COMPETITION & EVENT

「杉本博司 本歌取り 東下り」

渋谷区立松濤美術館にて9/16より開催【読者プレゼントあり】

東京・渋谷にある渋谷区立松濤美術館にて、現代美術作家の杉本博司氏(1948-)の展覧会「杉本博司 本歌取り 東下り」が9月16日より開催されます。

「杉本博司 本歌取り 東下り」展

杉本博司〈カリフォルニア・コンドル〉 1994年 ピグメント・プリント 作家蔵  ©Hiroshi Sugimoto

展覧会タイトルにある「本歌取り」とは、和歌の世界における作成技法の1つで、有名な古歌を「本歌」とし、後年の作成者がその一部を意識的に取り入れ、さらに新たな時代精神やオリジナリティを加味して歌をつくりあげる手法を指します。
新たな作者は本歌と向き合い、理解を深めたうえで、本歌取りの決まりごとの中で本歌と比肩する、あるいは本歌を超える歌をつくることが求められます。

杉本氏は、この「本歌取り」を日本文化の本質的な営みと捉え、自身の作品制作に援用、制作した作品などを集めて、本展に先立つ2022年に姫路市立美術館にて「杉本博司 本歌取り—日本文化の伝承と飛翔」を開催しています。

姫路市立美術館「杉本博司 本歌取り—日本文化の伝承と飛翔」

西国・姫路での展覧会から1年後に東京で開催される本展のタイトルは、杉本氏により「本歌取り 東下り」と命名され、氏による本歌取りの代表的な作品を中心に再び構成され、さらには新作も披露されるなど、新たな展開を迎えます。

「杉本博司 本歌取り 東下り」展

杉本博司〈富士山図屏風〉 2023年 ピグメント・プリント 作家蔵 ©︎Hiroshi Sugimoto
本展を象徴する作品。東国への旅中に、旅人が目にする雄大な富士山を描いた葛飾北斎の〈冨嶽三十六景 凱風快晴〉を本歌とした新作で、本展が初公開となる。

「杉本博司 本歌取り 東下り」展

杉本博司〈Brush Impression 0625「火」〉 2023年 銀塩写真 作家蔵 ©︎Hiroshi Sugimoto

新作の〈Brush Impression〉シリーズは、書における臨書をもとに、写真暗室内で印画紙の上に現像液(あるいは定着液)に浸した筆を用いて、杉本氏が文字などを書いた作品。

「杉本博司 本歌取り 東下り」展

杉本博司〈Brush Impression いろは歌(四十七文字)〉(部分) 2023年 銀塩写真 作家蔵 ©︎Hiroshi Sugimoto [前記展示]

本展では杉本氏の代表的なシリーズ〈海景〉からも出品されます。
写真家としても著名な杉本氏は、現実世界の一瞬を切り取る写真を「現実の本歌取り」と捉えているとのこと。

現在の写真芸術につながる技術「ネガ・ポジ法」は、イギリス出身の科学者で数学者のウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボット(1800-1877)が発明した「カロタイプ」が元とされています。
杉本氏は、このタルボットの初期写真のネガから「本歌取り」を行い、ポジ(陽画)を制作しています。約180年前にタルボットが写し取った世界が、反転した状態で現代に再生されます。

本作では、タルボット家の住み込み家庭教師と考えられる女性の姿を「本歌取り」した杉本作品が展示されます。

「杉本博司 本歌取り 東下り」展

杉本博司〈フォトジェニック・ドローイング015:タルボット家の住み込み家庭教師、アメリナ・ペティ女史と考えられる人物 1840-41年〉2008年 調色銀塩写真 ベルナール・ビュフェ美術館蔵 ©︎Hiroshi Sugimoto

杉本氏の〈海景〉シリーズは、古代の人々も見ていたであろう「海」を、現代に生きる私たちも同じように見ることができるのか? という杉本氏の問いが契機となり、1980年から制作が続けられています。
本展では、杉本氏が長年の準備期間を経て、神奈川県・江之浦の高台に開設した〈江之浦測候所〉からも望むことができる、遠州・相模湾を杉本氏が撮影した〈海景〉作品が出品されます。展覧会での披露は今回が初とのこと。

「杉本博司 本歌取り 東下り」展

杉本博司〈相模湾、江之浦〉 2021年1月1日 ピグメント・プリント 作家蔵 ©︎Hiroshi Sugimoto

「杉本博司 本歌取り 東下り」展

杉本博司〈時間の矢〉 1987年(火焔宝珠形舎利容器残欠:鎌倉時代[13−14世紀] 海景:1980年) ミクストメディア 小田原文化財団蔵 ©︎Hiroshi Sugimoto

〈時間の矢〉 は、鎌倉時代の舎利容器に〈海景〉を組み合わせたもので、本作にて杉本氏は初めて古美術と自身の作品を合体させました。氏の「本歌取り」を象徴する作品の1つです。

「杉本博司 本歌取り 東下り」展

杉本博司〈Time Exposed:地中海、ラ・シオタ〉 1989年−現在 銀塩写真 作家蔵 ©︎Hiroshi Sugimoto

写真作品は通常、作品保護の観点から屋外で展示されることは滅多にありません。しかし杉本氏は、紫外線や温・湿度差の影響を受けて作品が劣化していくのであれば、その過程を観察するということを1990年代から試みとして行ってきました。結果は、ある意味で作家の意図に反し、作品自体にほとんど変化が見られなかったといいます(杉本氏による現像処理の精度の高さを示すもの)。

その一方で、天候や落石などの理由により、展示のために使用している防水ケースが損傷し、水害にあった作品も一部で存在します。杉本氏は、この劣化や腐食の中にも美を見出しました。本展に出品される〈Time Exposed:地中海、ラ・シオタ〉は、その1つです。

「杉本博司 本歌取り 東下り」展

〈法師物語絵巻〉(部分) 15世紀 紙本着色 小田原文化財団蔵 ©︎Hiroshi Sugimoto

室町時代に描かれたとされる〈法師物語絵巻〉より、「死に薬」を狂言「附子(ぶす)」の本歌と捉え、そのほかの8つの物語とあわせて展示されます。

本展で最も注目したい作品は、白井晟一(1905-1983)の書〈瀉嘆〉です。会場である渋谷区立松濤美術館の設計者として知られる建築家です。そのユニークなスタイルから「哲学の建築家」とも評され、建築設計のほかに、中公新書などの装丁デザインや執筆も手掛け、晩年は書家としても活動しました。

本展で展示される〈瀉嘆〉は現在、杉本氏が所有しており、掛け軸として氏が仕立て直したものが展示されます。

「杉本博司 本歌取り 東下り」展

白井晟一〈瀉嘆〉 昭和時代 紙本墨書 杉本博司蔵 ©︎Hiroshi Sugimoto

白井晟一が晩年に設計した個人邸に、神奈川県内に1984年に竣工した〈桂花の舎〉があります(旧千博文邸、文化庁による建物概要はこちら)。この建物も、江之浦測候所の各施設が点在する甘橘山(かんきつざん)に移築されることが決まっています。

江之浦測候所

江之浦測候所にて撮影(Photo: TEAM TECTURE MAG)

江之浦測候所

江之浦測候所にて撮影(Photo: TEAM TECTURE MAG)

「もしも設計者が今も生きていたら」と杉本氏が自身に問いかけながら行う予定だという(桂花の舎〉の移築作業は、いわば白井建築の「本歌取り」となりそうです。本展では、移築が進められている〈桂花の舎〉の完成後の模型も展示されます。

現代の作品が、古典作品と同調と交錯を繰り返し、代表的な写真作品だけでなく、書、工芸、芸能、そして建築をも包み込む、杉本博司の世界と進化の過程を総覧する企画展です。

杉本博司 プロフィール

1948年東京生まれ。1970年に渡米、1974年よりニューヨーク在住。活動分野は写真、建築、造園、彫刻、執筆、古美術蒐集、舞台芸術、書、作陶、料理と多岐にわたり、世界のアートシーンにおいてその地位を確立してきた。杉本のアートは、歴史と存在の一過性をテーマとし、そこには経験主義と形而上学の知見をもって西洋と東洋との狭間に観念の橋渡しをしようとする意図があり、時間の性質、人間の知覚、意識の起源といったテーマを探求している。
作品は、メトロポリタン美術館(米国、ニューヨーク)や、ポンピドゥセンター(フランス、パリ)など、世界有数の美術館に収蔵されている。
代表作に「海景」、「劇場」、「建築」シリーズなど。
2008年に建築設計事務所「新素材研究所」を設立、MOA美術館改(2017)や、清春芸術村ゲストハウス「和心」(2019)などを手掛ける。2009年に公益財団法人小田原文化財団を設立。2017年10月には、構想から20年の歳月をかけ建設された文化施設〈小田原文化財団 江之浦測候所〉をオープン。
伝統芸能に対する造詣も深く、演出を手掛けた 『杉本文楽 曾根崎心中』公演は、海外でも高い評価を受ける。2019年秋には演出を手掛けた『At the Hawk’s Well(鷹の井戸)』をパリ・オペラ座にて上演。
主な著書に『苔のむすまで』、『現な像』、『アートの起源』、『空間感』、『趣味と芸術–謎の割烹味占郷』、『江之浦奇譚』などがあり、最新刊は『杉本博司自伝 影老日記』。
1988年毎日芸術賞、2001年ハッセルブラッド国際写真賞、2009年高松宮殿下記念世界文化賞(絵画部門)受賞。2010年秋の紫綬褒章受章。2013年フランス芸術文化勲章オフィシエ受勲。2017年文化功労者。

小田原文化財団 ウェブサイト
https://www.odawara-af.com/ja/

杉本博司 本歌取り 東下り

会期:前期:9月16日(土)~10月15日(日)/ 後期:10月17日(火)~11月12日(日)
※会期中、一部展示替えあり
会場:渋谷区立松濤美術館
所在地:東京都渋谷区松濤2-14-14(Google Map
休館日:月曜(ただし、9月18日と10月9日は祝日につき開館)、9月19日(火)、10月10日(火)
開館時間:10:00-18:00(金曜のみ20:00まで、最終入館は全日閉館30分前まで)
※会期や開館時間、イベント内容など、今後の状況により変更される場合あり
入館料:一般1,000円、大学生800円、高校生・60歳以上500円、小中学生100円
※渋谷区民は割引あり、金曜は無料
※土・日曜、祝休日は小中学生無料
※毎週金曜日は渋谷区民無料
※障がい者手帳の提示で本人および付添1名まで無料
※リピーター割引あり(観覧日翌日以降の本展会期中、有料の入館券の半券と引き換えに通常料金から2割引き / 1枚の入館券につき1回まで有効)

特別協力:公益財団法人小田原文化財団
協力:東急株式会社

渋谷区立松濤美術館「杉本博司 本歌取り 東下り」

関連イベント

記念講演会「杉本博司の四方山話」
日時:10月29日(日)14:00-15:30
講師:杉本博司
参加費:無料
定員:60名(要事前申込、応募多数の場合は抽選)
申込方法:以下の2通り、ともに9月30日(土)必着
1.往復はがきに氏名・住所・日中連絡のつく電話番号・イベント名を明記し、で会場「10/29講演会係」宛に郵送
2.下記の申込フォームにて受付
注. 1通または1回の申し込みにつき1名のみ応募可(応募者多数の場合は抽選)

杉本狂言 本歌取り『法師物語絵巻 死に薬~「附子」より』『茸』
概要:本展に出品された〈法師物語絵巻〉を、杉本独自の解釈で本歌取りをした『死に薬~「附子」より』。
さらに本公演では、杉本がデザインした茸の笠も必見の『茸(くさびら)』も上演される。
日時:11月9日(木)19:00開演(18:30開場)
出演:野村万作、野村裕基ほか
会場:渋谷区文化総合センター大和田4F さくらホール
所在地:東京都渋谷区桜丘町23-2
料金:全席指定 4,500円(税込)※チケット完売、受付終了

学芸員によるギャラリートーク
開催日:9月29日(金)、10月14日(土)、22日(日)
開催時間:上記各日 14:00-14:40
参加費:無料(但し、美術館入館料は要)
※申し込み不要

渋谷区立松濤美術館

〈渋谷区立松濤美術館〉建物中央吹き抜けとブリッジ 撮影:上野則宏

渋谷区立松濤美術館

〈渋谷区立松濤美術館〉外観 撮影:上野則宏

館内建築ツアー
概要:白井晟一が設計した渋谷区立松濤美術館を職員の案内で巡る
開催日:9月22日(金)、29日(金)、10月6日(金)、13日(金)、20日(金)、27日(金)、11月3日(金・祝)、10日(金)
定員:15名
参加費:無料(但し、美術館入館料は要)
※事前申し込み不要

渋谷区立松濤美術館Webサイト
https://shoto-museum.jp/


読者プレゼント

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受付期間:9月15日(金)〜9月24日(日)終了
※応募者多数につき抽選
※結果発表:チケットの発送をもって了(個々の問合せには対応しません)
※発送完了後、都道府県を除く住所情報は削除し、データとして保有しません

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