの木造建築は、新たな茶館の中心的な存在として祀られている。

 

岩の上に建つ家をイメージした〈福州茶館〉は打ち放しコンクリートの上に建てられており、銅の屋根はこの建築遺産の屋根のラインと呼応している。また打ち放しコンクリートは、この地域の伝統的な土の住居に対する現代的なオマージュであり、オリジナリティと重厚感を強調している。

この建物に近づくと、まっすぐに建つシルエットと、周囲の水盤に映し出された鏡のような姿の2つのイメージを見ることができる。

〈福州茶館〉

©︎ Hao CHEN

〈福州茶館〉

©︎ Hao CHEN

古代の住居建築が置かれた大広間に入ると、明るいものと暗いもの、軽いものと重いもの、粗いものと洗練されたものなど、さまざまな要素のコントラストが展開される。

トップライトは建築の奥まで自然光を取り込み、展示されている貴重な品々を照らし出す。

〈福州茶館〉

©︎ Hao CHEN

〈福州茶館〉

©︎ Hao CHEN

中二階に上がると、建物の構成が明らかとなる。金属製の屋根は、銅で覆われたトラスによって強固な土台から50cm持ち上げられ、その周囲を連続的に照らし出している。中二階の空間は、歴史的な木造建築を包み込み、目の高さで複雑な大工仕事のディテールを鑑賞することができるのである。

地下1階には、駐車場からの到着ロビーである円形の空間や、中庭、試飲室が用意されている。この円形空間の上部には、ガラスで覆われた円形の天窓があり、この天窓の上には水盤が広がっている。これにより、薄い水膜を通して太陽をろ過し、魅惑的な光の反射をつくり出している。

〈福州茶館〉

©︎ Hao CHEN

〈福州茶館〉

©︎ Hao CHEN

〈福州茶館〉

©︎ Hao CHEN

〈福州茶館〉

Site Plan

〈福州茶館〉

1F Plan

〈福州茶館〉

2F Plan

〈福州茶館〉

B1 Plan

以下、Neri&Huのリリース(英文)です。

The Relic Shelter – Fuzhou Teahouse
Fuzhou, China
The project draws inspiration from imagery uniquely associated with Fuzhou: the Jinshan Temple. This is a rare example of a temple structure built in the middle of a river in China. John Thomson was one of the first photographers ever to travel to the country and provided Western audiences with some of the first glimpses into the Far East. In the album Foochow and the River Min, which documented his legendary journey up the Min River, Thomson captured the ancient structure in its original state resting serenely above a floating rock in 1871. This would become a lasting image unmistakably identified with the city of Fuzhou.
Conceived as an urban artefact and drawing from the historical roots of the city of Fuzhou, the Relic Shelter internalizes a piece of distinct heritage at a time when rapid new development has eroded traditional culture and identity. The client’s brief posed the unique challenge of creating an enclosure for a Chinese artefact – the wooden structure of a high-ranking Qing dynasty official’s residence, replete with ornamental carvings and intricate joinery. Relocated from Anhui to its new home in Fuzhou, the Hui-style structure is enshrined as the inhabitable centrepiece of a new teahouse.
Envisioned as a house atop a rock, the teahouse is elevated above a rammed concrete base, while its sweeping copper roof echoes the roofline of the enclosed architectural relic. Its core material, rammed concrete, is a modern homage to the traditional earthen dwellings of the region, emphasizing a raw monumentality. Visitors are presented with two images of the building upon approach: the upright silhouette of the form, and its mirrored reflection duplicated in the surrounding pool of water.
A series of contrasts plays out among elements that are bright and dark, light and heavy, coarse and refined, as visitors enter the grand hall where the structure of the ancient residence is situated. Sky wells penetrate the roof, bringing natural light into the depths of the enclosure and illuminating the priceless artefact on display. Only upon reaching the mezzanine does the structural configuration of the building begin to reveal itself. The hovering metal roof is lifted 50 cm off the solid base by copper-clad trusses to introduce a sliver of continuous illumination around its periphery. Wrapping itself around the historical wooden structure, the mezzanine space allows visitors to appreciate intricate carpentry details at eye level.
The basement level includes a secondary arrival lobby housing a rotunda, a sunken courtyard and tasting rooms. At the top of the rotunda, a carved oculus capped by glass is submerged beneath the pool in the courtyard above. It filters the sun through a thin film of water, creating a mesmerizing play of reflections.

「Fuzhou Tea House」Neri&Hu 公式サイト

http://www.neriandhu.com/en/works/the-relic-shelter-fuzhou-tea-house

 

【購読無料】空間デザインの今がわかるメールマガジン TECTURE NEWS LETTER

今すぐ登録!▶

中国 関連記事

FEATURE2022.08.31

インパクトだけじゃない! アイコニックなクセつよ中国建築

氷、樹木、輪、宝箱、岩… さまざまな意味を持つ中国のアイコニックな5つの建築
CULTURE2022.09.26

タイル工場や地域の歴史を体感する宿泊空間

llLab.が設計した 地域の伝統や素材をもとにローカルならではの新たな表現を目指したホテル〈ブリックヤード・リトリート〉
CULTURE2022.10.07

地元の石をまとい里山の風景に溶け込む博物館

UADが設計した 段々畑や田舎道といった周囲の環境に調和する〈青渓文化歴史博物館〉
CULTURE2022.09.20

廃墟に刻まれた時間の痕跡を体験する文化ホール

ARシティオフィスが中国の廃墟となった発電所を改修した〈沙井村ホール〉
CULTURE2022.08.26

浮遊する薪で光のうつろうレストラン

MIX Architectureが農村活性化プロジェクトとして中国の村に設計した〈山水 薪の庭〉
CULTURE2022.08.22

農村の歴史を未来へ紡ぐ二重螺旋の展望台

NEXTアーキテクツが手がけた中国の農村活性化プロジェクト〈オランダ・大方・クリエイティブビレッジ〉
CULTURE2022.08.19

農村らしさを継承するやわらかな形のレンガ建築

A( )VOIDが中国の農村活性化プロジェクトの一環として設計した〈グロット・リトリート・西窯頭〉

RECOMMENDED ARTICLE

  • TOP
  • CULTURE
  • ARCHITECTURE
  • 歴史的な遺産を内包した体験的にも新旧交わる空間、ネリ&フーが設計した清朝時代の木造建築を中心に据えた〈福州茶館〉中国
【購読無料】空間デザインの今がわかるメールマガジン
お問い合わせ