6月1日(火)より展示を再開!
東京・世田谷美術館にて、2021年3月20より「アイノとアルヴァ 二人のアアルト フィンランド―建築・デザインの神話」が開催されています。
会期途中に、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡大に伴う東京都の休業要請により、4月25日(日)より臨時休館に入っていましたが、6月1日(火)より展示が再開されています(入場は日時予約制)。
『TECTURE MAG』編集部では、開幕前日に開催されたプレス内覧会を取材。会場写真を中心に、レポートをお届けします(テキストは、展示解説文と展覧会図録を元にしています)。
アイノとアルヴァ、2人で1つの"アアルト"ブランド
本展は、北欧・フィンランドを代表する建築家で、デザイナーでもあるアルヴァ・アアルト(1898-1976)と、彼の公私にわたるパートナーだったアイノ(1894-1949)の2人が手がけた数々の仕事を紹介するものです。
これまで、アアルトといえば、アルヴァ・アアルトという1人格で語られてきましたが、本展を総覧すると、アイノと2人で1つの”アアルト”ブランドを形成していたことがわかってきます。
アイノが54歳でこの世を去るまでの25年間と、没後もなお彼女がアルヴァに与えていたであろう影響について、アアルトブランドの歴史を紐解きながら光をあてているのが特筆点です。
展示は、アルヴァが最初に事務所を構えた時に自身でデザインしたと思われる家具(上の画)の展示に始まり、初期の建築作品、実験的なプロジェクト、アアルトの名を世に知らしめた〈パイミオのサナトリウム〉、レストランや教育施設での仕事、2人が暮らした〈アアルト邸〉などの住宅設計、海外や国際展示会での作品発表など、多岐にわたります。
展示総数は、図面・スケッチ、家具、プロダクトデザイン、建築模型、当時の写真など約200点。建築家、インテリア・家具デザイナー、プロダクトデザイナーと、2人で何役もこなしていたことが改めてわかります。
第1章「イタリアから持ち帰ったもの」
アルヴァとアイノは1924年に結婚。新婚旅行先はイタリアで、ヴェネツィアとフィレンツェで目にした古い建築物に大きな影響を受けたとされます。
帰国後に手がけたユヴァスキュラの労働者会館(1924-25)では、外観や室内のインテリア、照明、ドアハンドル(下の画、右)などに、古典主義からの影響がみてとれます。
同時期(1926-29)に手がけた〈ムーラメの教会〉にもイタリア旅行の影響が見られるとのこと。会場で展示されている模型は、天井部分に施された青の配色を再現しているので、お見逃しなく。
第2章「モダンライフ」
第2章で大きくスペースをとって展示しているのは、1930年にアルヴァとアイノがヘルシンキで開催した「最小限住宅」の実物大の一部再現模型です。
1930年にモダンキッチンをデザインしていたアイノ
この展覧会において2人は、現代にも通じるコンパクトな間取りの住まいを、大量生産が可能な家具とあわせて提案しました。
1930年という時代にあって、アイノは、女性の社会進出を見据えた、現代的なキッチンを、人間工学と衛生学を意識して設計、その考え方も明らかにしています。
トゥルクのプロジェクト(1927-1929)
「最小限住宅展」に先立つ1927年、アアルト夫妻は、南西フィンランド農業協同組合ビルのコンペで勝利し、設計を担当。1925年に長男、1928年に長女が誕生していたアアルト家は、1929年にビルが竣工すると、最上階に引っ越し、自宅兼事務所を構えます。
同ビルのレストランの家具などを共に制作したのが、木工職人のオット・コルホネンで、彼との出会いがのちに木材曲げ加工(曲げ木)による家具の誕生へと至ります。
アアルト家のリビングルーム兼書斎には、マルセル・ブロイヤーのデザインとして名高いスツール椅子〈ワシリーチェア〉が、子ども部屋には、アイノがデザインした子ども用の家具が置かれました。
木造規格化住宅(1939-41)
今回の展覧会で、アアルトが規格化住宅の設計を手掛けていたことを知る人は多いのではないでしょうか。木材加工会社の依頼を受け、同社の従業員の生活環境改善を目指して、床面積が異なるいくつかのパターンで用意されました。
数年におよんだこのプロジェクトは、アルヴァが渡米していた時期を挟み、アメリカで得た木造プレハブ住宅の知識も反映されているとのこと。
第3章「木材曲げ加工の技術革新」
なお、本展の会場構成の特徴として、一部の展示室では窓を塞がず、展示空間と外の景色と連続しています。
これは、昨年7月のコロナ禍の時期に、実験的な試みとして開催された「作品のない展示室」でも見られた手法です。
フィンランドの森をイメージした第3章の展示室では、外光も差し込む中で、アアルト・ブランドを代表する曲げ木の椅子や、関連する映像資料が上映されています。
アイノが深く関与した曲げ木による椅子
これまで、木材曲げ加工の技術を使った椅子のデザインは、アルヴァによるものとみられてきましたが、最近の研究により、本展で見られる開発初期の木製レリーフの多くがそうであるように、コルホネンとアイノと3人の協働製作であることが明らかになっています。
第4章「機能主義の躍進」
展示の中盤、第4章は、アアルトの名を一気に知らしめた〈パイミオのサナトリウム〉(1929-33)の展示が中心です。アアルトは、建物の設計だけでなく、〈パイミオ チェア〉に代表される家具や照明などのインテリアも全て手がけ、そのほとんどが「名作」として今日まで愛されています。
上の画・奥に見える色付き図面の展示は、パイミオのサナトリウムの天井色彩計画を表現したもの(1930年代)。装飾美術家のエイノ・カウリアが描いたもので、アルヴァ共に考えた、患者、見舞客、職員のメンタルに慎重に配慮した内装の色彩計画を壁画に仕立てています。
第5章「アルテック物語」
北欧を代表するインテリアブランド・アルテック(Artek)とは、アアルト夫妻を含む4人のメンバーによって、1935年にヘルシンキで設立されました。名前の由来は、アート(芸術)とテクノロジー(技術)を掛け合わせた造語です。
なお、本展の特別企画として、来場者がアアルトの家具(アルテックの現行品)などを自由に体験できるよう、アルテックとイッタラによる特設コーナー「Contemporary Living with Aalto-アアルトデザインと暮らす-」が、会場の入口付近に設けられていますので、そちらもお見逃しなく。
アルテックが社会に与えた影響
アルテックの初代のディレクターを務めたのが、アイノでした。同社は、アアルト夫妻がデザインした家具の輸出管理のほか、人々の生活の中にモダニズム的な考え方を浸透させようと、展覧会の企画・運営なども行いました。ヘルシンキのアルテックストアでは、パブロ・ピカソ、ジョアン・ミロ、フェルナン・レジェといった世界的アーティストの展覧会が開催されています。
また、アイノは、建築空間やインテリアが子どもたちの発育過程に与える影響を深く考慮し、デザイン面で実践しました。
第5章は、アイノが保育施設のために手がけた家具や、〈レストラン・サヴォイ〉(1937年)のインテリアなど、アルテック設立後のプロジェクトに関する展示です。
第6章「モダンホーム」
第6章は、1936年に竣工し、今もヘルシンキ郊外に現存する〈アアルトハウス〉など、住宅に関するプロジェクトの展示です。
フロアの一角では、〈アアルトハウス〉の一部のインテリアが、現行商品によって再現されています。
第7章「国際舞台でのアアルト夫妻」
第7章は、国際的な展示会など、フィンランド国外におけるプロジェクトの紹介です。
アメリカ・ケンブリッジに建設された〈ベイカーハウス〉は、マサチューセッツ工科大(MIT)の新学生寮です。アイノ最晩年の仕事であり、1949年の竣工を見届けることなく、彼女は54歳の若さでこの世を去ります。
本展では、展示に付随したQRコードを端末内蔵のカメラで読み取り、無料のアプリをインストールすることで、〈ベイカーハウス〉のARプレゼンテーションを画面上で体験できます。
ミラノ・パリ・ニューヨーク
アイノが存命中の1930年代は、アアルト・ブランドへの国際的な評価が高まった時期です。アルヴァはフィンランドを代表する建築家として、万博会場のフィンランド館の設計などを手掛けています。
会場では、1939年のニューヨーク万国博覧会に建設されたフィンランド館の一部をモックアップで再現。後年につくられた模型もあわせて展示されています。
また、外光が差し込む窓際のケースには、アアルト夫妻がこの頃に手がけ、今日まで続いているイッタラのガラスの器が展示されています。
アイノとアアルト
夫妻の年表展示を見終えたら、終章・エピローグは、アアルト財団が管理するファミリーコレクションの展示です。アルヴァとアイノがプライベートで描いた油絵や、二人の私物、旅行先での家族写真など(日本初公開の品を含む)。
アルヴァとアイノは、優れた建築家、デザイナーである前に、家庭では2児の親でした。が、当時の社会の傾向として、育児や家事は主にアイノが担ったといいます。
年表によれば、アイノが悪性腫瘍の手術を受けたのは1931年、1949年に没するまで、病と闘いながら、公私の仕事を両立し続けたことになります。もし彼女が長生きできていたならと、つい夢想したくなります。
ぜひ、会場に足を運んで、本稿で紹介しきれなかった、アアルトブランドにおけるアイノの足跡を確認してください。(en)
「アイノとアルヴァ 二人のアアルト フィンランド―建築・デザインの神話」
会期:2021年3月20日(土・祝)~6月20日(日)
※臨時休館:4月25日(日)〜5月31日(月)
休館日:毎週月曜(祝・休日の場合は開館、翌平日休館)
開館時間:10:00-18:00(最終入場は17:30まで)
※入場は日時指定予約制(入館時の注意事項)
会場:世田谷美術館 1階展示室
所在地:東京都世田谷区砧公園1-2(Google Map)
入場料:一般 1,200円、65歳以上 1,000円、大高生 800円、中小生 500円
※COVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡大防止のため、スケジュールが変更される場合があります。最新の開催状況は、会場ウェブサイト・SNSなどで確認してください
世田谷美術館公式ウェブサイト:https://www.setagayaartmuseum.or.jp/
巡回展情報
会期:2021年7月10日(土)〜8月29日(日)
会場:兵庫県立美術館
詳細:https://www.artm.pref.hyogo.jp/exhibition/t_2107/index.html