I INへのインタビュー後編
デザイナーが準備したプレゼンの資料を公開するシリーズ「著名建築家・デザイナーのプレゼン手法公開」、デザインオフィス「I IN(アイ イン)」の設立者である照井洋平と湯山 皓の両氏へのインタビュー後編。
前編では、デザインやプレゼンテーションに対する「I IN」の考え方を、実際のプロジェクトでのエピソードなどを通して話してもらった。
後編では、近年取り組んだプロジェクトについて、そのプレゼンテーションにおける具体的なアプローチなどを解説していただいた内容を紹介する。
前編 INDEX
- 必ず「紙芝居形式」で行う初回プレゼン
- イメージをまとめた「本」を持参
- 3つのキーワードで物語る
- イメージパースは実際に立ったときの視点・視界で
後編 INDEX
- イメージパースだけで設計できるレベルに
- Vectorworksで3Dを読み込み2Dにするプロセスも
- 「ベンチャーらしい要素」を光で表現
- コンペ形式でも変わらないプレゼン方法
- グエナエル・ニコラ氏の教え「WOW!が大切」
I IN プロフィール
2018年に東京で設立されたインテリアデザインオフィス。店舗、レストラン、オフィス、住宅、インスタレーションなど幅広い分野の空間デザインにおいて、モダンラグジュアリーの世界を追求している。そのプロセスは相手の中心に入るように視野を向け、そこにある個性を見つけることからはじまる。あらゆる会話をきっかけに、光、材料、重力といった普遍的な要素に新たな輝きをもたらすことで、感動のある空間を実現している。突き抜けた美しさのあるインテリアからは豊かな未来を感じさせ、人々の記憶に残るデザインは国内外で評価を受けている。
主な受賞に「ARCHITECTURE MASTERPRIZE」(2018 / 2019 / 2020)、「ASIA PACIFIC INTERIOR DESIGN AWARDS」(2018 / 2020)、「dezeen awards shortlisted」(2020 / 2021)、「FRAME AWARDS NOMINEE」(2020)、「IDA DESIGN AWARDS」(2020)、「INTERIOR DESIGN BEST of year Honoree」(2020)、「iF DESIGN AWARD」(2021)、「INTERIOR DESIGN BEST of year Finalist」(2022)。
照井洋平 | Yohei Terui
1982年神奈川県生まれ。明治大学商学部を経て、2008年アメリカNYのパーソンズスクールオブデザイン、インテリアデザイン学科を卒業。NYではGabellini SheppardとSHoP Architectsで経験を積み、2009-2017年 株式会社CURIOSITYに在籍。グエナエル ニコラのもと国内外数多くのプロジェクトを担当する。2018年 I IN設立。湯山 皓 | Hiromu Yuyama
1985年東京都生まれ。2007年東京学芸大学教育学部、2009年ICSカレッジオブアーツを卒業。2009-2011年 株式会社ILYAで経験を積み、2012-2017年 株式会社CURIOSITYに在籍。グエナエル ニコラのもと国内外数多くのプロジェクトを担当する。2018年 I IN設立。Photography by Shinsuke Sugino
イメージパースだけで設計できるレベルに
—— I INのデザインは光の表現や扱い方に特徴があるように感じます。プレゼンでも光の表現は重視されていますか?
照井洋平(以下、照井)
デザインが完成して納品したとき、よく施主さんから「プレゼンのイメージと変わらないものができていますね」と、言ってもらいます。イメージパースの段階から光の反射や色、明るさなど緻密に計算していますし、これまでさまざまなプロジェクトを進めてきた中で、光に対しての理解が自分たちの中でもかなり蓄積されてきたように思いますね。
湯山 皓(以下、湯山)
僕らにとってはイメージパースが非常に重要で、最初のプレゼンでは雰囲気を伝えるものとして使いますが、極端な話、パースを見れば実際の部屋を設計できるレベルにまで、プレゼンの後に仕上げていきます。
実際、図面を描いてからパースにするのではなく、パースを描いてそれをもとに図面にしています。一般的なプロセスとは逆かもしれませんが、クライアントはよほど詳しくなければ、図面を見て具体的にイメージができる人はいませんから。
照井
一貫しているのは、なるべく体験に近い理解をしてもらうことなので、そういう意味でもパースを見てもらうのが一番だと思います。ただ、日本のインテリアデザイン業界では、やはり世界に比べて3Dを扱う力が圧倒的に弱いと感じます。大学や専門学校においても模型文化が根強いのですね。
一方、海外では新卒のデザイナーもほとんどが3Dを使えるので、その点は世界でデザインをしていくなかでの大きな課題だと思っています。
Vectorworksで3Dを読み込み2Dにするプロセスも
—— I INでは図面作成などで、どのようなソフトを使っていますか。
湯山
社内では主に、Vectorworksを使っています。海外とのやりとりの関係で昔は他のCADも使っていましたが、日本のインテリアデザインではVectorworksがメジャーだと思いますね。
先述したように、パースから入ってツールに落とし込むというプロセスがあるので、Vectorworksで3Dを読み込める機能はとても重宝しています。3Dで制作した家具のデザインをVectorworksに取り込んで、2Dにしてプレゼン資料にするという使い方もしています。
照井
最近はVectorworksを使う施工会社がすごく増えているように思います。部材の算出などにおいて、我々が意匠的なデザインをVectorworksで行って、そのデータを施工会社が実際の施工や金額の算出につなげるといった使い方があります。
「ベンチャーらしい要素」を光で表現
—— 初回のプレゼンの後、クライアントとはどのようにデザインをすり合わせていくのですか?
照井
例えばこれは「GOODLIFE」のオフィスのデザイン案をプレゼンしたときの、縮尺が30分の1の模型を撮影した写真です。同社のロゴがもともと赤と緑と青の3色によって構成されているので、それを光に置き換えて、オフィスの中で表現するという提案をしました。この3色が「光の三原色」であることから、当初は3つの光が混ざり合って白い光になるというデザインコンセプトでプレゼンを行い、提案しました。
照井
そのときクライアントから頂いたフィードバックは、「もう少しベンチャー企業らしい要素がほしい。上品で高級感はあるけれども、『それだけではない』ことを表現したい」というコメントを頂いたんです。
そこで、ロゴで使われている3色をより印象的に光で表現するという提案をしました。同社の象徴としての要素を光を使ってより強く空間に入れていくかたちでイメージパースを描き直し、2回目のプレゼンで再提案しました。
湯山
再提案するときのイメージパースでも、印象的な部分だけを強調するのではなく、実際にこの空間の中に立った時に、どのように見えるかはやはり重要視しましたね。
コンペ形式でも変わらないプレゼン方法
—— クライアントからの依頼か、コンペかによって、プレゼンの仕方は変わりますか?
照井
まったく一緒です。最近のプロジェクトでは、東京・丸の内の〈新丸ビル〉でトイレをデザインしたものはコンペ形式でしたが、先ほどお話ししたような伝え方でプレゼンをしました。このときは冊子まではつくりませんでしたが、そのあたりはケースバイケースで決めています。伝え方が「重すぎる」と逆効果な場合もあると思いますし、このときは良い意味でライトに受け取ってもらえたほうがいいだろうと考えました。
I IN × 三菱地所グループがデザインした新しいジェンダーカラーの光に包まれるパブリックトイレが新丸ビル7階「丸の内ハウス」に完成
照井
いずれにせよ、おそらくほとんどの建築家やデザイナーは、図面・パース・素材サンプルの3つをセットとして必ずプレゼンで使っていると思います。あとはそれらをどう使ってコミュニケーションしていくのかの違いだと思っていて、我々はプレゼンの場は「対面で会話をするための場」として捉えています。
湯山
画面やスクリーンをほとんど使わないのはそういう理由です。クライアントと素材を触りながら「この組み合わせもいいかも」といった、対話のある生き生きとした場にしたいので、あえてバラバラにして素材を持っていってその場でレイアウトするという感じです。
グエナエル・ニコラ氏の教え「WOW!が大切」
── おふたりはフランス出身の著名なインテリアデザイナーでありプロダクトデザイナーでもあるグエナエル・ニコラさんのもとで経験を積まれています。プレゼンに関してニコラさんからどのようなことを学んだのでしょう?
湯山
先ほど(前編で)の「プレゼンはプレゼントだ」ということはまさに彼から学んだことです。彼は1990年代からそう言っていましたし、「(クライアントに)満足してもらいたい」という思いがとりわけ強かったように思います。
「クライアントには、『ちょっと物足りない』という感覚をプレゼン後に持たせてはいけない」と話していたことがあります。「もう十分だ」と言わせるくらいのものをプレゼンする必要があると。
照井
「どのようにプレゼンするか」にもすごいこだわりがあったように思いますね。デザインを詰めていくことは大事なことですが、少なくともプレゼンの1週間前にはデザインの作業は終えて、後はそれをどう伝えるかが大切だと言っていました。
そしてプレゼンでは、相手に「WOW!」という感動を与えるべきだと。プレゼンは単なる説明の場ではなく、ショーのように感動してもらうものだというのが彼の考えでした。
—— あらためて、おふたりが考えるプレゼンの極意とはなんでしょうか?
湯山
プレゼンが終わったとき、クライアントのリアクションが「そうです。こういう感じです」というものだったとしたら、それはある意味「失敗」だと思っています。
プレゼンするからには「こんなことができるんだ!」「それは考えていなかった!」と、相手の想像を超える提案をしなければいけないと思っています。そういう意味で、本来プレゼンはパターン化しないほうがいいのでしょうね。
照井
図面をはじめ、パースや素材、プログラムの制作など、基本的にプレゼンに必要な要素は皆一緒なんです。だからこそ、デザインがオリジナルであることと同じくらい、伝え方もオリジナルである必要があると思います。
クライアントの想像を超えるデザイン、そしてプレゼンが、クリエイションでは今後ますます重要になっていくと思っています。若手デザイナーたちに伝えられることがあるとすれば、「プレゼンをデザインすること」の重要性かもしれないですね。
(2023.06.22 I IN にて)
Photograph & Movie by toha
Interview & text by Tomoro Ando
Edit by Jun Kato
※ 本稿掲載のプレゼンボード資料、CG、イメージスケッチ、模型写真の提供:I IN
Sponsored by Vectorworks Japan
https://www.vectorworks.co.jp