[Report&Interview]注目の2人展、東京オペラシティ アートギャラリー企画展「ほぼ、空:青木淳 + リチャード・タトル」会場レポート&インタビュー - TECTURE MAG(テクチャーマガジン) | 空間デザイン・建築メディア
[Report&Interview]注目の2人展、東京オペラシティ アートギャラリー企画展「ほぼ、空:青木淳 + リチャード・タトル」会場レポート&インタビュー

[Report&Interview]注目の2人展、東京オペラシティ アートギャラリー企画展「ほぼ、空:青木淳 + リチャード・タトル」会場レポート&インタビュー

東京・初台の東京オペラシティ アートギャラリーにて、建築家の⻘⽊ 淳と美術家のリチャード・タトルの両氏による展覧会「ほぼ、空」が開催されています。

東京オペラシティ アートギャラリー「ほぼ、空:青木淳 + リチャード・タトル」会場写真

Photo: TEAM TECTURE MAG

日本と米国、それぞれの国を代表する建築家と美術家による2人展。開幕前、「建築家と美術家が対話を重ねて実現する本展。開幕前のプレスリリースには「“まるで空を⾒上げるように上を眺めることが促される”と記載されていました。その企図を体験した来場者による感想が、SNSなどネット上に散見されています。会期が進むにつれて話題性を強めている展覧会「ほぼ、空」をレポートします(『TECTURE MAG』では、開幕前日にメディア向けに行われた内覧会を取材、出展者の青木 淳とリチャード・タトルの両氏にインタビューを行った)。

INDEX

従来の機能をシャッフルさせた会場構成
「建築も展覧会もリノベーションだと言える」
3つのエレメント:柱、バスケット、ストライプ
“光”と“空気”と“陰”と“明”
空間について再認識する展覧会
最後の展示室は “ほぼ、空”に、居る
本展を企画したキュレーターの狙い
⻘⽊ 淳氏&リチャード・タトル氏 インタビュー

東京オペラシティ アートギャラリー「ほぼ、空:青木淳 + リチャード・タトル」会場写真

Photo: TEAM TECTURE MAG

従来の機能をシャッフルさせた会場構成

展覧会「ほぼ、空」は、これまでの展覧会の会場とは様相が異なります。ギャラリーショップがエントランス手前のスペースにありません。スケルトンに戻った空間では、タトル氏のアート作品が展示されています。

東京オペラシティ アートギャラリー「ほぼ、空:青木淳 + リチャード・タトル」会場写真

Photo: TEAM TECTURE MAG

東京オペラシティ アートギャラリー「ほぼ、空:青木淳 + リチャード・タトル」会場写真

Photo: TEAM TECTURE MAG

Limartが運営するショップは、会場を進んだ先の3階コリドールにて営業中(下の画)。同ショップは「第5の展示室」の意を込めた「Gallery 5」と名付けられているので、本展にてその機能を拡張したとも言えます。

東京オペラシティ アートギャラリー「ほぼ、空:青木淳 + リチャード・タトル」会場写真

Photo: TEAM TECTURE MAG

3階の展示室・ギャラリー1は、青木氏とタトル氏による「ほぼ、空」展の会場であるとともに、通常は4階のギャラリー3、4にて展示されている、東京オペラシティ アートギャラリーが所蔵する寺田コレクションから青木氏がセレクトした絵画作品をあわせて紹介しています。
青木氏が会場構成を担当した本展は、従来の空間の使われ方をしておらず、東京オペラシティ アートギャラリーを一度でも訪れたことがある人にはとりわけ、先入観と固定観念が取り払われ、初めて目にするような空間の連なりとなっているのが大きな特徴です。

東京オペラシティ アートギャラリー「ほぼ、空:青木淳 + リチャード・タトル」会場写真

Photo: TEAM TECTURE MAG

「本展では、僕は出展者であると同時に、会場構成も担当しました。東京オペラシティ アートギャラリーの展覧会は、これまでおおよそ、エントランスがある3階のギャラリー1から企画展がスタートして、4階で寺田コレクションを見て、最後に若い作家を紹介した「project N」を見て、ショップで図録などを買って帰る、という順路が常だったと思うのですが、本展ではそれらをすべてシャッフルしています。このギャラリーがもっている空間のおもしろさを引き出すには、3階から4階まで通しで体験してもらうのがいいのでないかと考えたからです。それぞれの空間の機能をシャッフルすることで、全体で1つの展示空間となり、1つの展覧会になり得るのではないか。ショップは別のところで営業し、コレクション展も若手作家の企画展もそれぞれ従来通りに開催する。複数ある従来の機能はそのままに共存させることを試みました」(青木氏談)

東京オペラシティ アートギャラリー「ほぼ、空:青木淳 + リチャード・タトル」会場写真

Photo: TEAM TECTURE MAG

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メディア内覧会風景 Photo: TEAM TECTURE MAG

「建築も展覧会もリノベーションだと言える」

メディア内覧会の中で、青木氏は「建築をつくることは言わばリノベーションであり、展覧会でも同様である」と述べています。この考え方は、『TECTURE MAG』で取材・レポートした、東京藝術大学 青木淳退任記念展「雲と息つぎ ―テンポラリーなリノベーションとしての展覧会 番外編―」(2023年)でも語られていたことです(レポートはフッター:EDITOR’S PICKSを参照)。

「新築の場合も、まず土地があるわけで、建築家がゼロからつくっているわけではない。元からあるものをどう変えていくかを考えて設計をしています。展覧会も、既存の美術館の空間において、限られた期間の中でその場を変えていくことだと僕は考えています」(青木氏談)

東京オペラシティ アートギャラリー「ほぼ、空:青木淳 + リチャード・タトル」会場写真

Photo: TEAM TECTURE MAG

ギャラリー1以降の会場では、「柱」と呼称されている大きな円柱と、周囲に「バスケット」が吊るされています。「バスケット」からはモミの木の枝がはみ出しており、つくりかけの鳥の巣のようです。四方の壁には、タトル氏による「ストライプ」の作品のほか、寺田コレクションから青木氏がセレクトした、画家の野又 穫(のまた みのる)氏の絵画作品が並んでいます。

「ここに野又さんの作品をもってきたのは、架空の構造物で世界観を表現している作品として建築との親和性が高いこともありますが、僕やタトルさんとも全く違う表現によるアートとの共存を試みたものです。僕とタトルさんの展示と切り離して野又作品を鑑賞することもできるし、俯瞰してみると、今回の『ほぼ、空』展の一部のようでもある。野又さんにしてみれば初めての見せ方になっていると思いますが、こんな展示もいいねと好意的に受け取ってもらえるように心がけたつもりです」(青木氏談)

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Photo: TEAM TECTURE MAG

 

3つのエレメント:柱、バスケット、ストライプ

本展で目にする主なエレメントは、前述の通り、柱、バスケット、そしてストライプの3つ。これらはタトル氏が起案したものです。

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Photo: TEAM TECTURE MAG

「人の空間認識というものは、柱があることで可能になるのではないかと僕は考えています。もしかしたら自然界の樹木が起源になるのかもしれませんが、例えば古代ギリシャの建築様式などに見られる柱の上部、柱頭(ちゅうとう)に、なにか装飾が付いていると、人はなんだろうかと注視して見上げますよね。その行為によって、水平と垂直、空間を意識するのではないか。本展では、空間のはじまり、柱が最初に生まれた頃に立ち戻ってみることを試みています。空間とは、柱とはなにかを捉え直し、たちあらわせてみる。この作為も言うなればリノベーションです」(青木氏談)

「イタリアなどでも見られますが[*1]、アートと建築がバランスが取れた状態で調和している状態はとても美しく、素晴らしいことです。来場者にもそのことを感じ取ってほしい。本展は、ショップだった空間から始まり、会場を巡ったあと、またその空間に戻ってくる。最初の展示は空間でもありゲートでもあるのです」(タトル氏談)

*1.北イタリア・トレヴィーゾにあるパラディオ、ヴィラ ハルバードを指している

バスケット

「この展示室と次のギャラリー2の床には、バスケットの中の枝から落ちた葉が散らばっています。これは、作品をつくっていく中で偶発的に起こった、とても素敵な出来事だと私たちは捉えています。会期が進めば、枝が徐々に枯れていって葉がさらに床に落ちていく。その上を鑑賞者が偶発的に踏むことによって、作品の完成度が高まると考えています」(タトル氏談)

ストライプ(色の帯)

本展で「ストライプ」と呼称されているタトル氏の作品は、薄い色紙でつくられています。各所に配置されているこの色の帯は、タトル氏が作品製作のうえで重要視している「光」を象徴したものです。さらには、エントランスカウンター前(下の画)や4階のコリドールには照明による表現も見られます。

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3階フロア / チケットカウンター前 Photo: TEAM TECTURE MAG

「さまざまな色の紙でできたストライプの帯、このストライプ1つ1つが作品です。展示空間の場所によって見え方や体感が違ってきます。本展では、偶発的な出来事に加えて、エントロピー[*2]もテーマの1つに掲げていて、物質というものはどのような光になるのかを来場者に体験してもらう、量子力学的な発見をしてもらいたいと考え、光の色の関係性を段階的な表現で展開しています」(タトル氏談)

*2.物理学や情報理論などで使われる言葉で、物事の「乱雑さ」や「不規則さ」、または情報の「不確実性」を表す指標

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4階フロア Photo: TEAM TECTURE MAG

3つのエレメントの配置は、ニューメキシコにあるタトル氏のアトリエで青木氏らと打ち合わせを行った際に、床に広げた会場の平面図にタトル氏が放った3つの石を起点に同心円上で考えられています。青木氏の事務所が作成した図面や模型をもとに作品を搬入したあと、それぞれのエレメントがなぜここにあるのか、どのようにあるべきなのかという議論が続いたといいます。

「3つのエレメントはいずれも同じ現れ方はせず、常に違うあり方として現れてくることを意識しました。設営には20日用意されていましたが、果たしてオープンできるのか昨夜までわからなかった。とてもスリリングな体験をしました(笑)」(青木氏談)

東京オペラシティ アートギャラリー「ほぼ、空:青木淳 + リチャード・タトル」会場写真

Photo: TEAM TECTURE MAG

“光”と“空気”と“陰”と“明”

「本展の空間には、暗い部分と明るい部分があります。ギャラリー1からギャラリー2に入ってくると(上の画)、明るいと感じるはずです。そしてギャラリー2にも明るいところと暗いところがあります。この陰影は青木さんとともに意図してつくっています。光に導かれるように会場を巡り、陰と陽を交互に感じてもらえるといい。光が鑑賞者の想像力をはたらかせる導きになり、それを支えるものになればと願っています」(タトル氏談)

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Photo: TEAM TECTURE MAG

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Photo: TEAM TECTURE MAG

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Photo: TEAM TECTURE MAG

ギャラリー2に置かれたベンチは、東京オペラシティ アートギャラリーで昨年開催された展覧会で作品の台座として使用されたものを用いて、青木氏がデザインしたものです。同様に、コリドールにて営業中のギャラリーショップの什器や、各所に配置されたオリジナル照明の材としても使われています。

「展覧会終了後に産業廃棄物になることは極力避けたかった。消費され消えてしまうのではなく、モノとしては変わらないけれども違う形で存在させる。その循環の中にこれらのものを位置付けています」(青木氏談)

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Photo: TEAM TECTURE MAG

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ギャラリーショップ(手前の面陳は9月刊行予定の本展カタログの表紙サンプル) Photo: TEAM TECTURE MAG

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Photo: TEAM TECTURE MAG

ギャラリーショップでは、青木氏とタトル氏が選書に協力した書籍が販売されています。そして、コリドールの壁には、金沢の表具師と協働してタトル氏が制作した絵巻物作品「ほぼ、空」が1点掛けられており、ここは展示空間でもあります。

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画面右上:リチャード・タトル〈ほぼ、空〉 Photo: TEAM TECTURE MAG

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Photo: TEAM TECTURE MAG

空間について再認識する展覧会

“まるで空を⾒上げるように上を眺めることが促される”本展、その“見上げ”は、前述のように、柱の上をもっと見てみようとする鑑賞の意識だけに促されるものではありません。来場者は、展示空間に聳える柱の存在に少なからず面喰らい、説明を求めて何らかのテキストを探し(場内に展示キャプションの掲示はない)、気付かぬうちにモミの落葉を踏みながら場内を巡るうちに、従来の展覧会とは異なる本展ならではの照明計画に気づくでしょう。

「今回の展示では、部分的に自然光を採り入れています。自然光と人工光のどちらがいいということではなく、両方の光を用いて空間をつくっています」(青木氏談)

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4階 ギャラリー3 Photo: TEAM TECTURE MAG

通常は寺田コレクション展が並ぶ4階のギャラリー3では、天窓から入れられた自然光がほんのりと柱頭を照らしています。降ろされた白いスクリーンカーテンの隙間はほんの数センチ。誰に強いられるわけでなく作品を見上げたとき、頭上には天窓があったこと、そして通常は作品保護のためもあって塞がれているだろうと想像します。要所に見られる青木氏によるリノベーションの作為に触れるたび、来場者は東京オペラシティアートギャラリーが最初からもっていた空間について思いをめぐらせ、再認識することになるのです。

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最後の展示室は “ほぼ、空”に、居る

青木・タトルの両氏による作品展開の最後となるギャラリー4は、天井高が抑えられた空間です。

「天井が低いこの空間だからこそ、これまで見上げてばかりだった柱頭を至近で見ることができます。このあと、階段を降りるときには、床に据えた柱頭部分を見下ろすことができるのですが、展示の最後で、鑑賞者の視点は高く浮かび上がり、空の高さに“ほぼ、いる”ことになります」(青木氏談)

東京オペラシティ アートギャラリー「ほぼ、空:青木淳 + リチャード・タトル」会場写真

「柱が支える天井が表現として必要と考え、メッシュで雲のような白い面をつくり出しました」(青木氏談) Photo: TEAM TECTURE MAG

「ここでは、天井が低いこともあり、短くカットされた柱の上部を近くで見ることができます。視点の高さが変わることで、エレメントの捉え方も変わります。また、明るいところに据えた柱と、暗くした壁に埋め込むように設置した柱とでは、柱のあり方も異なってくるので、作品の印象もまた違って見えてくると思います」(タトル氏談)

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展示室出口の壁の上部に見える青い帯もタトル作品 Photo: TEAM TECTURE MAG

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画面右側の壁:照明器具 / 下階のベンチなどと同様に旧展示什器を用いて青木氏がデザインしたもので、各所に配置されている Photo: TEAM TECTURE MAG

「本展のためにタトルさんとはさまざまな議論を重ねましたが、その1つに陰(かげ)の要素があります。タトルさんも読まれたことがある、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』で言うところの陰です。詳しい説明は本展のカタログ(9月刊行予定)に文章を寄せていますが、要は、光があって、闇があるわけではないと私たちは考えています。光と陰(影)は、2項対立のように思われているけれども、その間には互換性がある。日本における白(しろ)という言葉も、古くは、色を意味するだけでなく、暗い中の光を意味していた。暗いところとが明るいところあり、不安定な中の安定、そういったものを表現できないかと、タトルさんと一緒に空間をつくりました」(青木氏談)

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若手作家を紹介するスペース「project N」では東山詩織氏の平面作品を紹介(プロフィールなど詳細はこちら) Photo: TEAM TECTURE MAG

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「project N」でもタトル作品が展開されている  Photo: TEAM TECTURE MAG

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Photo: TEAM TECTURE MAG

本展を企画したキュレーターの狙い

「ほぼ、空」展を企画したのは、東京オペラシティアートギャラリーで昨年4月からシニアキュレーターを務める能勢陽⼦氏です。青木氏とタトル氏に展覧会への参画を依頼した経緯について、能勢氏は次のように語っています。

「青木さんは建築をつくることについて、いろいろなタイプがある人々が違和感なく一緒にいられるような自由な空間をつくることだと捉えていて[*3]、一方のタトルさんは、ご自身の作品をよく光に例えています。作品を見たときの感覚やそこから受ける恩恵のようなものを、他者と共有できることが、アートがもっている素晴らしい力であると。人間の生活にとって欠くことができないこの2つ、光と空気が混じり合ったなら、これまでに見たことないような自由な空間が創出されるのではないかという思いから、今回のコラボレーションをお2人に打診しました」(内覧会にて、能勢陽⼦氏談)

*3.京都市京セラ美術館の改修工事について振り返った青木氏の単著に『くうきをつくる』(王国社、2024年)がある

能勢陽⼦氏 プロフィール

東京オペラシティアートギャラリーシニアキュレーター。
同志社大学大学院文学部文化学科(美学及び芸術学専攻)修士課程修了後、1997年から2024年まで豊田市美術館学芸員を務め、2025年4月より現職。現代美術の展覧会企画のほか、レビュー執筆も行い、美術雑誌などに掲載多数。近年はリサーチャーとして作品制作に関わることもある。
豊田市美術館在籍時に手がけた展覧会として、「Blooming:日本–ブラジル」(2008年)、「石上純也」展(2010年)、「反重力」展(2013年)、「ビルディング・ロマンス」(2018年)、「ホー・ツーニェン エージェントのA」(2021-2022年)、「ねこのほそみち」(2023年)、「未完の始まり」(2024年)などがある。そのほか美術館外での企画に、「Twist and Shout Contemporary Art from Japan」(バンコク・アート&カルチャーセンター、2009年、国際交流基金主催)、「あいちトリエンナーレ2019」(豊田市・名古屋市、2019年)がある。

 

「私は東京オペラシティアートギャラリーに赴任する前、豊田市美術館に27年在籍していたのですが、そこでも今回と同じような進め方で幾つかの展覧会をつくってきました。キュレーターとして、何かが現場で生まれてくる瞬間に立ち会うのがとても好きなのです。その時になってみないとわからないという怖さはありますが、そこには生(なま)な感覚、フレッシュさがあるように思います。今、ここで、この時しか見れないものをこれからもつくっていきたいですね」(オープニングトーク終了後、能勢氏に取材)

東京オペラシティ アートギャラリー「ほぼ、空:青木淳 + リチャード・タトル」会場写真

メディア内覧会の様子(左から、青木氏、能勢氏、タトル氏、逐次通訳のベンジャー桂氏) Photo: TEAM TECTURE MAG

出展作家の両氏と能勢氏は、「美術館としての境界はこれまでになく曖昧で、かつ建物の外にも広がっていっていい」との考えを最初から共有していたといいます。タトル氏曰く「新しいかたちの建築を見出し、つくり出すこと目指した」展覧会です。

東京オペラシティ アートギャラリー「ほぼ、空:青木淳 + リチャード・タトル」会場写真

Photo: TEAM TECTURE MAG

⻘⽊ 淳氏&リチャード・タトル氏 インタビュー

『TECTURE MAG』では、本展のオープニングトークを控えた青木・タトルの両氏に特別にインタビューを行いました(逐次通訳協力:ベンジャー桂氏)。

——青木さんはかねてよりタトル作品のファンだったとのこと。どういったところに惹かれるのでしょうか。

青木氏
言葉では説明しにくいですね。ただ不思議なもので、その作家に共感できるかどうか、作品を見て、それが自分にとって重要な何かだと直感でわかる瞬間がありますよね。好き嫌いとは違う感覚です。ほかの作品に対しても、こんな表現があり得るのかと思わせてくれる。タトルさんは昔からとても気になっていた作家でした。そのことを知っていたギャラリストの小山登美夫さんから、タトルさんが2018年に東京・六本木で個展を開催する際に声がかかり、対談の聞き手を務めたことがあります[*4]。お会いしたのはそれが最初です。

*4.リチャード・タトル個展「8, or Hachi」(2018年、小山登美夫ギャラリー[六本木])。対談の内容は『美術手帖』ウェブ版に公開されている(詳細はこちら

——タトルさんは、これまでに建築家とコラボレーションしたことはあったのでしょうか。

タトル氏
建築家に自邸を設計してもらっていたり、素晴らしい建築との出会いはたくさんあります。展覧会では、建築家のマックス・ビルが手がけたものがこれまでに見てきた中でも5本の指に入ります。彼の視点で作品がセレクトされ構成されていました。ただ、展覧会がどのようにつくられたのかということよりも、ある種のかたちとしてそれがどのように立ち上がってきたのか、そちらのほうが重要だと私は考えています。アートと建築の関係性を本展では重視していますが、私がアーティストとして属しているカルチャーの領域は、極めて自由度が高く、自由な環境ないし文脈の中で作品を制作しています。でも良い作品をつくり上げるためには、客観的な視点、批評してくれる存在が必要です。建築にとは、アートを批評できる存在であり、その力をもっています。

東京オペラシティ アートギャラリー「ほぼ、空:青木淳 + リチャード・タトル」出展者

※両氏の作家プロフィールは別稿・開催概要を参照

——青木さんは今回、建築家として、出展者であると同時に、会場構成も担当されました。それぞれで留意したのはどういったことだったのでしょうか。

青木
作家としては、タトルさんと対等であることが求められているのだろうなと。とはいえ、タトルさんのような著名な作家と対等なんて機会はそうそうありませんから、大きなチャレンジングでした。会場構成とあわせて、どうやろうかと最初は悩みました。でも、昨日のプレカンでも言いましたが、僕は建築を単に建物をつくるという狭義では捉えていなくて、目の前にある世界に対して、すでに存在しているものを読み替えて、そこに、僕がいいと考える、人に対してこうあったほうがいいと思う側面を提示することだと考えているので、やはりそこが起点になりました。

——それは「リノベーションだと言える」とのお話でした。

青木
そう。だから、結果的にどのような展覧会になるにせよ、ここはショップ、ここはギャラリーという固定観念をいちど取り払って、その空間が持っている可能性の中で、そこでの位置づけをやり替えてみたいと、かなり早い段階で考えていました。それをタトルさんにも相談して、一緒につくっていくことになりました。

——お2人は活動拠点が遠く離れています。どのような進行で本展を準備したのしょうか。

青木
最初の段階で、タトルさんは、柱とバスケットとストライプという3つのエレメントを、マケット(模型)のレベルで提示してきました。柱頭の色も、サンプルとなる生地が送られてきたり。会場の作品はそれらをもとに日本で素材を手配してつくりました。
ただし、そのプロトタイプのまんまつくればいいということでもなくて、例えば、合板で組んだバスケットのエッジ部分は黒いのですが、タトルさんから最初に送られてきた時はまだ黒くはなかった。その直後に「やはりこの部分は黒くすべきだ」という明確なメッセージとともにサンプル画像が送られてきて、黒に決まったんです。その経緯を、本展の施工会社に伝えずにバスケット製作を依頼すると、精度の高い綺麗な塗装でエッジを仕上げてくる。でも、それでは意図と違ってしまうんですね。タトルさんはスプレーを吹き付けて黒く塗っていたから、僕たちでスプレー缶を買ってきて自分たちで塗装しました。フリーハンドだからどうしてもエッジから少し黒がはみ出てしまうのですが、その偶発的な仕上がりが、陰(かげ)のようでいいという判断になりました。会場でバスケットを注視すると確認できると思います。そのほかにも、設営初日に設置した作品を翌日に変えてみたり。20日間の設営中、徐々に展覧会の完成に近づいているというよりは、これがどうなっていくのか最後まで本当にわからなかった(笑)。

タトル氏
いま青木さんが言われた「わからなさ」は、本展では実は重要なことです。3つのエレメントも、その1つ1つがどんな意味をなしているのかは、実は私たちにもわかっていません。でも、展覧会が終わるまでには、何かしらの意味を見出せるよう、オープンな状態にしておきたかった。
今回の青木さんとの展覧会は、ある種の魔法のような、素晴らしいものになりました。鑑賞者の立ち位置、視点によって鑑賞体験が変化するのも、そこに建築の要素が介在しているからです。アートと建築は本来、それぞれで異なる体験になるものですが、本展では、例えば、3階への階段を降りながら、それまで見上げていた柱とバスケットを見下ろすことになり、体験が建築的なものへと変化していく。それが本展の真髄ではないでしょうか。建築とアートではそれぞれ体験が違うことを頭に入れておいたほうが、本展のおもしろさを感じとりやすいかもしれません。このような展覧会のあり方が、見る人にとって何か新しい受け止め方を生み、新しい考えに至るきっかけになってほしい。何かしらのエネルギーを受け取ってもらい、ある種のわからなさも共有しながら、美術館のあり方について改めて考えたり、その人が何かを見出すための出発点になればと希望しています。


Text and photos by Naoko Endo / TEAM TECTURE MAG


東京オペラシティ アートギャラリー「ほぼ、空:青木淳 + リチャード・タトル」会場写真

Photo: TEAM TECTURE MAG

本稿で最後に掲示するのは、4階フロアの階段上からの見下ろしです。画面の奥、ギャラリー2の出入り口付近の床に、「黒い線」が小さく映り込んでいます。一見して無造作なこの黒い線が、タトル作品であると気づく人はおそらく少ないのではないでしょうか。会場を何度も巡るごとに小さな発見があり、鑑賞体験も複層的に更新されていく展覧会です。

「ほぼ、空:青木淳 + リチャード・タトル」開催概要

会期:2026年7月18日(土)〜9月23日(水・祝)
会場:東京オペラシティ アートギャラリー
開館時間:11:00-19:00(入場は18:30まで)
休館日:月曜(ただし7月20日、9月21日は開館)
入場料:一般 1,800円、大・高生 1,100円、中学生以下無料
※同時開催「青木淳が選ぶコレクション|収蔵品展087 寺田コレクションより」「project N 103 東山詩織」の入場料を含む
※障害者手帳、指定難病受給者証等をお持ちの方および付添1名は無料
※NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]との相互割引あり

主催:公益財団法人東京オペラシティ文化財団
協賛:ジャパンリアルエステイト投資法人
特別協力:メルコグループ
協力:小山登美夫ギャラリー
問合せ:050-5541-8600(ハローダイヤル)

「ほぼ、空:青木淳 + リチャード・タトル」詳細
https://www.operacity.jp/ag/exh300/

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