東京・上野の国立西洋美術館が、新たなデジタルコンテンツ「ゆびさきでめぐる世界遺産-ぐるぐる国立西洋美術館-」を発表、2023年7月4日より公開しています。
ル・コルビュジエ(Le Corbusier|1887-1965)の設計で知られる〈国立西洋美術館 本館〉は、1959年(昭和34)の竣工。ル・コルビュジエの弟子である坂倉準三(1901-1969)、前川國男(1905-1986)、吉阪隆正(1917-1980)の3氏が現地協力者を務めて建設された、国内でも有数の歴史的建造物です。
その後の前川國男建築設計事務所(現・前川建築設計事務所)による新館の増築や改修工事などを経て、2016年(平成28)には、本館および園地を含む建築作品群が世界文化遺産に登録されています[*1]。
デジタルコンテンツ製作の背景
世界遺産「ル・コルビュジエの建築作品―近代建築運動への顕著な貢献―」の構成資産のひとつである国立西洋美術館本館は「無限成長美術館」の構想に基づいて設計されました。この構想の基本的な原理は、中央のホールから渦巻のように外側へ展示室を増築してゆく、というもので、増築する展示室と現在の展示室を繋げるための外壁の窓や中3階のバルコニー、屋上からの自然光の採り入れや照明器具を設置するための照明ギャラリーと2階の展示室など、様々なところで立体的に空間が繋がっています。これらの場所は原理をご理解いただくうえで大切な要素ですが、現在は安全上の配慮からほとんどの場所を非公開としています。
また、建築物は設計図面をもとに建設されますが、施工時に誤差が生じたり、その後の改修工事や建物の劣化によって設計図面では表されない変化が生じてきます。1959年に建設された本館全体をミリ単位の精度でデジタル計測した点群データを取得し、これらのゾーンをデジタルの世界で自由にめぐり歩いて、ル・コルビュジエが考えた空間構成を直感的にご理解いただけるようなコンテンツを製作しました。(国立西洋美術館プレスリリースより)
文化庁プレスリリース(PRTIMES 2023年7月3日配信)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000624.000047048.html
このほど公開されたデジタルコンテンツ「ゆびさきでめぐる世界遺産-ぐるぐる国立西洋美術館-」は、通常は非公開となっている、世界遺産でもある本館の一部の空間を、ディスプレイ上にあらわれる実在感ある立体映像で体験できるというもの。
3Dレーザースキャナーで本館を撮影した点群データ[*2]と最新のフォトグラメトリ技術で製作された3DCGを、ヘッドセットを装着することなく、空間再現ディスプレイで鑑賞することができます(空間再現ディスプレイ:ソニー製ELF-SR2/ ソニーマーケティング プレスリリース)。
この空間再現ディスプレイは、メーカー独自の高速ビジョンセンサーと視線認識技術により、画面を見る人の瞳の位置情報を把握し、立体映像をリアルタイムに生成、左右の目に届けます。
鑑賞者は、複雑な建物の空間構成を直観的に理解できるほか、裸眼のままで立体視ができ、あたかも目の前に建物が現れたかのような没入体験ができるとのこと。
コントローラーを操作することで、通常非公開の3階の旧館長室をはじめ、中3階の照明ギャラリーを空間再現ディスプレイを通して移動できるのに加え、水平・垂直方向の断面も画面上で確認できます。
コンテンツの提供期間は、2023年7月4日から9月3日までの予定。国立西洋美術館の本館エントランスホールにて、空間再現ディスプレイ(5台)が設置(展示)されています。
また、スマートフォン用コンテンツも同日より公開。館内5カ所に設置した二次元バーコードを、来館者が所有するスマートフォンで読み込むことで、非公開ゾーンを体験できます。
二次元バーコード設置場所(カッコ内はコンテンツ)
1. 本館エントランス 特設コーナーおよびデジタルサイネージ動画(外観と屋上)
2. 19世紀ホール 世界遺産パネル付近(19世紀ホール)
3. 2階展示室 南面ベンチ付近(中3階バルコニーと照明ギャラリー)
4. 2階展示室 旧館長室窓面下(旧館長室)
5. 階段付近(階段)
※上記3〜5を利用する場合、常設展の観覧券が必要
公開期間(予定):2023年7月4日(火)~9月3日(日)※休館日(月曜ほか)を除く
公開場所:国立西洋美術館
所在地:東京都台東区上野公園7-7(Google Map)
国立西洋美術館ウェブサイト
https://www.nmwa.go.jp/
*1.世界文化遺産登録 / 美術館の建築について
https://www.nmwa.go.jp/jp/about/building.html
*2.点群データ
レーザースキャナーなどを用いて取得した3次元座標(XYZ)の集合体。3次元の座標情報の他に色情報(RGB)もあわせて取得することで膨大な数の色のついた点が3Dで表現され、実建築物をミリ単位の精度でデジタルデータ化することができる
※本稿の内容は2023年7月3日発表当時のもの。今後はコンテンツ名や内容、公開期間などが変更となる場合あり