建築にとって「水」は、庭園に配された池のように建物を引き立ててくれる存在でありながら、雨仕舞いなど最も気を使わなければならない存在とも言えるものです。そして水辺や水上、水中に至るまで、建築と水の関わりは多様化しています。
特に水上に浮かぶフローティング建築は、現在進行中の環境問題である”海面上昇への対応策”という面で、現在世界中から注目を集めています。
しかし、オリンピックの国立競技場として、東京だけでなく数十年間、次の開催地を目指しながら世界中を遊覧する「水上スタジアム」のように、フローティング建築とすることによる”可動性”に注目したプロジェクトもあり、気候変動以外のストーリーにも注目していきたいところです。
ここでは海外のさまざまな水にまつわるプロジェクトを、水との接点に注目してご紹介します。
・フローティング建築
水上に浮かぶ都市!?〈OCEANIX釜山〉
【OCEANIX釜山】
設計:ビャルケ・インゲルス・グループ(BIG)、SAMOOアーキテクツ&エンジニア
2019年にプロジェクトが発表され、2022年に設計内容が公開された、「世界初の持続可能な水上都市」と呼ばれる韓国の釜山広域市に計画中のフローティングシティです。
「世界の5人に2人が海岸から100km以内に住み、世界のメガシティの90%が海面上昇の影響を受けやすい」という課題に対し、ニューヨークを拠点とする海洋テック企業OCEANIXが推進している、海面上昇に強いフローティングシティのプロトタイプとなっています。
フローティングプラットフォームを連結していくシステムとすることで住民の増加やニーズの変化に対応できる、”拡張性”と”適応性”を備えています。
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水上に浮き、持ち上がる住宅!?〈Arkup〉
【Arkup】
設計:ARシティオフィス
さまざまなフローティングアーキテクチャを手がけるオランダの設計事務所Waterstudio.NLとディベロッパーであるダッチ・ドックランズ(Dutch Docklands)が開発した、ジャッキアップ技術を活用したフローティングヴィラ〈Arkup〉。
前述したような気候変動へ対応した住環境を提供しするためのフローティング基礎にジャッキアップ技術を組み合わせること、水面に浮くだけでなく持ち上げる機構を含んでいます。水面から3m以上持ち上げることが可能となっていて、暴風雨の際にも波の影響を軽減することが可能です。
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世界中に持ち運べる浮かぶ基礎!?〈ランド・オン・ウォーター〉
【ランド・オン・ウォーター】
設計:MAST
デンマークのコペンハーゲンを拠点とする海洋建築スタジオMASTが開発した、さまざまな水上建築の建設を世界中で可能にする、適応性の高いサステナブルなフローティング基礎〈ランド・オン・ウォーター〉。
輸送効率の良いフラットパック式モジュール(フラットパック:家具などによく使われる、平たい箱に梱包する方式)をベースとすることで世界中に容易に持ち運ぶことが可能です。また、後々にも調整可能な浮き材により浮力をまかなう方式を採用しており、この運搬性と対応性を含めた”適応性”の高さが最大の特徴となっています。
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・水上の建築
水上に住まう集合住宅!?〈SLUISHUIS〉
【SLUISHUIS】
設計:ビャルケ・インゲルス・グループ(BIG)
オランダ・アムステルダムに建つ、都市部と水の風景をつなぐ、水上生活という概念を取り入れてた水上集合住宅〈SLUISHUIS〉。
典型的な中庭型の四角い建物をベースに、まち側は持ち下げ湖側は持ち上げることで、まちと湖それぞれを生活空間に引き込んでいます。
アムステルダムの都市環境は歴史的に水と都市の融合によって生み出されたものであり、〈SLUISHUIS〉はそのDNAを引き継ぎ、水と都市を融合させることで、都市の生活スタイルの可能性を拡張しています。
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モルディブの自然を水上で堪能するリゾート〈クダドゥ・モルディブ・プライベート・アイランド〉
【クダドゥ・モルディブ・プライベート・アイランド】
設計:Yuji Yamazaki Architecture
ニューヨーク在住の日本人建築家Yuji Yamazaki氏が率いるYuji Yamazaki Architectureが設計した、自然の中の心地よさをつくり出すサステナブルなリゾート〈クダドゥ・モルディブ・プライベート・アイランド〉。
世界的に有名な美しいビーチをいくつも有するモルディブは、最も低い平均海抜の国であり、そのためモルディブの人々は海面上昇に非常に敏感です。だからこそこの国でのカーボンニュートラルの達成は、世界への良い刺激となるため、サステナブル・ツーリズムの未来を語る場に適している、という構想から設計されたリゾートです。
自然換気を促すため対向する壁に配置された窓、各プライベートデッキの半分以上に5時間以上の日陰をつくり出す張り出した屋根やキャノピー、隣接するヴィラからの視線を遮りつつオーシャンビューを提供するヴィラ間に配されたプライバシースクリーンなど、ゲストが南国での滞在に求める「風、日陰、眺望がつくり出す自然の中の心地よさ」をつくり出すデザインとなっています。
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・水中の建築
ヨーロッパで初の水中レストラン〈Under〉
【Under】
設計:スノヘッタ
ノルウェー語で”下”と”不思議”という2つの意味を持つ「Under」を名前に冠した水中レストラン〈Under〉。
海中に半分沈んだ全長34mのモノリシックな建物は、水面から5m下の海底に直接突き刺さるように建っています。外殻であるコンクリートシェルの粗さが人工リーフのように機能することで、シラウオや昆布などが生息するようになり、時間の経過とともに海の環境に完全に溶け込むように設計されています。
ノルウェーの海岸線の最南端に位置する〈Under〉は、北と南からの海風の合流地点に建っているため、海洋生物学的に見ても理想的な場所となっています。
建物自体が人工リーフとなることで、地産地消にこだわるレストランの”食材調達”にも役立ち、海中生物の動きを邪魔することなく間近で観察できる”海洋研究の場”としても活用されている建築です。
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湖畔に佇む水辺に浸かった読書空間!?〈成都興隆湖中信書店〉
【成都興隆湖中信書店】
設計:MUDAアーキテクツ
中国・成都の湖畔に建つ〈成都興隆湖中信書店〉は、水面下まで達するガラスのカーテンウォールによって、自然光が水面を透過して書店の内部空間に流れ込み、水生植物といった水景や芝生といった植栽を内部空間に取り入れることで、「自然の中での読書」をデザインテーマとした建築です。
2018年に行われたコンペティションにより選ばれた建築で、成都が掲げるサステナブルな開発コンセプト「パークシティ」に、MUDAアーキテクツによって地域の自然環境へ敬意を払う「景観の統合と都市の共生」という新たな一面を加えた設計となっています。
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・水辺の建築
水辺に浮かぶ氷!?〈ICE CUBES〉
【ICE CUBES】
設計:ゾーンオブユートピア、マシューフォレストアーキテクト
〈平原新地区文化観光センター(通称:ICE CUBES)〉は、屋内スキー場の計画も進むウィンタースポーツに特化した中国の新しい観光地区の建築的なシンボルとして建てられた、氷のような建築です。
このプロジェクトは建築的なシンボルとなることで、地区を一体化させる強力な指標となることを目的としており、水辺という環境により象徴性を高めています。
氷が積み上がったようなシンプルでアイコニックな建築の実現のため、氷の結晶を表現した複層プリントガラスパネルやファサードに構造体を見せない工夫が盛り込まれた建築です。
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建築であり水辺のランドスケープでもある〈オスロ・オペラハウス〉
【オスロ・オペラハウス】
設計:スノヘッタ
ノルウェーの首都オスロに建つ、建物でありながら水辺のランドスケープでもある〈オスロ・オペラハウス〉は、建物として存在すると人々に与えてしまう芸術に対するハードルを、地形的であることで下げ、芸術への意識と関心を高めるため設計された建築です。
「建物をその文化や場所に結びつける」というテーマのもと設計されていて、水辺には人々を歓迎するカフェやギフトショップが配されており、公共的なアメニティであると同時に、施設に収益をもたらしてます。
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海とつながる水たまりの下の図書空間〈ウォータードロップ・ライブラリ〉
【ウォータードロップ・ライブラリ】
設計:3andwich Design
建築の意匠性と環境配慮の両立を目指す中国の建築事務所3andwich Designが設計した、中国の海をのぞむ緑の丘に建つ〈ウォータードロップ・ライブラリ〉は、自然を模倣するのではなく、幾何学的な形状が周辺に広がる自然とのコントラストを生み、その対比による調和を目指した図書館です。
丘の上に着くと白い廊下と長い壁が自然の風景の中の人工物となり、その円や直線といった純粋な幾何学的な形状がゲストの注意を引きつけ、屋上プールへと人々を導きます。
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