2022年にエストニアの首都・タリンで開催された「タリンアーキテクチャ ビエンナーレ(Tallinn Architecture Biennale: TAB)2022」の主要プログラムの1つ、国際的な「ビジョンコンペティション(Vision Competition)」において、竹中工務店大阪本店設計部の提案が最優秀賞を受賞しています。
「Dynamic Equilibrium City-動的平衡都市-」資料より(提供:竹中工務店)
本稿では、同コンペおよび最優秀作品の概要を紹介するほか、TAB(Tallinn Architecture Biennale)の概要についても後述します。
今回の「ビジョンコンペティション」で設定されたサイトは、首都の郊外、タリン最大の住宅街・ラスナマ(Lasnamäe)でした。1973年から、旧ソビエト連邦が崩壊する1990年までの間、近隣の工場や都心に通勤する労働者の住まいとして建設された集合住宅群が、今ではインフラを含めた建物の老朽化と、アメニティの欠如などさまざまな課題を抱えています。
Lasnamäe. Illustrations of Leonid Volkov’s manuscript Estonian Architecture 1940–1988 Part III, EAM_3783 Ar 6.4.8: 1, ©︎Museum of Estonian Architecture
Central part of Lasnamäe II district, model photo, EAM Fk 13106.24, ©︎Museum of Estonian Architecture
本コンペでは、これらの解決をミクロとマクロの両方のスケールで図り、持続可能性に配慮した建築および循環型都市モデルの提案が求められました。テーマは「Circular Block: Reinventing the Mikrorayon」。
「Circular Block: Reinventing the Mikrorayon」イメージビジュアル
審査は、オランダ・ロッテルダムを本拠とする建築家集団・MVRDVのヴィニー・マース(Winy Maas)氏らが担当。エストニアの国内外から応募があった36の提案の中から、厳正な審査を経て、竹中工務店大阪本店設計部の提案「Dynamic Equilibrium City-動的平衡都市-」が最優秀に選出されました。
審査(Jury):
Winy Maas, Co-founding Partner and Principal of MVRDV, Rotterdam
Kaidi Põldoja, Head of the Spatial Planning Competence Centre at the City of Tallinn
Benedetta Tagliabue, Director of Miralles Tagliabue EMBT, Barcelona
Toomas Tammis, Professor of Architecture, Estonian Academy of Arts
Veronika Valk-Siska, Advisor, Estonian Ministry of Culture
TAB 2022 ビジョン コンペティション「CIRCULAR BLOCK: Reinventing the Mikrorayon」詳細(募集要項・結果発表)
https://2022.tab.ee/competitions/vision-competition/
「Dynamic Equilibrium City-動的平衡都市-」鳥瞰パース(提供:竹中工務店)
ダイアグラム1.Dismantlable design(提供:竹中工務店)
「組み立てと分解」が容易にできるような部材の加工方法や組み合わせ方を提案。設計者が地域でとれる素材を生かしたカスタマイズの手法を提示することで、住民も自分たちのニーズに合わせて改修しやすい建築のかたちを目指した。
ダイアグラム2.Material history(提供:竹中工務店)
建材は用途によって求められる機能や寿命が異なる。1つひとつの素材が用途やかたちを変えながら都市の中で使われていくことで、資源が循環する都市を構想した。
「Dynamic Equilibrium City-動的平衡都市-」イメージ(提供:竹中工務店)
「Dynamic Equilibrium City-動的平衡都市-」イメージ(提供:竹中工務店)
「Dynamic Equilibrium City-動的平衡都市-」イメージ(提供:竹中工務店)
「Dynamic Equilibrium City-動的平衡都市-」イメージ(提供:竹中工務店)
「Dynamic Equilibrium City-動的平衡都市-」イメージ(提供:竹中工務店)
「Dynamic Equilibrium City-動的平衡都市-」イメージ(提供:竹中工務店)
作品概要
ラスナマエ地区の集合住宅群全体を、40年をかけて段階的に更新し、住環境を根本的に変えることを目指す。
応募者は、持続可能な都市の実現には「タリン郊外の森」「集合住宅群」「建築資源」の3つのスケールの循環が重要だと考え、地域の資源で循環可能なモデルを提案している。
古い建物から解体を開始し、エストニアの豊富な森林資源を活用しつつ、森林の成長サイクルにあわせたペースで更新をかける。この建設プロセスと、解体が容易であること、つくり替えていくことを前提とした設計手法などが高く評価された。受賞者:
竹中工務店 大阪本店設計部:市川雅也、大脇 春、田島佑一朗、重村浩槻、吉村純哉、赤堀 巧、前田龍紀、鈴木暢人、小林佑輔
竹中工務店 設計本部:神戸寛貴
「TAB 2022」開催期間中、現地では、応募作品の中から選抜された作品のパネル展示もあわせて開催されました(下の画)。国内外から寄せられたアイデアは市民とも共有されています(期間:2022年9月7日〜23日)。
「TAB 2022 ビジョン・コンペティション」選抜作品展示の様子 ©︎Evert Palmets
竹中工務店による最優秀案ほか作品展示の様子 ©︎Evert Palmets
「Tallinn Architecture Biennale(TAB / タリンアーキテクチャ ビエンナーレ)」は、エストニアの首都タリンにて開催される、建築文化を推進する多様なプログラムを展開する、国際的な建築・都市計画フェスティバル(主催:エストニア建築博物館 / The Estonian Centre for Architecture)。
エストニアと外国の建築家、さらに建築家と一般市民との接点を創出し、互いのアイデアを交換することで相乗効果を生み出すことを目的に開催される(過去には、2019年に藤本壮介建築設計事務所がインスタレーション作品〈The Open Cave〉を出展、藤本氏も現地でのトークイベントに参加している)。
「TAB 2019」キュレーション展示(画面手前右端:藤本壮介建築設計事務所作品) ©Tõnu Tunnel
「TAB 2019」インスタレーションプログラム〈Steampunk〉 ©Tõnu Tunnel
Designed by Gwyllim Jahn, Cameron Newnham (Fologram), Soomeen Hahm Design and Igor Pantic for the 5th edition of Tallinn Architecture Biennale.
第6回目となる「TAB 2022」のテーマは「Edible; Or, The Architecture of Metabolism(エディブル[食]、あるいは建築のメタボリズム)」。Lydia Kallipoliti氏、Areti Markopoulou氏、Ivan Sergejev氏の3氏がキュレーターを務め、2022年9月7日から10月31日にかけてタリン市で開催された。
「TAB」の主要プログラムは大きく5つ。TABヘッドキュレーターによるキュレーションのもと行われる、キュレーターエキシビション、シンポジウム、ビジョンコンペティションのほか、国際建築学校エキシビション、インスタレーションプログラムがある(2022年の最優秀を獲得したパビリオン〈Fungible Non-Fungible Pavilion〉の詳細は『TECTURE MAG』2022年11月9日ニュースにて掲載)。このほかにも多様なサテライトプログラムがタリン市内の各所で開催される。
キュレーターエキシビジョン「METABOLIC HOME」 Andrés Jaque「The Friendship WC」©Tõnu Tunnel
「TAB 2022」初日のシンポジウムの様子 ©︎Evert Palmets
「タリンアーキテクチャ ビエンナーレ / TAB 2022」公式ウェブサイト
https://2022.tab.ee/JURY