東京・六本木の国立新美術館にて、展覧会「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」が3月19日より開催されます。
2007年の国立新美術館開館記念展に次ぐ、1階と2階の企画展示室を同時に使った大規模な展覧会です。
本展は、20世紀につくられた戸建て住宅に関する革新的な試みを7つの観点(後述)から再考することを試みるものです。
開催に先立ち、国立新美術館では展示への支援を求めるクラウドファンディング(クラファン)を実施し、大きな話題となりました。無料観覧エリアに展示する、ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ(Ludwig Mies van der Rohe|1886-1969)の未完プロジェクト「ロー・ハウス」を原寸大で展示する制作費の一部を募ったもので、目標金額1,000万円に対し、488名から11,117,672円の支援を受けています。
本展では、モダン・ハウスを特徴づける7つの観点を通して、20世紀に建てられた数多の戸建て住宅の中でも傑作とされ、かつ実験的な試みもみられる14邸をピックアップ。設計した建築家たちの意図、そこで追求したこととはなんだったのかを読み解いていきます。会期中に行われる各種トークイベントでも同様に、建築家らによる討議・検証が行われる予定です。
本展について
本展では、20世紀にはじまった住宅をめぐる革新的な試みを、衛生、素材、窓、キッチン、調度、メディア、ランドスケープという、モダン・ハウスを特徴づける7つの観点から再考します。そして、特に力を入れて紹介する傑作14邸を中心に、20世紀の住まいの実験を、写真や図面、スケッチ、模型、家具、テキスタイル、食器、雑誌やグラフィックなどを通じて多角的に検証します。
1920年代以降、ル・コルビュジエ(1887–1965年)やミース・ファン・デル・ローエといった多くの建築家が、時代とともに普及した新たな技術を用いて、機能的で快適な住まいを探求しました。その実験的なヴィジョンと革新的なアイデアは、やがて日常へと波及し、人々の暮らしを大きく変えていきました。
本展は、当代の暮らしを根本から問い直し、快適性や機能性、そして芸術性の向上を目指した建築家たちが設計した、戸建ての住宅を紹介するものです。1920年代から70年代にかけて建てられたそれらのモダン・ハウスは、国際的に隆盛したモダニズム建築の造形に呼応しつつも、時代や地域、気候風土、社会とも密接につながり、家族の属性や住まい手の個性をも色濃く反映しています。理想の生活を追い求めた建築家たちによる暮らしの革新は、それぞれの住宅に固有の文脈と切り離せない関係にあるのです。
一方、それらの住宅は、近代において浮上してきた普遍的な課題を解決するものでもありました。身体を清潔に保つための衛生設備、光や風を取り込む開放的なガラス窓、家事労働を軽減するキッチン、暮らしを彩る椅子や照明などの調度、そして住まいに取り込まれた豊かなランドスケープは、20世紀に入り、住宅建築のあり方を決定づける重要な要素となったのです。そして、こうした新しい住まいのイメージは、住宅展示や雑誌などを通じて視覚的に流布していきました。今から100年ほど前、実験的な試みとして始まった住まいのモダニティは、人々の日常へと浸透し、今なお、かたちを変えて息づいています。本展は、今日の私たちの暮らしそのものを見つめ直す機会にもなるでしょう。
展示構成
1.衛生:清潔さという文化
2.素材:機能の発見
3.窓:内と外をつなぐ
4.キッチン:現代のかまど
5.調度:心地よさの創造
6.メディア:暮らしのイメージ
7.ランドスケープ:住まいと自然
本展で着目する14邸
01.ル・コルビュジエ〈ヴィラ・ル・ラク〉 1923年、スイス・コルソー(レマン湖畔)
02.藤井厚二〈聴竹居〉 1928年、日本・京都 大山崎町
03.ミース・ファン・デル・ローエ〈トゥーゲントハット邸〉 1930年、チェコ・ブルノ
04.ピエール・シャロー〈ガラスの家〉 1932年、フランス・パリ
05.土浦亀城〈土浦亀城邸〉 1935年、日本・東京
06.リナ・ボ・バルディ〈ガラスの家〉 1951年、ブラジル・サンパウロ
07.広瀬鎌二〈SH-1〉 1953年、日本・鎌倉
08.アルヴァ・アアルト〈ムーラッツァロの実験住宅〉 1953年、フィンランド・ムーラッツァロ島
09.ジャン・プルーヴェ〈ナンシーの家〉 1954年、フランス・ナンシー
10.エーロ・サーリネン、アレキサンダー・ジラード、ダン・カイリー〈ミラー邸〉 1957年、米国・コロンバス
11.菊竹清訓、菊竹紀枝〈スカイハウス〉 1958年、日本・東京
12.ピエール・コーニッグ〈ケース・スタディ・ハウス #22〉 1959年、米国・ロサンゼルス
13.ルイス・カーン〈フィッシャー邸〉 1967年、米国・フィラデルフィア
14.フランク・ゲーリー〈フランク&ベルタ・ゲーリー邸〉 1978年、米国・サンタモニカ
見どころ
戸建ての個人住宅 私たちの暮らしにかかわる展覧会
今日の私たちにとって、居間やキッチンを間取りの中心に据え、快適な衛生設備と家族の個室を備えた戸建て住宅は、普遍的な住まいに見えるかもしれません。しかし、歴史的に見るとそれは、戦後に核家族が主流となるのにつれて定着した比較的新しい住まいの形式です。20世紀に普及した戸建て住宅は、住み手の理想を色濃く反映した、多様な暮らしを生み出してきました。こうした住まいの革新が国際的に広がっていった1920年代から70年代までに着目する本展では、14邸の住宅を中心に、私たちの暮らしの礎を見直します。
藤井厚二〈聴竹居〉 1928年 撮影: 古川泰造
建築家たちの住まいに対する熱いまなざし
本展で取り上げる住宅を設計したのは、大規模建築も数多く手がけた著名な建築家たちです。そうした時代をリードする建築家たちの創作の根底には、日常的な暮らしへの大きな関心があったのです。本展で紹介する住宅の多くは、建築家たちの自邸です。それらは新たな建築観を示すかっこうの実験の場でした。細部まで工夫を凝らしたこだわりの自邸からは、機能や快適さの探究はもちろん、住まうことの楽しさや喜びへの真摯なまなざしも垣間見ることができます。
リナ・ボ・バルディ〈ガラスの家〉 1951年
国内外から集結するさまざまな作品とイメージ
本展には、国内はもとより、アメリカやヨーロッパ、ブラジルなどから、貴重な作品が集結します。図面、模型、外観や内観の写真に加え、ミースやアルヴァ・アアルトなど、建築家自らが描いたドローイング、建築家が住まいとともにデザインした家具や生活道具、映像など、バラエティに富んだ内容を紹介します。本展は、多様な作品とイメージを通じて、住まいを多角的に見直すことを試みます。
フランク・ゲーリー〈フランク&ベルタ・ゲーリー邸〉 1978年 Ⓒ Frank O. Gehry. Getty Research Institute, Los Angeles(2017.M.66)
100年前に誕生したモダン・ハウス、今も使われている名作家具や照明器具
本展で取り上げる住宅のデザイン、そして多くの建築家が住まいにあわせて手がけた椅子や机、照明器具は、今の私たちから見ても非常に「モダン」です。家具や器具の多くは、今なお生産され、使い続けられています。日ごろ何気なく目にしている名作のルーツには、建築家やデザイナーたちの、機能と造形に対する時代を越えた普遍的な問いがあったといえるでしょう。
オットー・リンディッヒ〈ココアポット〉 1923年 炻器 宇都宮美術館
マルセル・ブロイヤー 〈サイドチェア B32〉 1928年 ミサワホーム所蔵 撮影:立木圭之介
1階の企画展示室1Eでの展示に続き、2階の天井高8メートルの企画展示室2Eでは、ミース・ファン・デル・ローエの未完のプロジェクト「ロー・ハウス」を原寸大で実現、展示します。こちらの会場では、同時代にデザインされた、今日でも使われている名作家具を体感できるコーナーを設けるほか、ミースの〈トゥーゲントハット邸〉と、”母の家”の名でも知られるコルビュジエの〈ヴィラ・ル・ラック〉の一部内観を再現、VRでの体験もできるとのこと(企画協力:公益財団法人窓研究所)。
2階展示フロアマップ(無料観覧エリア)
クラファンでの支援を受けた、ミースの未完のプロジェクト「ロー・ハウス」の原寸大展示は、天井高8メートルを有する展示空間に幅16.4m × 奥行16.4mのスケールで設置されます。
ミースの「ロー・ハウス」に関しては、いくつかの計画案があるものの、建設されたものはありません。参考となる写真・映像もないなか、残された図面や資料をもとに模型をつくり、原寸大で実現したのが今回の展示になります。なお、「ロー・ハウス」の原寸大での実現は過去に類がないとのこと。
「ロー・ハウス」原寸大展示プロジェクトにおける検討図面
「ロー・ハウス」原寸大展示プロジェクト スタディ模型
2階展示フロアのレイアウト検討図(提供:国立新美術館)
本展では、関連企画・トークイベントも多数開催されます(記念シンポジウムを除き、会場は2階の企画展示室2E)。
日時:2025年3月20日(木・祝)14:00–17:00(13:30開場)
登壇者:ケン・タダシ・オオシマ、佐々木 啓ほか
会場:国立新美術館 3階講堂
定員:220名
参加料:無料(ただし、本展の観覧券[半券も可]が必要)
参加方法:要申込、当日10時より1階・中央インフォメーションにて整理券を配布
※詳細は本展特設サイトを参照
A|連続対談
「コンテンポラリー・モダニティ―現代建築家が紐解く近代建築の巨匠たち」
01.富永 讓(建築家)× 岸 和郎「ル・コルビュジエ」
日時:2025年3月29日 15:00-17:00
02.西沢立衛(建築家)× 岸 和郎「 ミース・ファン・デル・ローエ」
日時:2025年4月18日 17:00-19:00
03.安田幸一(建築家)×岸 和郎「土浦亀城」
日時:2025年5月17日 15:00-17:00
司会:長田直之
会場:本展 企画展示室2E 特設会場(無料観覧エリア)
定員:100名(各回とも開始2時間前より1階中央インフォメーションにて整理券を配布、開始30分前に開場)
参加料:無料
主催:Aプロジェクト、ミサワホーム、国立新美術館
企画・監修:大島 滋(Aプロジェクト室 室長)
問合わせ先:050-5541-8600(ハローダイヤル)
B|バウハウス特別講演会「グロピウス、ミース、ブロイヤーの住宅」
登壇者:岸 和郎(建築家、本展監修者)
日時:3月22日(土)15:00–17:00(開場時間14:30)
主催:misawa bauhaus collection、ミサワホーム総合研究所、国立新美術館
問い合わせ先:050-5541-8600(ハローダイヤル)
登壇者:クリスチャン・ドレッシャー(TECTA / CEO)、山田泰巨(編集者・ライター)、野口 礼(アクタス 家具バイヤー 海外担当)
日時:3月23日(日)11:00-12:00
会場:本展 企画展示室2E 特設会場
定員:100名
参加費:無料(ACTUSウェブサイト内専用フォームより要申し込み)
主催:アクタス
イベント詳細
https://www.actus-interior.com/news/tecta-event/
※アクタス・丸の内店では企画展示「TECTA MIT MARUNOUCHI -バウハウスとテクタの名作家具展-」を4月20日(日)まで開催
会期:2025年3月19日(水) ~6月30日(月)
休館日:火曜(ただし、4月29日[火・祝]・5月6日[火・祝]は開館)、5月7日(水)
開館時間:10:00-18:00(ただし、金・土曜は20:00まで|入場は各日とも閉館30分前まで)
会場:国立新美術館 企画展示室1E、企画展示室2E
所在地:東京都港区六本木7-22-2(Google Map)
観覧料:一般1,800円、大学生1,000円、高校生500円、中学生以下無料
※障害者手帳の提示で付添1名まで入場無料
※2階企画展示室2Eの展示は観覧無料
問合せ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
本展監修:岸 和郎(建築家、K.ASSOCIATES / Architects主宰)
ゲスト・キュレーター:ケン・タダシ・オオシマ(ワシントン大学 建築学部教授)
アソシエイト・キュレーター:佐々木 啓(東京工業大学 建築学系助教)
会場構成:長田直之(建築家、ICU一級建築士事務所主宰)
アート・ディレクション:田中義久(グラフィックデザイナー・美術家、デザイン事務所 centre Inc.主宰)
主催:国立新美術館、東京新聞、独立行政法人日本芸術文化振興会、文化庁
後援:一般社団法人日本建築学会、公益社団法人日本建築家協会
協賛:鹿島建設、TOTO、長谷工コーポレーション、YKK AP、積水ハウス、大和ハウス工業、藤木工務店
協力:ミサワホーム、竹中工務店、新建築社、アルク、ウシオライティング
本展特設サイト
https://living-modernity.jp/
巡回予定
兵庫県立美術館
2025年9月20日(土)〜2026年1月4日(日)
『TECTURE MAG』への感想など、簡単なアンケートにお答えいただいた方の中から、本展の観覧券を3組6名さまにプレゼント!
受付期間:2025年4月1日(火)まで ※締め切りました
※応募者多数の場合は抽選
※結果発表:チケットの発送をもって了(個々の問合せには対応しません)
※発送完了後、都道府県を除く住所情報は削除し、データとして保有しません
※チケットの使用方法で不明な点は主催者に問合せてください