
2025年5月21日初掲、5月29日〈石巻市震災遺構門脇小学校〉画像15点追加
2025年の日本建築学会賞の各賞(大賞・教育賞・著作賞・作品選奨・奨励賞・作品選集新人賞・文化賞など)をが4月21日に発表されています(一般社団法人日本建築学会主催)。
そのうちの「作品選奨」は、日本建築学会が毎年発行している学会誌『建築雑誌増刊 作品選集』掲載の作品から特に優れた12作品に対して贈られるもので、作品選奨選考委員会による現地調査を経て、2025年は以下の作品が受賞しています(学会発表順に記載、カッコ内は受賞者の所属組織など)。
作品選奨12作品
・五島つばき蒸溜所(WANKARASHIN、IN-STRUCT) ▶︎▶︎▶︎ 見る
・PRISM Inn Ogu(伊藤博之建築設計事務所、多田脩二構造設計事務所) ▶︎▶︎▶︎ 見る
・熊本地震震災ミュージアム KIOKU (大西麻貴+百田有希 / o+h) ▶︎▶︎▶︎ 見る
・エスコンフィールド HOKKAIDO(大林組) ▶︎▶︎▶︎ 見る
・石巻市震災遺構門脇小学校(佐藤光彦建築設計事務所、鈴木弘人設計事務所) ▶︎▶︎▶︎ 見る
・国東市鶴川商店街周辺拠点施設(塩塚隆生アトリエ) ▶︎▶︎▶︎ 見る
・日本女子大学百二十年館・杏彩館(妹島和世建築設計事務所、清水建設) ▶︎▶︎▶︎ 見る
・花重リノベーション(MARU。architecture、金田充弘、テクトニカ、NPO法人たいとう歴史都市研究会) ▶︎▶︎▶︎ 見る
・富山県創業支援センター / 創業・移住促進住宅 SCOP TOYAMA(仲建築設計スタジオ) ▶︎▶︎▶︎ 見る
・鹿島市民文化ホール SAKURAS(NASCA) ▶︎▶︎▶︎ 見る
・松原児童青少年交流センターmiraton(ミラトン)・松原テニスコート(御手洗龍建築設計事務所) ▶︎▶︎▶︎ 見る
・52間の縁側(山﨑健太郎デザインワークショップ) ▶︎▶︎▶︎ 見る
『TECTURE MAG』では、受賞者から提供された設計コンセプトと内外観の竣工画像をもとに、受賞作品について詳しく紹介します(掲載順は日本建築学会ウェブサイト「2025年各賞受賞者」発表ページに準じる)。
五島つばき蒸溜所 撮影:大竹央祐
受賞者
石飛 亮(WANKARASHIN 代表)
東郷拓真(IN-STRUCT 代表)
設計コンセプト:祈りの島の蒸溜所
五島列島福江島の小さな集落に、この地域のボタニカルを使用したクラフトジンの蒸溜所をつくるプロジェクト。
敷地は島の中でも奥地にある半泊という集落であり、かつては潜伏キリシタンが生活していた場所であったが、現在は5世帯のみが静かに暮らしている。その名残としてこの地には、祈りの場であるカトリック半泊教会が建っており、そこに隣接するように蒸溜所をつくる。
当初は大勢いた信徒も今ではたった1人になってしまい、教会の存続も難しい状況になってしまっている。
五島つばき蒸溜所 撮影:大竹央祐
ジンは元々、イタリアの修道院で薬用として生み出されたという歴史がある。また隣接する教会を維持管理する教会守として寄り添うように生産を行っていくことを目指し、教会を聖堂として、蒸溜室を生産の中庭と見立てて、その周囲を回廊で囲んだ修道院のような建築とした。
敷地には車が1台やっと通れるような狭く険しい山道でしか辿り着けないため、大型車での材料の搬入は非常に厳しい条件であった。一方で、蒸溜スペースには巨大な蒸留器やたくさんのタンクを収容する必要があり、柱のない気積の大きな空間が求められた。
そこで、現場に搬入可能な小径材を挟み梁のようにしてアーチ状に現場で組み立てることで、プレカット工場のない島内において、できるだけ地元建材を用いながらも天井高の高い無柱空間をつくることを実現した。
また、潮風に耐えるための焼杉の外壁や、地域の石を用いた教会の塀と連続する石積み壁、島内の職人によって製作されたステンドグラス、蒸留器の輸送梱包材を転用したボトルショーケースなど、可能な限り島内で自活できるような素材を使用しつつ、この地域の風土や歴史に接続した物語を包含するようなつくり方を心がけた。
空間を構成する要素ひとつひとつが様々なネットワークに参画するようなプロセスを経ることで、建物を訪れる人々がその背景にあるストーリーに想いを馳せられるような、連関的な広がりのある建築をつくれないかと考えた。単なる蒸溜酒の生産場所を越えた、島の歴史や文化を伝える拠点としても機能していくことを目指している。(文:石飛 亮 / WANKARASHIN)
五島つばき蒸溜所 撮影:大竹央祐
五島つばき蒸溜所 撮影:大竹央祐
五島つばき蒸溜所 撮影:大竹央祐
五島つばき蒸溜所 撮影:大竹央祐
五島つばき蒸溜所 撮影:大竹央祐
五島つばき蒸溜所 撮影:大竹央祐
五島つばき蒸溜所 撮影:大竹央祐
五島つばき蒸溜所 建設風景 提供:WANKARASHIN
五島つばき蒸溜所 構造モデル 提供:WANKARASHIN
五島つばき蒸溜所 平面図 提供:WANKARASHIN
五島つばき蒸溜所 断面図 提供:WANKARASHIN
島のネットワーク 図解 提供:WANKARASHIN
五島つばき蒸溜所 エリア鳥瞰 撮影:大竹央祐
DATE
作品名:五島つばき蒸溜所
設計・監理:WANKARASHIN(担当:石飛 亮)
構造設計:IN-STRUCT(担当:東郷拓真)
所在地:長崎県五島市
⽤途:蒸留所
規模:地上1階
構造:木造
敷地面積:814.62m²
延床面積:160.24m²
竣工:2023年5月
設計 / WANKARASHIN ウェブサイト > WORKSページ
https://wankarashin.jp/distillery
五島つばき蒸溜所 ウェブサイト
https://gotogin.jp/
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PRISM Inn Ogu 撮影:西川公朗
受賞者
伊藤博之(伊藤博之建築設計事務所、工学院大学教授)
上原絢子(伊藤博之建築設計事務所)
多田脩二(多田脩二構造設計事務所、千葉工業大学教授)
設計コンセプト
都心に近く、空港からの利便性の高い敷地に建つ、長期滞在を想定したホテルである。4、5人の家族が一緒に泊まれるホテルの部屋は少なく、あったとしても高額であることが多いが、ここではたとえばアジアなどからのさらに多人数の家族やグループをも受け入れ可能な部屋をつくることが目指された。多人数で泊まってもそれぞれが居心地がよく、少人数で泊まればより豊かさが感じられるような部屋にしたいと考えた。
PRISM Inn Ogu 撮影:西川公朗
PRISM Inn Ogu 撮影:西川公朗
PRISM Inn Ogu 設計資料 提供:伊藤博之建築設計事務所
PRISM Inn Ogu 設計資料 提供:伊藤博之建築設計事務所
塔状比の高さから、柱梁が大きくなることが当初から予想されたが、躯体でスペースを分節すれば、パーティションやカーテンより効果的にベッド間の距離をつくれるのではないかと考え、ベッドの間に柱を置くスタディから始めた。柱を一般的なグリッド配置にすると、建物コーナー部に開放感がないだけでなく、ベッドを基準にすると柱間が短くなりすぎる。梁の交点に柱を置かない千鳥の柱配置にすることで、動線的にも有利で流動性の高い空間が実現できた。ロフト床を支える鉄筋コンクリートの貫は、風車状に配置されているが、その向きを上下階で反転することでバランスよく建物全体の剛性を高められる。コスト調整がきっかけで階高の低い階と高い階が生まれたが、硬さが偏らないよう、意図的に両者を混ぜた構成となっている。
PRISM Inn Ogu 撮影:西川公朗
PRISM Inn Ogu 撮影:西川公朗
PRISM Inn Ogu 撮影:西川公朗
PRISM Inn Ogu 撮影:西川公朗
できるだけ多くの居心地よい場所をつくれるよう、3方から採光できる平面とし、横連窓の腰壁高さを変えることで、家具配置と連動しつつ、内部と周囲の状況の折り合いをつけている。中高層ビルの計画では、大きな躯体を生かした空間を心がけてきたが、この建物では外周の腰壁高さで内/外を調停しながら、構造体をできるだけそのまま現すことにした。
単体でも長辺短辺を持つ扁平柱に、貫が架かることで高さ方向は分割される一方で、水平方向は柱2本をまたぐより大きなスケールを獲得する。構造体が身体と対応したり、逆にそれを超越したりするさまざまな寸法を持つことで、その周囲や上下に人が寄り添う場を生みつつ、同時に自律的であり続ける。ベッドの配置など固有の目的に応えながら、最終的には別の用途にも使い得るし、使いたくなる状況、すなわち人が側に居たくなる躯体を目指した。(文:伊藤博之)
PRISM Inn Ogu 撮影:西川公朗
PRISM Inn Ogu 平面パース 提供:伊藤博之建築設計事務所
PRISM Inn Ogu 断面パース 提供:伊藤博之建築設計事務所
DATE
作品名:PRISM Inn Ogu
設計・監理:伊藤博之建築設計事務所(担当:伊藤博之、上原絢子)
構造設計:多田脩二構造設計事務所(担当:多田脩二)
所在地:東京都荒川区
⽤途:ホテル
規模:地上9階
構造:鉄筋コンクリート造
敷地面積:155.74m²
延床面積:816.04m²
竣工:2022年1月
伊藤博之建築設計事務所 ウェブサイト > WORKSページ
http://ito-a.jp/?page=work_detail&id=404
PRISM Inn Ogu ウェブサイト
https://prism-inn.com/hotel/ogu/
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熊本地震震災ミュージアム KIOKU 撮影:太田拓実
受賞者
大西麻貴(大西麻貴+百田有希/o+h 共同代表、横浜国立大学大学院Y-GSA教授)
百田有希(大西麻貴+百田有希/o+h 共同代表、横浜国立大学非常勤講師)
設計コンセプト:自然の営みと共に生きる震災ミュージアム
〈熊本地震震災ミュージアム KIOKU〉は、2016年に発生した熊本地震の記憶を後世へ繋げ、自然の恵みと驚異を伝えて行くミュージアムである。
阿蘇の雄大な自然の風景に呼応するように、流れるような平屋の屋根を敷地にかけ、屋根のカーブによって周囲の風景を切り取るよう計画することで、阿蘇の山や空に自然と目が向かうような佇まいを目指した。
敷地を横切るように架けられた屋根は、展示空間であると同時に、訪れた人々を隣接する旧東海大学阿蘇校舎1号館へと導く動線でもある。屋根の半分は軒下とし、室内は熊本地震の展示に触れる場、軒下は周囲の風景を眺めながら自ら考えることを促す場となっている。屋根は、阿蘇の風景や近隣の陶芸家を訪れて行ったリサーチをもとに、阿蘇黄土や野焼きの灰を使ったオリジナルタイルを用いている。
展示空間を室内に閉じないことで、少し離れた旧1号館を訪れる経験や、帰り道に近隣にある別の震災遺構を訪れる経験も、ひとつながりに感じられるようにしている。(文:大西麻貴+百田有希)
熊本地震震災ミュージアム KIOKU 撮影:太田拓実
熊本地震震災ミュージアム KIOKU 撮影:太田拓実
熊本地震震災ミュージアム KIOKU 撮影:太田拓実
熊本地震震災ミュージアム KIOKU 撮影:太田拓実
熊本地震震災ミュージアム KIOKU 撮影:太田拓実
熊本地震震災ミュージアム KIOKU 撮影:太田拓実
熊本地震震災ミュージアム KIOKU 撮影:太田拓実
熊本地震震災ミュージアム KIOKU 撮影:太田拓実
熊本地震震災ミュージアム KIOKU 撮影:太田拓実
熊本地震震災ミュージアム KIOKU 撮影:太田拓実
熊本地震震災ミュージアム KIOKU 撮影:太田拓実
熊本地震震災ミュージアム KIOKU 撮影:太田拓実
DATE
作品名:熊本地震震災ミュージアム KIOKU
設計・監理:o+h(担当:大西麻貴、百田有希)・産紘設計JV
構造設計:平岩構造計画(担当:平岩良之、藤本貴之)
所在地:〒869-1404 熊本県阿蘇郡南阿蘇村河陽
⽤途:博物館
規模:地上1階+地下1階
構造:木造+鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造)
敷地面積:27027.99m²
延床面積:1210.29m²
竣工:2023年3月31日
開館日:2023年7月15日
o+h WEBサイト > WORKSページ
https://www.onishihyakuda.com/works/kumamoto-earthquake-museum-kioku
熊本地震震災ミュージアム KIOKU ウェブサイト
https://kumamotojishin-museum.com/kioku/
建築模型や屋根の特注タイルなどが展示されたTOTOギャラリー・間 2024年企画展
「大西麻貴+百田有希 / o+h展:⽣きた全体——A Living Whole」
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エスコンフィールド HOKKAIDO 撮影:川澄・小林研二写真事務所
受賞者(カッコ内:すべて大林組設計本部所属)
小林利道(大林組 建築設計部部長)
一居康夫(建築設計部部長)
一瀬直樹(建築設計部部長)
海老原浩雄(建築設計部課長)
伊藤 昇(建築設計部担当課長)
塩田一弥(建築設計部副課長)
冨澤 健(構造設計部部長)
榎本浩之(構造設計部部長)
長屋圭一(構造設計部部長)
柏俣明子(構造設計部担当部長)
佐藤朋成(構造設計部課長)
田中嘉一(本部構造設計部課長)
齋藤元嗣(構造設計部担当課長)
乾 智洋(構造設計部担当課長)
木村寛之(構造設計部担当課長)
和田 一(設備設計部部長)
中山和樹(設備設計部課長)
加藤隆矢(設備設計部)
岩井 洋(ランドスケープ部部長)
飛世 翔(ランドスケープ部担当課長)
荻原明日菜(元 大林組設計本部設備設計部)
設計コンセプト
北海道北広島市に2023年3月に開業した北海道日本ハムファイターズの新球場である。
収容人数は約3万5,000人、日本初の開閉式屋根付き天然芝球場で、1階から3階に観客席を配置した。ピッチャーとキャッチャーの軸線の向きを南東向きとし、大きなガラス壁から日照を取り込める仕様となっている。可動屋根の形状は大きな屋根1枚を水平にスライドさせる方針とし、実現可能性を優先した。
外観は北海道に馴染のある切妻屋根が特徴的なデザインで、外壁にはレンガ調タイルを採用し、北海道の新たなシンボルになることを目指した。北広島の敷地・北海道や日本の風土・文化・工法などを踏襲し、最適解をデザインしている。
エスコンフィールド HOKKAIDO 撮影:川澄・小林研二写真事務所
エスコンフィールド HOKKAIDO 撮影:川澄・小林研二写真事務所
エスコンフィールド HOKKAIDO 撮影:川澄・小林研二写真事務所
訪れた観客に臨場感のある野球観戦を提供するために、観客席はすり鉢状の断面とし、緩やかな段床の先に、選手に手の届きそうなフィールドとの近さを実現した。360度周遊できるコンコースの動線上には、多くの飲食店・トイレを配置するとともに、エスカレーター・エレベーターを分散配置することで、スムーズな移動を可能にした。ホーム側の座席数を多く確保した左右非対称のボウル形状とし、レフト側の外野には、温泉・サウナ・ホテル・フードホールなどの用途がある「TOWER 11」を計画した。多様な観戦環境を実現しているととともに、非試合日にもにぎわいのある球場を目指している。
エスコンフィールド HOKKAIDO 撮影:川澄・小林研二写真事務所
エスコンフィールド HOKKAIDO 撮影:川澄・小林研二写真事務所
エスコンフィールド HOKKAIDO 撮影:川澄・小林研二写真事務所
エスコンフィールド HOKKAIDO 撮影:川澄・小林研二写真事務所
ファイターズの新球場を含めたエリア「北海道ボールパーク Fビレッジ」は、球団がファン・官民パートナー・地域住民と一緒になり、野球観戦のみならず多様な楽しみを享受できる、地域社会の活性化に繋がる「共同創造空間」の構築を目指した。レジデンスを初めとしたさまざまな用途の施設が、2023年3月に同時開業しており、今後も段階的に発展していく。(文:大林組)
エスコンフィールド HOKKAIDO 撮影:鳥村鋼一写真事務所
エスコンフィールド HOKKAIDO 撮影:川澄・小林研二写真事務所
構造イメージパース 提供:大林組
Fビレッジ 全体配置図 提供:大林組
DATE
作品名:エスコンフィールド HOKKAIDO
設計:大林組(担当:上記参照)、HKS
構造設計:大林組(担当:上記参照)
所在地:北海道北広島市Fビレッジ1番地
主要⽤途:観覧場
副用途:ホテル・公衆浴場
規模:地上6階+地下2階
構造(主体構造):鉄筋コンクリート造
敷地面積:130,348.50m²
延床面積:122,399.20m²
竣工:2022年12月
開業日:2023年3月14日
プロジェクト詳細
大林組 ウェブサイト > WORKSページ
https://www.obayashi.co.jp/works/detail/work_2711.html
Fビレッジ ウェブサイト
https://www.hkdballpark.com/
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石巻市震災遺構門脇小学校 撮影:志鎌康平
受賞者
佐藤光彦(佐藤光彦建築設計事務所取締役、日本大学教授)
鈴木弘二(鈴木弘二設計事務所代表取締役)
プロジェクト概要
多声的な震災伝承の場をデザインするチーム体制図震災により被災した遺構と展示施設をどのように設計できるだろうか。石巻市立門脇小学校の本校舎は津波による浸水と火災両方の被害を残す唯一の建物とされる。解体から全体保存までさまざまな意見がある中で、市は左右の一部を解体した上で保存することを決定した。この本校舎を遺構とし、他の建物(屋内運動場と特別教室棟)を展示館として改修した施設である。
プロポーザルの時点では、本校舎の保存方法や具体的な展示内容などは未確定な部分も多く、遺構や遺物の現況調査などから手探り状態の中、市の震災伝承推進室や地域住民、有識者との対話を重ねながら、本校舎保存部分の範囲や方法、展示の内容、動線などの検討を重ねていくこととなった。展示内容として最終的には遺構の保存と被災状況だけでなく、被災前から避難と復興までの地域の歴史、門脇地域だけでなく最大の被災地でもある石巻市全体の被害から日本列島における地震の歴史など、多くの展示コンテンツを含むものとなった。(文:佐藤光彦)
石巻市震災遺構門脇小学校 撮影:志鎌康平
石巻市震災遺構門脇小学校 撮影:志鎌康平
石巻市震災遺構門脇小学校 撮影:志鎌康平
石巻市震災遺構門脇小学校 撮影:志鎌康平
石巻市震災遺構門脇小学校 撮影:志鎌康平
石巻市震災遺構門脇小学校 撮影:志鎌康平
石巻市震災遺構門脇小学校 撮影:志鎌康平
石巻市震災遺構門脇小学校 撮影:志鎌康平
石巻市震災遺構門脇小学校 撮影:志鎌康平
石巻市震災遺構門脇小学校 撮影:志鎌康平
石巻市震災遺構門脇小学校 撮影:志鎌康平
石巻市震災遺構門脇小学校 撮影:志鎌康平
石巻市震災遺構門脇小学校 撮影:志鎌康平
石巻市震災遺構門脇小学校 撮影:志鎌康平
DATE
作品名:石巻市震災遺構門脇小学校
設計・監理:佐藤光彦建築設計事務所(担当:佐藤光彦)+鈴木弘二設計事務所(担当:鈴木弘二)
構造設計:構造計画プラス・ワン、構造プランニング
所在地:宮城県石巻市門脇町
⽤途:博物館
規模:それぞれ以下の通り
観察棟:地上3階
展示館(特別教室):地上3階
展示館(屋内運動場):地上1階
構造:それぞれ以下の通り
観察棟:鉄骨造
展示館:鉄筋コンクリート造+一部鉄骨造 ※耐震改修
展示館:鉄骨造
敷地面積:12,728.41m²
延床面積:2,999.61m²
開館日:2022年3月30日
佐藤光彦建築設計事務所 ウェブサイト
http://www.msaa.jp/
鈴木弘二設計事務所 ウェブサイト > WORKSページ
https://sau.co.jp/~suzuki/archives/works/2053
石巻市震災遺構門脇小学校 ウェブサイト
https://www.ishinomakiikou.net/kadonowaki/
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国東市鶴川商店街周辺拠点施設(チャレンジショップ[CS]棟) 撮影:YASHIRO PHOTO OFFICE
設計コンセプト:現在と120年の歴史を結ぶ「まちのこれからをつくる木の建築」
神仏習合の地として歴史や文化が息づく国東半島の東部に位置し、大分の玄関口・空港を有する国東市の鶴川地区は、敷地正面の櫻八幡神社を中心に商店街として栄えたが、近年の衰退に対し「これからのまちのあり方」を模索する事業を進めていた。本拠点施設はその実践となるプロジェクトである。
敷地は里道をはさみ、新築するチャレンジショップ(CS)棟と、築120年の古民家を改装したテレワーク(TW)棟の2区画に分かれ、 その間を屋根付きの歩廊でつなぐ。配置は歩廊を参道に見立て、神社の配置を参照することで、地域との親和性を持たせた。
国東市鶴川商店街周辺拠点施設 エリア鳥瞰(撮影:YASHIRO PHOTO OFFICE|提供:塩塚隆生アトリエ)
CS棟は2,730×2,730をモデュールとした格子状の空間で、出店の規模に合わせて1~5区画に変更できるよう、ガラスの引き戸で仕切られている。上部の欄間部分は開放し、区画をしても一体感を損なわないようにした。
国東市鶴川商店街周辺拠点施設 チャレンジショップ(CS)棟 撮影:YASHIRO PHOTO OFFICE
国東市鶴川商店街周辺拠点施設 チャレンジショップ(CS)棟 撮影:YASHIRO PHOTO OFFICE
国東市鶴川商店街周辺拠点施設 チャレンジショップ(CS)棟 撮影:YASHIRO PHOTO OFFICE
国東市鶴川商店街周辺拠点施設 チャレンジショップ(CS)棟 撮影:YASHIRO PHOTO OFFICE
国東市鶴川商店街周辺拠点施設 チャレンジショップ(CS)棟 撮影:YASHIRO PHOTO OFFICE
国東市鶴川商店街周辺拠点施設 チャレンジショップ(CS)棟 撮影:YASHIRO PHOTO OFFICE
国東市鶴川商店街周辺拠点施設 チャレンジショップ(CS)棟 断面図 提供:塩塚隆生アトリエ
築120年の古民家を改装したテレワーク(TW)棟は、1階の床組を撤去し、構造補強を兼ねて土間コンクリート仕上げに変更。それにより生じる縁側など既存の床とのレベル差が腰掛となり、スペースの使い方を誘発し、新たな活動のきっかけとなっている。
また、2階の天井仕上げを撤去し、小屋組みをあらわしにすることで、吹き抜けを介して空気の循環や光の伝搬など、120年の時を経て建物全体が呼吸をしはじめた。その一方で、105幅の杉材によるプレカットと現代的な金物によって構成されるCS棟。太く荒々しい丸太や角材の原初的なTW棟の木組み。これら現在と120年前、それぞれの技術のせめぎ合いを体験できる、地域の歴史を横断する建築でもある。(文:塩塚隆生)
国東市鶴川商店街周辺拠点施設 テレワーク(TW)棟 撮影:YASHIRO PHOTO OFFICE
国東市鶴川商店街周辺拠点施設 テレワーク(TW)棟 撮影:YASHIRO PHOTO OFFICE
国東市鶴川商店街周辺拠点施設 テレワーク(TW)棟 撮影:YASHIRO PHOTO OFFICE
国東市鶴川商店街周辺拠点施設 テレワーク(TW)棟 断面図 提供:塩塚隆生アトリエ
DATE
作品名:国東市鶴川商店街周辺拠点施設
設計・監理:塩塚隆生アトリエ(担当:塩塚隆生、古庄恵子、村本有佳理)
共同設計・監理:下村正樹建築設計事務所(担当:下村正樹)
構造設計:それぞれ以下の通り
改修棟:BEYOND ENGNEERING
改修棟 建築食堂
所在地:大分県国東市国東町鶴川
⽤途:交流施設、店舗
規模:それぞれ以下の通り
新築棟:地上1階
改修棟:地上2階
構造(新築棟、改修棟):木造
敷地面積:3,671.91m²
延床面積:177.66m²
竣工:2023年3月
供用開始:2023年10月
塩塚隆生アトリエ ウェブサイト > WORKSページ
http://shio-atl.com/tsurugawa/
国東市鶴川商店街周辺拠点施設(KITOWA)ウェブサイト
https://kitowa-kunisaki.com/
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受賞者
妹島和世(妹島和世建築設計事務所 代表)
棚瀬純孝(妹島和世建築設計事務所)
根岸健一(清水建設 設計本部教育・文化施設設計部グループ長)
重松英幸(清水建設 同部グループ長)
中澤 綾(清水建設 設計本部首都圏設計部グループ長)
吉村環紀(清水建設 設計本部商業・宿泊施設設計部)
DATE
作品名:日本女子大学百二十年館・杏彩館
設計・監理:妹島和世建築設計事務所・清水建設 設計JV
基本設計:妹島和世建築設計事務所・佐々木睦朗構造計画研究所
設計・監理:妹島和世建築設計事務所・清水建設設計共同企業体
実施設計監修:佐々木睦朗構造計画研究所
所在地:東京都文京区目白台
⽤途:大学(教室・研究室・食堂・学生滞在スペース)
規模(百二十年館):地下1階+地上3階
規模(杏彩館):地上2階
百二十年館 構造:S造・RC造
杏彩館 構造:S造
敷地面積:m²
百二十年館 延床面積:5,799.39m²
杏彩館 延床面積:1,134.68m2
竣工:2021年3月
日本女子大学 ウェブサイト 目白キャンパス施設紹介ページ
https://www.jwu.ac.jp/unv/access/campusmap/mejiro_campus.html
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花重リノベーション 東側外観 撮影:関 拓弥
受賞者
高野洋平(MARU。architecture、千葉大学大学院准教授)
森田祥子(MARU。architecture)
金田充弘(東京藝術大学教授)
鈴木芳典(テクトニカ)
椎原晶子(NPO法人たいとう歴史都市研究会)
設計コンセプト:150年の歴史をつなぐ、変化し続ける建築
地域の文化をつなぐプロジェクトとして
都立谷中霊園の南側に広がる一帯は、伝統的な木造建築が多く残り、墓地の雰囲気と一帯となってのどかな風情が感じられる。この地で明治から花屋を営む花重は、歴史ある老舗花屋として地域のシンボルのような存在になっていたが、2020年に経営が傾き閉業の危機に直面していた。地元で広告・不動産業を軸に事業を展開する、施主の山陽エージェンシーが土地・建物・運営を丸ごと買い取り、この歴史を継続させることとした。歴史的な花屋を継続しつつ、犬を連れて地域の人が立ち寄れるテラスと庭のあるカフェを新たに計画し、街に開くことを目指した。
花重リノベーション(西側からの鳥瞰) 撮影:関 拓弥
改修前の花重 外観(2022年4月8日時点 撮影:関 拓弥)
花重リノベーション 改修後 全体パース 提供:MARU。architecture
本プロジェクトの改修対象は、明治・大正・昭和期の花重の店舗に加え、南側に残存していた江戸期の長屋を含む
履歴を残す|空間の構成痕跡を保存する
事業拡大や時代の変化にあわせて、花重は店舗が曳家されたり増築に増築を重ね、今日に至るまで多くの変遷を辿ってきた。それらの履歴をすべて消し去るのではなく、また将来にも変化し続けることを受け止めることによって、生きたまま建築が保存される状態をつくることができるのではないだろうか。保存とは、ある時間に巻き戻して保存することではなく、使い続け、生き続ける建築にすることだと考えた。建築を生きた状態のまま保存するために、新旧という概念ではなく時間軸で構成を捉え直し、長い時間軸を持つ「核となる基本的な骨格」と短い時間軸で動く「変化し続けるもの」が同時にある状態を目指した。
それぞれの建物は時代ごとに異なる特徴的な架構を持っているが、すべて寸尺の木造的寸法体系によってできている。音楽の拍(はく)のように繰り返される架構のリズムを、建物群に通底する時代を経ても変わらない「律」と捉え、上張りされていたベニヤを撤去して当初の架構を現わしとした。
花重リノベーション 撮影:関 拓弥
花重リノベーション 撮影:関 拓弥
花重リノベーション 撮影:関 拓弥
花重リノベーション 撮影:関 拓弥
花重リノベーション 撮影:関 拓弥
新しい時代の架構|庭に向けて新たな架構を伸ばす
人と植物の居場所が絡みつく半屋外空間として、既存の架構を連続させるようにして新たな架構を庭へと伸ばした。鉄骨フレームが既存建物と庭をつなぎ、内外の連続が周囲の街にも接続するような広がりをめざした。
新設の鉄骨フレームは、既存の建物群と接続するにあたって、仮設的、暫時的なものではなく、時代を越えていく強度のある存在であることが必要だと考えた。また、既存木造軸組は105角より細く、現代的なプロポーションであることをめざし、機械加工ができる断面寸法として60mm角を採用した。
花重リノベーション 撮影:関 拓弥
花重リノベーション 撮影:関 拓弥
横断的エレメント|架構とずれながら重なり、時代をつなぐ
仕上げや什器などは全体を横断するように、あえてグリッドからずらして配置することで、新旧や屋内外、人と植物といった2項対立がなくなり、全体が連鎖的につながることを目指した。厚さ15mmのシャープなアルミ家具は木軸からずれた形状で各棟に横断的に配置し、屋外の床プレートへと連続する。静的なフレームに、動的な居場所が取付くように、床プレートや手摺、階段も、自律的な存在として表現した。
時を重ねる|新旧の二項対立を超えて様々な時間が混ざり合う
この地域は江戸時代には長屋が並ぶ茶屋町であった歴史をもっており、この敷地にもかつては地域の人のための小さな広場があったと言われている。今回新たにつくった庭は、その歴史と接続しながら「地域の庭」として開き、公園でも施設でもない半公共的な居場所として多様な人々や動植物の依り代となることを期待している。地域に根差した関係者を中心としたプロジェクトであるからこそ、これからも将来に渡って関わりつづけることで、地域をつなぐ持続的なコミュニティの核として、時代の変化に合わせて生きながらえていくことを目指している。(文:高野洋平+森田祥子)
花重リノベーション 撮影:関 拓弥
花重リノベーション(鳥瞰) 撮影:関 拓弥
DATE
作品名:花重リノベーション
設計・監理:MARU。architecture(担当:高野洋平、森田祥子、諸星佑香)
既存部 構造設計:川端建築計画(担当:川端 眞、山本 澪)
新設部 構造設計:テクトニカ(担当:鈴木芳典)、 東京藝術大学(担当:金田充弘、倉重正義)
保存:たいとう歴史都市研究会(担当:椎原晶子、渡邉尚恵、淺田なつみ)
家具:藤森泰司アトリエ(担当:藤森泰司、石橋亜紀)
外構:SfG landscape architects(担当:大野暁彦)
照明:加藤久樹デザイン事務所(担当:加藤久樹、伊久間まどか)
所在地:東京都台東区谷中
⽤途:花屋、カフェ
規模:地上2階(一部 地下1階)
構造:既存部 木造(竹小舞土壁、補強部は荒壁パネル)/ 新設部 鉄骨造
敷地面積:329.58m²
延床面積:193.11m²
竣工:2023年5月
MARU。architecture ウェブサイト > WORKSページ
https://maruarchi.com/works/
花重 ウェブサイト(オンラインショップ)
https://hanaju.co.jp/
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富山県創業支援センター / 創業・移住促進住宅 SCOP TOYAMA(以下、SCOP TOYAMAと略)センター棟外観 撮影:鳥村鋼一
受賞者
仲 俊治(仲建築設計スタジオ取締役、東京都立大学准教授)
設計コンセプト:群としてのリノベーション
起業家や移住者を呼び込むための拠点施設である。築50年の旧県職員住宅3棟を改修・増築し、オフィス、チャレンジショップ、住居からなる「職住融合の生活環境」を創出した。
既存の団地が持つ縦割り構造を「縦糸」とみなし、そこに横断的な空間を「横糸」として重ね、出会いや交流の場所を編み込んだ。事業の発端が高校生の提案であったことから、高校生とのワークショップにも取り組み、カフェのデザインと実装を行った。(文:仲 俊治)
SCOP TOYAMA 鳥瞰 撮影:鳥村鋼一
SCOP TOYAMA コモンアーケード 撮影:鳥村鋼一
SCOP TOYAMA カフェ 撮影:鳥村鋼一
SCOP TOYAMA センター棟3階ラウンジ 撮影:鳥村鋼一
SCOP TOYAMA 住居棟 撮影:鳥村鋼一
SCOP TOYAMA コモンキッチン 撮影:鳥村鋼一
SCOP TOYAMA シェアハウス 撮影:鳥村鋼一
SCOP TOYAMA 住戸E 撮影:鳥村鋼一
SCOP TOYAMA アクソメ図2-1 提供:仲建築設計スタジオ
SCOP TOYAMA アクソメ図2-2 提供:仲建築設計スタジオ
DATE
作品名:富山県創業支援センター / 創業・移住促進住宅 SCOP TOYAMA
設計・監理:仲建築設計スタジオ(担当:仲 俊治、宇野悠里)
構造設計:TS構造設計
照明:岡安泉照明設計事務所
家具:藤森泰司アトリエ
所在地:富山県富山市蓮町
⽤途:事務所、店舗(物販、飲食)、共同住宅、寄宿舎
規模:地上4階
構造:RC造および鉄骨造
敷地面積(3棟合計):約6,276.47m²
延床面積(同上):4,230.99m²
開所日:2022年10月28日
仲建築設計スタジオ ウェブサイト > ARCHIVESページ
https://www.nakastudio.com/archives/222
SCOP TOYAMA ウェブサイト
https://scop-toyama.jp/
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鹿島市民文化ホール SAKURAS 撮影:淺川 敏
受賞者
古谷誠章(NASCA代表取締役、早稲田大学栄誉フェロー)
桔川卓也(NASCA設計室長)
狩野広行(NASCA主任)
山田章人(NASCA設計スタッフ)
設計コンセプト
佐賀県鹿島市は有明海に面し、多良山系からの豊富な水が敷地北側の中川などを流れている。プロポーザル応募前に元の市民会館を見に行った時、たまたま地元の中学生たちのサマーコンサートに遭遇した。出演者たちが演奏後に玄関前で観客を見送る姿が印象的で、新しいホールに表も裏もなく建築そのものが、人を出迎え、見送る大きな舞台となるといいと考えた。建築の外貌は、人と建築を引き合わす重要なインターフェイスであると考え、敷地から南東の3kmほどの肥前浜宿に残る白漆喰で仕上げられた優美な曲面の軒の意匠を、この土地を象徴するモチーフとして、ホールの軒周りのデザインに採り入れた。
鹿島市民文化ホール SAKURAS 撮影:淺川 敏
ホールの客席は延べ750席、防音間仕切りを開放すれば、舞台は下手側袖舞台から脇花道ともなるスペースまでが連続して、ホワイエまでも一体化できる舞台を実現している。これにより客席の下手側から主舞台にかけて空間が連続し、客席は「もみあげ席」を介して二階席にまで繋がっており、客席と舞台とが継ぎ目なく融合するよう工夫した。ホール内部ではRC躯体そのものが音響反射性能を備えており、フライタワーや吊り下げ型の反射板等を設けず、演劇時には吊り幕によるプロセニアムを形成する。これからの住民使いを主体とする地方公共ホールのモデルの進化形を提示したいと考えた。
鹿島市民文化ホール SAKURAS 撮影:淺川 敏
鹿島市民文化ホール SAKURAS 撮影・提供:NASCA
鹿島市民文化ホール SAKURAS 撮影:淺川 敏
これらの試みは地域の子どもや住民が、自分たちの文化創造のために日常的に利用することを主目的としている。客席にいた人が次の出演者となって舞台に上がり、再び客席に戻るという、人々が往還する構造である。ホワイエからも自然光が入り、九角形の高窓からも採光ができる。楽屋、練習室などホール機能に加えて、館内を周回するホワイエの随所に郷土資料の展示がなされている。開館中は自由に滞在できるほか、館の外周を巡るデッキやスロープからの出入りも可能な構成となっている。
旧市民会館時代にはやや閉鎖的であり、薄暗かった中川沿いの外構も開放的なものにして、文字通り裏のないホールが実現された。(文:古谷誠章)
配置図 提供:NASCA
立面図 提供:NASCA
断面図(長手) 提供:NASCA
断面図(短手) 提供:NASCA
ホール平面図および可変パターン 提供:NASCA
DATE
作品名:鹿島市民文化ホール SAKURAS
設計・監理:NASCA(担当:古谷誠章、桔川卓也、狩野広行、鹿野安司、山田章人)
構造設計:オーク構造設計(担当:新谷眞人 花川太地[元所員] )
所在地:佐賀県鹿島市
⽤途:集会場・観覧場
規模:地上4階
構造:RC造(一部PC造、鉄骨造)
敷地面積:6,040.35m²
延床面積:2,646.80mm²
竣工:2023年5月
開館日:2023年9月10日
プロジェクト詳細
https://www.tecture.jp/projects/5685
NASCA ウェブサイト > WORKSページ
https://www.studio-nasca.com/works/kashima%20civic%20hall.html
鹿島市「SAKURAS」施設概要ページ
https://www.city.saga-kashima.lg.jp/main/18066.html
ウェブサイト
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松原児童青少年交流センターmiraton(ミラトン)・松原テニスコート 撮影:中村 絵
受賞者
御手洗 龍(御手洗龍建築設計事務所 代表取締役)
設計コンセプト:能動性を喚起せよ
子どもを見ていると、心を震わせながら身体が空間に反応している瞬間をよく目にする。高いところがあれば上りたくなり、囲まれたところがあれば身を寄せたくなり、トンネルがあればくぐりたくなる。さらに明るいところや暗いところ、音の響くところ、風の抜けるところ、そして暖かいところと、子どもたちは全身、五感を使って自分と世界との距離にひとつひとつ驚きながら、生の喜びを感じているように見える。こうした発見に満ちた建築が立ち上がることで、子どもたちの能動性を喚起する生き生きとした場が生まれるのではないかと考えた。
松原児童青少年交流センターmiraton(ミラトン)・松原テニスコート 2階平面図 提供:御手洗龍建築設計事務所
松原児童青少年交流センターmiraton(ミラトン)・松原テニスコート 配置図(1階) 提供:御手洗龍建築設計事務所
公募型プロポーザルにて選定され、草加市に建つこの児童センターおよびテニスコートは、かつて東洋一のマンモス団地と言われた松原団地の中央に位置している。老朽化による一斉建て替えに伴い、隣接する小学校と幼稚園を残して地域全域が更地となり、新たな町が立ち上がろうとしていた。隣棟間隔の広い当時の団地は、守られた中にたっぷりと緑地があり、内外一体となって子どもたちが遊んでいた。そこでこの土地に根付くその原風景を、新たなかたちで築いていこうと考えた。
敷地は中央の緑道を境に、北側に児童青少年交流センター、南側にテニスコートと2つに分かれていたが、多世代交流を促すため、この2つの機能をできるだけ一体的に整備しようと計画した。切り分けられた敷地を超えて繋がるような、連なりを持った配置計画としている。また周囲には小中学校や幼稚園、大学施設、大規模集合住宅や古くからの住宅地など、多種多様な人々が四方から訪れる可能性があり、地域の結節点となることが予想された。そこで建物を敷地中央に配置し周囲に4つの庭をつくることで、誰もがどこからでも立ち寄りやすい構成とし、裏のない建築をめざした。
松原児童青少年交流センターmiraton(ミラトン)・松原テニスコート 撮影:中村 絵
松原児童青少年交流センターmiraton(ミラトン)・松原テニスコート 撮影:中村 絵
建物は紙コップを横にして半分に切ったような形をしている。傾いたトンネル状の空間が大きさや傾きを変えながら9棟連なって全体が構成されている。ヴォールトと呼ばれるこの架構は、厚さ180㎜(一部200~250mm)のコンクリートで地上から立ち上がり、前後の庭を繋いでいく。さらにヴォールトが重なることで浮かび上がる軒下や側面の開口を通して、横方向にも空間が展開し、内外一体となった明るく開かれた場が作られていく。
各棟のスパンは用途上必要な高さ、幅に応じて円弧の半径を変化させ、ヴォールトの中心線の高さも上下させることで、立ち上がりの壁の傾斜が決められていく。また棟の並べ方や勾配による開き方も、反転させながら連ねることで、円弧という共通した形状でありながら変化に富んだ空間を生み出している。
さらに展開可能な2次曲面とすることで、施工業者にも各所の寸法・形状を把握しやすい構成となった。曲率に合わせて曲げ加工したスチールパイプを下地として組み、そこに型枠を沿わせていくことで、精度の高い仮設を比較的容易に作ることができた。最大の難所である棟間の谷の稜線部分も、各棟のスチールパイプの交点を結んでいくことで自動的に形状が現れるため、難しい幾何学の作図や特別な型枠を製作する必要も無く、施工性の高い計画となっている。
miraton D棟構造フレームアイソメ
配筋計画においては、柱梁に相当する配筋を180mmのヴォールト内に通し、ラーメン架構として解いている。これにより、各ヴォールトの構造上の接地点を4か所に限定することができ、杭(40m超)の本数を絞ることができた。
こうして相互に連動しながら立ち上がった幾何学の中には、曲面によってやわらかく包み込まれる「安心感」と、空間の展開によって促される「動き」が同居している。それが子どもたちの能動性を喚起し、自分の居場所の発見と交流を促していく。
松原児童青少年交流センターmiraton(ミラトン)・松原テニスコート 空間ダイヤグラム 提供:御手洗龍建築設計事務所
また、内外一体的な利用を促す、4つの特徴的な庭を計画した。「みんなのはらっぱ」は皆が憩う芝生広場である。ピクニックやイベントやグラウンドゴルフなどをすることができる。軒下には今後家具が並べられ、内外をつないでいく。「鳥と虫の森」は実のなる地域の樹種を選定した。大きく木々が育っていくと、小さな生態系が作られ、子どもたちの学びの場となる。トンネルを抜けて現れる「あそびの丘」は、大きな築山があり、子どもたちが元気よく駆け回る。南側敷地の「ぽけっとテラス」は、隣接する藤幼稚園とテニスコートの間に位置し、幼稚園のお迎えのママさんたちの憩いの場となったり、テニスに訪れた老人会の待ち合わせの場所となったり、放課後の小学生たちの遊び場になったりと、老若男女が出会う交流の広場となる。
こうして内外一体となった新たな町のシンボルとなる建築が立ち上がった。ここでの空間体験そのものが、子どもたちにとっての原風景となり、多世代を繋ぐ地域の拠点となっていくことを期待している。(文:御手洗 龍)
松原児童青少年交流センターmiraton(ミラトン)・松原テニスコート 撮影:中村 絵
松原児童青少年交流センターmiraton(ミラトン)・松原テニスコート 撮影:中村 絵
松原児童青少年交流センターmiraton(ミラトン)・松原テニスコート 撮影:中村 絵
松原児童青少年交流センターmiraton(ミラトン)・松原テニスコート 撮影:中村 絵
松原児童青少年交流センターmiraton(ミラトン)・松原テニスコート 撮影:中村 絵
松原児童青少年交流センターmiraton(ミラトン)・松原テニスコート 断面展開図 提供:御手洗龍建築設計事務所
松原児童青少年交流センターmiraton(ミラトン)・松原テニスコート 断面詳細図 提供:御手洗龍建築設計事務所
DATE
作品名:松原児童青少年交流センターmiraton(ミラトン)・松原テニスコート
設計・監理:御手洗龍建築設計事務所(担当:御手洗龍、御手洗僚子、奥田 樹[元所員]、原田良平[元所員]、小山悠介[元所員] )
構造設計:平岩構造計画(担当:平岩良之、國江悠介)
サイン:日本デザインセンター 色部デザイン研究所(担当:色部義昭、荒井胤海、藤谷沙弥、埴生拓也、森田瑞穂)
照明:岡安泉照明設計事務所(担当:岡安 泉)
所在地:埼玉県草加市松原
⽤途:児童福祉施設等、集会場、テニスコート管理事務所
規模:地上2階
構造:鉄筋コンクリート造
敷地面積:7,766.62m²
延床面積:1,522.30m²
竣工:2022年11月
開館日:2023年1月4日
御手洗龍建築設計事務所 ウェブサイト > WORKSページ
https://www.ryumitarai.jp/miraton
miraton ウェブサイト
https://sokamiraton.com/
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52間の縁側 撮影:黒住直臣
受賞者
山﨑健太郎(山﨑健太郎デザインワークショップ代表取締役、工学院大学教授)
設計コンセプト:懐かしい日常のある福祉「施設」をつくる
〈52間の縁側〉は、高齢者のためのデイサービスである。クライアントの石井さんは、これまでに認知症などのシリアスな問題を抱えていたとしても、ありのままその人らしい日常の暮らしを送れる介護を実践してきた。この設計にあたっては、認知症や障害があったとしても、年老いていくことが日常と切り離されずに過ごしていけるような環境の実現を目指して計画された。
52間の縁側 撮影:黒住直臣
52間の縁側 撮影:黒住直臣
敷地は南北に細長く、崖条例により建物を建てられる範囲が限定されていた。悪条件ではあったが、奥行き2.5間を持った縁側のような床を一直線に設け、メインストラクチャーである木架構と、さまざまなアクセスが可能な開かれた縁側で、地域に対する構えをつくろうと考えた。まちの人々が利用する「カフェ・工房」、「高齢者が過ごすリビング」、「はなれのような座敷と浴室」の3つの機能に外部スペースを挟み込むように配置している。
52間の縁側「カフェ・工房」 撮影:黒住直臣
52間の縁側「はなれ 座敷」 撮影:黒住直臣
52間の縁側「浴室」 撮影:黒住直臣
52間の縁側「リビング」 撮影:黒住直臣
大きな構えとしての架構に対し、いわば負けるように小さな壁やボリュームを挿入することで、人のための小さな居場所を散りばめていった。特に、挿入された建築要素の境界、つまり窓辺を丁寧に設えた。
例えば、カフェとテラスの間の窓辺にはデイベッドを設け、厚みのあるニッチに体をあずけられるように寸法や建具の種類、素材の選定を行うことで、一人だけれど、他者と一緒に過ごせるような「居方」を生み出している。
この場所は、地域のNPOや石井さんの仲間の協力により、さまざまな人たちにとっての居場所となっていく予定だ。他者の手を借りたい近隣のひとり親家庭や、不登校などの子どもたちにとっての居場所になればと皆が考えている。ここに集まる高齢者、障害者、子どもたち、地域の人々、これから彼らの関わりが少しずつ始まろうとしているのだ。
地域にじんわりと馴染んでいくために、庭の池や竹穂垣は、地域の人たちにも協力してもらい、一緒につくってきた。賑やかなワークショップでの出来事ではあったが、さまざまな人々がこの場所で居合わせ、過ごすさまを垣間見ることができた。
この建築は橋のようにも、お寺のようにも見えてくるのだ。みんなが縁側でおにぎりを頬張る姿を眺めていると、この建築は、近代日本が無くしてしまった大切なものを思い出させてくれる。(文:山﨑健太郎)
52間の縁側 撮影:黒住直臣
DATE
作品名:52間の縁側
設計・監理:山﨑健太郎デザインワークショップ
構造設計:多⽥脩⼆構造設計事務所(担当:多田脩二)
照明 ぼんぼり光環境計画(担当:角舘まさひで)
ランドスケープ:稲⽥ランドスケープデザイン事務所(担当:稲田多喜夫)
所在地:千葉県八千代市
⽤途:児童福祉施設等(老人デイサービス)
規模:地下1階+地上1階
構造:木造
敷地面積:1,585m²
延床面積:493m²
竣工:*年*月
開所日:2022年12月1日
山﨑健太郎デザインワークショップ ウェブサイト > WORKSページ
https://ykdw.org/works/long-house-with-an-engawa/
宅老所 いしいさん家(52間の縁側)ウェブサイト
https://www.ishiisanchi.com/
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作品選奨選考委員会での選考経過および上記12作品の選出・贈賞理由は、日本建築学会ウェブサイトの各賞発表ページを参照してください。
日本建築学会「2025年各賞受賞者」発表ページ
https://www.aij.or.jp/2025/2025prize.html