2022年4月23日から11月27日にかけて、イタリアで開催された、第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展[*1]において、日本館展示に選出されたのは、日本のアート・コレクティブの先駆け的な存在であるダムタイプ。1984年の結成時から一貫して、身体とテクノロジーの関係について考察し、独自の方法で舞台作品やインスタレーションに織り込んできた彼女・彼らは、坂本龍一氏を新たなメンバーに迎え、ヴェネチアで新作〈2022〉を発表しました。
ポスト・トゥルース[*2]時代におけるコミュニケーションの方法や、世界を知覚する方法について思考を促す本作を、帰国展として再構成、紹介するのが本展です[*3]。
プロジェクトメンバー:高谷史郎、坂本龍一、古舘 健、濱 哲史、白木 良、南 琢也、原摩利彦、泊 博雅、空 里香、高谷桜子
1.新作〈2022〉を再構築、〈2022: remap〉として日本初公開
2.坂本龍一を迎えての新作
3.これまでのダムタイプを凝縮して体感
1.新作〈2022〉を再構築、〈2022: remap〉として日本初公開
第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示で発表された新作〈2022〉をそのまま再現して展示するのではなく、アーティゾン美術館6階展示室の空間に〈2022: remap〉として再配置する。
ヴェネチア・ビエンナーレという、各国のナショナル・パヴィリオンが立ち並ぶ中で、今日の地政学的境界、あるいは国境を越えて共通のインフラとなっている、インターネット空間を基調としたコミュニケーションのあり方に問いを投げかけた作品〈2022〉を、サイト・スペシフィックに再構成して展示する。
2.坂本龍一を迎えての新作
ダムタイプの共同創設者の1人でビジュアルクリエーターを務める高谷史郎氏と、2000年代後半から共同で作品をつくり続けてきた音楽家の坂本龍一が、初めてダムタイプメンバーとして作品の制作に参画した。
坂本氏が本作のためにかきおろしたサウンドトラックに加えて、坂本氏の呼びかけにより、世界各地でフィールドレコーディングされた音[*4]が、ダムタイプの視覚言語を通じて、来場者が本展会場のその場に立ち、そこでそれぞれが耳を澄ませることの意味、機械を通じた知覚のあり方を浮き上がらせる。
また 1850年代の地理の教科書から引用された、普遍的な質問のテキストが、独自のレーザー装置で壁に投影される作品や、坂本の友人たち(デヴィッド・シルヴィアン氏、カヒミ・カリィ氏ら)による朗読の音声[*5]も展示される。
3.これまでのダムタイプを凝縮して体感
1980年代中盤より、映像、音、機械装置、空間の先進的な組み合わせによって、驚くべき速さで更新されていく テクノロジーと身体の関係に対して、鋭い問いを投げかけてきたダムタイプ。彼・彼女らのインスタレーション作 品は、パフォーマンス作品と連動し、ヴェネチアでの新作〈2022〉も、18年ぶりの新作パフォーマンス〈2020〉と関係している。
かつ、本展で披露される〈2022: remap〉では、過去に発表した作品〈Playback〉で使用したターンテーブルや、 〈TRACE/REACT II〉における表現言語などが新たに交わり、それ以前のヴィジュアル・サウンド表現が組み合わされつつも更新され、ダムタイプの創造性や、彼・彼女らの関心を感じ取ることができる。
アーティストプロフィール
ダムタイプ(DumbType)
ビジュアル・アート、映像、コンピューター・プログラム、音楽、ダンス、デザインなど、さまざまな分野の複数のアーティストによって構成されるグループ。1984年に活動を開始して以来、集団による共同制作の可能性を探る独自の活動を続けてきた。
特定のディレクターをおかず、プロジェクトごとに参加メンバーが変化するなど、ヒエラルキーの無いフラットでゆるやかなコラボレーションによる制作活動は、既成のジャンルにとらわれない、あらゆる表現の形態を横断するマルチメディア・アートとして国内外で知られている。
これまでに発表した作品は、メルボルン国際芸術フェスティバル、香港藝術節、英国・ロンドンのバービカン・センター、東京の新国立劇場、韓国・ソウルの国際モダンダンス・フェスティバル、リヨン現代美術館、アテネ・コンサートホール、シンガポール芸術祭、シカゴ現代美術館、アムステルダム市立劇場など、世界中のフェスティバルや美術館で数多く上演・展示されている。
2018年には、個展「DUMB TYPE ¦ ACTIONS + REFLECTIONS」が、ポンピドゥー・センター・メッス(フランス・パリ)にて開催。同展はその後、日本に凱旋し、2019年から2020年にかけて東京都現代美術館で開催された。2020年3月には、新作パフォーマンス〈2020〉をロームシアター京都で制作。2022年5月6日から9月11日にかけて、ドイツ・ミュンヘンのハウス・デア・クンストで個展が開催されている。ダムタイプ 公式ウェブサイト
http://dumbtype.com/
会期:2023年2月25日(土)〜5月14日(日)
会場:アーティゾン美術館 6階展示室
所在地:東京都中央区京橋1-7-2
開館時間:10:00-18:00(5月5日を除く金曜は20:00まで、入館は各日とも閉館30分前まで)
※日時指定予約制を導入
休館日:月曜
入館料(税込):ウェブ予約チケット 1,200 円 / 当日チケット(窓口販売)1,500円、学生無料(但し、高校生以上はウェブ予約要)
※窓口での当日チケット販売は、ウェブ予約枠に空きがある場合のみ
※入館料は本展および館内で同時開催中の展覧会の観覧料金を含む
主催:公益財団法人石橋財団アーティゾン美術館、独立行政法人国際交流基金
アーティゾン美術館 ウェブサイト
https://www.artizon.museum/
※同時開催
アートを楽しむ ー見る、感じる、学ぶ(5階 展示室)
石橋財団コレクション選 特集コーナー展示|画家の手紙(4階 展示室)
*1.ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展
ヴェネチアの各所を会場とし、2年に1度開催される現代美術の国際展。1895年の開始から120年以上の歴史を重ね、世界のアート・建築・デザイン潮流などに対して大きな影響力をもつ。
*2.ポスト・トゥルース(post truth)
「客観的な真実」よりも「主観的あるいは叙情的な意見」が集団的な影響力を持ちやすくなった現代の状況を指す言葉、2016年頃より提唱されている。
*3.アーティゾン美術館とヴェネチア・ビエンナーレ日本館展示との関係
本展の会場となるアーティゾン美術館を運営する、公益財団法人石橋財団では近年、ヴェネチア・ビエンナーレ日本館展示への支援を行っている。2014年の日本館リニューアルに際しては、財団の創設者である石橋正二郎氏が1956年に個人として日本館の建設寄贈を行っている経緯から、石橋財団として改修を提案し、工事費用を寄付した。
旧称・ブリヂストン美術館を改め、2020年にリニューアルオープンした石橋財団アーティゾン美術館では、ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展における日本館展示の成果を広く日本国内でも紹介するため、帰国展を継続して開催している。
*4.音
フィールド・レコーディング(2022年 Haus der Kunstで開催された「ダムタイプ展」にて展示された、坂本龍一ディレクションによるインスタレーション〈Playback〉のために録音された音源):
YAN Jun(北京)、Crosby BOLANI(ケープタウン)、Apichatpong WEERASETHAKUL(チェンマイ)、Kali MALONE & Stephen O’MALLEY(ラ・トゥール=ド=ペ)、Mukul PATEL(ロンドン)、John WARWICKER (メルボルン)、Martin HERNANDEZ(メキシコシティ)、Giuseppe LA SPADA(エトナ火山)、Damian LENTINI(ミュンヘン)、Alec FELLMAN(ニューヨーク)、Andri Snær MAGNASON & Kaśka PALUCH(レイキャビク)、Jaques MORELENBAUM(リオデジャネイロ)、Atom Heart(サンティアゴ)、CHENG Chou(台北市)、Nima MASSALI(テヘラン)、オノセイゲン(東京)
*5.音声
デヴィッド・シルヴィアン(David Sylvian)、竹内真里亜、カヒミ・カリィ(Kahimi Karie)、ニキ